魔剣使い
続きです。よろしくお願いします。
待ってくれた方、お待たせしました。
カインは、息を切らせながら走った。ふと周囲を見ると、王都に到着した際に降りた馬車駅の近くまで戻ってきていた。
足を止めて息を整える。深呼吸をして落ち着くと、背筋を伸ばした。
全速力で走ったことで、先程の羞恥心も薄れたようだ。
馬車駅の入口にある時計を確認すると、13時を少し過ぎたところだった。
王都に到着してから、そんなに時間は経っていないと思っていたが、5時間ほどは経っているようだ。
今日は、特に式典参加以外の予定は無い。
観光しようにも、ここへ来るまでにほとんどのお金を使ってしまっている。
残念に思いながら溜息をつき、鞄から財布を取り出して中身を確認した。何とか昼食代と馬車代は足りそうだ。
周囲の人通りはまばらだった。昼食時だからだろうか、辺りからは食欲をそそる匂いが漂ってくる。
馬車駅内からも食欲をそそる匂いが漂ってきた。カインはその匂いに誘われるように、食堂へ足を運んだ。
―――
食堂内はさほど広くない、カウンター席とテーブル席を合わせて、全部で20席ほどの小さな食堂だ。
満席ではないが、ほとんどの席が埋まっている。馬車駅だから繁盛しているのだろう。
空いているカウンター席に座ると、すぐに店員が話しかけてきた。
「いらっしゃい!ご注文は?」
「えっと……森鹿の香草焼きと、麦パンを……あ、あと果実水を」
「あいよ、ちょっと待ってな」
注文を取ると、店員はササッと厨房に戻って行った。
食堂が飲み屋も兼ねているのだろう。昼からエールを飲んでいる人たちも何人かいる。
騒がしくはなく、どこか安心できる雰囲気だ。喧嘩なども少ないのだろう、皆、楽しそうに飲み食いしている。
いいな、こういう雰囲気……そう思っていると、目の前に料理が運ばれた。
「あいよ、おまち」
ドンッと置かれた料理は、カインが注文したものとは違う物だった。
鳥の香草焼きと、蒸した春芋。それにミルクだろうか。これも美味しそうだ。
ええっと……?と首を傾げて困っていると、隣から声がした。
「あ、すみません……恐らくそれは私のです!」
声のした方を向く。
小ぶりのミトラを被り、厚手のローブを何枚も重ね着した、いかにも神官らしい装いの少女だ。
「おっと、ごめんよ」
店員は忙しいのだろう、カインに謝罪のジェスチャーをした。
似たようなメニューなので間違えたのだろう。カインが「どうぞ」と皿を少女の方へ押しやると、少女はたちまち目を輝かせ、ナイフとフォークを手に取った。
「ありがとうございます……!」
少し照れながら簡単な会釈をすると、上品に食べ始めた。
可愛らしい見た目に反して、案外豪快に食べるものだ……カインが小さく笑うと、少女は照れたように食事のペースを落とした。
そういえばこの王都では、聖職者は肉を食べても良いのだろうか?故郷の聖職者は食べているのを見なかったが……
しばらく見ていると、カインの目の前に再度料理が運ばれた。
「おまち!さっきはごめんよ!」
今回は間違えていない、ちゃんとメニュー通りの料理が運ばれた。
先程の料理とほぼ同じ匂いで、とても食欲をそそる。
「わぁ……そちらも美味しそうですね!」
食事をひと段落させた少女が、ミルクを飲みながら話しかけてきた。
「ご、ごめんなさい……美味しそうだったので、つい……」
少女は耳まで赤くして、コップを両手で持ったまま俯いてしまった。
礼儀正しく可愛らしい見た目と、食欲旺盛な一面とのギャップに、カインは笑いが込み上げてきた。
「あはははは!そうだね、美味しそうだものね!そっちの鳥もいいなぁって思ったよ!」
笑いながら、カインは果実水のコップを少女に向けた。
少女も、真っ赤な顔で照れながら、コップをこちらに向けた。
カチンッと音を立て、コップ同士が軽く触れ合った。
「ではカインさんも、これから北へ向かうのですか?」
「そうだね、北の方が戦況が厳しいと聞くからね、一度確認に向かおうと思うよ」
「聖剣に選ばれてすぐだと言うのに……とても素晴らしいことだと思います!」
「あはは、ありがとう、エリナも一人で巡礼なんて、十分凄いよ」
少女はエリナ・セルリスと名乗った。
レクス教に仕える聖女見習いで、現在は巡礼の旅の途中とのことだ。
料理の取り違えをきっかけに、隣同士で会話が弾み、互いの近況を語り合った。
一人で各地を巡り、人々を助け、時には助けられながら、巡礼を続けているらしい。
「そんなに凄くないですよ。レクス教に仕える身なので、各地の神殿で無償の支援を受けられるんです……」
「それでも巡礼自体は、自分の足で行うんだろ?十分すごいさ」
「あ……ありがとうございます……」
互いに、向かう先が同じ北方面という事もあり、会話は弾んだ。
食事を終えても話は尽きず、気づけば2時間ほどが経っていた。
―――
次に北方面へ向かう馬車が出るのは、16時頃のはずだ。
次の馬車の出発までは、あと1時間ほどだ。
手続きも済ませておく必要があるため、二人は馬車乗り場へ向かった。
手続きを済ませた後、しばらく待っていると、目的の馬車が到着した。
ほかの乗客が乗り、最後に二人も続いて馬車へと乗り込んだ。
今回は隣街までの移動だ。
距離にして20kmほどだ。
16時発の馬車であれば、18時過ぎには隣街に着くだろう。
春先とはいえ、まだ日が暮れるのは早い。明るいうちに到着できそうだ。
空には雲が広がり始めていた。
しばらくすると雨が降り出しそうな空模様だった。
―――
馬車は順調に進んでいる。
馬車の左右には、護衛の衛兵が2名並走していた。
20分ほど走ると、王都周辺の舗装された道はなくなり、馬車の揺れは大きくなった。
乗客たちは、カインとエリナを含め、楽しげに談笑していた。
揺れは大きいものの、皆慣れた様子で、揺れさえも話の種にしていた。
その時、馬車は急に止まった。
「な……なんだ、貴様は……!」
衛兵の一人が声を上げた。
何かあった!カインは瞬時に窓から外を覗いた。
「ぐわあぁぁ……!」
「くっ……や、やめろ!」
衛兵の一人が血を撒き散らしながら吹き飛んだ。
もう一人の衛兵は、剣で相手の攻撃をかろうじて止めた。
誰かと戦っている!盗賊か!?
聖剣を携えたカインも、すぐに馬車から飛び出した。
着地と同時に鞘から聖剣を抜き、相手に向けて構えた。
「ぐはぁぁッ……!」
その間にも、残る衛兵が相手の攻撃を受け、倒れてしまった。
敵の姿を確認する。相手は一人だ。
しかし、その姿を見た瞬間、カインは恐怖に包まれた。
敵は、漆黒とも言える禍々しい鎧を身にまとい、同じく禍々しい漆黒の剣を手にしていた。
そして、その瞳もまた、鎧や剣と同じように漆黒に染まっていた。
黒い剣と黒い瞳……聖剣と対をなす魔剣。そして、それに魅入られた者に現れる漆黒の瞳……
魔剣使いだ。
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第1話(話の締めくくり)は次で終わります。




