嬉しいことより嫌なことの方が記憶に残りやすい。
大昔は獣人をはじめ人族が神聖力を見分けられたので、人族を買収して聖女を騙る人がいたそうだけれど。今回というか、この世界は本物の聖女さえいれば聖女の為人はどうでも良い。くらいに追いつめられているから、聖女審判に持ち込められた私が負けることは無いとダンくんは言っていた。
「なんでだ…?何故誰もアイリを助けない…?アイリはあの女に苦しめられた聖女で…ッ」
ベイルートくんは、正しい聖女の在り方を訴える心算だったのだろうか。わからないけれど、打算的で排他的なこの世界は、良い子を欲しているわけじゃない。豪華な玉座でブツブツと呟いては、爪を噛むベイルートくんが視界の端にチラついている。
「大体よォ、嬢ちゃんが小娘から力を奪ったっつうが、それを叶えたのは女神アルヘイラなんだろ?じゃあやっぱ何の問題もねェじゃねェか。」
「聖女の力はあんだべ?ならオラ達がすべきは聖女を生かすことだべな。」
でっかい角…ヘラジカ?の巨人がつまんなそうにしてる…。ベイルートくんに対して我関せずって感じで、こう、偉い人ってみんなそんな感じなのかい…?隣の訛っているお爺ちゃんは相棒か何かなの?私の力の出所がアルヘイラだから問題ナッシングだって言ってる辺り、獣人さんとドワーフさんかな。法廷に入って来た時に私を見てちょっと驚いてたし。神聖力が見えるのは人間以外の人族と、特別な眼を持ってる人だからね。それよりお酒あおってる方が気になるし何ならお付きの兎耳のおねぇさんとか猫耳おねぇさんが薄布まいた様な叡智(誤字ではない)な服着てお酌してる方が気になってるよ私は。ずるい!私もお酌してほしい!!
「むしろ罪人である方が思考が単純で愛らしいではないか。さて、聖女殿はなにを差し出せば我が国に来るのやら…、貴殿らはどう思う?」
「リンちゃんはお風呂が大好きだよぉ~。美味しいモノも好きだしぃ。」
「…異世界に魔法は存在しない。異世界人の大半は魔法に好意的である。」
「なるほど、それは良い事を聞いた。どうかね聖女殿、我が国と交友を持つのは。我が侭も願いもいくらでも叶えてあげるよ?」
右が野性的なむさ苦しさなら、左は妖艶と官美の詰め合わせって感じですねわかります。外見十歳の少年が隣のヴォイスさんに負けないセクシーさで囁いて来るんですけど…ッ!魔法使ってるよね?耳元で吐息交じりに囁かないでショタの扉が開いちゃうから…ッ!隣の耳が長い美人さんはエルフさんだよね流れ的に。やっべぇ魔法国の人達が太陽ばりに眩しい。顔面偏差値ミネルヴァかな。
「女神アルヘイラのお言葉が聞けるのが一番だけれどね。宰相殿の言い分が全て本当だとして、そんな悪女の願いをなぜ叶えたのか…とか、さ。」
「ふん、馬鹿を言え。あの聖女が悪ならば、『妖精王』が罰を下す。」
アルたんの力が一番大きくて次点に聖女が来るのだから、アイリちゃんの力を奪えるのはアルたんしかいない。いくら私が願っても、アルたんに叶える気が無ければアイリちゃんの力はそのままだったはずだ。そうならなかった理由が、アイリちゃんにあるんじゃないの?って言いたいんだろう。目が合ったショタくんに楽しそうに笑いながら手を振られたので振り返しておきましょうね。うへへ、魔法使いショタとか堪りませんn嘘ですごめんなさい!睨まないでゼロさん!察知能力高すぎません?!
「確かに女神アルヘイラが魔女の願いを叶える以外、力を奪う方法はありません…。なぜそれが許されたのかも、私共にはわからぬことです。ですが、いま魔女は聖なる力を封じられています。そして大切なのはその力を封じたのは聖龍であり、封印には女神アルヘイラの力が働いているという事。」
「おやおや、確かに聖女殿の手には女神の封印が施されているようだね。」
「神聖力だけで作られた装飾だ、オラ達でも作れねぇど。」
宰相が割って入ると、ショタくんとドワーフさんが身を乗り出して私を見てきた。目に当ててるのなんだろ…?ショタ君はモノクルでドワーフさんは小さい望遠鏡に見えるけれど、謎に発光しているから魔法の鑑定グッズなのかな。二人ともテンションが上がってらっしゃって、興奮気味なのが可愛らしいですね!
「聖龍はその女が魔女であるとわかっていたのです!そして聖龍の訴えを聞いた女神アルヘイラは魔女を止める為に封印を託し、聖龍は死の間際に封印を施したのでしょう。」
一方見ても楽しくない宰相は、黙っているのをいいことに好き勝手いってくれちゃって。この野郎…。人の外見に難癖を付けるのはマナー違反だけれど、やっぱり宰相は人間じゃない。そこに存在しているのかわからないほど、ぼんやりと輪郭がぶれているような…見ている筈なのにピントが合わない感覚。宰相が私を見ていると感じるほど不快感が強くて立ちくらみがするのだ。でも、人間じゃない事をどうやって証明すればいい?
ぐぬぬ…、聖女審判には問題なく勝てて、私は無罪放免だろう。代わりに上がった問題は、私の神聖力が封印されていてそれが事実だってこと。デュオさんの見立てでは教皇程度まで神聖力が下がっているから、このままでは私、単純に職務が全うできない役立たたずになってしまう。各国のお偉いさんがいるこの場で、『聖女』の力が落ちていると知れて、しかも回復の目途が立っていないことも知られてる。コイツぁヤヴァイぞ
「最も高貴たる龍の我が名を出し騙ろうとは…随分威勢の良い魔人じゃのぉ。」
「…どちら様かな、お嬢さん。」
うんうん唸っている私の目の前に落ちた影。
「…ぅえッ?!ヴルム!?」
覚えのある声に視線を上げれば、黒髪金眼の美人が居た
「また随分珍しい生き物がおるな、リン。」
「わぁ、久しぶりだね!」
相変わらずのイケメン美女ですね!突然現れた一ヵ月ぶりの眼の保養に、少し身体が楽になった。さすが、美女は目から摂取するタイプの精神安定剤なんですね、わかります。目の前に現れたようにしか見えなかったけれど、実際そうだったのかゼロさんを初めみんなも驚いてる。
「お主は変わらず暢気よな…。番の苦労が見て取れるわい。」
「早々に辛辣!ゼロさんは肯くのやめよっか!」
半笑いで言うの止めたまえよ。きみ等いつの間に仲良しになったんだい?分かり合うような空気出しちゃってさ、仲間外れは良くないと思うよ!さびしい!というか、ほんとに何故ここに?お婿さん探しに行ったんじゃなかったっけ?私の疑問が余程わかり易かったのかはたまた声に出ていたのか、手すりに仁王立ちしているヴルムの視線が私から法廷内に移った
「我の話は後でな。…さて獣王、原初の森の番人、地下帝国の番人よ。我の存在を示せ。」
「…原初の森と共に生きるカルーが宣言する。かの者は黒龍である。」
「帝国の番人、ドヴィーが請う。地下帝国の繁栄を約束せし黒龍に栄光を。」
「獣王国ルーカが国王、エルク・アルトゥミラが誓う。…こいつは間違いなく、黒龍ヴルムだ。」
激しくなるどよめきと好奇の視線に気分がいいのか、ヴルムがふんぞり返っていらっしゃる。ええ…きゃわ…。よく考えたらヴルムの本体というか、黒龍の身体は大きすぎて法廷内に納まらないもんね。だから人型で来たのか。なるほろ!そんでもって、今の会話で獣王にエルフ代表とドワーフ代表がヴルムの後ろ盾に着いたのがわかった。協定でも結んでるのかな?
「黒龍…?聖龍に次ぐ最強の龍じゃないか…ッ!」
不機嫌を隠しもせず私を睨みつけていたベイルートくんの眼が、興奮でキラキラ輝いている。うん、眉間に皺を寄せるより王子様然としていていいと思う!いや王様だけどさ。ヴルムの登場に沸き立っているのはベイルートくんだけじゃなくて、鹿の巨人…獣王さまの護衛をしている騎士さん達もだった。やっぱり最強っていうのに憧れがあるのかな。
「ふふふ、それで?何故黒龍殿がこんな所に居るのだね。まぁ、やり取りから察するに聖女殿と旧知のようだが。」
「我はこれに恩があってな。サウィンに頼まれたのだ。」
「えッ!」
「サウィンとは誰だね?」
「リンと契約している妖精だ。」
「ほぉ…、」
「ヒェッ!」
ヴルムからサウィンの名前が出てくると思わなくて驚いていたら、ニタリと笑うショタくんから身の危険を感じてビクリンコしてしまった。ドキッ☆これが恋?!な展開じゃなく完全に寒気で鳥肌である。
「リンちゃんは妖精王とも契約してるんだよぉ~」
「この世界に個人情報保護法はないんか…ッ!」
ヴォイスさんから出た私の情報がショタくんの琴線に触れているようで、ショタくんは怪しく笑いながらほうほうほうほう…と顎を擦っている。や、やめるんだ私に興味を向けるんじゃない。ヴォイスさんだって解剖予告染みていたのに、ショタくんに至っては監禁されそうな予感がする
「我は黒龍。だがつい最近までは聖龍として生きていてな…そこの聖女、リンに解放され、今は自由に空を食む黒龍に戻ったのだ。」
「なん、だと…?」
私とショタくんの睨み合いをヴォイスさんが楽しそうに観戦している横で、ヴルムの爆弾発言に法廷内がそれこそ爆弾を落とされた勢いで騒がしくなった。私の行動を追いかけたり監視をしていたようだけれど、流石にダズと愉快な仲間たちが張っていた時計塔には近づけなかったのかな。隠密スキルてんこ盛り集団らしいからなぁ。
「証拠などいらないだろう。何故なら我は尊き黒龍。貴様ら人族を生かすも殺すも我の手の上なのだから。」
「…それは困りましたな。いくら黒龍といえど、ここは人間の法の場です。」
機嫌良く俺様なに様黒龍様な発言をしたヴルムに、宰相が食ってかかっている。それに一瞬怪訝な顔をしたヴルムが笑いだして、事態が一変した。
「ハハハハハッ!人間の法の場?魔人が人の真似をして、何を抜かしておるのだ。」
「…魔人?え、ちょっとストップヴルムさんや。」
聞きなれない単語の出現に脳内大混乱なう。ん、ちょっとまって聞き流してたけれど、ヴルム最初にも宰相に魔人って言ってた気がする。いやいやそうじゃない。なんだ魔人って。ピンクの強い奴のこと?阿保みたいに立ち尽くす私と違い、魔人の意味がわかる者達の動きは一瞬だった。
「…え、」
見えたのは、ゼロさんの背中。ゼロさんの前に立つヴルムが、宰相から飛んできた黒い槍のような塊を弾き飛ばしてる。獣王さまとドワーフさんを守るように立ち武器向けている騎士さん達。ショタくんの前にはヴォイスさんが立って、魔法なのか透明な膜に包まれているのが見える。いつの間にかコールの王様の前にはダズとダズの部下さん達がいた。
「…聞き間違いかと思ったんじゃがのぉ。黒龍様が仰るのなら、間違いあるまい。」
「え、え、ウォンカ翁?」
証言台に居たはずのゼロさんが、宰相の視線を遮る様に私の前に居て。同じく証言台に居たウォンカ翁が私の隣にいた。支えの杖を振ると進行役をしていたアルゼンさんも、アイリちゃんも私の隣に突然現れて、え、瞬間移動?ワープ?ウォンカ翁が抱きかかえるアイリちゃんは、まるで眠っている様に動かない。
「リン。俺から離れるなよ。」
「ッハイ!」
サウィンから話しを聞いて、ララァさんがアイリちゃんの事を教えてくれた時、宰相が人間じゃないとおもった。聖女の勘は外れない。今それが、目の前で証明されていく。
「ああ、本当に、面倒なことを…。」
ただ、煩わしい。宰相のそんな呟きは、もう先ほどまでの意地の悪い老人の声じゃなかった。ざわざわと鳥肌が立つ。警戒されていることも意に介さず、パチン、と指を鳴らすと宰相が掻き消えた。
「そんなにご心配いただかなくても、まだ何もしませんよ?」
含み笑う声に目を向ければ、ベイルートくんの隣に立つ宰相だった者。その姿がメキメキと音を立てて形を変えていく。骨の軋み折れる音、皮膚の裂ける音。怖気立つそれらに耳を塞ぐことも瞬きも忘れて。
「このガワは器としては上出来ですが、如何せん美しさにかけますからね。」
黒い肌、赤い瞳、白い髪。腰の曲がった老人の姿はなく、現れたのは異形の美しさを持つ人型のなにかだった。
「相変わらず酷い悪臭だのぉ。」
「それはこちらのセリフです。あの女の甘ったるい匂いをさせて…、鼻が曲がりそうです。」
ヴルムと会話しながら、どこからか取り出したハンカチで鼻を押さえる魔人に、魔人が話す度に、何故かわからないけれど冷や汗が出る。
「ああ、そんなに可愛らしく怯えないでください。貴女はあの女を殺す前の口直しですから。」
横に割けた瞳孔に二コリ、と笑いかけられ放たれた音が、わからない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「リン!?」
「はぁ、ッは、…ぅ゛え゛、」
「可哀想に。貴女もあの女の遊びに巻き込まれたのでしょう?」
突然、シンジョウ様が折れ崩れるように倒れた。ロックス先輩が支えるのと同時に、吐き出された胃液がぼたぼたと床に飛び散り、頭が真っ白になった。
「シンジョウ様!」
シンジョウ様の下に飛び出しかけた自分より速く、ゴツ、と床を叩く音
「聖女よ、気をしっかりと持て。引き込まれるな。」
「は、ッぁ、はァッ、」
一瞬で構築された魔方陣と現れたペテロ様により持ち直したのか、深呼吸を繰り返しているシンジョウ様。飛び出しかけた身体を無理やり押さえる。自分がするべきはシンジョウ様を守ることでも癒すことでもない。それはロックス先輩とウォンカ様がなさって下さる。
「リン、リン!俺がわかるか?!」
「あ、ぅ゛…ッ、」
「恐らく魔人の精神支配であろう。我らで解くことは叶わんが…ウォンカ、そのまま回復魔法を。遮断はこちらで対処する。少しはましになるはずだ。」
「ロックス、呼び掛け続けるのじゃ。精神支配であれば聖女様自ら解かねばならん。」
シンジョウ様の異変だけじゃない。ダルムシュタッド様の周りで今まで審判中に騒いでいた貴族達も、魔人に変わったブルーガの隣で玉座に座っているベイルート様も、糸の切れた操り人形のようにだらりと四肢を投げ出し座っていて微動だにしていなかった。
「ブルーガ様、こちらを。」
「おや、気が利きますね。」
動いているのはそれ以外、ライハ国外の者達。それから、玉座の後ろの空間が歪む様に揺れて現れた黄の教皇ゴルドラ・G・ドール。ゴルドラから受け取った指輪をはめ、指を鳴らすと空中に無数の黒い槍が現れた。
「少しだけ、遊びましょうか。」
すい、と指先がこちらへ向く。瞬間、反応できるギリギリの速度で槍が飛んでくる。獣王の護衛役の自分、そして騎士達がそれらを叩き落すと槍は霧になって消えた。
「おやおや、魔人なんて御伽噺の住人が現れるなんてね。」
「僕の魔眼で感知できないとか、ずるくなぁい?」
「おい、帝国の番人。アレは魔人で間違いないな。」
多重の魔法障壁を張って槍を防いでいるエレシュの会話がこちらに聞こえてくる。カルーと名乗っていたエルフの声は、自分の側に浮いている小さな光の玉から発せられていた。
「ああ、間違いねぇ。まンだ生まれたてみてぇだけんどなぁ。」
「チッ、これだから人間は…。」
「そっだらこと言ってる場合じゃなかんべぇ?」
ドワーフのドヴィー様がゴソゴソと腰のポーチを漁ると丸い物体を、ポイ、と宰相…魔人に向かって投げつけた。え、なん、何してんですか?!避けることもしない魔人にそれがぶつかると、バン!と大きな音を立てて弾けた。
「へぇ、面白い玩具ですね。神聖力の檻ですか…、」
「んだ。お前さんにゃ子供だましだろっけどな。」
魔人の周りを囲う様に光の壁が出来上がり、コン、と壁を叩くと肉が焦げる音が響く。見れば魔人の指が焼けただれていた。
「問題ない。ロウェル、撤退する。」
「おやおや、仕方がないな。」
「獣王、オラ達も撤退すンべ。聖女があれじゃぁ死んじまうど」
あれ、と視線を向ける先のシンジョウ様は青白い顔に涙をにじませ、頭を押さえて蹲って震えていて。
「シンジョウ様…ッ、」
「聖女ってのは、精神支配も破れねェのか…随分脆いんだな。ドヴィーあれ等を回収する。聖女に死なれちゃ困るからな。」
期待外れだ。つまらない。言外にそう含ませて落胆したように呟く獣王に、貴族と避難民たちが、重なって見えて…あんまりじゃ、ないか?シンジョウ様は、この世界の人間じゃない。勝手に呼ばれて、聖女にされて、今までの生活を全部捨ててここへ来たんだぞ?殴られて、罵られて、辛いことの方が多かったはずだ。それでも自分達の為に、ロックス先輩とここで生きるって、そんなシンジョウ様のことも何も知らない奴が、そんな奴等が!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…ッうるっせえええ!!!!」
絶叫、なう。
もうね、リンさんはお怒りですよ。魔人のグロ変身にあっけに取られていたら、二日酔いとインフルエンザのダブルアタックみたいな頭痛と吐き気に襲われてね?つらたんでぴえんなのに、ずっと頭の中でゴチャゴチャ話しかけられてるというか、独り言?愚痴?みたいなの話されてさ。
「人の頭の中でキャンキャン吠えてんじゃねぇッ!!」
アルヘイラは性悪だとか、歴代聖女を悪戯に試して結果的に殺してるからお前もそうなるぞとか、だから自分たちの仲間になれとかだまらっしゃい。アルたんの性格がヤバいのはもう知っとるんだわこちとら。それでも、
「私は私の幸せのためにここに立つって決めたんだッ!外野は黙ってろッ!!」
もうね、私だってわかってるんだよ。可愛らしいヒロインになることは出来ないってさ。だからって異世界転移一発目に吐いた人間にまた嘔吐させるって…需要でもあるの?っていうかヤベェ叫んだから頭が揺れて咳が止まらな
「ッリン、」
「ぅゲホッ、ゴホッ!…わ゛ぁあ~ゼロさんだぁ~」
「大丈夫か?」
今日も好い声だね!ラビンユーッ!ってなんかお爺ちゃんに囲まれてるのはなんで?距離近くないかい?浮気??
「聖女よ、気分はどうだ。」
「ほぁ…ッ?どちらさま…?」
お爺ちゃん恰好が豪勢だね!シベリアの民族衣装みたいだね!んふふ、なんだか頭がふわふわするんじゃあ…。
「おやおや、聖女殿は回復魔法と精神支配で酔ってるみたいだね。」
「あッショタくん!流石ヴォイスさんの上司ですね!属性過多ありがとうございます!!」
「何を言ってるか全然わからないけれど、どういたしまして。」
上司じゃなくてエレシュの国王だよ。って教えてくれた!やさしい!やさしいせかい!はふはふしてたら儚い系イケメンの手がオン☆THE☆おでこ。
「やかましい聖女だな…。気付けだ、」
「お…、おぉ?」
パチン、ってシャボン玉が弾けるみたいな音がして、頭の中がスッキリなう。ついでに視界もクリアになって良く見える気がする!謎の力ありがとナス!
「残念ですね、もう解けてしまったのですか。」
ぞわぞわと産毛が逆立つような気配。でも最初よりは全然気持ち悪くならない。はて?なんでや。不思議に思って辺りを見回したら、答えはWEBより身近なヴルムだった。正確には、ヴルムとペテロさんが神聖力で弾いているらしく、足元の文様が白く輝いて。
「なんだお前。さっきはびっくりしたけど、もうなんともないんだからな!」
嘘である。何アイツすごく気持ち悪い。身体の中の不快感が口からリバースしそう。でもここでか弱いムーブをかませるほど、私は若くないんじゃい!ということで、思いっきり踏ん反り返る所存。俺様なに様黒龍様という素晴らしいモデルもいますからね
「ふふ、先ほども言いましたが、まだ何もしませんよ。今日はご挨拶だけです。」
「挨拶にしては礼儀がなって無いんじゃないかい。」
「手厳しいですね。」
パチン、と魔人が指を鳴らすのと、ガン!ガキン!と硬い金属のぶつかる音が何度も響く。私の前にいたゼロさんがいつの間にか大剣を持っていて、弾き飛ばしたのか黒い塊が幾つも転がって塵のように消えていく。
「私はまだ生まれたばかりですから、人間の礼儀には疎いのです。代わりといっては何ですが、私が完成するまでの暇つぶしをプレゼントいたしますね。」
「う゛ッ、あ゛ぁあ゛!」
「アイリちゃん?!」
赤い瞳孔が横に割けると、ウォンカ様に抱きかかえられていたアイリちゃんが苦しそうに呻き出した。急いで顔にかかっているベールを取ると、首や手首に鎖の入れ墨のような跡が浮き出ていて…それらが少しずつ這い上がってきていた。
それから、と続ける魔人の横の空間がバリバリと音を立てて裂けた。意識のないベイルートくんと貴族たちが浮き上がり、ゴミでも捨てるかのように放り込まれてしまって…。
「呪いが心臓まで達したら死ぬ…。ありきたりですが、簡単に殺してもつまらないですから。」
「お前…ッ!」
「ふふふ、さぁお客様、お帰りはあちらです。」
心底楽しそうな笑い声。魔人が手を叩くとふわりと身体が浮いて、藻掻いても空を掻く。押し殺した悲鳴にあたりを見回せば私だけではなく、ウォンカ翁に王様たちまで抵抗できずに宙へ飛ばされていた。
「リン!」
ゼロさんにひかれて抱きとめられると、強風に世界が回り始めた。ひらひらと手を振る魔人が段々遠ざかって、風と共に城中のドアが開け放たれて押し出されていく。
「ッヴォイス!防御魔法!」
「やってるけど発動しないんだよぉ!」
「ふぅむ、あの魔人の力か我々の力不足か…、どちらだと思う?」
「あぁ?魔法なんざいらねェだろ。テメェ等、自力でどうにかしろ!」
「オラたちゃなんともねぇけんどよぉ。魔法使い達はまずかんべなぁ。」
「この速度で壁に叩きつけられれば、内臓が破裂するのぉ。」
「呑気!!」
ワンマンプレイにされる覚悟をしていたけれど、一纏めに吹き飛ばされているお陰で声が届く。魔法が使えないみたいでみんな原始的に大声だけど。というか、いつまでたっても地面に落ちないんですが?どう見積もっても地面から10メートルは離れてる…
「どこまで飛ばすつもりなんだろ?」
「…城はライハの中央にある。この速度で飛ぶなら、直ぐコールに入るぞ。」
時速80キロは超えてますね。なんて言っていたら、私を庇う様に抱き締めてるゼロさんからお返事が来た
「リン、来た方を向いてみよ。面白いものが見られるぞ。」
「え?……おッふ( ^ω^)」
次いで近くに居たヴルムに促されるまま、飛んできた方に視線を向けると…真っ暗闇が広がっていた。…え?突然のホラー展開とかついて行けないんですが?
「ぎゃぁなにあれ?!ペンタブラックのご親戚?!」
いま昼間なのに一切の光を反射してない。吹き飛ばされている私達を追いかけ舐める様に黒色がのびてきては辺りを飲み込んでいく。それを面白いって言い切るヴルムの神経どうなってるんだ
「というか魔人ってなんだ!あとアイリちゃんとベイルートくん大丈夫なの?!」
混乱して叫ぶ私にヴルムは待て、と制止をかけて。ゴウッと白い光が舞い上がったかと思うと、バチンと何かが弾かれた音がした。それから、遅れてやってくる浮遊感。
「ひゃぁあ!」
落ちる、落ちる!明らかに周りの木より高い場所からの落下、大怪我で済めば幸いのレベルじゃないか!せめてもの抵抗に、強く目を瞑って歯を食いしばった。
「リン、落ち着け。大丈夫だ。」
「…はぇ?」
いつまでも来ない衝撃に、そっと目を開いたら心配顔の男前に覗き込まれていたでござる。わぁ。ゼロさんヤッホー!
「ああありがとぉおおッ!ゼロさん達の身体能力が超人なの忘れてた…。」
今になってガタガタ震えて上手く立てない私を抱えたまま、一通り怪我がないか確認し終わったゼロさんがひょいひょいと小山を降りていく。…ん?小山?
「怪我はないな?」
「ヴルム!ありがとー!」
見上げた小山は元に戻ったヴルムでした。さっきの白いキラキラ、ヴルムが元に戻る時のエフェクトか!怪我はないんだぜ。って手を振ったら、ヴォイスさんやエルフさんにショタくんも獣の騎士さん達に抱えられて着地してた。




