エピローグ やり直し
こんな日々が続くといいなあ、だってさ。
これなら僕も戦える、だってさ。
大丈夫だ、大丈夫だから……! 僕がいる、ずっと一緒だろ!?、だってさ。
黙れよ、カス。
何も守れなかった大嘘つきが。
仰向けに倒れたまま、手だけが持ち上がって顔を覆い隠す。
無気力に髪を撫で、かと思うと突然指先に力がこもり、顔面を強く引っ掻いた。
肌に爪が食い込み、血が垂れた。
『後は任せて』だって?
親友一人守れなかったお前が?
適当言うのもいい加減にしろよ。
散々守ってもらっておいて、最後は自分だけ脱出かよ。
誰だよこの無能は。
ああ、僕だよ。
一番大事な親友救えなかったくせに、どうでもいいクラスの奴ら助けて罪滅ぼしでもやり遂げたつもりか?
親友の命を犠牲にして手に入れたスキルで無双して何が楽しいんだよ。
どんな神経してんだよ。
なんとか言えやドブカス。
「死ねよ……!」
ボタボタと涙が溢れる。
脳裏に今までの日々が蘇る。
蓮斗と出会ってから今までの眩しいばかりの記憶。
その記憶が、思い出すたびに片っ端から灰色に色褪せていく気がした。
「う゛ぁ……う゛う゛ううううううう……え゛ぇ……っ!」
ビチャビチャと汚い音と共に、口から吐瀉物が溢れた。
「ごめん……ごめん……!」
優人は自らを守るかのように、両手で身体を抱きしめた。
しかしそれは次第に罪悪感に変わり、優人は肌に爪を立てた。
ガリガリという異音を奏でて肌が抉れる。
「どうして僕だけ……どうして……!僕だけが!!」
『優人……クラスを頼む』
まるでその言葉が自分を責めているように感じた。
「死ねよ!お前が!!今すぐに!!」
頭を地面に打ち付ける。
何度も何度も。
痛みが感じられなくなるまで。
額は切れ、血が流れる。
同じように血を流して痛みを味わえば蓮斗が許してくれる気がして、優人は執拗に傷口を引っ掻いた。
『後は任せて』
「……行かないと」
嗚咽混じりに吐き出した言葉はそれだった。
「戦わないと……約束したんだから……」
散々裏切っても、これ以上は嘘をついちゃいけない。
守らないと。
クラスのみんなを。
守れるくらいに強くならないと。
顔を上げると、蓮斗が自分を見下ろしていた。
暗くてその表情は分からない。
しかし眼光は冷たく、軽蔑の視線を浮かべている。
そして『そうしろ』と、蓮斗が頷いた。
「もっと強く、もっと……もう、なにも奪われないくらい……」
不意に優人は拳を振り上げ、地面に拳を叩きつけた。
拳から放たれた魔力によって硬い地面にヒビが入る。
「やり返そう。殺られたんだから」
その言葉はどこまでも鋭利で、溶け得ぬ氷のように冷たかった。
スッと優人は立ち上がった。
マジックバックから取り出した回復薬を頭から被り、傷を治す。
「行かないと」
ポツリと漏れ出た言葉はぼんやりとしていて、まるで譫言のようだった。
「せめて……守らないと。約束を守らないと」
そうしないと、僕は蓮斗に顔向けできない。
足取りはしっかりとしていた。
しかし瞳は虚ろで、焦点が定まらない。
「だからせめて───」
再び瞳から大粒の涙が溢れた。
「僕のことを許さないでくれ」
次回から第二章突入です!
ここからは第二章の導入です。
彼は全てを失った。
「大切」を救えず、「不必要」を救い、
自分の弱さに打ちひしがれた。
「なんで僕は生きたんだろうね」
そう嘆く男の前に天使が舞い降りる。
「大丈夫です」
考えなしにそう言う少女。
純粋で、どこか抜けていて、それでも人を支えようとする少女。
彼───否、彼らの物語は新たなステージに立とうとしていた。
───しかし。
「僕はこの世界が大嫌いなんだ」
1人の男が日の目を見る。
世界を憎み、全ての終わりを望む者。
多くの思惑が交錯し、3つの物語は舞台へ上がる。
彼らの物語りの行き着く先はまだ誰も知らない。
それではどうぞ。
第二章【幻帝戴天】




