恐怖の妹
「…(じー)」
最近、妹の様子がちょっとおかしいのですが?
今朝どうにか『完治』の言葉を医師の方から聞いて、久々に皆で食事をしたのですが、そこからイィリが驚くほどべったりです。
『辛く無い?』『どこか変な感じとかしてない?』とかそんな言葉を繰り返し投げかけてくるのですが、本気で心配しているのも分かるので邪険にするのも気が引けるんですよね。
その位なら病み上がりですし、2日もまともに顔合わせて無いですから、そんな物かなという気もしますが、その後も横か後ろにベッタリくっついてきます。
「ねぇエィリ」
「なあに?姉さん」
「エリスの真似?」
首を傾げてまぁ、可愛いんですけど!
イィリはそんなに犬みたいな性格してなかった筈なのですが?
お姉さん心配です。
「ニスさん、エィリのキャラがブレてるのですが、心当たりとか無いですか?」
私が寝てる3日の内に何があったのかと気になったので、ニス姉さんに聞いてみた所。
「えーと…様子が変わったのは牧場の見学をした後でしょうか?」
あっさり答えが返ってきました。
牧場で何か心配事…あー成る程、屠殺現場でも見たんですかね?
今思えば『私が死ぬかも知れなかった事で、エィリが反省している』という話に疑問を持つべきだったのかも知れませんね。
そりゃ5歳児に『死ぬ』という概念を教え込むのは相当しんどいでしょう。
(クロフィド領の)家にある小説でいくらでも『死』という単語が出たりしますが、知識と実感は違う物ですからね。
(とはいえです…)
ニスさん、にやりと笑うその様はちょっとサドっぽいですよ?
というか思い出したのかエィリが泣きそうですし。
主人を泣かせてどうする付き人!とも思いますが、ニスさん若いしスルーで。
「成る程、説明に困って屠殺でも見学した訳ですね。で、知るだけ知って改めて心配しているという事でしたか」
まぁ必要なお話ですよね。
うん、必要悪ですね。
私の肩口の服を握って泣くのをこらえる可愛い生き物を見れたのもそのおかげですしね!
「他人事みたいにおっしゃりますが、イィリお嬢様も行きますよ?」
ん?あぁ私も『死ぬという概念が分かってない子供』と判断されたんですね?まぁそんな教育生まれ直してこの方受けた記憶無いですからね。
30年の歴史で理解済みな上に、前世で普通に祖父母の葬儀にも出てますし、つべとかで ogrish なアレコレも見てるから耐性あるんですけどね。
「分かりました、明日ですか?今日は曇りですし日中でもいいですよ?」
と言ったら、首を傾げて『怖く無いの?』って視線してますけど今更…ねぇ?
怖がってるフリをした方が良いのでしょうか?
隣でエィリが涙目で拒否してますけど。
こういう姿見てると安心しますね、歳相応で。
「…お嬢様らしい気もしますが…」
「私にどんな反応を期待しているのですか。それと、エィリをこれ以上追いつめたら可哀想ですよ」
まぁ、エィリについてはそのうち平常運転に戻るでしょうから気にせず、この機会に戯れる方向で。
小声で『おねえちゃん』と呟きつつ、涙をこらえる小動物…萌え死にます。
今日一日中でもこの小動物を構っていたい所ですが、日程的には今夜は誕生祭では?
「そういえば、ニスさん。パーティは結局どうなるか聞いてたりします?」
「本日はお嬢様の判断に任せると聞いております。昨日の前夜祭は旦那様だけ出席になりました。イィリお嬢様は当然としても、エィリお嬢様も危ないかも知れないですから」
そりゃ命に関わる類の病気持ちと、感染ったかも知れない妹が出れる訳無いですよね。
「せっかくですので、知り合いを作っておこうかと思ってるのですよ」
「…姉さんが出るなら出る」
「…う〜ん」
ニスさんの表情の変化が面白いですね。
驚いて、何かに気づいて、悩んでる…?
ニス姉さんかっこいですが、クールなキャラクターは出来ないですよね。顔に出過ぎです。
それもまたギャップ萌えな訳ですけど。
「エィリお嬢様は嫌がってますけど?」
「でしょうね。明確な目的が無いのに面倒ごとに巻き込まれるのは私でも遠慮したいですし」
「目的って…はぁ。お嬢様はブレないですよね」
「どういう意味か聞いても?」
「聞きたいですか?」
いいえノーサンキューです。
表情で何となく分かりましたよ、『子供らしく無い』って。
「いえ、遠慮します」
「はい。でしたら旦那様にはそのようにお伝えします。尚、帰りの日程が1日遅れることになりました」
「日程変更ですか、何かトラブルでも?」
「トーリィ様との会談が入りました」
「は?」
昨日今日でもうそんな予定が入ったのですか?
「ええと…それって公爵のあの方で合ってます?」
「はい、トーリィ・オネス様です」
トーリィ・オネス氏。
王家の分家、医療のエキスパートで宰相としても実質国を動かす第二位権力者。
良く王政の末期では王族より貴族の方が力を持つものですが、この国では少し違います。
確かに貴族の方が王より力はあるのですが、諸侯が強い訳ではなく彼個人が強い。
それで尚王政がが続くのは単純に王家と関係性がいいからでもある。
加えて言えばライオールの師匠とも聞いていますし、話を通すにはこれ以上無い相手ではあります。
懸念と言えば私が成人する前に世代交代が確実にある所でしょうか。
「それは渡りに船ですね。お父様の恩師でしたら、安心してお話しできそうですね」
「渡りに船…?」
「腹の探り合いをしなくても良さそうです」
「…」
何か考えてる?
「申し訳ございません、お嬢様。今晩は欠席していただきます」
「わっつ!?」
いきなり何を言い出すんですか!?
「さっき出るのに了承してくれたばかりですよね?」
「気が変わりました、今のお嬢様を夜会に出すわけに行きません」
「「…」」
エィリがちょっと嬉しそう…私は嬉しくないんですけどー!?
「ええとですね、ニスさん?理由を聞いてみてもいいですか?」
「…普段あれだけ頭が回るのにどうして人の絡む事に疎いんですか?断言します、お嬢様は人付き合いが下手すぎます。『腹の探り合い』?お嬢様には不可能です」
驚くほどの完全否定。
これでも転生前に腹黒共と随分やりあったつもりなんですけどね?
「お子さん逹とでしたら良いことだと私も思います。お嬢様は友達が少なすぎますから。ですがお嬢様のそのおっしゃりようならその相手は直接各貴族様とですよね?」
「そのつもり…なんですが…」
「明らかな子供なら皆笑って済ませます。ですがお嬢様のそれは利益に直結してしまう。まして子供の言う約束を本気で守ってくれる人がどれだけ居ると思ってるんです?」
約束を守らなければ信用は失うでしょうし、先の儲けを考えたらそんな焼け畑みたいな事をする人居るのでしょうか?
「信用を失ったらそれ以上の儲けは無いと思いますが?」
「子飼いを変えて繰り返すだけです。お嬢様が貴族をどう思っているかは知りませんが、彼らはそれができるんですよ」
それで一定の稼ぎが出ればそれで済ますと?
「製作者が知識を公開したらそれで継続的な利益は無くなるはず。独占の維持をしようと思ったら法で縛るしかない。でもそれが容易かどうかは少し考えれば分かるでしょう?」
「貴族たちが皆、お嬢様ほど思慮深いと思ってはいけません。信じてください!」
「う〜ん」
ちょっと皆の頭を悪く言いすぎじゃないでしょうか?
とはいえ、ニスさんの言うことですし信じたい所ではあるんですけど。
どう言ったものでしょうね?
「…っ!」
え!?
あれ!?
その瞳の揺れ方は?
「…姉さんニスさん泣かせた…」
分かってますから!
いやでも声を上げた訳ではないですし!?
「お嬢様、ご自身は屋敷の者以外とこれまで何人話されたかご存知ですか?」
「…街の見回りの方とエリス…オリアッド様くらいでしょうか?」
「そうですね、偶然にも全て旦那様の関係者です」
「ですね」
「そして全員人格者ですよね?」
「ですね?」
何が言いたいのか見えてきません。
「まともに人と会った事も無いイィリがオリアッド様と話した時、どれだけ心配したか知ってるの!?話す前から『政敵』等と警戒しといて、ソルフト様に反論するし!シークィ様にも反論して見せて、提案書まで突きつけたよね!?」
「あ、待って、落ち着いてください」
急に大きな声を出されても困ります。
「待たない!もしコルにイィリが見つけた物を違うと否定され、より正しいと思えるものを突きつけられたらと、考えた事があるの!?」
「私なら喜びますが…」
なるほど察しました。
そっか、元請け企業の方々も翌々考えれば技術者でしたっけ?
正しい事は良いことです。理系的に。
ですが流石にこの回答は求めてないですよね?
あ、いや、ここまで感情的なニスさん初めて見ました。
「普通は『面子を潰された』と思うの!立場があれば余計に!!」
「痛っ!?」
うん痛い。
抱きしめてくれるのは嬉しいし、心配してくれるのも嬉しいのですが、痛い。
「もし貴族の誰かがイィリを誘拐したらどうするの?」
確かに、知識を独占すればいくらでも儲かりますよね。
こんな旧世代な文明の警察にまともな操作能力があるとも思えませんし。
つまり簡単に完全犯罪ができる…?
「檻に閉じ込めて、家畜みたいにされる事だってあり得るんだ」
「ひっ!」
思わず出てしまった自分の声に驚きます。
怪我の功名か…自分の声に驚いたお陰で、気持ちが恐怖だけで埋め尽くされなかったのは助かりました。
何が起きるかが原因ではありません。
そんな『不快な話』で怯える程私の頭は子供ではないです。
「…エィ…リ…?」
純粋すぎる怒り。生まれて初めて、ええ、前世を含めて人生で初めて感じる怒りです。
『腑が煮えくり返る』という形容が最も一致するのでしょうか?
ここまで無遠慮に、無思慮に叩きつける怒りと悪意を私は知りません。
この感じる怒りが私の感情なら怖いなんて思いませんが、問題は…。
「エィリ!」
「…姉さん?何?」
大分収まったけどまだ燻ってる?
不機嫌な声で答えたエィリにニスさんもさすがに驚いてる…。
そりゃ、癇癪の一つも起こさないエィリが不機嫌をそのまま見せるなんてほぼありませんからまだ分かりますけど。
「ごめんなさいニスさん」
「うん…」
一言だけ謝りを入れてニスさんの手から離れました。
ニスさんも分かってくれたのかも?
それはそうとエィリです。
抱きしめて治る位ならいいですが…。
「大丈夫、エィリ。落ち着いて、そんな事にならないから」
「……ごめんなさい、姉さん」
まだ少し気が立ってはいるものの、大丈夫かな?
この位ならまだ覚えがある。
音楽家の私塾で兄弟子と言い合いをした後だったっけ?
私の『心配』を感じて自重するくらいならもう多分大丈夫。
「エィリ、私ならその気になれば滅多なことは無いから心配しないでください」
「うん」
あーしかし焦りました。
そんな会話をしただけなのですが、勢い余って誰かを殺しかねない感じでしたし。
「姉さんは私が守ってあげるから大丈夫よ」
屈託無い笑顔をしながら言ってくれるエィリの笑顔はちょっと怖かった。
久々に投稿。24時間以内にもう一つ出せればいいな…




