第61話 策士の煙、士族の誇り
誠を見送った嵯峨は、くわえていたタバコを放り投げると、静かに身を起こして展望ルームのガラスに目を向けた。
灰は無音で床の吸煙スリットに吸い込まれ、窓ガラスには彼自身の痩せた影が薄く二重に重なる。艦の奥からは、重力制御の微かな唸りと、どこかの区画で鳴る工具の金属音が点描のように届く。
何もないはずの展望ルームのガラス一面に、水色の髪の女性の姿が浮き上がった。
反射でも幻でもない。艦内回線の『簡易面映し』が、透明なスクリーンとして窓面を転用しているのだ。宇宙の黒の上に、水色のショートヘアがくっきり乗る。
「パーラか?通信の当番だったな……今の時間は。すまねえな」
そう言って嵯峨はニヒルな笑みを浮かべた。
口角だけが少し上がる、煙と一緒に出す“サービス精神”の笑み。
『隊長……どうしたんですか?同盟会議からの命令が無茶なことなんて、いつものことじゃないですか!』
嵯峨は思った。
『戦うことしかできなかったはずのパーラ・ラビロフ中尉が、いつの間にか実に魅力的な女性になった……俺のやってきたことに間違いはなかったらしいや』
と。
視線は冷静、語尾は柔らかく、言うべき時にだけ強くなる……『兵』から『士』への変化。自分がこの部隊の隊長になって少しは良いことをしている。
嵯峨はそんな感傷に浸りながら真面目な表情を浮かべる画面のパーラを見つめていた。
満足した笑みを浮かべた後、嵯峨の表情が難解な問題を解く学生のような感じに変わる。
視線が斜め上に逸れ、眉間にほんのわずかな縦皺。経験的直感が、何かの到来を告げている。
「……いや、いい。それよりも、今つながってる通信は、どこからだ?」
パーラの戸惑う顔を見ながら、中年男らしい老成した表情を浮かべた嵯峨はそう言った。
柔く問い、鋭く測る。声色に“針”は立てない。
『……それが……よくわからなくて……『甲武国陸軍憲兵少将・嵯峨惟基に回せ』という電文が連続して届いているので、隊長に報告を……と』
目の前の巨大モニターの中でパーラは頭を掻きながらそう言った。
『宛名だけが正確』な謎の叩き。古い軍用コールサインを熟知した者の癖だ。
「わかったよ。俺の予想した通りなら、またすぐに同じような電文が届く。それをなんとかキャッチしろ」
嵯峨はそう言って静かに目をつぶった。
彼の『間』は、相手の心拍の鼓点に自分を合わせるためのものだ。展望窓の外、遠い破片光が点滅する。
モニターに投影されていたパーラの表情がすぐに緊張を帯びる。
『電文来ました!回線回します!』
パーラの言葉に嵯峨は表情を変えずに、パーラと切り替わって画面に投影された近藤貴久中佐の顔を眺めた。
硬い眼光、整い過ぎた軍服の皺、声を出す前から『演説姿勢』に入っている喉筋。勝利を確信する者の呼気は、たいてい少しだけ甘い。
『甲武国、『四大公末席』、嵯峨惟基憲兵少将閣下……』
「違うよ。俺はただの『嵯峨特務大佐』。『特殊な部隊』の隊長だ……甲武を支配している『四大公家』だの閣下なんて柄じゃねえよ」
画面に映った近藤はそう嵯峨に向けて言った。
呼称の『針』を逸らされ、僅かに目蓋が揺れる。名乗りは旗印。そこで揺らぐと、軍人は呼吸が乱れる。
少し考えごとをしているようなぼんやりとした表情の嵯峨は、静かに胸のポケットのタバコを取り出しながら近藤を見つめながら口を開いた。
火は着けない。相手の台詞を誘う仕草として、ただ一本、白い筒を指に転がす。
『ならば嵯峨大佐。少しお話はできないでしょうか?』
近藤はそう言ってにやりと笑った。
勝利宣言の前置き。舞台袖から自らスポットを当てる笑み。
嵯峨はめんどくさそうにタバコに火をつけて展望ルームの画面いっぱいに映る意志の強そうな男の顔をにらみつけた。
「近藤さん……命乞いかい?いまさら何を言ってるのか……俺としても困るんだよ。俺の上の司法局はアンタを殺せと言っている。すべては遅すぎたの。そんな事も若ならない?何考えて今まで軍に奉職してたわけ?理解できないね」
嵯峨はそう言ってタバコをふかした。
煙は細く、真っ直ぐ。挑発は『言葉の刃』ではなく『体温差』で行う。少し寒くして、相手に喋らせる。
その目はぼんやりと展望ルームのガラスに映し出される『海軍官派決起の中心人物』近藤貴久中佐を眺めていた。
『何をおっしゃるかと思えば……私が士族として甲武海軍に奉職して以来、すべては国に捧げています。自分は、閣下のように『生きることに執着する』タイプではありません』
近藤ははっきりそう言って挑発するような視線で嵯峨をにらみつける。
言葉の選び方が『士族語』。死と名誉は対で語る、古い教本の語彙だ。公家としての教育を受けた嵯峨としてはそれはまさに典型的な『責めどころ』がった。
「そうかい、生きてりゃ俺に復讐する機会もあるんだが……あんたら武家の『八丁味噌』が詰まった頭じゃわからんか。公家の俺には理解不能な発想だ」
タバコをくゆらせる嵯峨に近藤は見下したような笑みを浮かべた。
味噌と脳……軽口に見せて、『同じ言語圏の比喩』を使うことで相手の神経を『こちらの土俵』に引き込む。百を超える言語を母国語並みに扱える嵯峨が捕虜収容所でその技術を使って捕虜の尋問を行った経験からして近藤は既に嵯峨に捕らえられた地球圏の『捕虜』と変わりのない存在に見えた。
しばらく二人の間に沈黙が流れた。
艦の心臓音がわずかに大きくなる。通信遅延の1/10秒が、会話の間合いを鈍く太らせる。
嵯峨は静かにタバコを吸うばかりで口を開こうとしない。
近藤もまた、目の前の『異様に若く見える策士』の考えが読み切れずに黙り込んでいた。
「話は変わるが、カーンの爺さんはどうしたのかな?逃げたのかな?俺達の前から……そんなに俺が恐いのかな?あの爺さんは俺と違って、正々堂々と戦う気は無いらしい。それとも、別の機会を待っているのかな?前の戦争じゃそれこそ敵のことを狡猾な手口で追い詰めることで有名だったのに……耄碌したか?それともより洗練されたのか?」
この嵯峨の言葉は効果的な『一言』だった。
この会話では出てこないはずの『第三者の名』は楔。近藤の脳内で、予定稿の順番が崩れる音がする。
表情を殺していた近藤の鉄面皮が完全に動揺の色に染まる。
『……貴様……なんでそれを……』
近藤は我慢してきた一言を漏らしてしまった。
亀裂は、たいていこの『なんでそれを』から入る。嵯峨は、押さない。ただ見ている。相手が自ら広げるのを。
この通信は完全に『策士嵯峨惟基』の独壇場と化した。
「いや、逃げたってことは耄碌していない証拠だ。あの爺さん。変な妄執にとらわれてるが、あの人の頭には『脳味噌』が詰まってる。あんたみたいな『八丁味噌』じゃなくて、人間にふさわしい『脳味噌』って奴がね……沈むと決まってる艦にいつまでも乗り続けるほどあの人は馬鹿じゃないよ」
力みの感じられない嵯峨の言葉はどこまでも自然だった。
比喩の反復で、『論』を『侮辱』に見せず通す。怒らせ、なお思考させる温度が二人の間にあった。
その態度が近藤をいらだたせるが、嵯峨はかまわず続けた。
「当然、今回は逃げたろうなあの爺さんは。アンタ等武家みたいにプライドだけで逃げることを知らない『糞袋』に義理立てする人じゃねえわな。だって、あの人ゲルパルト貴族の出でもない、ただの庶民生まれの『党員』だ。ただ、前の戦争のときは忠実で優秀な『党員』であればそれだけで価値があった。今はその党、『アーリア人民党』も解党・非合法化されて困ってるかもしれないがね。そうなった今ではもうとうに『地球の敵対政府』に『戦争犯罪』容疑でお縄になってる。アンタはそんな『優秀なアーリア人民党院』のエリートの中のエリートと互角に渡り合ったつもりらしいが……利用されてるだけだよ。つまりアンタは単なる囮。遊ばれてるんだよ、アンタは。海軍大学校をそれなりの成績で出たんでしょ?少しは恥を感じなさいよ。俺は陸軍大学校の首席。だからあの爺さんにそんな目にあわされたら恨みで夜も寝られなくなるよ。というか、あんな危ない爺さんとは会話もしたくはないがね」
そう言って嵯峨は吸いかけのタバコを床に投げた。
火は消え、吸煙スリットが小さく呑む。言い切りの句点。
近藤は何も言えずにただ怒りの表情で嵯峨をにらみつけるだけだった。
喉の筋が跳ね、肩の線が固まる……『演説前の吸気』は、今回は来ない。
「ああ、アンタは自分の馬鹿さ加減を反省するだけの知能の持ち合わせもないみたいだね。もっと言おうか?あんたの部下で実際に戦力になるのは1割以下だ。他は単なるあんたへの『義理立て』で戦場にいるだけの『障害物』さ。もしあんたの決起が失敗して罪を問われることになったら、甲武の法律じゃ家族ともども打ち首獄門だ。そんな危ない橋を渡る勇気がある奴がどれだけあんたの部下にいるか……」
嵯峨はそう言うと皮肉を込めた笑みを浮かべて画面を見上げる。
『人数』ではなく『覚悟の構成比』。それを口にされるのは、士族にとって最も痛い。
『そんなはずは無い!我々の意思は決して揺るぐことが無い!『貴族の名誉』を回復して『真の甲武国』に革新するために……』
近藤が演説を始めようとするのを嵯峨は手で制した。
掌を軽く、静止線を描く。押し返すのではなく、止める。
「そんな無茶な要求を部下にするけどさあ、ヒトラー亡き後のナチスは、代行の総統がちゃんと連合軍に降伏してるよ。関係者もすぐに地下に潜って逃げ出してる。あの『鉄の団結』とかを掲げる、『ナチスドイツ』ですらそうなんだ。歴史はそう教えてるんだから認めなよ。近藤さん。あんたは負ける。他にもあんたが確実に負ける理由は有るんだが……それは今教えるわけにはいかなくてね。俺はそれほどお人好しじゃないんで」
『歴史』は、士族にも通じる唯一の他山の石だった。しかし、自分はその例外でいたい。その気持ちが近藤の心には湧き上がっていた。
嵯峨はそこに未提示の札を一枚残しておく……言わぬ根拠は、最も強い圧だった。
『『歴史』は『歴史』だ!我々が新たな『歴史』と『秩序』を打ち立てればそれでいい!』
唾を飛ばしながら近藤は叫んだ。
だが音量は、先ほどよりわずかに低い。肺の一部が、何かを飲み込んでいる。
しかし、人の心理を読むことに長けた嵯峨には微妙に震える近藤の口元から近藤の考えていることは丸見えだった。
『このおっさん、俺の言うことを信じかけてるな……俺としては大げさに言ってみただけなんだけどね。武家としての誇りを取り戻すための戦いだというのに、兵が命を懸ける覚悟がないとしたら……?とか考えてるんじゃないかな?じゃあここが押しどころだ』
嵯峨はそんな自分の推測など表情にも出さず、ぼんやりと近藤の顔を眺めていた。
『ぼんやり』は、最良の盾であり、刃でもある。
「人間は基本的に『生きたいんだ』。理想のために死ぬのは格好がいいけど、そんなに簡単に死ねるのは一握りなの。お前さんの乗艦の『那珂』のブリッジの士族出身の連中は、確かにそのレアスキルを持っていて戦力にはなる」
嵯峨は退屈そうに話を続けた。
声の平坦さで、相手の昂揚を削る。
近藤は仕方なくその言葉を聞いているだけだった。
「だけどさ、他の兵隊はどうかな?俺がちょっと、そいつらの家族にあてた『私信』をのぞき見たら……死ぬ気はないよ、あいつ等。あんた等『士族』と違って連中は『平民』だもの、それ以外の『士族』の出のパイロットが居るって?そいつの主君はアンタなの?違うでしょ?たまたま第六艦隊提督の命令でそこに居るだけのアンタに義理立てする必要はないもの。下級士族も平民も今の経済的に厳しい甲武では日々の生活で精いっぱいなんだ。近藤さん達と一緒に地獄に落ちるつもりは無いよ……それより家族に元気な顔を見せてやる方がよっぽど楽しいことなんだ。さて、そいつ等が戦力になるかな?」
何気なくつぶやく嵯峨の言葉に近藤は激高してこぶしを握り締めた。
軍手越しでも分かる、関節の白さ。拳は雄弁だ。
『『私信』だと!そんなものを見て恥ずかしくないのか!貴様は正々堂々と戦うつもりはないのか!』
裏仕事に従事したことは有るものの、近藤は兵士達の私信を覗き見るような嵯峨ほど卑劣な手を思いついたことが無かった。
「うん、無いよ。俺はプライドゼロが売りだもの。前だけ向いて勝てるなら将棋でもやりな。ついでに戦争もサバゲにしといた方がいいや……撃ち合うのはBB弾でやろうや……我ながらいいアイデアだな。そうすれば人は死なないねえ」
怒りに任せて叫ぶ近藤に嵯峨はやる気のない表情で答える。
軽口の皮に、冷徹な本音を包む。『死なないねえ』は、この男の最上位価値だ。
「『甲武国』の憲兵資格ってのは便利でね。『大本営勤め』の近藤さんには理解できないでしょ?そんなところに戦争の結果が噛んでるなんて。兵隊もね、人間なんだ。彼等には『戦後』を生きる義務と権利がある。俺達職業軍人はそれを時々忘れちまうんだよ。でも、あんたも前の戦争が終わった後まで部下達の面倒見たの?見てないでしょ?それがあんたの頭の中の『八丁味噌』の限界だ。戦争が終わって焼け野原のなった自分のコロニーに戻ってもそこには人間の生活があった。そんなことアンタ考えてみたことがあるかな?たぶんないんじゃないかな?」
近藤の怒りに震える顔を見ながら嵯峨はそう言い放った。
『戦後を誰が背負うのか』それは軍部を率いて無茶ともいえる地球との開戦に平民達を導いた士族である自分が最も耳を塞ぎたい問いだった。
「そこまで見られちゃうんだな、俺達、諜報や憲兵をやってた人間には。憲兵隊には兵士の『私信』を検閲する権限があるんだ。『甲武国』の軍人の家族とか恋人とかに宛てた手紙を見る権限が俺にはある。他の軍隊にも大体あるよ、似たようなのが。俺はそいつに『嘘』を混ぜて敵の『兵隊』を使い物にならなくするようなお仕事もした経験があるわけ。いやあ、見事に引っかかったよ『お馬鹿な地球圏の兵隊』達。おかげで戦争が始まった当初はあんた等『甲武国軍大本営』の無能を証明するような作戦でも通用したんだ。その点は感謝してもらわないと『作戦屋さん』」
近藤は嵯峨と言う男を図りかねていた。
同志であるルドルフ・カーンが言うように、嵯峨が『食えない男』であることは認める。
だが、やり方が汚すぎる。
私情を利用して兵隊をかく乱しての勝利など近藤は望んではいなかった。胸の奥に、古い倫理が軋む。
「汚いものを見るような視線だね、近藤さん。地球人が大好きで絶対に捨てることができない戦争とはそもそも殺し合い。『きれい』とか『汚い』とか贅沢は言えないんだ。違うかな?俺は間違ってるかな?」
近藤は『年齢と見た目が一致しない化け物』を目にしている事実に気づかないほど愚かではなかった。
だが同時に、彼は『勝てる論』を失いつつあることにも気づき始めている。
「俺は『東都共和国二等武官』の仮面の下でそんなお仕事をしていたわけ。大使館の中で消息を絶った後の俺は『戦争の汚さ』をうんざりするほど見てきたんだ。だから、俺は戦争は嫌いだよ。近藤さんみたいに自分にとって都合のいい作戦を立案することで『甘い蜜』を吸ったことがないからな、俺は。むしろアンタ等に使いつぶされる。残念だったね、俺が生きていて。アンタ等がやった汚いことの生き証人がここに居るんだもん。気分も悪くなるよね。当然の話だ」
そう言って嵯峨は画面に映し出される近藤を『殺意』を込めた力強い視線で睨みつけた。
冷たい殺意……『殺すこと』ではなく『殺さず終わらせるために、最短で折る』意志がそこに見えた。
「近藤さん。俺達『特殊な部隊』、遼州同盟司法局実働部隊は、あんたを『クーデター首謀者』として処刑する。俺と高名な『偉大なる中佐殿』ことクバルカ・ラン中佐がその首を落とす。多少の被害が出るが、くたばるあんたの知ったことじゃねえがな」
嵯峨の言葉に近藤の表情が固まった。
硬直。ほんの一拍の『無音』。それは覚悟の影ではなく、負け筋を見た人間の影。
近藤の口から、彼自身も意識していないだろう低い呟きがかすかに聞こえた。
『我々は、決して屈しない……!』
それだけ言うことが精いっぱいだった小さな絞り出すような近藤の言葉とともに画面が突然消えた。
遮断音が、艦の環境音に吸われて消える。回線が切れる瞬間、ほんのわずかに遅延ログが滲む……『逃げ』の操作は、だいたい速い。
近藤が不愉快さのあまり通信を遮断した結果だった。
「自分の都合のいいようにしか物事を考えられない『脳なし』には、綺麗に見えるのかな?『戦い』は。さっき歴史云々言ってたけど……『歴史』は生き残った人間が書くんだ。死んだ人間には『歴史』を書く資格がないんだよ。『敗者が書く歴史』?そんなものは全て『ファンタジー』さ。それを聞きたいご都合主義の脳みそお花畑の人間には金にはなるが、それはただの金銭の問題。歴史的事実とは無関係なんだ」
そう言うと嵯峨は、大きな展望ルームのガラスの外に広がる世界に目をやった。
宇宙は黙っている。だが、黙って偏っている。生き残りの側に。
「近藤の旦那は自分が負けた後、家族がどうなるかって考えてんのかな……旦那の娘さんはそれはもう美しいお嬢さんだって話じゃないの。流刑地でそこを生き延びた『野獣達』犯されて殺されるその様を想像してるのかな……それも覚悟の上ってことか……そんな法律をあんたがた貴族主義達者達は認めてるんだから当然か……安心しな。その点の配慮は俺は出来る男だから。アンタはただの単独『犯罪者』として『処刑』される。近藤の家名にもアンタの家族にも何の罪もないただの『殺人狂』として歴史に名を刻まれることになる。それが俺にできる最大のアンタへの『敬意』だよ」
そこには宇宙のゴミとなった『戦闘機械の残骸』が無数に浮かんでいた。それはかつての激戦の跡を思い出させる遺構だった。
艦体灯が一つ、廃材の曲面に反射して鈍い白を返す。
嵯峨はそれを見ながら戦争とはそういうものだ。歴史のページに名を残すのは、生き残った者だけ……だという信念を確認していた。




