男装聖女の初任務 1
「キアノス、お前どういうつもりだ」
玉座の間を出て私がホッと一息ついていると、ラディスがキアノス副長を睨みつけていた。
副長はふっと笑ってから歩き出した。
「丁度いいだろう? 君は傍でトーラを守れるし。城のことは私に任せてデートがてら行っておいでよ」
(でっ……!?)
危うく変な声を上げてしまうところだった。
「キアノス……」
「まあそれは半分冗談だとして、君だってこうなることを考えていたんじゃないのかい?」
するとラディスは口を噤んだ。どうやら図星らしい。
副長が小声で続ける。
「トーラを危険な目に遭わせたくない気持ちはわかるけど、誰かは行かなくちゃならないんだ。それには確かにトーラは適任だ」
そうして副長は私の方を見た。
聖女の私が適任だと彼は言っているのだ。
「それに、バラノスの件もあるだろう?」
「バラノスの?」
気になって訊くと副長は頷き答えてくれた。
「バラノスの戦力が落ちている今、戦を仕掛けようという話が持ち上がってね」
「そんな……っ」
思わず悲鳴のような声が出てしまった。
いくら敵対している国とは言え、流石にそれは酷いと思ってしまった。
戦争とはそういうものなのかもしれないけれど……。
と、ラディスが険しい顔で続けた。
「俺たちもそんな卑怯な真似はしたくない。だから、まずはあの魔女を捜し出し、その目的をはっきりさせる方が先決だと進言していた」
それを聞いて、ラディスもそんな酷いことはしたくないのだと少しホッとした。
「だが、またお前を巻き込むことになってしまった」
申し訳なさそうに言われ、私は首を振る。
「わた……いえ、オレは大丈夫です。足手まといにはなってしまうかもしれませんが、団長が一緒なら安心ですし。それに、オレも彼女には腹が立ってるんで」
笑顔で言うと、キアノス副長は可笑しそうに笑った。
「頼もしいじゃないか。それで、他のメンバーはどうするんだい?」
「目立ってはマズイ。少人数に越したことはないが……早急に決めねばな」
そんなふたりの会話を聞いていて、ふと気づく。
「そういえば、魔女の行き先に心当たりはあるんですか?」
私が訊くと、ラディスは答えてくれた。
「噂の域を出ないが、魔女が住むと伝わる森がある。先ずはそこへ向かうつもりだ」
(魔女が住む森……)
不謹慎だが、それを聞いてなんだか少しワクワクしてしまった。
「お前はいつでも出られるよう準備をしておいてくれ」
「わかりました!」
私はびしっと背筋を伸ばし答えた。
まだ見習いとは言え、国王陛下から直々に賜った騎士としての初任務だ。
正直、めちゃくちゃ気分が高揚していた。
(絶対に見つけ出してやるからな。待ってろよ、フェリーツィア!)
「魔女の捜索隊に、お前が!?」
イリアスがぎょっとした顔をした。
ラディスから出発前に腹ごしらえをしておけと言われ、いつもよりも早い時間に食堂に行くとそこで偶然イリアスと一緒になったのだ。
私はパンを齧りながら頷く。
「そういうことになった」
「で、でも、お前まだ馬も乗り熟せてないんだろ?」
「ああ。だから多分、誰かの馬に乗せてもらうことになると思う」
もしそれがラディスだとしたら、またあのイェラーキに乗れるのだ。
この間よりはお尻の痛みも気にならなくなっているはずだし、イェラーキでなくても馬にまた乗れるのは嬉しかった。
「……捜索隊に誰が入るかって、もう決まってるのか?」
「さあ? 早急に決めるとは言ってたけど」
「俺も、一緒に行けないかな」
「えっ」
スープを飲んでいた顔を上げると、イリアスが妙に真面目な顔をしていた。
「いや、どうだろう……やっぱ先輩騎士が選ばれるんじゃないか?」
そう答えながら少し顔が引きつってしまったかもしれない。
……正直、イリアスがいると万一聖女の力を使わなければならなくなったときに困る。
それは他の先輩騎士でも同じことなのだけれど。
(やっぱりイリアスにはバレたくない……)
一番の友達だと言ってくれた彼だからこそ。
彼と友人の関係でなくなってしまうのが怖い。
聖女だとバレて、気まずくなってしまうのが怖い。
だから、私は苦笑しながら続けた。
「お前が、彼女に文句を言ってやりたい気持ちはわかるけどさ」
「トーラ!」
「は、はい!」
そのとき食堂入り口の方からラディスの声がかかり、私は急いで立ち上がった。
「準備が出来次第、中庭に集合!」
「わかりました!」
返事をして、私は残りの料理を急ぎ食べてしまおうと椅子に座り直した。
「ラディス団長!」
イリアスの大きな声がして、さっきまで目の前にいた彼の姿がないことに気付く。
えっと思って振り向くと彼はラディスの元へと駆けていて。
(まさか……)
「なんだ」
「あの、俺も、一緒に捜索隊に加えていただけないでしょうか」
(やっぱりーー!?)
案の定そんな声が聞こえてきてハラハラする。
しかし、ラディスの答えは流石に厳しいものだった。
「捜索隊のメンバーはもう決まった。お前を連れていくことは出来ん」
それでもイリアスは引かなかった。
「お願いします!」
ガバっと勢いよく頭を下げ、彼は続けた。
「俺に、トーラを守らせてください!」
(な……っ!?)
私はあんぐりと口を開けていた。




