可愛いだけじゃいられない。
「と、いう事で、『基礎知識』を手に入れた!」
パンパカパーン!ありがとう、そしてありがとう。座学は割と得意なんだぜ。ふふーん。講習は本当に簡単だった。簡単なモンスターの生態の説明に始まり、魔物の生息地帯とか、テイムのコツとか。どこから学んでも大丈夫で、全三回。だから三日で終わるってギル先生が言ってたんだね。
それより、皆知ってて当たり前っていう単語の方がわからなくて焦った。そもそもこの世界にある大陸とか、国が五つあるとか、国名とか、知らんがな。
『角兎はファルの実が好きです。ほら、アルテの特産の。』って講師が言って、皆がああ、あれね。ってなってる中、頭に疑問符飛ばしまくる私のアウェイ感よ。その辺はゼロさんに教えて貰って事なきを得たぜ。ふっふー!
その後、希望者は実地で簡単な説明付きの補講があるよ。と言われて、参加してきた。植物とか生き物は元の世界と大して変わらなかった。ただ、凶悪な角が生えて居たり、肉食動物になっていたりしたけれど。
「リンは覚えが良いな。」
「好きなことだけね!」
もっと褒めてくれて良いよ!とアピールしたら、ゼロさんに笑いながら頭撫でられたでござる。うむ。苦しゅうないぞ。
「後は試験だけれど、何やるんだろう?」
試験があるよーとは聞いたけれど、内容は知らされてない。毎年同じらしくて、はーい。って皆お返事して解散になってしまったのだ。
「戦闘か、調教成果の披露だよ。」
今日も仲良しだね。と、上階からギル先生が降りてきた。はい。ここ実はテイマーギルドの応接室でした。講習会終わったら、クラージュさんに呼び出されたのじゃよ。
「テイマーの半分以上は、冒険者としてモンスターを使役して戦闘させるか、魔物を繁殖させて牧場や運送業に卸したりしたりしてるんだよ。」
「あ、だからギルドに殆ど居ないんですか。」
今日もそうだけど、講習会にくる度、テイムされたモンスターが居ないなぁ…って思ってたんだよね。そりゃあそうか。毎日ご飯が食べられる職業に就こうとしたら、ブリーダーとか力仕事の代用とか、生き物に関するものになるよね。
「戦闘訓練は、魔物やモンスターをテイムした後に、自分でレベル上げや育成をしてるんだ。懐いているか、管理は良いか、命令は聞くか。そう言うところを見つつ、強さも評価されるよ。」
おお、ポ〇モンみたい。ふんふん頷きながら聞いていたら、クラージュさんが新しい紅茶をいれてくれた。ありがとうございます!
「調教成果の披露は、管理メインだね。毛艶、体格、従順さ。運送ギルドや貴族相手に卸すから、交配してレアリティを上げたりね。そういった言わば農耕・工業用やペット用に育成、調教が出来ているか見るんだよ。」
なるほど!業が深い…。いや、元の世界もそんなモノだけれどね。こう、ファンタジーのテイマーって、勝手なイメージで相棒!友達!家族!みたいな、ふわもふあまあま系だと思ってたよ。生活に根差してれば、そんなわけないわな。
「サスラはどっちだろう。戦闘かな?繁殖とかしないし。」
「うーん、調教でも良いんじゃないかな。レアリティは抜群だよね。管理状況は前例が無くて測りにくいし、従順さは…試してみようか?」
「ぁ、はい。サスラ、おいで。」
そうか、サスラは珍しいから、テイマーギルドの資料にあんまり情報が無いのかな。無いと採点基準作れないもんね。見つけられてもテイムできなかったとか、既に誰かの子だったとか。そんな理由で資料が無いのかな。
腕の中に飛び込んできたサスラと、ゼロさんと一緒に、ギル先生の案内で階下のホールみたいな所に来た。…地下、あったんか!何人かモンスターや魔物と戯れていたり戦わせたりしているのが見える。いや、地下にしては広いなここ。体育館二個分って感じだ。
「じゃあ、やってみようか。」
にっこにこのギル先生が取り出したのは、A4位の用紙にびっちり項目が書かれている紙束。所謂、チェックリスト。
「え、試験ってそんなに調べられるんですか?!」
いや、そりゃあ危険物取り扱いなんだから、万全に記すべきだけどさ、ちょっと驚く量だよね。
「あ、これかい?いやぁ、サスラは希少なホーリースライムだからね!折角機会があるなら活用しなきゃ!」
「わぁ、じゅんすいなひとみ。」
無理って言えない圧がある。いや、良いんですけどね。…良いんですけどね!絶対逃がさんぞって顔に書いてあるもん…。
「ゼロさん、時間かかりそうだから、自由行動で…。」
思わず遠い目になった私に、それでもやっぱり先生を止めることは難しいのか、無理はしないようにって激励されたでござる。うむ。最善を尽くそうでは無いか。
今後を考えれば、味方は多い方が良い。相手より上に立てる状況を、諍い無く作られるのもポイント高いしね。貸しって事で。
「頑張ろうね、サスラ。」
好成績だったら、今日は何時もより三倍は撫でてあげよう!なんて、喜ぶかはわからないけれど。ノリと勢いは大事だからね。心なしかサスラもぷるぷる震えて嬉しそう。
「じゃあ先ずは、名前を認識しているか。…これは問題ないね。次は他の者が呼んでも来るか。これは、譲渡があった場合、テイマー以外の指示も聞けるかって事なんだけれど…。」
ちら、とギル先生がサスラを見る。サスラも、おでこ(恐らく)についている核が先生に向いているので、じっと見つめ合っているみたいだ。
「サスラ、おいでー?」
満面の笑みで、サスラを呼ぶギル先生。おーっとサスラ、先生の笑顔を完全無視!ぷいっと横を向いてしまったァ!先生ショック!背後にガーン!と効果音が出ているかのような落ち込みぶりです!
「シンジョウ君、サスラに命令してくれる?」
そんなサスラに苦笑いしながらも、真剣な瞳で観察しているギル先生。溢れ出るプロ感。カッコイイ。
「はい。サスラ、ギル先生の所へ行って?」
私に声をかけられたのがわかったのか、そっぽを向いていたサスラは、私を見てからコクリ、と頷いてギル先生の元へぽんぽんと跳ねていって。
驚いてギル先生と顔を見合わせたよね。え、今頷いたよね。ってさ。
「シ、シンジョウ君、ええと、じゃあここ!ここでジャンプさせて、僕の周りを回って、シンジョウ君の所に戻るように言って!」
「ハイッ、サスラ!」
大興奮のまま、あれやこれやと指示を出した結果。なんとサスラ、何を言われているのか100パーセント理解してた。人名まで一度で。途中からゼロさんやクラージュさん、はじめましてなサブマスターに参加して貰って、名前を教えたら1発だった。
「凄いな…。スライムの知能じゃ無いよ。高ランクの魔物やモンスターと遜色ないだろう。」
何度もチェックリストを捲っては感嘆の声を上げるギル先生に、私のテンションは爆上がりだった。だってさ、普段は名前を呼んで抱っこするか、自由行動かご飯で呼ぶかしかしていない。
私が一方的に話しかけて、勝手にこう思ってるかなー?なんて、そんなコミュニケーションの取り方をしていたのに。実は全部伝わってた。
頷く上に判断と理解をここまでしっかりしていると思わなかったんだ。
…嬉しい。サスラの予想外の有能さも、ギル先生からの賞賛も。感極まって、サスラを褒め倒した。
「っ、サスラ流石!えらい!可愛い!天才!」
もうべた褒めである。いやいや、褒めるのは大事だよ。私も褒められるの大好きだもん。だからサスラも褒めたおすのだ。
「拾ったときから賢かったのに!更にこんなに賢くなっちゃって。このこの!」
もちぷにのお顔(?)に頬擦りすると、サスラはドッヤァという雰囲気で得意げにちょっと仰け反った。
「はぁ?可愛いんだが?」
思わず真顔でゼロさんに同意を求めちゃうよね。まぁ、同意がなくても可愛いで満場一致なんですが。ファンクラブがあったら私が会員№00だから。そこは譲らんよ。
「ふふ、これならサスラは調教成果でも問題なさそうだね。」
「マスター、サスラに限り、それは難しいかと…。」
ですよね!と、ギル先生とほっこり笑いあっていたら、まさかのクラージュさんからのダメ出しに、私とギル先生は顔を見合わせて首を傾げた。え、まさか。サスラに問題なんてないよ。…あれ、じゃあテイマー側に問題があるとかだろうか。
「サスラは希少なホーリースライム。調教で出て受かってしまうと、『繁殖・育成・販売』がメインの仕事です。サスラを繁殖させ儲けようと企む者が出ないとも限りません。問題は、万が一でも『簡単に手に入るグリーンスライムを、シンジョウさんがホーリースライムに変えられる。』と知られることです。」
「ああ、それは不味いね。『シンジョウ君のホーリースライム』の捕獲場所の特定なんて簡単だ。サスラに興奮しすぎて失念していたよ。すまないね、シンジョウ君。」
クラージュさんの言葉を聞いて、間髪入れずにギル先生に謝罪された。一瞬何のことですかね。と言いかけて、
「あああ、聖女の方が希少なのかッ!」
「うん。レアリティでいえばダントツにね。」
やっと思い当って頭を抱えて唸る。そんな私をみて、笑いながらギル先生は追い打ちをかけてくる。ううう、やっぱり問題があるのは、私の方であったか。無念…ッ!
「仕方ないですね…。調教ではなく戦闘で試験に挑むことにします…。」
「それがいいな。ホーリースライムは希少だが、金を積めば捕獲できないこともないし、存在も確認されている。リンは教会の出入りもあるからな。入手先としていくらでも偽装が効くだろう。…リンの安全以上に大事なことはない。」
そうだよね。安全第一、だ。私は誘拐・監禁・拷問なんかと相性最悪だ。なんせ回復しかできない弱者。…なにか、私も戦う術を探さないと、いけない。
想像しただけで立つ鳥肌に腕を摩ると、ゼロさんが隣に立って心配そうに覗き込んできた。…大丈夫ですよ。今、だいじょうぶになりました。
「うーん。それにしても戦闘かぁ。サスラ、戦えるのかな。こんなに可愛くて賢くて白くてもちプ二なんだよ?回復しかできないんだよ?戦うなんて可哀想だし心配だな。」
回復職って後衛だよね。皆に守られつつ、皆を癒してあげるっていう。実際サスラは回復しかできないのだし…。来週までに戦えるようになるかな。
「…リンがサスラをどう思っているのか、よくわかった。単刀直入に言うが、サスラは戦える。」
「ッえ゛?!…え、なんでゼロさんがそんなことご存じなんだい?」
初耳なんですが?!いつの間に二人(?)共そんなに仲良しになったの?突然の援護射撃に、つい訝しんでゼロさんを見てしまう。
「そ、れは、…んん゛ッ…置いておけ。ともかく、そいつは戦える。見ればわかる。サスラ、来い。」
…なんで照れてるんだい。はっ!さては本当は仲良くしたかったけれど、私に可愛がっているのがバレたら恥ずかしいからと、黙っていたな?それが今、周知されて恥ずかしいんだろう。ナイス名探偵!まったくそんな事気にしなくてもいいのに。
生暖かい目でゼロさんを見ていたら、ゼロさんに呼ばれたサスラは私の方を見て。もう一度ゼロさんを見た後、
ちゅう♡「んぅ?」
振り向いて、私の口に自分のお顔(多分)をくっつけてきた。…あれ、やっぱりちゅうされてるなこれ。気の所為じゃないな。可愛いからいいけ、ど?
「ぅわ、びっくりしたッ!ゼロさん殺気飛ばさないでピリピリする!」
生態行動なのかな?と考えていたら、パチッと、静電気の様なモノが肌を掠った。見れば激おこなゼロさんがでっかい剣を持って仁王立ちしていて。え、その状態でサスラと戦うの?!危ないよ?!
「え、え、サスラ行っちゃうの?大丈夫なの?」
私が指示を出していないのに、サスラはぽーんと腕から飛び降りて、跳ねながらゼロさんの元へ行ってしまった。
「普段からあんな感じかい?」
「ちゅうされたのは二回目ですね。というか大丈夫なんですかアレ…。」
そっとクラージュさんに促されて壁側に寄ると、ギル先生が隣に来た。なんだか楽し気に。うーん、そもそも、二人が仲良しなんて知らなかったんですよ。私だけ除け者で寂しい…。そう言うと、ギル先生はきょとんとした後にちょっと笑って。
「サスラは雄かもね。」
「え、無性体じゃないんですか?」
5メートルほどの距離を保って、ゼロさんと睨み合って動かないサスラに指を差す。スライムやぞ。性別あるスライムとかエロ同人でしか見たことないよ。
「性別というより、集団で行動しているスライムに見られる役割分担を、わかり易くそう呼んでるんだ。『雌役』のスライムは弱い個体やレベルの低い個体が多くて、エサを探したり、主に分裂を担当している。『雄役』のスライムは、レベルの高い戦える個体で、外敵から雌役や分裂したての仲間を守ってるんだよ。」
「なるほど。あ、じゃあサスラは私やゼロさんの事を仲間だって思って、くれて…、うん?自分より強い個体がいるのに、サスラが雄役?」
なんだかわからなくなってきて、ギル先生を見ると、ニコニコしながらサスラを見ている。
「サスラをロックスに嗾けただろう?サスラにとってロックスはシンジョウ君を狙う敵だ。サスラの中で、守る対象はシンジョウ君だけ。ご飯をくれるし、自分の方がシンジョウ君より強いから、雄役だと思ってる。」
「お、おおお…。ゼロさんカワイソス…。」
あんなに可愛いサスラに仲間外れにされたら、私なら泣く自信がある。可愛いは正義。というか、サスラの中でそんなことになっていたのか…。それはそれで可愛いくて良き。
「口付け…というより、個体同士の接触は本来、安心させる為の触れ合いや、ここは安心できる場所だから、分裂してもいいっていう合図なんだけれど…。サスラの知能を見る限り、ロックスを煽る為にやっている気がするなぁ。」
首を傾げつつも、楽しそうに話すギル先生。そういえば最初にちゅうしてきたとき、先にゼロさんが私にキス未遂をしていて。その時にはサスラの中で私は雌役だったから、護るためにゼロさんに体当たりをして、戻ってきてから安心させるために自分がちゅうしてきたのか。
「はぁあ…、サスラ尊…。カッコいい上に可愛いとはこれ如何に。」
ちょっとトゥンク…ッてなったわ。いや、サスラに庇護対象だと思われているのは、飼い主として複雑だけれどね。嬉しくないと言えば噓になる。めっちゃ嬉しい。完全に子を持つ親の気分だけれど。
「サスラ、頑張って!」
嬉しい事には変わりないし、ゼロさんよりサスラが危なそうだから、サスラを応援しよう。うむ。というか久しぶりに見たよその大剣。サスラに向けるなんてやりすぎじゃないのかな。少しオコな気分でゼロさんを見たら、
「ヒェッ!」
ビックー!と肩が跳ねた。こここ、こわッ!なんか背後にどす黒い物が渦巻いてる気がする。あと据わった目で睨まれた。…なんで?!
「サスラ、本気でこい。」
大きく息をついたゼロさんが、サスラにそういった瞬間、サスラがブレてその場から掻き消えた。
「え、」
消えた?と思った時には、ゴッ!!と大岩がコンクリートに落ちた様な音が響いて。驚いてゼロさんの方を見ると、大剣の面とサスラがぶつかりあって、バチバチと火花を散らしていた。
「えっえええ?!」
あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ。な…何を言っているのか以下略。
ゼロさんが大剣を振りぬく。すかさずサスラは後ろに跳び、ゴムボールの様に斜めに着地した勢いのまま、再度ゼロさんに突っ込んでいく。ゼロさんはその間に大剣を振り被り、サスラと剣がぶつかり合った瞬間、またバチバチと光り輝いて…。
「サスラの結界だね。レベルを考えれば、ロックスの攻撃も防げるか。」
「サスラのレベルって…、確か、67ですよね。ええと、普通のスライムが1から5で…、」
結界で衝突ダメージを防ぎ、闘牛の様にゼロさんに突っ込むサスラ。ぶつかり合うたびに轟音が響き、それがどれ程の威力なのかを物語っている。踏み込みの体勢で受け止めているゼロさんの足元の土が、盛り上がっている。サスラの攻撃に押されてるんだ。
「人にもレベルがあるんだよ。ちなみにロックスが最後に冒険者をしていた時で86だったかな?」
「え、上限ってどうなってるんですか?」
「レベル90でAランク、レベル100でSランクだよ。」
バゴォオン!!と一際大きな音がする。見れば、ゼロさんの大剣が地面を割っていた。アレ、ニンゲン?ニンゲン、ジメン、ワレル。ワタシ、オボエタ。…もう、私には遠い目で二人の戦いを見守る事しか、できぬ。サスラは殴り系ヒーラーだったんだね…。
「捕捉しますと、レベル65から74がCランク、レベル75から89はBランクになります。これはダンジョンモンスターを参照していますので、モンスターや魔物も同レベル帯になります。」
「冒険者の場合は、Aランクを超えると、強さだけじゃなくて『功績』が必要になってくるんだ。ダンジョン踏破、ダンジョンの発見や調査、要人依頼、スタンピードがあったときは招集に応じたりね。」
「なるほど…。」
そりゃあFランク…レベル1から変動していない私が最弱にもなりますわ。今あそこで戦っているのは、CランクとBランクなんですね。さっきから地面割ったり、見えない速さで拳や蹴りが飛んだり、サスラを見失ったりしているのは、レベルの低い人間視点では普通の事なんですね。お二人ともなんてこともないお顔ですもんね。
「…この世界で生きていく自信、なくなってきた…。」
ぽつりと、爆音に掻き消されて消えた私の呟きは、誰に届くこともなく。この世界の人達は強い。そんな人達に拉致監禁されたら、逃げられる気がしない…。うう、胃が痛い。なにか、私の武器になる物が欲しい。敵には使えなくて、私だけの必殺技の様な、そんな武器が。じゃないと、私は護られるばかりの、お荷物だ。
「お、決着つきそうですね。」
「…ッ。」
ぐるぐると、渦巻く不安と吐き気を無理矢理飲み込んで、前を向く。ちょうど、土煙に紛れて死角から飛び出したサスラを、ゼロさんが叩き落して。スーパーボールに負けない程高く跳ね上がったサスラを、ゼロさんが鷲掴みにして捕まえた。どうやら、ゼロさんの勝利で幕を閉じたらしい。
「…っ、怪我無い?大丈夫?」
薄ら汗を掻いて、息の上がっているゼロさんに駆け寄ると、びちびちと取れたての魚のようにサスラが藻掻いて。ポーンと腕の中に飛び込んできた。
「ふふ、サスラ、すごく強かったんだね。格好良かったよ。」
ちゅ、と額の核に口付ける。やっぱり私が飼い主だからか、結界に弾かれなかった。さっき安心させるために触れ合うって聞いていたから、サスラに合わせてみたけど、うん。凄いぷるぷる震えて嬉しそう。
「…リン、」
「あ、ゼロさん!サスラ強かったんだねぇ。教えてくれてありがとう!」
「…ああ。」
サスラの様子に笑っていたら、ゼロさんがなんだか不機嫌。ジト目で私をみて、サスラを見て…え、どうしたの?仲良しバレしたの、恥ずかしかった?
「ふふっ、」
「先生…、」
なにがツボに入ったのか、ギル先生は困惑している私と不機嫌なゼロさんを見て笑っている。それにたいして、ゼロさんは拗ねたように、苦言のようにギル先生を呼んでいるし。ギル先生に知られたのが恥ずかしかったのか。…確かに、学校の先生とか、友達との内緒話参加されたら恥ずかしいよね。うんうん。
「まぁ、これでサスラが良く命令を聞けて、戦闘ができると分かったんだから。よかったじゃないか。試験は三日後だからね。それまで観光でもしてきたらどうだい?」
ぱん、と仕切り直す様に手を叩いて、ギル先生が提案してくれた。ほぁあ!サスラの事ばかりで、ここが観光地なのすっかり忘れていた。何たる不覚。ええいええい!これからでも挽回は可能じゃ。そうであろう!
「観光忘れてたッ!ゼロさん、観光したいでござる。一緒にいこ?」
それともご用事があるかい?あるなら自由行動でもいいけれど…。折角だから話し相手がほしい。一緒にわちゃわちゃしようぜっ!トゥギャザーしようぜ!
「…ふ、わかった。」
仕方ないなぁ感、もう少し隠そう?あと、視線に甘さ乗せるのも自重しよっか。…心臓保たないから。被弾するから。思わずちょっと目を逸らす。
「観光するなら大通りで大半の物は見られるよ。その時に気に入ったものがあれば、本店に向かうのが楽かな。国外からも少し入ってきているから、結構入れ替わりが激しい。目新しい物が沢山あるよ。」
ギル先生に、ニコニコと微笑ましそうに言われ、羞恥で死にかけた。ぬぐぐ、絶対今顔が赤い。何故私だけ被害があるのだ。ゆるさぬぞ!意気込んで、八つ当たり気味にゼロさんを睨んだら、むしろなんだか嬉しそうにしていて。
「…楽しみだね?」
「ああ。」
ここは、私が、飲み込んで進ぜよう。大人だからな!




