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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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男装聖女と魔女の村 4


 フェリーツィアは泣き疲れたように先ほど私が寝ていたベッドで眠ってしまった。


(命をかけて城に潜入して、帰ったばかりでこの騒ぎだもんな。疲れて当然か……)


 それにしても眠っている姿も美しいというか、絵になるのはズルいと思った。

 そんな妹の傍らに腰掛け、その頭を優しく撫ぜているフレージアに訊く。


「あんたたち、歳は?」

「18です」


(18……)


 年下だったのかと驚く。

『魔女』のイメージのせいか、なんとなく年上かと思っていた。

 特にフレージアは妹のフェリーツィアよりしっかりしていて、より聖女様らしい印象を受けた。

 きっとバラノス騎士団で彼女を疑う者などひとりもいなかっただろう。


(まぁ、でもこれが地かどうかはわからないけどな)


 フェリーツィアのギャップに驚かされたばかりだ。

 ひょっとしたら姉の方にも裏の顔があるかもしれない。


「彼は?」


 先ほどから椅子でこくりこくり船を漕いでいるフヌーディに視線をやりながら小声で訊く。


「彼も同じ18です」

「そう……」


 彼の場合は、見た目も言動も年相応だと思った。


 ……窓の外はまだ暗い。

 ダフニさんが例の書物を持ってきてくれるという夜明けまでまだ大分時間がある。

 寝るわけにはいかないし、単純に暇を持て余していた私は続けて彼女に質問した。


「彼は魔女みたいな力は持ってないんだよな」

「はい。フヌーディは幼い頃に戦から逃れこの森に迷い込んだところをおばば様に助けられました。それから丁度同じ年だった私たちと兄弟のように育ったのです」

「へぇ」


 だからお互いあんなに好き放題言い合えるのかと納得する。

 そのときフレージアがふっと笑った。


「私たちも魔女ではないのですよ」

「え?」

「『魔女』とは外の人間が勝手につけた呼び名。私たちはこの力を聖女様から受け継いだ聖なる力だと考えています」


 そういえば、フェリーツィアも自分のことを「一応魔女」という言い方をしていた。


「そうか。ごめん」


 慌てて謝ると、フレージアは今度はおかしそうにクスクスと笑った。


「いえ、聖女様に謝っていただくことでは」

「そ、そうか」


 そんな笑い方も実に聖女様らしい。


「あー、さっきフェリーツィアにもお願いしたんだけどさ、オレのことは藤花って呼んで欲しい」

「藤花様」

「藤花でいいって」


 聖女様と呼ばれるのも恥ずかしいが、藤花様呼びもなんだかムズムズする。


「なあ、フレージア。前の聖女様のこと、訊いてもいいか?」

「はい。私が知っていることでしたらお答えします」


 聖女について知りたいことはたくさんある。

 思わずごくりと喉が鳴っていた。


「前の聖女様が現れたのって、どのくらい前なんだ?」

「300年ほど前と聞いています」

「300年……」


(日本でいえば、江戸時代くらいか……?)


 こちらの世界と向こうの世界で同じ時が流れているとは限らないけれど。


 私はドキドキとしながら続ける。


「その聖女様の名前は……?」


 するとフレージアは優しく微笑んだ。


「サクラ様です」


 私は息を呑む。


 ――瞬間、あの薄紅色の花びらが目の前に舞う幻影を見た気がした。


 おそらく。

 いや、多分確実に、前の聖女も私と同じ日本人だったのだ。


 フレージアが誇らしげに続ける。


「そのお名前をいただき、この村の名は『サクラ村』と言います」

「サクラ村……」


 ――胸が熱い。

 この異世界に、日本のあの美しい花の名が息づいているなんて。


「……桜は、私の生まれた国の花なんだ」


 小さく言うと、フレージアが目を大きくした。


「花の名なのですか」

「ああ。すごく、すごく綺麗な花で……そうか。前の聖女様はサクラさんて言うのか」


 この世界に来てから見ていない、あの儚くて美しい花を思い出してつい目が潤んでしまった。


「藤花?」

「あ、ごめん……なんか嬉しくて」


 私は目を瞑り一度大きく深呼吸をした。


 ……訊きたいことがまだたくさんある。


「そのサクラさんの子供がこの村を作ったんだよな」

「はい。そう伝わっています」

「その子の、父親については?」


 子供がいたということは、サクラさんには恋人、または夫がいたということだ。

 するとフレージアは言いにくそうに目を伏せた。


「騎士であったと……」


 やっぱりかと思ってしまった。


 ――サクラさんも騎士と恋に落ちたのだ。私のように。


 なのに……。


「その騎士は、どうなったんだ?」

「聖女様と共に殺されたと伝わっています」

「!」


 酷い話だけれど、それでもそれを聞いて少しほっとした。

 共に殺されたということは、その騎士はサクラさんを殺してはいないということだ。

 もしかしたら最期までサクラさんを守ったかもしれない。――そうあって欲しいという、ただの願望に過ぎないけれど。


「そう……」

「藤花は、なぜ騎士になろうと?」


 さり気なく訊かれてドキリとする。

 ダフニさんに訊かれたときは結局うまく答えることが出来なかった。


 小さく息を吐いて、私はゆっくりと話していく。


「最初は、城にあるっていう聖女の本が目当てだったんだ。とにかく元いた世界に早く帰りたくて。……でも、仲間たちと一緒に騎士を目指してるうちに、いつの間にか本気で騎士になりたいと思うようになってた」


 騎士見習いとして寮に入ってから一年と少し。

 仲間たちと共に目標に向かって一直線の生活が、部活の延長のようで私にとってはとても心地よかったのだ。


「そうでしたか」

「でも……」


 視線を落とす。


「でも、そんな軽い気持ちじゃダメだったんだよな」

「え?」

「そこの彼やダフニさんに言われた言葉がさ、こう胸にグサっと来たって言うか……正直、自信なくなっちまった」


 ハハと苦笑しながら顔を上げる。


「だからさ、さっきも言ったけど、もし帰る方法がわかったら改めて今後についてちゃんと考えるつもり」


 と、フレージアが真剣な目をこちらに向けていた。


「私たちとしては、やはり藤花にはこのサクラ村に残って欲しいです」

「そ、それは……」


 コンっ、とそのとき背後で小さく音がした。


(……え?)


 続けてもう一度、背中を預けている扉にコツンと何かが当たる音。


 サーッと血の気が引いていく。


(どっちか、気が付いたのか……!?)




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