「黒い穴」伝説2
ウーハ国は黒い穴のおかげで栄えた。周りの村や国からは、攻めれば兵士たちが行方知らずになると大層恐れられた。その不可思議な現象に惹かれ、自ら属国になることを望む地域もあった。黒い穴を信じなかった国や村は、無謀にもウーハ国へ戦いを挑み、多くの兵士を失った。
しかし、それは犠牲の上に成り立つ繁栄であった。
敵を作戦に陥れるためには、敗走を装い一目散に黒い穴へと向かう必要があった。味方が用意してある橋を渡りきってから後続の敵兵たちを橋ごと黒い穴へと落としてしまえば良いのだが、毎度上手くはいかない。追いつかれてしまい、味方ごと橋を落とすしか術が無い場合も多かった。
よってウーハ国の兵士たちは、常に死を覚悟して戦へと望んでいた。敵に殺されるだけではなく、作戦のために自ら黒い穴へと飛び込む可能性もあるからだ。しかし、決して兵士たちはそれを恐れることはなかった。なぜなら、黒い穴へと落ちた兵士たちは、神に認められて使いとなれることを信じていたからだ。
ウーハ国は死を恐れぬ軍勢を率いてその勢力を拡大させた。しかし、犠牲を伴う栄光には限界があった。
ある若者は、墓の前に立っていた。その墓石には、「誉れあるウーハの戦士、黒い穴で神と共に」と刻まれていた。黒い穴へと敵を誘い込んだ兄を称える碑文を、若者は冷めた目で見つめる。死ぬ前提の戦いなんて馬鹿馬鹿しい、と小さく呟いた。兵士たちが黒い穴へと自ら落ちる可能性を抱えながら、強い国だと威張っているのは変な話だと、若者は怒りを覚えていた。
同じ怒りを持つ者は、決して少なくなかった。仲間を見殺しにするな!兵士たちは使い捨ての道具ではない!その声は次第に大きくなった。若者はその先頭に立ち、仲間を集めた。そしてついに国王のもとへと向かい、直接訴えようとした。
城下町へと脚を踏み出したその瞬間だった。兵士たちが一斉に若者を取り囲んだ。彼が声を上げる前に、体に縄が巻かれた。黒い穴を否定する異端者として、若者を捕らえるよう王の命令が出ていたのだ。彼は城へと連行され、乱暴に牢の中へと押し込められた。
王は国中にお触れを出した。2日後、異端者を処刑すると。
「先生、もうお昼の時間です」
「お腹空いた」
教室中に腹時計が鳴り響く。
「おお、もうこんな時間か。では続きは明後日。明日はお祈りを怠るんじゃないぞ」
また騒々しさが戻ってきた。それを聞いてネオは一気に現実へと引き戻される。
「気味悪い穴に国の命令で飛び込むなんて、まっぴらごめんだ」
そう呟きながら、口にパンを一欠片入れた。




