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星使いの勇者  作者: 星宮 燦
第一章 ようこそ、異世界へ
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1ー12 その後の姉妹

 綾井純恋は深い森の中に佇んでいた。

 何が何だか分からないまま優人によって転移され、気がついた時にはこの森にいた。


 ……木の隙間から見えるあの炎は王都でしょうか。


 半ば放心状態のまま、胸中でそう呟く。

 遠くで燃え盛る炎は夜の闇を掻き消すほど明るかった。


「他のみんなは……兵士の皆さんは……!」


 脳裏に、一人の男の姿が浮かぶ。


「梶原くんは大丈夫でしょうか……」


 テレポートの直前に見えたあの人影───自分たちを救ったのは間違いなく梶原くんでしょう。

 あのまま無事に脱出できていれば良いのですが。


 その時、横の草むらがガサガサと音を立てた。

 咄嗟にそちらに向けて槍を構える。

 しかし、草むらから出てきた人の姿を見た純恋は、安堵の息を漏らして武器を下ろした。


「遥香……偵察ありがとう。大丈夫?怪我とかはない?」

「もちろん。怪我なんてないよ」


 そう言う遥香だが、純恋の目には妹がほんの少し右手を庇っているように見えた。


「遥香」

「……枝が掠っただけ」


 バツが悪そうな顔をして、遥香はおずおずと袖を捲った。

 露わになった傷は深くはないが、たらたらと血が流れていた。


 純恋は回復薬が入っている腰のマジックバックに手を伸ばす。

 しかし途中で手は止まり、代わりに腕に手を翳した。


「【浄化】」


 その手から溢れる金色の光の粒。

 それはゆったりと空中を流れ、そして傷口に吸い込まれて消えていった。

 同時に周囲の皮膚が伸びるようにして傷口が塞がっていく。

 しかしその再生は、傷口が完全に塞がる前に終わってしまった。


「魔力の調節が難しいですね……」


 再び純恋は【浄化】と唱えた。


 ……【浄化】は状態異常専門のスキル。ですが、多少の治癒はできるから、このくらいなら治せるはず。うぅ……魔力がもうなくなりそう……!だけどギリギリ───


 ぴたりと皮膚がつながり、血が止まる。


「治った……!」

「すごいよ姉さん!」


 今度こそ傷口は完全に塞がり、遥香は袖を元に戻した。


「探索の結果なんだけど、姉さんの予想通りここは王都に近い森みたい。向こうの火は王都っぽいよ」


 それを聞いた純恋は表情を硬くした。


「思ったより近いですね……。となると……」


 言い淀む純恋。

 遥香が代わりに言葉を続ける。


「逃げないと。悲しいけど、城に残った人はどうしようもできない。せめて私たちは生き残らないと」


 純恋の表情が引き締まる。

 心の奥底に残る悲しみを押し隠して、彼女は立ち上がった。


「遥香、まずは王都から遠ざかるように移動しながら、今日休む場所を探しましょう。明日からは西にある別の国を目指しながら、他のみんなと合流する方法を考えます」


 遥香が頷き、早速二人は移動を始める。

 しかし数歩動いたところで遥香が純恋の腕を掴んで立ち止まった。


「遥香?」

「姉さん……多分この先に敵がいる」


 純恋は息を呑み、目を見開く。


「【魔力探知】が反応したんですか!?」

「うん……そこまで強くはないと思うけど、2体いる……!」


 遥香のスキルである【魔力探知】は、近くにいる敵影を見つけていた。

 生物か否か、そしてどのくらい強いか。

 魔力の勢いや大きさから、敵の正体を絞り込んだ。



 純恋は手にある槍を握りめる。

 戦闘になった時、頼れるのはこの武器だけだ。


 ……どうしましょうか。できれば引き返したくない。だけど……


 私は命を奪えるでしょうか……?

 自分の命が関わっているとはいえ、この手で他人の命を。


 純恋の手が小刻みに震える。


 ……それに勝てる保証だってない。騎士の皆さんと違って、手加減なんてしてくれるはずがない。


「敵は魔物ですか……?それとも人間?」

「魔物だよ。多分ゴブリンだと思う」


 戦う相手が人間ではないことに安堵しつつ、自分の発言で話の流れが戦いに向かってしまったことに純恋は少し後悔をした。


 ……ゴブリンくらいなら勝てるとジェラルドさんは言っていたはず。だけど初めての実戦だし、夜だから万が一があるかも。それに遥香を危険に晒すわけにはいかない……!でも、ここを避けても別の場所で敵に会う可能性は高いから、ゴブリンで戦いを経験するべきかも……


「……姉さん、私がスキルを使えば……多分勝てるよ」


 小さく呟かれた言葉。

 その言葉にハッとする。


「それはダメです。絶対に。使っていいのは本当に命が危険な時だけです」


 純恋はキッパリとそう言い切った。


 ……私がしっかりしないと!遥香に何かを犠牲にさせちゃダメ!


「遥香、私は戦った方がいいと思う。遥香はどうしたい?」

「もちろん姉さんについていく」

「そう、じゃあ行きましょう。怪我は私が絶対に治すから」


 姉の声が震えていることに遥香は気付いた。

 しかしそれに気づかないふりをして、代わりに己と姉を震わせるための言葉を言う。


「大丈夫だよ。私たちなら絶対勝てる!」



 二人は慎重に敵との距離を詰めた。

 遥香の言葉通り敵はゴブリンで、その距離はすでに5メートル近くまで縮んでいた。


「右から倒しましょう。私が石を投げて左にゴブリンの気を引くので、そのタイミングに一気に行きます」


 草むらに隠れながら、小声でそう言う。

 遥香が頷いたのを確認して、手頃な石を手に取る。


「行きますよ」


 一言そう言って、純恋は草むらの中から石を投げた。

 石は木にぶつかって僅かに樹皮を削った。

 ゴブリンの視線がそちらに向かう。


 その時、二人は草むらから飛び出し、同時に槍を突き出した。

 穂先はあっさりと肉を抉り、心臓に達する。

 しかしその時、刺されたゴブリンが槍を掴んだ。


「動くんですか!?」


 同時にもう一体のゴブリンが腰につけていた鋭利な鉤爪のようなものを手に取る。


「グ、ガァアアアアアアアアアアア!!」

「蹴るよ!」


 言うが早いか、遥香が思い切り槍の刺さったゴブリンを蹴飛ばした。

 ゴブリンは後ろに蹴り飛ばされ、二人の槍が抜ける。


「しゃがんで!」


 妹への信頼。

 純恋はすぐにしゃがみ、直後頭上を槍が薙ぐ。

 鉤爪を敵持ったゴブリンに槍の柄がぶつかり、ゴブリンが吹き飛ぶ。

 すぐに純恋は立ち上がり、飛ばされた先で木にぶつかって崩れ落ちたゴブリンに、槍を突き立てた。

 血が噴水のように噴き出て、全身を濡らした。


 振り返ると、遥香が最初のゴブリンにトドメを刺していた。


 同時に、脳内にレベルアップを知らせる軽快な音が鳴った。

 これが命を奪った報酬の音かと思うと吐き気が込み上げてくる。


「遥香……死にましたよね……?」


 肩で息をしながら、純恋が問う。

 心臓を刺されても反撃してきたあの光景が、純恋の脳裏に恐怖として焼き付いていた。


 同じように荒い息を繰り返しながら、遥香が答える。


「経験値が入ったから……大丈夫なはず……。ゴブリンはそこまで……強くな───」


 そう言い切る前に遥香の体がぐらりと傾く。

 慌てて純恋は駆け寄り、その身体を抱きとめた。


「遥香……遥香!?」


 怪我は見当たらなかった。

 しかし純恋は【浄化】と唱えて魔力を注ぐ。


 かなりの魔力を使ってから、遥香が寝息を立てていることに気づいた。


「よかった……」


 純恋は胸を撫で下ろした。

 安心したせいか、涙がポロポロと溢れてきた。

 純恋は涙のせいで不恰好になった笑みを浮かべながら、精一杯妹の体躯を抱きしめた。




 ***




「あれ……?ここは……」


 1時間ほど経って遥香が目覚める。

 しかし目覚めた場所は血だらけの森の中ではなく、洞窟の入り口のような場所だった。

 すぐ側には小さな寝息を立てて眠る純恋の姿があった。


 ……もしかして私をここまで運んできたの……?


探知能力がない姉さんが、何が潜んでいるかもわからない夜の森を歩いて、洞窟を探すなんて。

これがどれほどの恐怖がつきまとうことなのか、想像もできない。

きっととてつもない恐怖の中で、必死に私を運んできてくれたんだろう。


【魔力探知】で自分の位置を軽く調べてみる。

 近い場所にゴブリンと戦ったところらしき場所を見つけて、少しだけホッとした。


 姉さんの胸元に手を当てると、幸いにも鼓動は落ち着いていた。

 どうやら私を運んでしばらく時間が経っているらしい。



 今すぐにでも感謝を伝えたい。

 だけど今起こしたら迷惑になってしまう。


 少しだけ迷って、遥香は純恋の頬に少しだけキスをした。

 バレてませんようにと祈りながら、遥香は少し視線を逸らした。


「私が番をしとくよ。敵が来ても大丈夫なように」


 そう言って遥香はスキルで周囲を探った。

 今の所周囲に敵の姿はない。


 念の為洞窟の中も遥香は探った。


「……なにこれ?広すぎない……?」


 しかし、浮かんだのは困惑。


 敵の気配はちらほらある。

 しかしその恐怖を忘れてしまうほど、洞窟の広さに息を呑んだ。


 最大まで探知範囲を広げてもその全貌を捉えることはできない。

 それだけではない。

 洞窟はまるで階層を作っているかのように広がっており、人工的な遺跡でも埋まっているのかと思うほどだった。


「遺跡……いや、まさか───」


 遥香の中で、一つピンとくる情報があった。


「迷宮……!?」


 心臓が激しい鼓動を打ち鳴らす。

 迷宮に入れば追手をまけるかもしれない。

 だけど、迂闊に入れば命を落とすかも……!


 その時、探知に一つの魔力が引っかかった。

 不安定で、脈打つように落ち着かない魔力の反応。

 遥香は召喚からの数日間で、この魔力の正体に気づいている。


「勇者が地下にいる……!」


 遥香は姉に知らせようか一瞬迷った。

 しかし、伝えたところですぐに探索できるはずがないし、中途半端に起こしては体調に支障が生まれるだけだと、思い直し、伸ばしかけた手を引っ込めた。


 ……誰だろう?私たちの言葉を聞いてくれる人だったらいいんだけど。


 そう思いつつ、見張り中に寝てしまわないよう、一度頬を強く叩いた。


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