表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/46

つまりそれが大人ってことさ。

「本日はお日柄もよく。」


なんて、仲人する気はないけどさ。宿屋の一室でも、お風呂付きだとその辺の店よりも一室が豪華で助かる。このために今回は二部屋借りてるしね。


右手にはこの世界の創造主と言われる唯一神、女神・アルヘイラ。左手に見えますは妖精王・マリリン。そんでもってお誕生日席に陣取っている私の愉快な三人でお送りします。


「いやぁ、女子会だよね。実質。」


結構気合入れて準備したから、良かったら食べてね。と言いながら、ゼロさんと食べ歩きした中で美味しかったものを集めて、今日のお茶菓子とした。


「ふふ、まさかこんなに早く呼ばれるとは思わなかったわぁ。」


豊満な身体を惜しげもなく晒しているアルヘイラ。重量級の胸がティーテーブルの上に乗っていて、余計に迫力が増している。圧がすごい。


「アタシだってそうよ?アルたんがいるなんて…、知ってたらもっとめかし込んできたのにぃ!」


気が利かないんだからぁ!とアヒル口で苦言を表してくるまるで月の彫刻の様な色男に、苦笑いしか出てこない。


「ごめんねマリリン。気が回らなくて。」


「ふふ、マリリンはそのままで十分美人なんだから、気にしなくてもいいのにねぇ。」


「あらぁ、そんなこと言ったって、何も出ないわよ?」


ストレスで口から血を吐きそうな私を横目に、楽しそうに褒め合ってはいちゃついている二人を見ていると、無性にゼロさんに会いたくなってきた。…ああ、早く終わらせたい。


「じゃあ、さっさと本題に入ろうか。」


肩をすくめて、落とす。私の声がけに、マリリンは訝しげに。アルヘイラはにんまりと愉しそうに笑っている。うーん。この。


「アルたんは見ていたからわかっているだろうけれど、この世界の人間が強すぎる。いずれ私も強くなるのかも知れないが、現状、すぐに解決し安心できるような手段が無い。常に命が危機にさらされている感覚に、精神的苦痛を感じている。…歴代聖女の死因の1つは、これか?」


現在の状況と主観を、なるべく簡潔に伝えると、アルヘイラはうんうん肯いて。艶々の唇を開くと、


「ええ。…思ったより、聖女って脆いのねぇ。最初は意味がわからなかったわ。あの子…アイリのように、喚ばれたことに喜んで、図々しく命令してきたから、全部叶えてあげたのに。」


理解できない。と言わんばかりに、悩ましげな吐息を漏らした。向かいのマリリンは、思う所があるのか。遠くを見つめて、動かない。


「逆ハーレムって言うんだったかしらぁ?どの子も随分喜んでてね。凄く良い子達だったのよ。王族や貴族と結婚する子が多かったわぁ。まぁ、余り長くは持たなかったけれど。」


白魚のような指を唇に宛がい、肩を竦めるアルヘイラに、悪寒がする。


「脆弱な精神に、弱い身体。魔力も神聖力も無い世界から喚んでいる分、利点もあるのよ?ぜぇんぶ素通りさせられるの。取り付けるのが楽なのよね。」


「ああ、なるほど。聖女の力は外付けタイプの濾過フィルターなのか。」


乾いた笑いと共に吐き出されたのは、精神をぎりぎり保つための、軽口。ああ、人間如きが神をはかれるわけが無いのに。


彼女にとってこの世界は水槽の中。本格的なアクアリウムか、自然任せのため池かは知らないが…。アクアリウムに近いのかな。汚れた水は、見た目に悪く臭いもでる。対策するには、濾過フィルターを入れるのがまず手っ取り早いだろう。あとは、水槽を綺麗にするための生き物。


「マリリンは、プレコやヌマエビなんだね。アルたんの水槽を、管理して護ってる。だから、私が水槽から脱走を図ったり、壊そうとすれば、殺しに来るのか。」


はぁ、と、溜息が出るのは許して欲しい。訝しげに私を見ていたマリリンは、剣呑だった目に哀れみを乗せて、こちらを見ている。


「やぁん、そんなに悩む事なんて無いじゃない。持て囃される力、素敵な恋人。御伽噺のような世界。後は楽しむだけ、でしょう?」


眉根を下げて、一体何がそんなに気に触るのか。と、世の男性が見たら全ての憂いを取り除いてあげたくなるような、悩ましげな表情で、小首を傾げている。


…マリリンが、人に馴れて人に寄った思考だと思ったのは、これまで何人もの聖女や異世界人を殺してきたからだろう。監視し、行動を読み、思考を探って、必要があれば殺した。…その境を、見極め理解しようとして、人に寄ったのかも知れない。


でなければ、こんなに悲痛な、苦しそうな顔で、私を見たりしないだろう。


「そうだね。…楽しむために、私だけの力が欲しい。誰にも奪われず、私の言うことしか聞かず、何よりも強い力が。」


ふ、と自嘲気味に出た笑いは、諦めなんかじゃ無い。神なんて、理解しようと思うのが烏滸がましいのだ。


「さっきもいったが、この世界の人間は強すぎる。対して私は塵芥のように弱い。このままでは、悪漢に捕まったら最後、私はすぐに死ぬぞ。」


それだけは、アルヘイラにとって不都合だろう?なんせ濾過フィルター(聖女)は簡単に手に入らない。折角手にかけて育てた水槽が、汚く臭く澱んでいくのは本意では無いはずだ。…たとえ、この世界自体が只の暇潰しの1つかも知れなくとも。


「それは、困るわねぇ。リンはもう、わかっているみたいだけど…。昔ね、あんまりすぐに聖女が死んじゃうから、創ったのよ。『聖女限定断罪履行生物』そうしたら、世界の半分くらい死んじゃって。悲しかったわぁ。」


やっぱり、そういう流れか。まるで他人事の様な軽さで瞳を揺らすアルヘイラに、引き結んだ唇を、思わず強く咬んでしまって我に返る。眉間に寄った皺を、頭痛と共に揉みほぐして溜息をついた。


平凡な異世界人の大半は、武器なんて扱えない。剣道や柔道、弓道なんかは経験者がいるだろうが、それをピンポイントで引き当てるのも、中々無い。


つまり、聖女限定断罪履行生物は、聖女の感情を汲み取り、自動で動く。操作の必要が無いからこそ『生物』の形なのだろう。


そして、私以外の命令は聞かない。ロボットのように私だけを認証して指示に従う、『聖女限定』。『非有機(ロボット)生命体』…生命体なら、感情はあるんだろうか。もしくは、AIのように、全てが計算されたプログラムで、人間が勝手に『生命』と判断しているのか。…いや、これは一先ず置いておこう。呼び出せばわかる話だ。


聖女が相手を悪と捉え、生命の危機を感じたとき、その力を振るう。それはつまり、アルヘイラにとって水槽(世界)を保つために存在する濾過フィルター(聖女)を壊そうとした罰。『断罪履行』とはそういう話だな。


何度も言うが、この世界の人間は強すぎる。聖女を護ることが出来なければならないなら、『聖女限定断罪履行生物』は、悪漢に後れをとったとしても間に合うほど、瞬間的に殺傷能力の高い攻撃を放つ事が出来るのだろう。そう、例え殺すことが聖女の本意でなくても、聖女が震え、怯え、死を覚悟する瞬間には、相手を死に至らしめる正確さで。


「世界が半分死んだのは、聖女が錯乱したからか。」


「ええ。精神が耐えきれなかったのよ。当たり前ね。今まで人を叩いたことすらない女の子が、人を殺したのだから。」


苦しそうに吐き出したマリリンは、その女の子と仲が良かったんだろうか。悲しそうで、泣き出しそうで、キツく組まれた手が、震えている。


「皆怖くて、誰も信じられなくて、部屋で怯えて、閉じこもっていたわ。何とか外に出そうと思って、息抜きにお喋りに行っていたの。アタシに慣れてくれた頃にはね、本当は明るくて、可愛らしく笑う子だっって知ったのよ。」


あの子が怖がるから、この話し方が癖になっちゃったんだけど。と、懐かしそうに笑うマリリンは、それでも辛そうに言葉をきって。


「そうよぉ。部屋に居られたら、浄化が進まないでしょう?だからね、創ったの。その子の為に、彼女の望み通りの、彼女のためだけの武器を。」


頑張ったんだからぁ!と、褒めて欲しそうに胸を張るアルヘイラに、吐き気が上がってくる。それを無理矢理飲み込んで、さすがだね、と笑った。


「まぁ、死んじゃったけどねぇ。マリリンの頼みだから、頑張って干渉までしたのに…。」


ぷぅ、と頬を膨らませて、拗ねたようにマリリンを見るアルヘイラ。見つめられたマリリンも、ごめんなさいね、と言ってのけて。


「仕方ないわ。私も、異世界人が脆弱なのはわかったし。だから、ちゃんと選ぶことにしたの。年齢は、変化を受け入られる、10歳から30歳。性別は、環境に適応しやすい雌。それ以外の異世界人は、死なない程度に力をあげて、いずれ適応する聖女が現れたときに、住みやすい世界に変える様、言付けて送り出したの。チートだっていって喜んでたわぁ。」


善行を積んだかのように、晴れ晴れとした顔で言うアルヘイラ。…、ああ、神って奴は。


「それで、私の願いは…。聖物の生成許可は、聞き届けられるのかな?神様。」


丹田に力を入れて、余裕のある振りをする。虫螻にも、プライドというモノはあるのだ。頭を下げる相手くらい、選ぶさ。


「うーん、そうねぇ。リンなら、いいかしら。」


アルヘイラは、思わせぶりに微笑んで、こつ、と桜色の指先で、ティーテーブルを叩く。挙動一つ一つに、神経が張る。耳鳴りがする。喉が渇く。生きている音が、耳元で五月蠅く鳴り響いていた。


「理由を聞いても?」


こくり、と、ゆっくり紅茶を飲み込んで。潤したかった喉の渇きは、治まらないまま笑う。


「んふふ、()()()()所よ。」


ぱちん、と飛ばされたウィンクに、寒気が走る。あぁあ、目的は達成したから、早くゼロさんに会って癒やされたい。


「マリリンは、いいの?私が力を持って。」


「…決めるのは、アルヘイラ様よ。アタシは従って、万が一を止めるだけ。…リンたんなら、そんな(殺す)必要は無いって、信じてるわ。」


きっと、その子の後にも、聖物を生んだ聖女は居たんだろう。相手を殺さなければならないほどの、恐怖に脅かされて。悪用する聖女は、マリリンが処理してしまっているだろうから、きっと普通の…、大切な人が傷付けば、壊れてしまうような、子達だったんだろう。


一体どんな目に遭ったのかなど、考えない。そこまで抱え込めない。私が錯乱したら、…ゼロさんが、止めてくれるのだろうか。もしくは、彼に何か起こってしまうのか。それはその時にならなければわからないことだ。


大きく息を吸って、大げさなくらい全力で吐いた。マリリンは、思っていたよりも苦労人だな。アルヘイラは想像通りで、逆に笑えて来る。


ああ、神なんて、頼るものではない。神は何もしない。己の為に存在しているのではない。驕るな。昂るな。神はそこにあるだけだ。自分の両の手に余るものなど、求めるべきではないのだ。


「信じないで。必要があれば殺して。自分で立っていられない私は、私ではない。」


きっとうまく笑えていることだろう。塵芥にも、矜持があるんだよ。今日の目標は達成された。ミッションコンプリート。お疲れさまでした。はぁああ。


「あああ、疲れた。早くゼロさんに会いたい。」


「うふふ、やっぱり!そうなると思ってたのよねぇ!どう?どう?幸せ感じてるかしら!」


「やぁだぁ~、そんなの野暮よアルたん!幸せに決まってんじゃない!ね、リンたん♡」


ティーテーブルに突っ伏して、思わず漏れた声に、全力でノッてくる女神と妖精王は、完全にコイバナ中の乙女で。うん、まぁ難しい話よりね。こっちのが楽しいよね。聖物生成の許可は取れたし、目下の心配はゼロさんへの説明と、聖物の確認だなぁ。


「コイバナする人~、挙手!」


「「はぁ~い!」」


やけくそに立ち上がって叫んだ私に、両手を上げて笑うアルたんとマリリンに、苦笑いしか出なかった。


まぁ、めっちゃ恋バナしてきたけどね!それとこれは別よ!だってこの世界にそんな話が出来る友達なんていないんだもん!ウルトラぼっち!



「ただいまゼロさぁあぁあん!!」


アルたんとマリリンが帰って、隣室に居たゼロさんに突撃する。


リン は、捨て身タックル を、くりだした!


「ああ、…用事は済んだのか?」


しかし、効果は今ひとつのようだ!普通に受け止められて、撫でられてるなう。折角だから、ここぞとばかりに甘えとこう。ここぞとばかりに!大切な事なので二回言いますた。


「すんだ。疲れた。褒めて!」


ぎゅうぎゅうに抱きつく迷惑千万野郎はだれだい?私だ!なんて、好き放題に言ったら、頭上からゼロさんの笑い声がして、撫でてくれていた手が、降りてきて。


「ん、」


「よく頑張ったな。」


片手で顔を持たれて。ちゅ、と触れるだけのキスをされた。…おお、これが大人の余裕って奴か。色気ヤバいですね!


「で?それは何をしているんだ。」


「ひだんしたから、ちりょうちゅう。」


何をしてきたかなんて、まだ知りもしないのに当然の様に甘やかされて。しかもやり方が斜め上だったので、恥ずかしくなったのですじゃ。おぁあ、顔熱い。ぐいぐいゼロさんにおでこを押し付けてるけど、摩擦熱じゃないよ。わかってるよぃ。ゼロさんが笑いをこらえてるのか、ちょくちょく腹筋が揺れてらっしゃるから、余計に照れる。


「衛生兵は休暇中ですねぇ。」


お留守番させていたサスラはベッドの上から微動だにせず、…寝てる?最近よく寝てるなぁ。お昼寝の趣味に目覚めたのかな。もちもちしたいんだけど、起きるかなぁ。いや、ワンチャンいけるか?ゼロさんから離れて、そっとサスラに接近を試みようとしたら、


「あの、放してもらっていいかな?」


「無理だな。」


「近いちかいCHI・KA・Iッ!」


腰に手を回されて、楽しそうに膝に乗せられた。人の頬を撫でるんじゃない。じりじりお顔を近づけるんじゃぁない。いやね、よく乗せられるから、膝に乗るのは慣れてきた所はあるよ?でもお顔が近いのはまだ無理なんですよお兄さん。…聞いてる?


「ゼロさんお顔近いです。心臓に悪い。」


「どういう意味だ。」


「顔が良いの自覚して。」


一瞬悪い意味に受け取ったのか、ムっと不機嫌フェイスになったので訂正したら、逡巡して。


「リンの好みか?」


「ええ…、難しいこと聞いてきますね。」


人の造形に理想はありますが、二次元的な幻想であり現実じゃないです。思わず真顔で答えたら、なんだか残念な生き物を見るような目で見られた。…失礼な。


「同じ顔の別人なら興味ないですね。客観的な第三者目線として、ゼロさんは顔が良いと思います。」


「なるほど?…その割に過剰に反応するな。」


「客観的に見て顔が良いのに、そんな目で見られたらこうなります。」


意地悪そうに、甘さを乗せた目で見つめてくるゼロさんの口を、両手で塞ぐ。いや、他意はないよ?ほんとほんと。なんとなく予想が付くから塞いでるだけだし、ちょっと顔が熱いのもその所為だ。


「リン。」


「…もう喋るのダメ。禁止。」


私の理不尽な物言いに笑って、両手はゼロさんの手に納まってしまった。そのまま引き寄せられて、当たり前のように唇が重なって。確かに、喋ってはいないなぁなんて、ぼんやり考えていた。


「ちゅ、んん、…はぁ、」


ゼロさんとキスをするのも、その先も、すごく気持ちいいし嬉しいし…、幸せな感じがして好きだなぁ。私の手を掴むゼロさんの手に、力が籠って、腰を押さえていた手が、誘うように撫で擦って。


「…ッリン、してもい」


「あ、さっちゃんおはよう。」


見計らったかのように起きてくるあたり、解かっていてやってるんだろうなぁ。コロコロ転がってやってきたサスラに笑うと、ぽす、と私の足にぶつかってきて停止した。


「ッコイツ…!」


そのまま伸びをするように、私とゼロさんの間に割り込んできて。ゼロさんが射殺さんばかりに睨んでいる。仕方がないね、サスラが起きているなら出来ないルールですので。


「あ、忘れてた。ゼロさんにお知らせがあります。」


サスラを抱える私を降ろして、マリアナ海溝ばりに深いため息をついているゼロさんに声をかける。目が死んでるけど大丈夫かい?


「聖物生成許可が下りました。」


パンパカパーン!と、サスラを頭上に抱えながら言うと、こちらを向いたゼロさんのお顔が、それはそれは恐ろしい鬼に変化していった。…やっぱ怒られるかぁ。こっわ。今日が命日かも知れんな。


「どういう事か一から説明してもらおうか。」


「ヒョエッ」


地獄の窯の蓋が開く様な重低音で凄まれたでござる。むぎゅと抱きしめたサスラの形が、ひょうたんの様に変形して、思わず手放す。ご、ごめんサスラ。


自主的に正座した私の前に仁王立ちで立つゼロさんに、搔い摘んで事の次第を説明したら、盛大にため息をつかれた。今日はため息祭りですな!


「もしもの為に、必殺技が必要だと思わんかね!」


「確かに、今後を考えれば妥当な判断かもしれんが…。」


「そうだろうとも!なんせ私は神聖力しか使えないからな!選択肢などはなから無いのだ!」


ドヤ顔で胸を張ると、ゼロさんは何とも言えないような、煮え切らない…歯切れの悪いお返事で。ううん、やっぱり聖物の危険性が大きすぎるかな。しかし他に案も思いつかないし…。説得方法が思いつかずに眉間に皺が寄る私に、ゼロさんはどこか悲しそうな、寂しそうな顔をしていて。


「俺では、…頼りに、ならないと言われているようで…。すまん、何でもない。」


ぽつりと落とされた言葉に、鈍器で殴られたような衝撃が走った。ああ、馬鹿か私は。碌に説明もしないで、ただ甘えて、甘やかされて。こんな誠実さに欠けることを、するなんて。


バシンッ、と部屋に響いた音に、ダンジョンでの出来事を思い出していた。こんなことを繰り返すなんて、私の学習能力はいったいどこに行ってしまったんだろうか。痛む両頬に、構う暇などなく。まったく、恥ずかしいことこの上ない。驚いているゼロさんに、居住いを正して背筋を伸ばし顎を引く。


「私は、護られる()()なのは嫌だ。お飾りの聖女になりたいわけではない。助けを待つだけのお姫様になりたくない。護られるだけ護りたい。背中に庇われるより、隣に立ちたい。これは私の我が儘だ。甘えだ。何もできない弱い私が、口ばかり大きなことを宣って、醜態を晒している。…でもそれは、『今』の事。いずれ叶える。自分で、自分の力で貴方の隣に立つ。その為に、使える物をすべて使う。渡されたカードで惜しみなく、神も妖精王も使って、私は貴方と生きる。そう、決めた。…頼りになるゼロさんに、頼られたい。護りたい。その為に、まずは聖物が欲しかった。」


言い切って、ふと、不安になった。私の考えも決意も私のものだ。拒否されて、拒絶されても関係ない。それでも、やっぱり許されたい。


「ダメかな…、」


打って変わって、しおしおになる。気分が。だって、決意表明はずっと決めてた事を共有しただけだもんんんッ。ヤダって言われたら落ち込む…。なぜかマイナスな考えばかりが頭を巡って、しょんもり。悪戯に手を握ったり、開いたりしつつ、ゼロさんを見た。ら、


「どういう顔なんだいそれ…。」


赤面しているけど、嬉しそうな悔しそうな、眉間に皺が寄っていて何か耐えているけれど、手で隠しているお口の端が上がってらっしゃる。複雑そうなのはわかったよ。


「んん゛…、あー…。リンの考えは、わかった。」


「うん。」


暫く目線をうろつかせた後、首が痛い系男子にジョブチェンジしたゼロさんの頬は、まだほんのり赤い。


「…リンは、騎士に向いていると思うぞ。」


「突然の転職のススメ!?」


どういう事なの。そうなったらゼロさん上司?ジャンルが異世界恋愛から社内恋愛に路線変更されちゃうよ!


「元々、大人しく護らせてくれるとは思っていなかったが…。想像以上だな。」


「うーん、良い意味で?」


「ああ。…確かに、補いあえるならば、それが良い。」


ふ、と笑うゼロさんは、眩しそうに眼を細めて。ひょい、と持ち上げられた。


「正座からの解放!怒り治まった?許された?釈放?」


「お前は感情の起伏が激しすぎないか?」


「公私分けるタイプ!大人なので!…飽きが来ないってことにしてほしい。」


確かに見ていて飽きないな。とお墨付きを頂けたので、それをもってお説教解放宣言といたします!いえーい!


「あ、クラージュさんからお返し貰ったんだ。一緒に食べよう!」


沢山買ったお土産の一部を、クラージュさんとギル先生に渡したら、お菓子とかジュースを貰ったのだ。サスラを預かってもらったお礼だったけど、ギル先生のほくほく具合を見たら、お礼のお礼も納得できた。


さあ、悪い大人に許された、禁断のお夜食タイムだ。ちなみに何が禁断って、…カロリーだよ。ふ、と自嘲気味に笑いながら、ゼロさんに下ろされて、テーブルに飲み物やおやつを置いていく。


「これはクラージュさんおススメの品。こっちはギル先生が、面白いから食べてみてって。」


青や紫の木の実?や、ザクロの様な果物。メインは、甘くて美味しいジュース。さっぱりしてて、お菓子や肉料理、なんにでもあうんだって。いやぁ、許されてよかった。


…なんて、このジュースがジュースではなくお酒で、美味しくいただいた私がゼロさんに美味しく頂かれたのは、流石にクラージュさんに抗議できなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 美味しくいただかれちゃいましたか〜 仕方無い仕方無い(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ