男装聖女の初任務 2
「――な、何言ってんだよイリアス!」
ラディスの顔が一層険しくなったのがわかって、私は彼を止めようと立ち上がった。
その間もイリアスは頭を下げたまま、何かラディスに話し続けていて。
その内容は聞こえなかったけれど、私が彼らの傍に駆け寄ったそのとき、ラディスが小さく溜息を吐いた。
「すぐに支度をして中庭に来い」
「えっ!?」
「ありがとうございます!」
私の驚いた声とイリアスの歓声が重なった。
ラディスは私を一瞥するとそのままくるりと背を向け行ってしまった。
呆気にとられているとイリアスは私の方を見てニカっと笑った。
「というわけで、俺も一緒に行くことになったから。よろしくな!」
その笑顔を見てなんだかムッとしてしまった。
「てかお前、守るってなんだよ! そりゃオレはまだ見習いで頼りないかもしれないけどさ」
「ごめんトーラ! 俺、急いで支度してくるからまたあとでな! あっ、食器俺のも一緒に片付けといてくれると助かる!」
「はぁ!?」
イリアスは俺にパンっと手を合わせてから走って行ってしまった。
「んだよ、アイツ……」
「彼も随分と必死だね」
「っ!?」
気付けばすぐ後ろに銀髪の男がいてびっくりする。
「ザフィーリ!」
「まぁ、友人が心配な気持ちはわかるけどね。それか余程あの魔女が許せないのかな」
「……」
イリアスはまんまと魔女の呪いに掛けられた。
だから彼女を許せない気持ちはわかるけれど。
「でも、団長が許可するとは思わなかったな」
「ほんとだよ……」
私は額を覆う。
てっきりラディスのことだから拒否すると思ったのに。
(一体何を言ったんだよ、イリアスの奴……)
「本当は僕もついて行きたいところだけれど」
「え?」
顔を上げると、ザフィーリがいつもの真面目な顔で言った。
「くれぐれも気をつけて」
「ああ。ありがとう、ザフィーリ」
私はザフィーリがその場を去ってから小さく息を吐いた。
ちょっとワクワクしていた魔女捜索の旅に、想定外の不安要素が出来てしまった。
そして、私たち魔女捜索隊はその日のうちに城を出発することになった。
メンバーはラディス団長を筆頭に、イリアスと他3名の騎士、そして私の総勢6名だ。
私はやはりラディスの愛馬イェラーキに乗せてもらえることになった。
「団長の馬は気性が荒いから気をつけろよ」
「あ、ああ」
厩舎の前でイリアスにそう小声で言われ、つい顔が引きつってしまった。
彼にはきっと私がビビっていると思われたのだろうけど。
(イェラーキに乗るのは一応これで3度目になるんだよな)
「トーラ!」
「はい!」
呼ばれて私はイェラーキを連れたラディスの傍に駆け寄る。
何度見てもイェラーキはカッコよくてドキドキした。
「イェラーキ、またよろしくな」
小声で言って、その円らな瞳を見上げながら首筋を撫でているとラディスが言った。
「飛び乗りは出来るようになったか?」
「あ……えっと、踏み台がないとまだ無理です」
恥ずかしかったがどうせバレるのだし正直に答える。
それに、イェラーキは私がいつも訓練で乗っている馬より更に背が高い。
「俺が補助をするからやってみろ」
「は、はい!」
私はいつも練習でやっているように左手でイェラーキの鬣と手綱を一緒に掴み、右手で鞍の端を握る。その場で小さくジャンプを繰り返し何度目かで思いきりジャンプする。が、やはり乗り上がることが出来ずそのまま地面に足を着いてしまった。
「腹に力を入れてもう一度だ」
「はい!」
言われた通り私はもう一度小さなジャンプを繰り返した後ぐっと腹に力を入れ地面を蹴った。
そのタイミングで後ろからラディスが腰を持ち上げてくれて、なんとか私はイェラーキの背に乗り上がることが出来た。そのまま腕に力を入れ脚を回し鞍に跨る。
(出来た!)
心の内で歓声を上げ思わずラディスを見ると、彼は満足そうに頷いてくれた。
「もう少しだな」
「ありがとうございます!」
そして私はイェラーキの背中から辺りの景色を見回す。やっぱりこの目線の高さは気持ちが良い。
と、そのときすでに自分の馬に騎乗していたイリアスと目が合った。
驚いている様子の友人に私はちょっとだけ得意な気になってニっと笑顔を送った。
その後すぐにラディスが私の後ろに乗ってきて、皆に号令を掛けた。
「では出発する! 目的は魔女フェリーツィアの捜索と確保。相手は魔女だ。仲間もいるかもしれん。常に油断はするな!」
「はっ!」
そうして、私たち魔女捜索隊は城を出発したのだった。




