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最高権力は『聖女』だから。

はるか昔、世界が今よりも魔力に溢れ渾沌としていた時代、霧散した魔力を神聖力に循環する力を持つ少女がいた。人々は少女に感謝し、女神アルヘイラの寵愛を受けた少女を『聖女』と呼んだ。聖女は各国へ出向き浄化を施す旅を始める。そんな聖女のもとに、一人の少女が現れる。曰く、自分こそが本物の聖女である。と


「これより聖女審判を始める…が、その前に。王族や要人の審議は本来『真贋』を持った青の教皇、ウォンカ・ぺルトスを中心とした合議審を行うが…。ライハ国王、ザクセン・ヴァイマル・ベイルートからの申し立てにより今回は特例として(わたくし)アルゼンが進行する。異論はないか。」


上位貴族や王族が裁判を執り行う際に使われる法廷。裁判長がいるはずの中央上段の席には誰もおらず、下段左の席にはどうやって持ち込んだのかライハ国王ベイルート様が玉座に座し、宰相のブルーガが控えている。対岸右の席には聖教国イレオの国王ペテロ・リヌス・アナクレトゥス様が座し、側仕えの者が控えていた


「いやはや、実に壮観だね。各国国王だけでなく、まさか日の下で大鹿に穴熊までお目にかかる日が来るとは。」


傍聴席で妖艶な男女を侍らせているのは魔法国家エレシュの国王、ロウェイン・ロウェル・ロウェリア様。今は幼い子供にしか見えないのだが、常時魔法で姿を変えているため性別年齢共に不詳なのだとか。侍らせている褐色の肌にアザレアの花のような髪色の女性は、おそらく大魔導師ヴォイス様だろう。腐れ縁だと先輩方が話していた特徴と一致している。一方の見覚えのない長身の男は顔の下半分を薄布で隠しているが、切れ長の翠の瞳や魔術文様の織り込まれた薄衣、何より人間よりはるかに長い耳がエルフであると言外に主張している。…マジで存在するんスね、エルフって


「ああ?引き籠りのテメェが言えた口かよ。隣のシラカンバに飼いならされてる家畜が。」


自分の中の子供心がソワソワ浮き足立つのをグッとこらえる間、対面の豪奢な布やクッションを敷き詰めた席で、人の2倍以上大きな身体を震わせて笑うのは獣王国ルーカの国王、エルク・アルトゥミラ様。自国の侍女達に自らを仰がせ酒や果物を持たせている。その隣で同じく酒を呷っているのは、ヘラジカの獣人であるエルク様の角ほどの身長の小男。屈強な体躯に蓄えられた髭を時折撫でつけながら、琥珀色の甘美を飲み干している彼はドワーフだろうか。長い髭と眉毛で顔がよくわからないけれど…。おとぎ話の登場人物たちに抑えた筈の興奮が擽られる。


「おやおや、実に手厳しいね。しかして我々は常に新しい魔法の可能性と発展を求めている。彼らとは利害の一致による同盟関係というやつさ。それは君達とて同じことだろう?」


「魔力の循環も儘ならねぇのにバカスカ魔法を使ってる、テメェ等イカレ頓痴気(トンチキ)共と一緒にすんじゃねェ。魔法の時代は終わりだ。俺達には元々備わっている力があんだろォが。己の拳こそが正義だ。」


「はてさて、実に話の通じない筋肉達磨だな。君達の武力とて万能ではないのだよ?ドワーフ君達の作る作品には敬意を表するがね、魔力炉の燃料がどこから来ているのかすらもわからなくなっているのなら、獣の君に脳筋という言葉を贈らざるを得ないな。」


「ああ゛?やんのかテメェ…」


「獣臭くてかなわんからね、吾輩が消臭してあげよう。なに、礼には及ばぬよ。」


殺気と呼ぶには生易しい程重い空気が法廷に立ち込め、両者の瞳はギラつきながらも顔は笑いあっている。すわ戦いの火蓋が切って落とされるかと身構えれば、パンパン、と軽く手を叩く音が聞こえ、その出所へ視線が集まった。両岸の龍虎の間、裁判官席の対岸に座るコール国王、ユレン・カスティーリョ・ダルムシュタッド様と側近。コール国王の周りのみ距離がとられ、護衛を挟んでライハ国の貴族…宰相側の人間の中でも高位貴族達が傍聴人として座っている。


「今は喧嘩をする時ではありませんよ。アルゼン殿が困っています。ご協力を。」


にっこりと笑うダルムシュタッド様に両者口を開きかけて逡巡し、しかし声を発することなく席へ着いた。それを見てほっと息をついたのは自分だけではない。ライハの城内に残っているのは黄の教皇と宰相側の人間。そしてそれに紛れる自分を含むダズビー先輩の部下。使用人のふりをしているだけで、黄の教皇側の人間はほぼ私兵だ。この法廷内で自国の国王を護る為に王と共に登城した騎士達。一定の距離を保ち控えている各国の騎士が両岸ズラリと並んでいる様は異様な空気を醸し出していて、両国国王が座る傍聴席にライハの貴族は蛻の殻だ。


「…ごほん、当初リン・シンジョウによる『聖女』の地位を利用した詐欺と王族侮辱罪等の立件として行われる予定であった裁判であるが、ライハ国以外の国王からの申し立てにより『聖女審判』を行うこととなった。」


「…余計なことを」


アルゼン殿の言葉に苦虫を嚙み潰しているベイルート様の唇が、音もなく動く。…読唇初心者の自分でもわかりやすく読めるのだから、さらに野生の聴力を持ち合わせたエルク様が膝を叩いて笑い出した。


「あたりめェだろ。百年ぶりの聖女サマだぜ?」


「正確には百と八十二年である。」


間髪入れずにペテロ様から飛んできた訂正に、こまけェ爺だな。とエルク様が鼻白んでいる。


「聖女はどの国の所有物でもねェんだよ。だからこそ()()()()の騙りだろうと確認しねェわけにいかねェだろ?万が一ここに()()()()の聖女がいるなら、恩を売って損はねェしなァ。」


「そもそも、こと聖女に関する全ては一国では決められぬと各国建国法の一項に記されておるだろうに。まぁ、ライハはまだ子供故今回は大目に見るが…。自国の法くらいは早々に頭に入れたまえよ。」


…エルク様とロウェイン様は本当は仲がよろしいのでは?と思うほどに息の合った意地の悪い顔でベイルート様を嘲笑し、それにベイルート様の舌打ちが飛んできた。


「…それではアイリ・カワイをここへ。」


アルゼン殿の合図で開かれた扉。ベイルート様側の扉から現れたのは、薄いベールを被った白いドレスの少女。背格好から恐らく少女である、と推測するしかないが…。顔を隠している聖女の姿に、他国の騎士たちから小さくもさざ波のように訝しむ声が上がる。


「静まれ!アイリは本来この場に来ることが難しいほど体調を崩しているのだ。それでも聖女を騙る魔女の罪を明らかにする為、気力を振り絞ってここへ立とうとしているのだぞ!?それ以上喚くのなら、他国の騎士であろうとこの場で…!」


「ベイルート様、なりませぬ。」


「なんだッ!」


玉座を跳ね上げる勢いで立ち上がり憤るベイルート様に、宰相がなにか耳打ちをすると辺りを睨みつけて舌打ちをしドカリと乱暴に座った。いくら自分でも、ベイルート様の言動が許されるものではないことはわかる。ピリピリとした殺気が獣王国側の騎士達から流れてくるんですが…、力こそ正義な国風だから血の気が多いんスよね…騒ぎの元である少女は微動だにせず、案内された席に座り俯いている。


「…リン・シンジョウを、ここへ。」


仕切りなおすようにアルゼン殿が声を張る。聖教国国王ペテロ様側の扉が開かれると、シンジョウ様が現れた。ウォンカ様から贈られた聖女様としてのドレスではなく、ピクニックにでも行くかのような簡素なドレスで。


「ほぉ?」


「……。」


「なるほどのぉ。」


物珍しそうにゆっくり辺りを見回しながら歩くシンジョウ様。を見て声を上げている国王達。特に獣王国側の騎士は動揺しているのか先ほどまでの殺気もどこへやら、聖女様だ…聖女…と小さくも興奮気味に騒めく声が聞こえてくる。


「おら、ウルセェぞ野郎共。静かにしねェか。」


聖女アイリの時とは比べ物にならない囁きをエルク様が窘める声に、反射的にシンジョウ様がエルク様を見てそのまま固まってしまった。いや、気持ちはわかりますよ。自分もロックス先輩と獣王国へ行ったときに驚きましたからね。獣人の中には2mを超える長身の人がざらにいますけど、エルク様はさらに倍は大きい。3mはある長身にヘラジカの獣人特有の1mを超す角まであるのだから、もはや巨人と小人である。


「ひょぇムグッ!」


硬直が解けたのと同時に自分で口を塞いだシンジョウ様に、エルク様も面白そうに笑っていて…あの、ロックス先輩エルク様に殺気飛ばさないで欲しいッス…。エルク様余計に喜んじゃうので…。そそくさと案内された席に立つシンジョウ様がもう一度ぐるりと法廷を見回した後、落ち着いたのかアルゼン殿に眼礼すると、気づいたアルゼン様も眼礼を返した。


「これより聖女審判を始める。創造神である女神アルヘイラの名のもとに、この法廷で発言する者は嘘偽りない答弁をすること。青の教皇、ウォンカ・ペルトス並びに元ライハ国騎士団長バルト・ゼ・ロックスは証言人として前へ。」


聖女審判とは、簡単に言えば聖女様を騙る偽物が現れたとき、または聖女様の力に疑惑がある場合に行われる審判だ。召喚術が当たり前のように行われていた時代から聖女様の偽物は頻繁に現れていたらしい。聖女様は魔力を神聖力に循環し、怪我や病気を治したり死者だって蘇生できるなんて言われていたから国民の人心掌握にはもってこいだ。見目の良い少女を攫って聖女に仕立てて金品を巻き上げる破落戸や、自ら聖女を騙って豪勢な暮らしをする詐欺師の女もいたという。


「まず、我々人間が聖女と只人を見分けるには『精霊眼』や『魔眼』など特別な瞳、もしくは鑑定の最上位スキル真贋が必要になる。今回審判にかけられる二人の女は、青の教皇ウォンカ・ペルトスの真贋により、少女アイリ・カワイを修道女。女人リン・シンジョウを大聖女と判定済みである。相違ないか。」


「女神、アルヘイラ様に誓いまして相違ございません。」


ウォンカ様が証言台で宣言すると、そうだろうな。とエルク様とドワーフと思われる御仁がうなずいている。対面、エルフであろう長身の御仁も小さくうなずいている。やはり、人間以外の人族は一目見れば本物が誰なのかがわかるようだ。こちら…獣人の騎士たちも頷きすぎて首が捥げそうなほどで…少し、安心した。シンジョウ様の味方が増えたことに。


「また、魔眼を有する大魔道師ヴォイス、精霊眼を有する紫の教皇デュヴァル・オルタンシア両名から、リン・シンジョウが大聖女で間違いないと証言があった。で、あれば。聖女審判の必要もなくリン・シンジョウを大聖女と認め判決を執るところであるが…。ライハ国国王であるザクセン・ヴァイマル・ベイルートより異議があり今回の聖女審判を執り行うに至った。代理人、ライハ国宰相ブルーガ。前へ。」


コツコツと杖を鳴らし3つ目の証言台に立つブルーガがシンジョウ様を一瞥して笑った。


「ライハ国宰相、ブルーガ。女神アルヘイラに誓い嘘偽りなき証言をお約束いたします。…さて、私はここにいる魔女を聖女アイリ様から聖なる力を奪った盗人として告発いたします。」


ブルーガの持つ杖がシンジョウ様に向く。


「…聖女リン・シンジョウ、異議があれば発言を許可する。」


「そうですね。身に覚えがありません。」


杖の先が向けられ驚くでも憤るでもなく淡々と返すシンジョウ様に一瞬ブルーガの眉間に皺が寄った。傍聴席の貴族達はシンジョウ様の態度に嫌悪感を向けているが、国王達からは奇異の目が向けられている。貴族達の雰囲気に気をよくしたのか、ブルーガは貴族達の座る傍聴席側へ向き直った。


「…皆様には私から謝罪しなければならないことがございます。この世界は女神アルヘイラに創られ魔法によって発展してきました。神聖力を魔法に変換することは皆さまご存じの通り、その魔法により生じる魔力が魔物を生み出すことも一般教養として知られております。魔物の存在が我々の生活を脅かしていることも、魔物を討つためには魔法か神聖力が必要でありこれでは負の連鎖か抜けられないということもご存じかと思います。ですが、魔力を神聖力へ循環する力を持つのはほんの一握りの選ばれた者のみ…。その僅かな選ばれし者も、国という大きな枠の中では余りにも…いえ、もちろん聖教国国王様ならびに教会の方々に落ち度等はございません。ですが現状、浄化は間に合わず魔物による被害は各国共に甚大であるといえます。」


悲痛な面持ちで語る宰相に、貴族達は時折大きく頷きながら聞き入っているようだ。遠回しにというには露骨に、教会への苦言も織り交ぜれば貴族達から思わずといった様子で声が上がっているが、完全な茶番だ。シンジョウ様を追い出してすぐ、ベイルート様は聖女アイリの為の集まりを何度も開いている。茶会に始まり夜会にパーティーにと、『聖女のお披露目会』をしていたのだから、ここに居る貴族は禁術のことなど毛ほども気に留めていない。


「我がライハ国は皆様方に比べれば小さな国ですが、創世記に遡れば魔王を打倒した勇者により建国された国…。そして王族は勇者様の血を引く一族なのです。たとえ禁忌であるとしても、民が苦しむ姿を傍観することはできませでした…。よって我が国ライハは禁術である聖女召喚を執り行うに至ったのです。罪に手を染める選択をしてしまったベイルート様ですが、全ては国民を思ってのこと…どうかご理解いただきたい。」


創世記神話は子供の絵本に取り上げられる寝物語だ。聖女様や聖龍、聖獣に勇者や魔王…女神様がこの世界を創ったとき、溢れる魔力をその身に宿した魔王がいて、その魔王を倒したとき世界は殆どの人間が死んでしまっていた。その人達を自分の命と存在をかけて聖なる祈りで生き返らせたのが聖女様で、だから聖女様はこの世界に生まれることが出来ないって話だ。魔王を倒した勇者は国を興した。それがライハ国の建国記の一ページ目。勇者の仲間もそれぞれ国を興していて、商人はコール、拳闘士はルーカ、魔法使いはエレシュ、神官がイレオだったはずだ。それから聖女様から受け取っていた聖物を五人の神官が教皇の証として受け継いでるとかなんとか。


「たとえどのような理由があろうとも、聖女召喚…いや、異世界人召喚の術は禁術である。私達の世界の為に、異世界の者を犠牲にすることはまかり通らぬ。」


「お言葉通り。ですが、我々の罪により齎された聖女様が生きることを、我々が止めることも通らぬはずです。」


呼んだものを、なかったことに…聖女を殺して消してしまうことなど、もうできないのだ。罪を負ってでも民のために聖女を欲したライハ。女神がそれに答えてライハに聖女を授けてくださった。その存在を、民はもう知っている。知ってしまった聖女の存在に頼らず死ねといわれて死ねるわけがない。聖女様なら助けてくださるはずだ…。貴族達の擁護の声が聞こえる。貴族達の言葉と、教会で助けた難民達の言葉が重なる虚しさに、上がりすぎた血が冷えるのを感じていた。


聖教国に対しての禁術使用の弁明に挟まれる、教会の神官や教皇への不信感の煽りと苦言。お前達の所為でもあるのだと、そして結果として聖女召喚に成功しているのだから大目に見ろと、そういう訴えなのだろう。申し訳ない、と謝罪の体を取りながらもその声に含み笑いの雰囲気を隠しきれないまま、ペテロ様へ頭を下げるブルーガ。それを見下すペテロ様の表情からは、何も読み取れない。


「さて、お話ししました通り、聖女召喚の術は本来異世界人召喚の術でございます。我々の願いを聞き届けた女神アルヘイラ様の慈悲により、二人の聖女様が選ばれました…。ただし、片方は欲深い魔女であったのです。」


法廷内の空気が自分の味方だと思っているのか、芝居がかった口振りのブルーガに魔女、とさされたシンジョウ様が首をかしげている。貴族席側から口汚い侮辱が飛んできているのに、意に介していないというか…シンジョウ様が平然となさっているのに、自分が憤るのも格好が悪い。ただ、吐き出した言葉の責任は後でとって貰うため、顔はバッチリ覚えた。


「聖女アイリ様はこの世界へ降り立つ前に、女神アルヘイラ様とお会いになりお話をしております。その際にこの女も同席していた。」


「間違いは?」


「ありません。」


あんまり覚えてないけど。と困り顔で付け足しているシンジョウ様にロックス先輩がなんとも言い難い目をしている。泥酔してましたもんね…。召喚時の酒瓶を抱えていたシンジョウ様を思い出した自分達と先輩は心が一つになっていただろう。少し和みかけた自分と違って、ブルーガがシンジョウ様を鼻で笑っている。


「聖女アイリ様を疎んだこの女は、こちらへ渡る瞬間アイリ様の聖女の力を奪ったのです。」


「してないよ。」


「それは絶対だと言い切れますかな?貴女はこちらへ渡ってきた際にひどく泥酔していた。世界を渡るにあたり女神アルヘイラから願い事を叶えていただく機会があったのなら、酒による短絡的思考で動くのも無理はないでしょう。」


「私は聖女になってしまったから、何も叶えてもらえなかったよ。」


「そのように嘘を重ねて庇護を願ったのですか?何も知らないか弱い乙女の振りをして、ライハの騎士団長を篭絡し味方につけたのでしょう!」


ブルーガの物言いに不快感を顕わにしていたシンジョウ様が、止まった。言われた言葉をかみ砕いているのか、ろうらく…?と初めて知った言葉を繰り返す子供のようになってしまわれている。三つの証言台の真ん中で叫んだブルーガに、ウォンカ様は笑いを堪えてロックス先輩を見ているし、先輩は片手で顔を抑えていてよくわからない。ちなみにエルク様達からも好奇の目で見られているので、居た堪れなそうではありますが自分的にはメッチャ面白いです。


「…ッハァ、異議あり。…私は聖女らしからぬという理由で聖女リンを打ち捨てたベイルート様へ意見した際に、ベイルート様から解雇されています。その後城外へ放り出された彼女を保護したのです。」


何とか持ち直した先輩が証言すると、この堅物が…。とウォンカ様からつまらなそうな声が聞こえて少し吹き出してしまった。嘘は言ってないけど本当のことはわざわざ言うことではないって事っスかね?先輩の様子が若干おかしかったことは、自分たちも気が付いてましたからね。


「ええ、思い返せば既に貴方の様子は可笑しかった…。騎士団長である貴方が召喚されたばかりの女にその様にすぐ気を許すなど…。強い神聖力に蝕まれて、魅了にでもかけられていたのでは?」


「ングッフ!…ン、んん゛、」


恋は盲目ですもんね!今度は思い切り噴き出してしまった自分と、同じタイミングで何か所かから押し殺すような笑い声が聞こえて、咳払いでごまかそうとしたのに顔がにやけてしまって取り繕うのが難し…ぎゃぁ!すみませんでした殺気飛ばさないでください先輩!!


「発言に気を付けたまえよ宰相殿。現在神聖力に魅了魔法と同じ効果はない。…ま、現段階ではだがね。」


笑いと殺気でモダついている自分をロウェイン様が愉快そうな目で見ているのに気が付いた。…いや、隣でヴォイス様も笑ってらっしゃるじゃないっスか。消音系の魔法でも使っているのか笑い声は聞こえないけれど、その分大笑いしているのが対面からでも見て取れる。ああ、ロックス先輩の額に青筋が見えるッス…。


「失礼いたしました。しかし、火を見るより明らかではありませんか?女神アルヘイラに誓って嘘無き証言を、元騎士団長バルト・ゼ・ロックス。貴方はリン・シンジョウと男女の関係ですね?」


そんなことはお構いなしに、一笑いを起こしたブルーガが続ける。神聖力に魅了効果なんて聞いたことはないけれど、おとぎ話に出てくる聖女様はいつだって権力者と恋に落ちていた。王族、騎士、神官。その最たる頂と生涯を共にする聖女様。でも、自分たちがシンジョウ様を気にかけているのは魅了なんてちんけなものじゃなくて、


「異議は?」


「…ありません。」


「ないよ。返せって言われても返さないからね!」


こういうところなんスよねぇ…。アルゼン様からの確認に言い辛そうにしていた先輩とは真逆に、「ゼロさんはもう私のだからな!」と胸を張って言い放っているシンジョウ様に、今度は先輩が固まってしまった。関係性を逆手にとって難癖をつけることなんて一般的によくある手口なのだから、シンジョウ様だって思い当っているはずなのに。堂々と言葉にするシンジョウ様に、気付けば顔が綻んでしまうのだ。


「…よくも恥ずかし気もなく証言しましたね。長く仕えていた忠臣ですから、ベイルート様は当然貴方の様子が可笑しい事にお気づきになられていました。しかし魔女に洗脳された者を戻す術を、我々は未だ見つけられておりません。」


「その女はお前だけでなく、お前の周りにいる男達にも同じように言い寄っているのだろう。例えば、紫の教皇デュヴァル・オルタンシアも、その魔女に魅了されていると聞いた。」


先輩を揺さぶりたいのか仲間割れを狙っているのか、ブルーガとベイルート様の発言に貴族連中がまた騒ぎ出す。貞淑さがない、言動に品がない、まるで娼婦のようだ…、聞かせるつもりの小声なのだろうそれらは、


「わぁ。語弊なのにしっくりくる言い回しが思いつかない。」


私は彼の推しですって、何て言えば通じるんだ…?と謎の単語を口にするシンジョウ様は全く意に介していない。ただ、自分たちがお前等の顔をしっかり覚えておきますんで。


「教皇の中で最も戦闘能力を有する紫の教皇、そしてバルト・ゼ・ロックスの後ろ盾であるウォンカ・ペルトスは民の支持が厚い。彼等が味方になればもはや聖教国は魔女の手に落ちたも同然でしょう。奪った力であろうとも聖なる力には変わりはありませんしね。」


「口を慎め。」


「失礼いたしました、聖教国国王陛下。」


ブルーガは戦争がしたいのかもしれない。そういったのはダズビー先輩だ。自分に都合のいい使用人や貴族以外全員を解雇し、城から追い出した。代わりに招き入れたのはブルーガの私兵と黄の教皇ゴルドラ・G・ドール。そしてゴルドラの神官達に集めた破落戸ども。どう考えても城の維持ができない。それなのに新しく雇い入れたのは若く何も知らない使用人。短期間の間にも入れ替わりが激しく、出入りした人間を照会するのに骨が折れた。


「…つまり、この魔女は女神アルヘイラに願い聖女の力を自分だけのものにし、手始めに聖教国を自らの手中に入れました。恐らく次は魔法国家…、いえ、人族かもしれませんな。」


城に残っていた中立派も何も知らない使用人たちも、この法廷に残っているブルーガ側の貴族以外全員暇を出した。可笑しいと思うはずだ。突然使用人や貴族がいなくなるのだから。そんなことがあれば国が国でなくなるのだから。自分達の領地がなくなれば、生活ができなくなるのだから。それでも何も問題はないといわんばかりにブルーガは笑っている。気が付かないはずがない全てに眼をつぶって、何を考えているんだ?


ブルーガの言葉に煽られた貴族が煩く喚いている。力は本来あるべき場所へ返すべきだと。そして罰を受けるべきではないかと。アルゼン殿の木槌がそれらを黙らせる。


「聖女アイリの聖なる力を聖女リンが奪ったものだと、それを証明することは可能か?」


「いいえ、ですがこの魔女の行動は歴代聖女とは程遠い!さらに教会は魔女の手に落ちているのは事実でしょう。」


当然の質問に、わざとらしく興奮した様子でブルーガが返せば、アルゼン殿の眉間にしわが寄る。


「貴殿の言う通り行動から鑑みるのであれば、聖女リンは教皇との顔合わせの際に女神アルヘイラを降臨させ能力を示している。教会が聖女を支持するのは当然であろう。また、ライハ国内のダンジョンを鎮静化し、隣国コール国内のダンジョンにおいてはギルドの調節を重ね有用化に貢献している。その後聖龍の暴走を止め、ライハ国内において国民の救助も行っているようだが?」


「それは本来であれば聖女アイリ様が成していたこと。それをその魔女は奪った力をひけらかし能力を誇示しているのです。」


「…宰相ブルーガ。この法廷は『聖女審判』の場である。審議するべきはただ一つ。聖女が聖女たる力を持ち得ているかどうか、だ。聖女リンは間違いなく神聖力を有し、聖女として功績をあげている。そこに疑いの余地はない。」


そう、これは聖女審判だ。ブルーガの証言は聖女審判として何の意味もない。聖女自身が何を思いどんな法を犯そうが、聖女が聖女であるならばたとえ気まぐれに国一つ滅ぼそうとも何も問題はない。それがサスラちゃんを通してダンから教えられた、『聖女』だ。





出すタイミングがなさそうだから、頑張ってみんなの名前を出したけれど名前を覚えられる気がしないよ!そろそろお城からグッバイしたい。早くヴルム呼ばなきゃ。


誤字脱字報告ありがとうございます。鈍足更新にいいねしてくださる方もありがとうございます。結婚しよ。

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