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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の初陣  作者: 橋本 直
序章 序

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遼州戦記 序章 僕たちの星は地球人に征服された

『あの日、僕たちの世界は終わった』


『地球人と名乗る宇宙人が、突然やってきた』


『鉄すら作れなかった僕たちは、彼らの武力の前に膝をついた』


『でも、僕は知っている。遼州の歴史を。』


『僕たちがどんなふうに支配され、どうやって戦ったのか……』


『地球人の狙いは、僕たちの星はあまりにありふれた存在である『金』だった。想像を絶する規模の、金鉱山』

 

『彼らは僕たちを金鉱山の奴隷として使うつもりだった』

 

『僕たちはそれを拒んだ。だが、石斧と青銅の槍では、最新鋭の兵器に勝てるはずがなかった』


『それでも……僕たちは勝ってしまった』

 

『なぜなのか、あのときの僕にはわからなかった』

 

『だが今は、はっきりとわかる』

 

『僕自身が『力』に目覚めてしまった今となっては……』


 遼州同盟司法局実働部隊機動部隊第一小隊三番機担当 神前(しんぜん) 誠




 21世紀末に『相対性理論』の矛盾が指摘されてから長い年月が経とうとしていた。地球人類の移動速度は新たに開発された移動手段『亜空間跳躍』により光速の壁を越え、その活動圏は広く外宇宙へと広がっていった。しかし、それはただ『地獄』が地球から宇宙に広がったというだけの事実に過ぎなかった。


 異星系への移民。そんな夢のような話は相対性理論の崩壊と光の速度を超えた移動手段『亜空間跳躍』の獲得と同時に地球人類に強制的に訪れることになった。そして『市場の無限の拡大』を前提としている資本主義の限界に気付き始めていた経済を通じて『政治』、『倫理』をネットを通じて市民を支配することに成功した地球人類100億人のうち5千家族にしか過ぎない特権貴族階級に新たな富の収奪手段とそれに不満を持ち始めた市民に偽りの希望を与えることを思いつかせた。


 21世紀中盤には労働市場に一大革命が起きた。AIが完全に労働者の存在を駆逐し、人々を『AI制御のロボットを補完する存在』に変えた。


 富のすべてを握る『富裕層』にとって自分を批判するジャーナリストばかりでなく企業経営者や自分に助言するコンサルタントや顧問弁護士や医師ですらじゃまものだった。


 かれらはただ『富裕層』の富への寄生虫としか見なされないようになり『より多くの正確な情報を24時間365日提供してくれるAIに代替可能な存在』であるとして淘汰された。


 そのAIが驚異的な発展を遂げた21世紀は『絶望の世紀』と呼ばれた。2030年代の中東での核戦争をきっかけに『核戦争』による敵対国家の国民を根絶やしにする『民族浄化』が戦争の主流となった。


 戦争はより多くの敵国民を効果的に絶滅させるための有効な核弾頭搬送手段としての核ミサイルの高性能化とそれを確実に目標に到達させる航空戦力こそが国防の鍵であるとして他の兵器は衰退していった。


 一方で、戦争を引き起こす理由も変質していった。自分を称える人間に多額のインセンティブを与える制度を導入して多くのインフルエンサーが多く現れ、『ロボットの補助的業務』ではとても賄えない食費を確保するために過激な発言を繰り返し『富裕層』が運営するコンテンツからの収入を得て糊口をしのぐようになっていった。


 そう言った『富裕層』の手に寄らないインフルエンサーの他にも『富裕層』は自らが『民意に選ばれた絶対的存在』であり続けるために自らに忠誠を使う役人のエンジニアが自分の思う通りの主張するだけの多数の投稿マシンであるAIのインフルエンサーを多く作り上げた。


『富』と『権力』を独占する『富裕層』に完全に支配されたネットと労働市場と同じく、メディアや芸術もAIのタレントと俳優と評論家が自らの権威を絶対化することだけを目的として『富裕層』の思惑通りに踊る有権者の権威への絶対服従を願う地球人の本能の目覚めとともに民主主義と言う脆い均衡が自壊した。


 彼等は地球人が農耕化する際に身に着けた集団帰属意識を絶対とするもののみが生き延びるという人類の進化のシステムを利用して民族間の憎悪の為ならば滅びを選ぶという指導者の登場を待ち望んだ市民の支持を得た東アジア国家群の思惑に極東に領土的野心を持つアメリカ、ロシア、インドの扇動による極東核戦争が2度勃発し、極東はアメリカ、ロシア、インドに分割統治されるようになった。さらに、移民を嫌うヨーロッパは極東の二の舞を舞うまいとネオナチ扇動家への監視を強めつつ域内の独裁国家への絶滅戦争を開始した。


 中東では増え続ける国民の入植地拡大のためにイスラエルが近隣諸国へのアメリカの支援の下、積極的な核攻撃により隣国に核戦争で居住民を絶滅させることで入植地を拡大した。また増え続ける中央アフリカの最貧国からの移民に苦悩した南アフリカは再核軍備を宣言し、これらの移民の供給源である中央アフリカ地域の人間を根絶やしにする為の絶滅戦争としての核戦争が起こった。結果、50億もの命が失われ、多くの国が地図から消えた。


 こうして21世紀半ばには民主主義の自壊は、『富裕層』同士の潰しあいにより生まれた、より強大で国家の枠を超えた絶対権力を志向する『超富裕層』の富の独占を行うためならばいかなる手段をも選ばないという立て続けの核戦争による混乱の中で進行した。


 地球は彼等の誰も止めることができなくなった果てしない欲望のために次第に放射能に汚染されていき、それをすべて自分とは異なる『他国』の存在にすべて押し付けて能弁に語る強力なリーダーの言葉に酔った人々は彼等の真の狙いも知らずにただひたすら『強い美しい言葉を語るリーダー』を求めるという地球人の本能に従うようになった。


 核武装はどんな小国でも当たり前のことになり、そんな小国の気まぐれな指導者が引き起こす核戦争が当たり前になった。勝利し敵国民を絶滅させることに成功した戦勝国の国民はその栄光ある勝利を推進し敵国を絶滅させる国家指導者の『善行』に酔い、世界各地では次々と『自由と民主主義という理想郷』を名乗る実質的な独裁政権が生まれた。


 また、22世紀に入ると21世紀中盤まで中進国以上の豊かさの国を悩ませた少子化問題も、AIとロボットの普及により労働者が絶滅したことで『地球人は生存限界に近づくほど出生率が上がる』と言う当たり前の原則により解決した。


 国家を指導する『超富裕層』は工場やデータセンターの掃除などのロボットを導入することでは資本回収が認められないというような単純労働だけを押し付けられた市民を生存限界以下の生存環境に置くことでそれまで低下傾向にあった出生率を反転させることにより、22世紀に入ると21世紀に数多くの核戦争で失われた人口は驚異的な速度で回復した。


 すべてを支配するアメリカ・ロシア・インド・ヨーロッパ・イスラエルなど『民意を背景にした絶対的支配者』としての『超富裕層』は21世紀に絶対的権力を手にした手段を踏襲して自分に従順な人間だけの生存を許すという戦略によりより自らの富を加速度的に増加させていった。

 

 そうして迎えた22世紀はちょうど16世紀にはじまったヨーロッパ諸国による植民地争奪戦のように『超富裕層』の指導する国家による『富裕層』しかいない小国を奪い合う弱肉強食の時代だった。


 『弱者』は前世紀の絶滅戦争の悪夢から逃れるために地球人の持つ権威主義的本能に頼ることで生き延びるしかなくなった。『強者』の論理がすべてを支配し、『弱者』は盲目的にそれを従うことを望んだ。


 それに従わない『弱者』は『異端』として排除され、22世紀後半には誰も100億の人類に5000家族の富裕層が自由自在に権威と富を独占する現状を当たり前と思わない地球人は誰一人いなくなった。


 ただ、有力国の政治を自在に操る『超富裕層』が自らの富を絶対化するために起こした度重なる戦術核の使用で大地は傷つき戦場となった地域は長い間放射能で汚染された。残留放射能により居住不可能な地域が広がった。『弱者』はそれを当たり前のことと受け止めたが、より強欲な『超富裕層』はそこでも強制的に『弱者』を扇動することでその地を強引に開発させ富を得た。『弱者』はそれが自らの命を縮めるだけの行為だとも考えず『富者』の称賛の言葉に酔い、平均寿命30歳以下で死んでいった。まるでそれを望むかのように。


 地球は地球の富を完全に独占する『超富裕層』と言う支配者階級と、それに忠誠を尽くす『軍人』や『官僚』による中世で言う『騎士階層』に属する人々。そして人工知能の開発によりホワイトカラーや経営者すら必要としなくなった社会で経済的には消費する存在として、生産活動においてはロボットの補助として、また戦争が起きた際には貴重な職業軍人の弾避けとしての機能しか期待されない存在である全人口の99%以上を占める『市民』に分断されることになった。


 そんな地球人達の『国家』は絶対に国家が『超富裕層』のプロパガンダの手段として無料で与える娯楽であるテレビによるスポーツ放送以外の娯楽を持たない『市民』に画期的な成功譚を与えるためには『地球圏の太陽圏外への拡大の可能性』が生まれたことは『超富裕層』にとっても『騎士階層』にとっても、そしてただひたすら彼等を支える為だけに生存しているだけの存在となった『市民』にとっても待ちわびた出来事だった。


『超富裕層』やその権威の恩恵にあずかる『騎士階層』にとっては新たな移動技術『亜空間跳躍』を駆使した異星系への移民に希望を持たせることは次第に確定しつつある名前を伴わない身分制に疑問を持ち始めた『市民』の目を逸らすにはこれ以上ない好都合な『革命』だった。


 そんな地球人たちが初めて植民に成功した惑星で、彼らは地球外知的生命体と初めて遭遇した。


 自らを『リャオ』と名乗る遅れた文明を持った人々の住むその自称から『遼州星系』と呼ばれた太陽系にあまりによく似た星系の第三惑星の最大の大陸である遼大陸には、地球ではまるで普通の石ころのように純金の塊が普通に転がっており、『リャオ』たちが遅れた焼き畑農業を行う大地の地下には良質な金鉱山をはじめとする想像を絶する量の資源が眠っていた。

 

 その事実を知った地球の『超富裕層』と『騎士階層』は歓喜し、すでに地球上での土地や市場の争奪合戦が限界に達していたこともあり、両階層にとっては『お荷物』以外の何物でもなくなりつつあった『市民』達をこの星に移住させることで不要となった人間を『捨てる』ことを考え付いた。


 そしてその『人間を捨てる』行為に美名を与えるために『超富裕層』と『騎士階層』にとって自分達の意にそわない不都合な人間達を選び、彼等に地球外知的生命体の住む星の存在を教えて移住船を仕立てた。そしてこれまでも数多くの居住が難しい星系で同じように『捨てられて』死んでいった先人とは違い、彼等は選ばれた存在であり、その行先はまさに夢の世界、『黄金の星(じぱんぐ)』であると言って不服を唱える『捨てられた人間』達を『遼州星系』に『捨てた』。


 しかし、彼等『捨てられた』元地球人と現地雇用した『リャオ』達により金鉱山の開発が進むに従い、そこはまさに『大航海時代』にヨーロッパ文明が目さした『ジパング』そのものだという事実が明らかになっていった。


 地球で明文化されない身分制度の超えられない壁に辟易してきた一切の資産をはく奪された『市民』達は、地球の東アジア人にしか見えない異星知的生命体を見下しながらも、同じように働く『リャオ』達を未開人として見下して与えられた仕事を逆らうことを知らない『リャオ』達に押し付けて彼等を奴隷として利用してこれらの豊かな資源を採掘することに専念した。


 そしてさらなる富で地球に居た時は考えられない豊かな生活を手に入れ自らの幸運を神に感謝した……その感謝は地球の神に対して向けられたものであり、自分達の代わりに泥まみれになって地球ならロボットがやるような仕事も黙って引き受ける『リャオ』達に対するものでは無かった。


 開発が5年も進み、資源調査が進むにつれてその惑星の金やレアメタルの含有量は驚異的で、それは南米を征服したスペイン人が王朝を滅ぼし、財宝を奪った歴史を思わせるほどのものだった。遼州系にやって来た『捨てられた』地球人達はその事実に驚愕すると同時に次第に地球への帰還の気持ちを失っていった。

挿絵(By みてみん)

 地球の支配者である5000家族から日々その過激な競争により数を減らしつつある『超富裕層』達は、金を始めとする現物資源価値の下落に不満を抱きつつも、地球ではAIやロボットの掃除をする仕事しか与えられていなかった『市民』達がわずか数か月遼州系に滞在したというだけで莫大な利益を得る事実を地球の『市民』たちに『宇宙開発の成功者』としてより大きな富を得るための手段として歓迎していた。


 成功者としてロボットの補助しか出来なかった『市民』が次の階層である『騎士階層』に成りあがって地球圏に帰還する様を見て、宇宙開拓の成功が『固定化された資産配分を新たな段階に勧める手段である』と誇るばかりだった。


 誰一人として奴隷化され殺されて行く『リャオ』に同情する地球人の指導者は現れなかった。今も昔も変わらずそれが『超富裕層出身の政治家』の性質と言うものだった。


 地球の支配者階層は、石斧と鑓しか持たない奴隷とされた『リャオ』達も、新惑星に流れて一獲千金を夢見る『市民』達の行動も制御可能だとして、地球にとどまり続けていた。


 多少の自警団的な軍人を配置し過ぎた野心で暴徒と化す『元地球人』備えるだけで十分と考え、時に暴動を起こす『元地球人』に比べれば一切抵抗することなく奴隷の境遇を受け入れている『リャオ』は理想的な労働力だった。


 しかし、『リャオ』と言う遅れた地球外知的生命体に出会うことで、戦争を本能に刷り込まれた地球人は、新たな恐怖に囚われていた。


『もし地球より進んだ異星文明がいたら?』

 

 彼らは、今自分たちが行っているように、より強大な文明が地球を征服しに来る可能性を考えた。それに備えてこの豊かな遼州星系をそのような異星文明から奪われないために大艦隊を第二惑星『甲武星』に配置し、まだ出会わない地球人類と同等の異星文明に備えることで安どの息を漏らした。


 宇宙で地球圏は支配権を確立し、地球圏外に『捨てられた』人々は地球圏の支配に喘ぎながら空を見上げ、自らの稼ぎを吸い上げていく地球圏を恨みながらため息をこぼすだけだった。


 地球外に植民した人々は地球圏内部での権益争いの影響を受けながら独自の生活様式を作り上げていった。


 中でも、その『ゴールドラッシュ』の中心地である『遼州星系』は、開拓開始後十年も経つと、独自の動きを見せ始めた。


 『ゴールドラッシュ』に浮かれて流れて来た『市民』達に対し、遼州星系の奴隷化された他者を信じることしか知らなかった『リャオ』はその境遇がいかにあってはならないものかと説く地球人の『市民』達が現れ始めたのだった。

挿絵(By みてみん)

 唯々諾々と奴隷の境遇に満足していたかに見えた『リャオ』達は彼等地球『市民』の地位を捨てた元地球人達の言葉を聞くに従い、ことここに至ってようやく自分を虐げる敵として認識して反旗を翻しはじめた。


 絶対に逆らうことが無いと信じていた『リャオ』が地球に『捨てられた』市民に説得されて決起するという事態は地球圏でその富に依存していた『超富裕層』と『騎士階層』に衝撃を与えた。


 しかも、真正面から貧弱な兵器の自警団相手に戦おうとする『捨てられた』市民に『リャオ』達が教えた戦術はまるで戦うために生まれたゲリラ戦専門の特殊部隊のそれのように正鵠(せいこく)をついており、決起を煽った『捨てられた』市民たちを愕然とさせた。


 その真正面から戦うことを絶対に避ける徹底して合理的なゲリラ戦術で『戦争は核で一瞬で終わるもの』と考えていた地球圏出身の『対元地球人の反乱者対策』の為に派遣された正規軍達に対抗することを開始したのだ。


 ブービートラップ、スパイによる武器や艦船の強奪、人海戦術を駆使した断続的襲撃など、はじめは最新鋭の兵器で地球圏各国の軍は弓と石斧しか持たない原住民に対して優位を誇っていた。


 しかし、数的不利と真正面からの衝突を避け、奇襲や意外性を狙った連続テロやライフラインを破壊しての軍人の現地での生存や活動そのものを脅かすような作戦を繰り広げる。


 『ゲリラ戦の天才』であった『リャオ』達の抵抗は地球人の理解を超えた展開を見せた。『リャオ』達は『捨てられた』市民から口伝で聞いたという小火器の使い方や鉱山にあった工具の加工機械でも製造可能な貧弱な小火器しか持たないのにもかかわらず、最新鋭の現代兵器で武装した地球圏から派遣された精鋭部隊相手に互角の戦いを続けた。


 その戦いがなぜ互角なのか、地球の権力を独占する『超富裕層』の政治家にも『騎士階層』の軍高官や政府高官にも理解できなかった。ただ、敗戦報告と破壊された地球の最新鋭兵器の写真に彼等はため息を漏らし軍の増派を決めるだけだった。


 徒手空拳の『リャオ』と協力者の軍隊が精鋭の地球各国軍と互角以上の戦いを繰り広げている。この状況を見て地球に住み生まれながらに特権を享受する『騎士階層』に属する職業軍人のエリート達に不満を抱く『市民』の多くは、原住民側に裏切り、戦いは一方的な虐殺から独立戦争へとその局面を変えつつあった。


 そんな中、地球圏が国家を超えて地球圏よりも進んだ異星人との戦いに備えて遼州圏の第二惑星『甲武星』に駐屯させた『地球宇宙軍提督』田安高家中将は地球圏の『超富裕層』の戦い方に異議を唱える『騎士階層』に属する軍人の一人だった。


 地球圏、特に徳川吉宗の一門である『田安』の姓を名乗り、二度の極東核戦争で住むところを追われた極東に住む『市民』達、特に『建国の精神に立ち戻る』として『ネオアパルトヘイト』を始め、人権を完全に奪われた存在としてアメリカに併合された日本に住むをここ遼州系に招き入れた。


 科学を信奉してやまない地球圏からすればこの無謀にも見える『リャオ』の抵抗運動に同調しすることには多くの反対意見もあったが、田安はこれらに耳を貸さず『富でなく伝統で国は動くべき』との思想から地球圏を裏切った。

挿絵(By みてみん)

 遼州系で最大の宇宙軍戦力の寝返りは遼州圏の地球からの独立を意味していた。


 徳川家の血を引く田安は太陽系の金星に当たる星である遼州圏第二惑星『甲武』で21世紀の2度にわたる極東核戦争で滅亡した日本国からの移民を受け入れた。

挿絵(By みてみん)

 彼は自分の理想とする日本の江戸以前の体制を復活させた『甲武国』を建国し、地球圏の田安の言うところの『堕落した近代文明』の悪影響免れるため国交を断絶した。


 しかし彼が復活させたのは、旧日本から移住した市民たちの想像したような独立した日本国ではなく、封建制の鎖をまとった『江戸以前の日本』だった。


 他にもドイツ系とフランス系の住民で、『富裕層』から安い労働力である移民に職を奪われた上にそのことを問題視することで国家の監視下に置かれることになった排外主義を唱える白人たちは第四惑星で太陽系の火星に当たる『ゲルパルト』を支配し、ヒトラーの理想とする国家社会主義体制を国是とする『ゲルパルト第四帝国』を建国した。


 第五惑星以遠の惑星を支配する地球を追放同然に追い出された共産主義者のスラブ系の地球人達は『外惑星社会主義共和国連邦』を建国し、社会主義体制の国家を再興した。


 遼大陸の北部ではアメリカとロシア、そしてインドに分割された中国からの移民が共産主義国家『遼北人民共和国』を建国した。


 同じく、遼大陸の西の砂漠の油田地帯には地球で人口が増えすぎたイスラム教国からの移民達が、イスラム教を国教とする『西モスレム首長国連邦』を建国した。


 これら地球人の国に同調してこの星の原住民である『リャオ』は遼大陸南部を支配する『遼帝国』を建国した。


 これとは別にこれまでの独立戦争の戦火から免れていた東の火山列島には『東和共和国』が『リャオ』の国として成立していた。彼等『リャオ』は地球人入植の際に言語を奪われていたが、『リャオ』も独立を宣言した『元地球人』達も地球での共通語となっていた英語の使用を拒否し『東和共和国』や独立の英雄『田安高家』の独立宣言で使用された日本語が遼州圏の公用語となった。彼等はそれまでの自称していた『リャオ』という名称を遼州圏の公用語である日本語表記で『遼州人』と名乗るようになった。

挿絵(By みてみん)

 遼州の元地球人による復古主義国家と遼州人の支配する2つの国の成立により地球圏の遼州圏支配は終わりを告げた。ただ、遼州圏の多くの資源は地球圏の『超富裕層』と『騎士階層』には魅力的なものであり続け、元地球人の国々がそのイデオロギーや宗教のあまりの相いれないところからいつでも軍事介入は可能だと考えて、各地に軍事基地を建設したり、元地球人同士の小競り合いを理由に二国間軍事同盟を結んでそれを理由に遼州圏に宇宙艦隊を配備し続けた。


 唯一、最も外側の太陽系の冥王星に当たる北欧からの移民が建国したラップ共和国だけは地球圏のすべての国との国交を保ち、遼州圏の国々の中では唯一地球圏と国交を持つ国として独自の姿勢を持つようになった。


 こうして遼州圏は地球圏からの距離をとるようになっていった。


 ただ、独立した遼州圏だが、遼州に移住した元地球人達は戦いを()めることをしなかった。地球人はその遺伝子に戦いを望み殺しあうことを望むものだということを遼州人に思い知らせることになった。


 『ゲルパルト第四帝国』と『外惑星社会主義共和国連邦』は、ファシズムと共産主義と言う相容れないイデオロギーをめぐりアステロイドベルトの一つの小惑星をめぐり数万の犠牲を出す戦いを毎年のように続けた。


 第三惑星遼州では宗教を麻薬と見なす遼北共産党の指導する遼北人民共和国とイスラム教を国教として拡大路線に突き進む西モスレムが毎年のように軍事衝突を繰り返しその度に数万の死者を出すのが当たり前になっていた。


 そこに復古主義を国是とする『甲武国』が反共産主義を掲げてゲルパルトに味方して介入し、戦乱の火の手は瞬く間に燃え広がった。


 その結果、独立の象徴ともいえる田安高家の死後5年後、永世中立を国是とする遼州大陸東に位置する『東和共和国』と、遼州独立後、鎖国をしていた遼州の精神的支柱である遼州人の国家『遼帝国』を除くすべての国が参加する『第一次遼州戦争』が勃発した。


 『反ナチズム』の立場の地球圏からの支援を『外惑星社会主義共和国連邦』に届ける役割を果たしていたラップ共和国の仲介もあって5年後にこの戦いが終わった時にはすでに5億人の命が奪われていた。


 遼州人の国である東和共和国は遼州圏に移住した元地球人が戦争を好むことに嫌気をさし、その原因を『科学文明』にあると考えた。


 鎖国をし、青銅器文明のまま時が停まっている遼帝国はいざ知らず、多少の文明を持っている東和共和国は国内のデジタル化を停止することで戦争の恐怖から逃げ出そうとした。


 東和の技術は超高速アナログ通信や旧時代のメディアであるCDやレーザーディスクが我が物顔で店頭に並び、役所では書類と印鑑が現役のアナログな世界が続いていた。


 東和共和国では家電の新製品が開発されても昨日の変更は一切行われることは無く、東和共和国の99%を占める遼州人の顧客の関心はそのデザインと配色だけで製品を選ぶという決定的な地球人とは違う性質があった。『今不便が無いのに何で値段を上げて新製品を出すんだ?』。VHSビデオに変わりDVDレコーダーが発売されたものの数週間で一台も売れなかったということが遼州人の地球人とは違う商品選びの基準であることは地球人の旅行者を呆れさせることだった。


 遼帝国が内部崩壊から鎖国を解禁した後も、東和共和国の時はまるで止まったようにそこにはアナログな世界が広がっていた。遼州圏の元地球人の国々も表立っては大規模な武力衝突を避け、それぞれに緊張を孕みつつ。介入を狙う地球圏との非公式の関係を保ちながら時は流れた。


 そうして『第一次遼州大戦』終結から400年の時が流れた。


 人はこの世界がいつまでも続くかと信じ込んでいた。しかし、再び『甲武』と『ゲルパルト』の枢軸同盟と『外惑星』を中心とする連合国、そして地球圏の影が迫っていた。


 そして今、新たな戦乱の足音が、静かに世界を包み始めていた……。





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― 新着の感想 ―
いつもお世話になっている「中野ポン太」です。 すごい分量でビックリしました。 これからじっくり読ませてもらいます。 SFって私は書けないので参考にさせてもらいますね!
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