第四十五話:そしてカニは川縁に佇む
アビスランドからの帰路。
「ふむテッペイはこのツーバイフォーには乗らないのか?」
ゼノヴィアは窓から爆速で並走するテッペイを見ながら言った。
「テッペイは飼育されてるみたいでいやだから乗らないって言ってたのじゃ」
「SPAは使うけどね~」
「あれ、用意するの熱いから辛いんだけど……」
「ほう……SPAとはなんだ」
「温泉だよ。骨達を洗うのにも使えて便利なんだ」
「ふむ、魅力的な我の見せ場だな?」
「どういう思考パターンをしてるのじゃ!」
「湯沸かし手伝ってくれるんですか!?」
「レヴィアちゃんそうじゃないと思うわよ~」
ゼノヴィアはさも今までいたかのようにくつろいで乗っていた。
「……」
カイトはものすごく複雑な気持であった。
「カイト気にしないで。魔王軍を倒したのはカイトで間違いないから」
「そうはいってもこの乗り物元魔王軍だらけな気がして……」
「優秀な骨が多かったから仕方ないね!」
「そういうシオンがそもそも魔王軍の元バイトなのじゃ!」
「え?ドラミナさんとかメルティさんは元魔王軍じゃないんですか?」
「シオンに会うまで魔王軍なんてものがあるのも知らなかったのじゃ」
「研究室に籠ってたしスカウトの連絡もなかったわよね~。もしかしたら毒の罠にかかってたどり着けなかっただけかもしれないけど~」
「ああ、この世界ちょっと変だったんだな……」
カイトは謎の納得感を得てツーバイフォーに揺られていった。
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「そろそろ王都だな。よしカイト、御者台でジョシュア君の隣に乗るんだ」
俺はツーバイフォーの中に呼びかける。
「わかりました。でもどうしてですか?」
「勇者凱旋をアピールするために決まっているだろう。いい感じに振舞ってくれ」
「あ、はい」
カイトはもうこの凱旋捏造にあきらめの境地に達しているようだった。
王都入場の列の脇を通り門の前に辿り着く。ツーバイフォーの存在はもう有名になっているのか誰も何も言わなくなっていた。たまに俺を拝む人がいたがそれは気にしないでおこう。
「あれ?勇者様じゃないですか?なぜテッペイさんの乗り物に?」
「魔王討伐の帰り道で出会って送ってもらうことにしたんだ」
カイトはあまりにもさりげなく嘘をついた。
「おお!ということは魔王を討伐されたのですか!?」
「うん、魔王の亡骸もテッペイさん達に運んでもらっているよ」
「なるほど、早速伝令を走らせますので王都の中で少しお待ちいただけますか?」
「ではいつもの駐機場に行くか」
俺たちはいつもツーバイフォーを止めている広場へと向かった。
「はあ、はあ、はあ、テッペイさん!魔王を倒したとか!」
しばらくするとレオナルドがものすごく急いでやってきた。
「語弊があるな。魔王を倒したのはカイトで俺たちはその死体を運んだだけだ」
「え?そうなんですか?流石勇者ですね、ってなんで魔王の死体を運んでるんですか!?」
「カイトが魔王を討伐したといっただけでは説得力が足りんだろう」
「いやまあ確かにそうなんですが、それで魔王はどのような見た目だったのでしょうか」
「ドラミナ、積み荷をみせてやれ」
「わかったのじゃ!」
ドスンと特性アビスオーレ棺桶に入ったザルコウをドラミナは見せた。
「おお、なんと禍々しい苦悶の面構えをしていますね。これは死してなお、魔王の風格があります」
「そうだろう、そいつは本当に邪悪であったのだ」
レオナルドが感心してるとゼノヴィアが相槌を打った。
「はて?この方は?凄まじい迫力なんですが」
「ああ、アビスランドで雇用したゼノヴィアだ無害な魔族だ」
「はあ、またよくわからない人を増やしたんですね」
「なんだ、魅力的な我を前にしてその感想は」
ゼノヴィアが少し圧力を高めた。
「いや、なんというか雰囲気が姫様と一緒で見た目より纏ってる迫力のが勝るというかなんというか」
「なるほど、気迫は下げた方が良いのか」
ゼノヴィアは学びを得たといった感じで納得していた。
「では魔王討伐祝勝パレードの準備を行いますので、このまま王都に滞在してくださいね」
「いや、俺たちは帰るぞ」
「え?」
「祝勝パレードなど勇者と聖剣と魔王の死体があれば十分だろう、そっちで派手に勝手にやってくれ」
「えっと魔王討伐に貢献されたのでは?」
「俺は荷物を届けて帰ってきただけだ。魔王軍はカイトが勝手に滅ぼしたからな。王都に留まる理由がない」
「姫様に一目会うだけでも」
「シャルロッテか。別に俺はグラスランドの川縁に居るから、会いたければそっちがこればいい」
「は、はあ。まあ姫様なら納得しそうですが普通なら極刑物ですよ……」
「ではなレオナルド。俺はしばらく本当に働かないから余分な事を持ってくるんじゃないぞ」
「あ、はい」
俺たちはカイトとコメットそしてザルコウの亡骸を置いてグラスランドへと帰った。
アビスランド遠征から暫くの時が経った。
各地で魔王討伐の報が広まり世間は勇者万歳ムードに包まれていた。
ここまでは完璧だった。
なぜか魔王打倒後クライスト教団からのお布施は増えていた。
像が乱立することはないが、遠巻きにツーバイフォーへ向けて祈る民衆がいつもいるのである。
「どういうことだこれは?」
「テッペイよ一度ついた名声というのはな、勝手に膨れ上がるものだ」
ゼノヴィアがしみじみと語りかけてきた。
「魔王を倒した勇者万歳ムードなのにか?」
「我はここでお前のしてきたことを仲間たちから聞いたがな、闘技大会で直接勇者に勝ってるらしいではないか」
「まあ成り行き上カイトには勝ったな」
「つまり信徒からすれば魔王を倒した勇者より凄いハサミの勇士ということになるのだ」
「そんな馬鹿な……」
「世の中勝ち続けるということはそういうことだ。我も魔王と思われてたしな」
いやお前は実質ちゃんと魔王だっただろうと思ったが俺はこの現実に愕然としていた。
俺が静かにたたずむにはもう誰も知らない土地に行くしかないのかもしれない。
《誰も知らないところで生活なんてしようと一度もしなかったくせに贅沢ですね!》
そんなことを思いながら、俺は住み慣れた川縁で佇むのであった。
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