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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の初陣  作者: 橋本 直
第一章 奇才と呼ばれた男

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第2話 勝てない戦争

 嵯峨は今にも自分に殴り掛からん勢いの卒業生たちを黙って見守っていた。これまでの白兵戦等の訓練でも、今は首席ということで特別許可で自分だけが腰に下げている愛刀『粟田口国綱』を手にした剣術訓練でも10秒として嵯峨の前に立っていた人間がいない事実がある以上、帯刀した嵯峨に向かって徒手空拳で立ち向かって来る卒業生が居るとは嵯峨も思っていなかった。


「ああ、俺の言うことが気に入らないの?」


 嵯峨は笑った。その顔には自分に何一つ勝てないくせに卒業生たちの顔には、愛国心と闘志だけは嵯峨を上回っているという対抗心が浮かんでいたが、嵯峨に言わせれば『ただの無能な戦争指導者』の顔をした嵯峨には、彼らの怒りすら予定通りに見えていた。


 卒業生の一人が拳を握った。


 だが、立ち上がらなかった。


 彼は知っていた。嵯峨に殴りかかれば、次の瞬間には自分が床に転がっていることを。


「でも事実じゃん。そこはちゃんと認めなさいよ。アンタ等は俺に何をしても一つも勝負にすらならなかった無能なんだって。だからその無能に自分が無能だってことを俺は親切心から教えてあげてるわけ。だから俺を非難するなんて筋違いだよ。俺より一つでも優秀な人間がこの場に居るのならそいつの言うことを最後まで聞いてやるよ……俺は謙虚な質でね。形式が崩れるのが気になるの?そんな世間体で戦争が勝てるってここの学校では教科書以外にそんなことまで教えてたんだ。随分と無駄なことを教える学校だね。そんな学校何で辞めなかったの?そんな糞の役にも立たない学校の格好だけの式典を荒らすな?そんなつまらないことしか教えない学校の首席が暴言を吐くな?だったら、アンタらが俺より優秀ならよかっただけの話だよ。俺も正直首席になっちまったことには迷惑してるんだ。アンタ等がもう少し俺より優秀だったら……なんて願うだけ無意味だよね」

挿絵(By みてみん)

 彼はマイクを軽く指で叩いた。


「俺は首席になりたかったわけじゃない。アンタらが勝手に負けたんだ」


 嵯峨はそういうと卒業生たちの目を一人一人見ていった。嵯峨が目を向けるたびに卒業生たちはわざとらしく視線を落とす。何一つ嵯峨に勝てなかった彼らに嵯峨のその言葉を否定して見せることはできなかった。


「じゃあ、アンタ等に合わせてアンタ等でも分かるように分かりやすーい言葉を使ってレベルを落として話すことにするわ。俺が鏡大の研究室で戦争法や政治と戦争についてその道のこの国の第一人者と言われる先生たちと話していたレベルの言葉を使ったらたぶんアンタ等は理解できないだろうからね」


 ここからは、嵯峨に言わせれば『陸軍大学校卒業の名に値しない劣等生』に対する公開処刑が始まるのだと卒業生たちは俯いて嵯峨の言葉だけに耳を澄ましていた。


 その様子を満足げな笑みで見回すと嵯峨は演説を続けた。


「戦争の常識はひとつだ。なんて思い切ったことを言ったらアンタ等は驚くでしょ?でも俺は歴史学で地球圏や遼州圏の戦争を研究している先生と一晩飲み明かした結果俺が達した結論で、その事に対してはその先生も同意してくれたよ。戦争の歴史のこの国の第一人者が認めた言葉なの。まあ、この国の歴史学が銀河でも最低レベルだとアンタ等が言いたいのならそれはそれでその先生に文句を言って」


 嵯峨はそこで言葉を切った。


「その最終結論が『有能な敵より、無能な味方の方が怖い』ってこと。戦争に負ける時は必ず負ける方が明らかに意味不明な行動をとって負けると言うのがその先生と俺の一致した見解。その現象を引き起こしているのが他でもない『無能な味方』なんだ。だから、俺から言わせるとアンタ等は『無能な味方』としか見えないの。だから今度やる戦争も……こうして会場を見回すと負けは決まったようなもんだな」


 講堂の空気が、わずかに冷えた。


「それに対して、これから戦う地球圏の軍隊には無能な指揮官も多いが有能な指揮官もいる。たぶんこの戦争は1年……いいや、アンタ等に気を使って2年は勝ち続けるかもしれないね。でも勝ったからって自慢するかもしれないけど、それはただ運が良かったのと相手が無能だっただけ。そんなの自慢にならないよ。有能な敵と知略を尽くして戦って勝利して初めて指揮官は指揮官の意味がある。俺の言ってること間違ってる?この学校ではそう言う風に教わってるって聞いたけどそれは嘘なのかな?まあ、俺はそんな時間は無駄だと思って鏡大の研究室で戦争における国際法や政治的可能性について勉強してたから一つの戦いの勝った負けたなんて興味が無いんだ。そんなのはどんな馬鹿にでも……そう、アンタたちにでもできる話だ。俺の出る幕じゃない」


 嵯峨の瞳に光が宿る。


 それまで無表情だった青年が、急に燃え上がる。


「まあ、いいや。アンタ等が無能で使い物にならないのはよく分かったから。じゃあ、戦争をしたい奴、手を挙げろよ。恥ずかしがらなくていいよ」


 嵯峨は胸ポケットから煙草を取り出した。


 神聖な講堂で、当然のように火をつける。

挿絵(By みてみん)

 誰かが小さく息を呑んだ。


「じゃあ聞くけどさ。アンタら、戦争好きだろ?」


 たばこの煙を空に向かって吐きながら嵯峨はそう言い切った。


「だよね、地球人は戦争が大好きだ。今でも地球人同士核戦争の連続だ。そこに俺達、遼州圏の元地球人が介入する……その考え自体は戦争屋である俺としても悪い考えじゃないね。どうせ地球人は戦争を捨てられないんだもん。今回、俺達が連中を支配して地球圏に戦争を無くす……それ自体は一つも悪い考えじゃない。遼州人の俺にはそう見える」


 沈黙。


 嵯峨は黙り込む聴衆を満足げに笑って見つめていた。


「だがね、この戦争勝てるの?実際、勝てると思ってる?今のこの甲武の開戦に踏み切るに至った状況……地球圏の思惑に乗って負ける戦いを始めようとしているようにしか俺には見えないんだよ。俺は軍学校のただの学生。この国の細かい軍の状況とかは何にも分からないのは事実だ。ただ、この国の経済状況、公表されている軍事力、そしてそれを支える経済力などの継戦能力……どれも国の発表する指標だけを見ても分かるくらい負けが決まってる……それでも戦争がしたいの?勝てるつもりでいるの?それで負けたらアンタらが勝手に負けたんだ。これから戦争指導者になろうとしているアンタ等はその責任を今からとる準備をしといた方が良いって俺は老婆心から言いたいわけだ」


 嵯峨はそこで煙草をくわえ直した。


 人を侮辱した直後とは思えないほど、手つきは穏やかだった。

 

 突然の首席の問いに一同は言葉を失った。


 戦う前から敗戦を予言する首席。その存在にあるものは唇をかみ、あるものは殺意を込めた視線で嵯峨を睨みつける。

挿絵(By みてみん)

「まあまあ、そんな怖い顔で見なさんなって。俺は遼州人だから物事を戦争で解決するという地球人の発想自体が理解できないんだ。でも、まあいいや。地球人は人殺しが大好きで戦争しないと死んじゃう病なんだよね?この国は。今朝の朝刊もいつ開戦するかって記者さんもそればかりが気になるような論調だったよ。街を歩けば戦争とは全く関係なさそうな子供やおばちゃん達ですら地球圏や反祖国同盟の国の悪口で一杯だ。戦争とは無関係な平民達にそんなことを日常の井戸端話に出てくるようにするなんてそんなに人の事を悪く言うもんじゃないって教えてやってくれよ。人の悪口を言うといずれ自分にも返ってくるものなんだから。そんぐらい、アンタ等も親御さんに習ったよね?アンタ等の出身身分はほとんどが士族でそれなりに立派な教育を受けた親御さんだ。そのくらい言えて当然だよね?士族が法律で認められているからって平民を殺して回ってたらこの国の人口はこんなに増えてない。つまりこの国の人口がやたら増えているという事実は親御さんの教育の賜物だ……だから、怖い顔をしなさんなって。褒めてるんだよ。アンタたちの親御さんを。アンタたちは褒めてないけど」


 そんな好戦的気運を生み出した当事者の一人である陸軍大臣は表情を変えなかった。


 だが、膝の上に置かれた手の指だけが、わずかに動いた。

挿絵(By みてみん)

 嵯峨はそれを見逃さなかった。


 陸軍大臣のそんな反応を一瞥した後、ざわめく聴衆を一望すると嵯峨は一度大きくタバコの煙を吸い天井に噴き上げて演説を続けた。


「戦争に勝つのに大事なものは何か……教わったでしょ?この学校で。アンタたち士族で軍人を目指す人間が12で通う幼年校では戦争に勝つには必要なものは『精神』だという……でもそれは間違い。その点ちゃんとこの国でも教育は進んでて18で進む士官学校では兵器の質と兵士の練度だという」


 嵯峨は本来は許されるべきではない。卒業生たちは、神聖な講堂で煙草をくゆらせる首席の蛮行と暴言に耐えながら、その話を聞き続けた。

 

「でもそれは間違いだと教えるのがこの陸軍大学校だ。そうだよね?教わらなかった?じゃあ、感情の話は終わり。ここからは算数だ。こんなの十歳にも達しない平民の尋常小学校に通っている子供にも分かる話。俺はその授業は出てないけどその教授が出した論文課題はちゃんと正解を書いて満点だったよ……それは『国力』だ」


 嵯峨の言葉に誰もがうなずかざるを得ないことに悔しさを噛みしめていた。それを覆すための戦争。これまでの『祖国同盟』に対する数々の地球圏や反地球圏の経済制裁が今の困窮した国力差を生んだのだと叫びたいものもいた。しかしこの場はその嵯峨と論議するための場ではないという判断が彼等を沈黙させていた。


「『国力』の差は戦略で逆転できる?歴史上、そんな戦いがあったなんて話は俺は歴史は好きなんで詳しいけどそんな話は一度として聞いたことが無いんだ。もしあったなら教えてくれよ。ああ、その地球圏と『祖国同盟』の国力差は地球圏と、反『祖国同盟』を掲げる遼州圏諸国の経済制裁がそれを生んだとでも言いたいの?外惑星のヘリウム、遼北のレアメタル、そして西モスレムの原油。それを禁輸されたら確かに甲武はどうすることもできなくなって……それで今の状況なんだけどさあ。それを回避するための政治。そして軍事力はその政治力を補佐する目的で存在する。そんな当たり前のことも知らないの?」


 聴衆を挑発するような口調の嵯峨の言葉が続くにつれて講堂にタバコの匂いが広がった。


 規律と忠誠を讃える場に、場末の喫煙所の空気が混じる。


 嵯峨はそれを楽しんでいるようだった。嵯峨は目の前の軍関係者だけではなく戦争を望む全甲武国民に向けて話すかのように演説を続けた。


「結局その努力を避けて逃げてきた結果が今のこのひっくり返しようのない『国力』差なんだよ。いい加減理解しなよ。戦争の帰趨を決するのは『国力』……そして地球圏と、祖国同盟に敵対する遼州圏諸国。その『国力』を比べるとどうなるか……そんなの子供だってわかることだ」


 吐き捨てるように嵯峨はそう言った。そして、その言葉の意味はこの場に居る全員が分かっていた。


 甲武、ゲルパルト、遼帝国。


 その三国を合わせても、反祖国同盟の旗頭である遼北人民共和国一国と同程度でしかない。


 この遼州圏内でも他にその遼北に歩調を合わせている外惑星社会主義共和国連邦、西モスレム首長国連邦が加われば祖国同盟の国力での優位はこの遼州圏ですら存在しない。


 それを圧倒的な国力を背景に遼州圏への影響圏の拡大を目指している地球圏全体にこの甲武は戦争を仕掛けようとしている。嵯峨の言葉にこの場にいる士官候補生たちは言葉が無かった。


「まあ、そういうわけで国力の不足を補うために現在内閣が主導して敷いている国家総動員体制。確かに国力差をひっくり返すにはそれしかないと俺も思うよ。でもその程度のことでどう見ても違いすぎる国力差が埋まると思う?俺は言っとくわ、この戦争は結論から言う。勝てない。勝つと考える方がどうかしてる」


 嵯峨の断定口調の戦争に対する結論に何人かの卒業生は立ち上がろうとしたが、自分たちは誇りある勝てる戦争を始めようとしていると考えると陸軍大学校の教官たちに指導された卒業生たちはこの暴論を吐く奇人の展開する必敗の理論を聞き終えた後にその矛盾を指摘して徹底的に叩き潰すつもりで黙り込んでいた。


「理由は簡単だ。国力だ。何度も言うけど、それだけは国の努力じゃどうしようもないの。そもそも人間が生きているのが難しいこの遼州星系第二惑星のコロニー国家の甲武。東和共和国の協力でなんとか人が住めるような環境になったゲルパルト。その同盟で複数の居住可能惑星を持つ地球圏と戦争して勝てると思う?生きているだけで国力を消費する国が何もしなくても国力を蓄えられる地球圏に国力で勝てると思う?確かに何にもしなくて空気と水と食い物に困らない遼帝国とも同盟してるのは事実だけど、あそこは戦力に数えるだけ無駄だから。遼州人は戦場に行っても逃げたり邪魔になったりするだけ。だったら国力で対抗しようとして遼帝国を味方に引き込んだ時点でこの戦争はこっちの負けなんだ」

挿絵(By みてみん)

 そう言ってタバコをふかす嵯峨の言葉に嵯峨が遼州人であることを思い出し、遼帝国の軍の弱さを知っている一部の卒業生に苦笑いが浮かんでいたが、嵯峨はまるで気にする様子もなく話を続けた。


「で、国力で負ける奴が考えることは一つ。奇襲だ。それは歴史も教えているね。古くはマケドニアの王アレキサンダー大王がペルシャを破ったのに始まり、奇襲で国力差を覆した例は無くはない。でも、それは国家総動員体制が戦争では当たり前になる近世以前の話しでしょ?それ以降に奇襲をして戦争に勝った国があるなら俺に教えて?俺は少なくともそんな戦争なんて一つも知らないから。俺は好奇心の塊だから俺のこれまでの常識をひっくり返すそんな戦争には興味があるんだ」


 嵯峨は相変わらず聴衆を挑発する口調でくわえたばこで話を続けた。


「そんな奇襲で勝てる? 勝てるよ。緒戦だけはね。確かに近代に入ってもそんな戦争はいくらでもあるのは俺も知ってるよ。でも最終的にその戦争奇襲をした国は勝ってる?勝ってないよね?もしそれが事実でないと指摘したいならその例を俺の前に上げてみて。そしたらさっき俺が破いた首席の卒業証書を俺が最後の一切れまで拾い上げてアンタにあげる」


 挑発するような口調の嵯峨の言葉に反応できる卒業生は一人もいなかった。


「奇襲じゃ国力差はひっくり返らないことは分かったわけだ。戦争の帰趨を決定づけるその国力をひっくり返す方法は無いではない。おそらく、賢いゲルパルトやこの国の海軍の偉い人はみんなそれを使う気でいる。確かにこの遼州圏では禁じ手だが、地球圏じゃあ年中使ってるんだから遠慮はいらないってわけだ。でも、そこ落とし穴があったりすると俺は考えるんだよね……ぶっちゃけると核を使うんでしょ?先制奇襲核攻撃。それ以外に地球圏と国力で芥子粒ほどの祖国同盟が戦争を始めてどうにかできる方法は無いものね」


 その嵯峨の言葉に会場の卒業生の間にざわめきが走った。先制奇襲核攻撃。明らかに国際法違反の禁じ手である。ただ、それ以外に地球と祖国同盟の国力差を埋める手段が無いのは誰もが認める事実だった。


「たぶん、ゲルパルトと甲武海軍の偉い人はそれで地球の主要都市と主要軍施設、地球の植民惑星の主要基地が使用不能になるから地球圏は講和のテーブルに着くと考えて……」


 ここまで嵯峨が言ったところで何人かの卒業生が静かにうなずいたがその顔を見ると嵯峨はあざけるような笑みを浮かべてその数人を一人ひとりゆっくりと見つめた。


「……はいないだろうね。そんなに、あの人達もおめでたくはないよ。その後、その奇襲作戦で指揮命令系統が混乱している地球圏に一気にゲルパルトが誇る飛行戦車と我が国、甲武が誇る人型機動兵器『シュツルム・パンツァー』……ああ、これはドイツ語だから敵性言語じゃないからね。まあ、特機『九七式』を主力とした通常兵器で地球圏の外周の守りの拠点である冥王星基地あたりを奇襲しようって腹なんだろうけど……」


 また何人かの卒業生が笑みを浮かべて嵯峨を見つめるが嵯峨の目は相変わらずの軽蔑の色を湛えてその卒業生を見つめる。


「それでも地球圏は交渉のテーブルには乗ってこないだろうねえ……たぶん先制奇襲核攻撃でも戦争遂行を判断できるクラスの人間は誰一人死なないだろうし、冥王星基地は粘るだけ粘って地球圏がまだ持ってない兵器である飛行戦車と『九七式』の特性を観察する時間を稼ごうとするのが俺が地球圏の指揮官なら考えそうなことだ。『九七式』はその名前は地球圏も反祖国同盟の国も知ってるけど実物を見たことが無いからね。緒戦くらいは通じるんじゃないの?地球圏の主力の航宙戦闘機の40mm機関砲じゃ当たり所が悪くないと落とせないって。だから一方的に勝てるでしょ?緒戦は。でも、それはあくまで緒戦だけの話……地球圏の地球までに至る外惑星の基地は冥王星しかないわけじゃない。遼州圏だってラップ共和国を攻略したら全部の国が降伏するわけじゃないでしょ?というか、地球圏にとっては冥王星はちょうどいいこちらの兵器の性能を理解する捨て石に過ぎない……そのくらいのこと分からないの?馬鹿なんじゃない?」


 甲武国の誇る人型機動兵器『シュツルム・パンツァー』九七式特機。その圧倒的な機動性と運動性、そして航宙戦闘機では撃破不能な装甲は甲武軍の誇る秘密兵器と言えた。それを嵯峨は『緒戦くらいは通用する兵器』と平然と斬って捨てる。愛国者を自認する何名かの卒業生は思わず立ち上がろうとするがそのタイミングで再び嵯峨は口を開いた。


「そしてゲルパルトの三号飛行戦車はこの前の『アーリア人民党』の結党記念日の軍事パレードの模擬飛行でお披露目済みで、その主砲が100mmクラスでしかもその主砲の脇についている誰が見てもそれとわかる電子加速装置を見ればその威力も十分わかるし、あの形を見れば軍人だったらその正面装甲と弱点である上部装甲の厚みだって見当がつくもんだ。今頃対抗できる兵器が地球圏の主要国では設計中じゃないの?100mmを超える電子加速砲が主砲で100mm砲に耐えられる飛行戦車が相手……九七式の持てる火器でどうにかできる限界を超えてるよね?実際、九七式じゃあ三号飛行戦車をどうにもできないんだ。それを上回る性能の飛行戦車を地球圏が投入してきたらどうするつもり?そこまで考えて戦争しようって言うの?そこまで考えていないのならただの馬鹿だ」


 そんな何気なく世間話でもするように言った言葉に一同は黙り込むしかなかった。九七式は運動性確保のために装甲を犠牲にしていることは誰もが知っている事だった。そこを指摘されてしまえば反論のしようがない。


「まあ、三号飛行戦車を楽勝で撃破できる飛行戦車を地球圏が開発してそれが量産体制に入るまで勝てるんじゃない?この国も。どこまで攻められるかは作戦屋の皆さんのお仕事だけど。ああ、それがアンタ等の仕事か。でもね、たとえどこまで負けても地球圏は和平交渉のテーブルには着かない。だって、相手はまだまだ土俵際まで余裕がたっぷりあるもん。それに遼州圏内の反祖国同盟の国がどう動くかなんて俺は一言も言ってないよ。そこに祖国同盟が多くの戦力を割くことを余儀なくされれば……目も当てられないな。それに……おそらくこの戦争でも中立を守り続けるであろう東和共和国の動静も俺は何も言ってない……あの国の経済力がどう動くかでこの戦いの帰趨は決まるんだが……少なくとも地球圏との戦争を考えるところまでこの国の経済が破綻の寸前になっても一銭の支援もしてくれない以上、あてにするだけ無駄じゃない?人間諦めが肝心だよ」


 これまでの抜けた目つきから変わった鋭い目つきで嵯峨は会場を見回した。恐らく、開戦回避不能との宰相官邸からの連絡を受けているだろう陸軍大臣の目を射抜く嵯峨の目。その目の前で陸軍大臣は思わず目を逸らした。そのしぐさに勝利したように嵯峨は笑みを浮かべた。



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