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第九話:遥か時を超え顕明連


京都の夏、ジメジメした空気が肌にベタベタまとわりつく。電車の窓から見える古い町並み、瓦屋根が陽射しでギラッと光る中、俺、ヨシノブ、21歳の国立大の3年生は、こんな歴史的な街で1400年前の大妖狐と一緒に最後の刀剣を探してるなんて、頭おかしいとしか思えねぇ。隣に座るのが焔華、ピンクのフリルワンピに帽子、狐耳がハットの穴からピョコンと飛び出してピクピク動いてる。見た目は10歳のガキにしか見えねぇけど、こいつが大通連と小通連、二振の霊気を吸収して以来、なんか……オーラが違う。赤い目がギラリと光るたび、まるで大気がビリビリ震えるような威圧感。コイツ、マジでパワーアップしすぎだろ。


「ヨシノブ、のう! あの『きょうと』とかいう場所は、あの頃とあまり変わらんのう! 変な箱が増えておるだけで、なかなか風情があるじゃろ。あそこはな、もとより霊気の多い地なのじゃ。ふんふん、妾の三明剣が最後の一振、顕明連! 確かにこの方角じゃ! さっさと見つけるぞよ!」


焔華の妖艶な雰囲気を纏い始めた口調が、電車内にねっとりと響く。相変わらず小さい体がシートでバタバタ暴れているのに、狐耳がピクッと動くたびに嫌な予感がしてしょうがない。近くの乗客がチラッとこっち見て、俺は、冷や汗がツーッと背中を滑る。ヤバい、目立つなよ! 何しでかすかわからねえ。コイツの肌は、触れるとヒンヤリ冷たい霊体で、明らかに人間とはかけ離れた生き物なんだと実感する。しかし、こいつのワンピの下は、ノーパンなのが心臓に悪い。


「焔華、声がデカい! 静かにしろよ! つか、最後の剣、あのノブナガの家臣の子孫が持ってるって……マジで大丈夫か? もし会ったら、なあ、頼むから殺すとかは……絶対やめてくれよ!」


俺は、ヒソヒソ声で懇願する。焔華が二振の霊気を取り戻して、別人みたいに霊力が増してるのは、間違いない。博物館の大通連、神社の小通連、どっちも霊気だけスッポリ抜いてガワを残したけど、今回は……相手が生きてる人間だ。交渉しなきゃらならねえ。大体ノブナガの家臣の子孫って、どんなヤツだよ? 焔華は、赤い目でジロリと俺を睨む。


「ふん! ヨシノブ、お主はな、ビビりすぎなのじゃ! 妾は大妖狐、焔華であるぞ。殺す? ハハ、そんな面倒なことするつもりはないわ。まずは剣を見る。剣の霊気さえ取り戻せば、それでよい。じゃが……ふん、ノブナガの家臣の血か。妾を裏切ったあの巫女の記憶、チラつくのじゃよ」


焔華の声には、なんか暗い響きが混じる。狐耳がピクッと下がって、赤い目が窓の外にチラッと向く。京都の町並み、修学旅行で行った以来だ。寺の屋根が陽射しでキラキラ光ってる。俺は、心臓がドクンと跳ねて、冷や汗がダラダラ流れる。巫女の裏切り、ノブナガの妖怪絶滅計画……1400年前の禍根。


---



ネットワークと図書館で調べ尽くした結果、最後の三明剣はノブナガの家臣の子孫が管理する、京都の古い屋敷に保管されてるらしい。電車を降りて、狭い路地をクネクネ歩く。夏の湿気がアスファルトをムワッと炙り、蝉のミンミンって鳴き声が耳に刺さる。あちい。焔華は、ピンクのワンピでトコトコ歩くけど、狐耳がピクピク動いてるが、そういえばコイツ、全く暑いとか言わない。やっぱ妖怪ってレベルが違うんだなとか、油断してると、コイツは時々フワッと浮きそうになるのを、俺がガシッと腕を掴んで止める。


「飛ぶなよ、焔華! 歩け、歩くんだ!」


「ふん! ヨシノブ、妾を縛る気か! この程度の距離、飛べば一瞬じゃぞ!」


焔華がムスッと唇を尖らせて、小さい手で俺の腕をグイッと引っ張る。マジで力強え。吹っ飛ばされそうになる。霊力がパワーアップしたコイツ、ほんとはもう、いつでもあの170cmの妖艶な姿に戻れるんじゃねぇか? 大体、10歳のガキの見た目でノーパンで歩いてるの、ほんと心臓に悪いぜ。


ようやく着いた。京都の街の中は、思ったより広かった。屋敷の門は、黒ずんだ木がドーンと構えて、なんか時代劇そのまんまみたいな重厚感がある。門を叩くと、ガタガタっと開いて、30代くらいの男が出てくる。スーツを着てるけど、目はキリッと鋭い。ノブナガの家臣の子孫って……こいつか? なんか、普通のサラリーマンっぽいけど、雰囲気はヤバそうだ。


「なるほど……では君たちが、あの剣の話で来たと? 入ってくれ」


男の声は、低くて落ち着いてる。屋敷の中は、畳の匂いがフワッと漂い、障子の隙間から陽射しがチラチラ漏れる。焔華は、赤い目で男をジロリと睨む。狐耳がピクッと動いて、なんか空気がビリッと張り詰める。


「ふん! お主が、ノブナガの家臣の血じゃな? 妾は焔華、四国大妖狐。三明剣最後の一振、顕明連。どこじゃ? さっさと返すがよい!」


焔華の声は、ドス黒い威圧感を放つが、男はビクともしねぇ。静かに微笑んで、奥の部屋に案内する。


「焔華殿……驚いたが、まさか本物の伝説の大妖狐か。聞いたことはある。うちの先祖が、ノブナガ様の命で関わったという剣だ。確かに、ここにあるよ」


部屋の奥、木箱に綺麗に収まった顕明連。三明剣の最後の一振、見た目は確かにボロボロだけど、なんか……空気が重い。焔華が口を開いた。


「家臣の先祖とやら、問おう。お主の一族は顕明連を、今後も、必ず守り抜く覚悟が本当にあるか?」


男は答えた。


「ええ、ありますとも。我々の家系は、あれに直接触れることは決して許されておりませんが、代々口外せず、大切に守り抜くよう伝わっております故」


焔華は、剣の前に立つと、赤い目がギラッと光った。狐耳がピクッと動いて、ワンピの裾がヒラッと揺れる。


「ふむ。しかと聞いたぞ。ヨシノブ、刮目せい。妾、この剣の霊気を、抜き取るぞよ。ガワは……ふん、こやつらの血に免じて残してやる。お主も、あの巫女に似ておる。ま、この剣を見るに、少なくとも悪い奴ではなかろ」


焔華が手をサッっと振り上げると、ドス黒い煙がスーッと漂い、硫黄の匂いがムワッと鼻を刺した。剣が一瞬グニャリと揺らめき、青白い光がチラチラ漏れ出して、焔華の手にスーッと吸い込まれる。男は、静かに見守っていた。オイオイ、マジかよ。みんな大人なんだな。俺は、何か起こるんじゃねえかと冷や汗ダラダラで固まるのに。ヤバいだろ、こいつマジで妖怪だぞ。大体、もしバレたらどうすんだ!?


「……終わったぞよ。ヨシノブ、家臣の血の者、礼を言う。剣のガワはこの通り、残してやったぞ」


焔華の声は、なんか落ち着いてる。男が小さく頷く。


「ありがとう、焔華殿。正直、妖怪なんて誰も信じていなかったと思う。しかし本物を見て、確信しました。うちの先祖が……君を封じるのに手を貸した。申し訳なかった。よければ、今夜は泊って行ってください」


男の言葉に、焔華の赤い目がチラッと揺れる。狐耳がピクッと下がって、小さい手がワンピの裾をギュッと握る。やっぱり、優しい妖怪だったんだろうな、コイツ。


「ふん……ノブナガめ、奴は所詮、妾を陰で封じた卑怯者じゃ。だが、お主、お前は悪くはない。まぁ、いいじゃろ」


---


月光が庭の石をキラキラ照らし、虫の声がチチッと響く。夕立の後、焔華と男は、縁側でポツポツ話してる。俺は、部屋の隅で布団にくるまって、耳を澄ました。焔華は、キツネのぬいぐるみをギュッと抱いて、赤い目が月をジッと見つめる。


「ノブナガの家臣の血よ……お主の先祖は、妾を封じる時、どんな気持ちだったのじゃろうな? 巫女のあの女は、泣きながら剣を握っておった」


焔華の声は、やっぱり震えてる。男は、静かに答える。


「ご先祖の記録では……第六天魔王の命令だった。正しい記録とは思えなかったが、妖怪を絶滅させ、正しき人の世を築くためだと。だが、先祖も心を痛めたようです。絵巻には君のような大きな力を持った妖怪と、ともに宴を開く場面がありました。人も妖怪も、ただ一方的に悪と決めつけるのは……間違ってたかもしれない」


焔華の狐耳が、ピクッと下がる。赤い目が、チラッと濡れたみたいに光る。俺は、胸がキリキリ締め付けられる。1400年前の裏切り、巫女、ノブナガ……だいぶ繋がった。


---


朝靄が屋敷の庭にモヤモヤ漂い、鳥のさえずりがチチッと響く。俺と焔華は、男に見送られて屋敷を後にする。焔華は、ぬいぐるみをギュッと抱いて、男に黙って手を振ってトコトコ歩く。狐耳がピクピク動いて、なんか……いつもより更に静かだ。


「ヨシノブ、のう。三明剣、ついに全部の霊気を取り戻したぞよ。これで妾の力が……ふん、これでもまだ完全に戻ったわけではないが、ま、悪くないじゃろ」


焔華の声は、なんか穏やかだ。急に大人っぽく感じる。俺は、ゴクリと唾を飲んで、リュックをガシッと背負う。


「な、なぁ、焔華。全部の剣、集めたけど……次は何だ? お前まさか、ほんとにこの国全部、焼き尽くす気なのか?」


焔華がニヤリと犬歯を見せる。赤い目が、まるで炎みたいにギラリと光る。


「ふん! ヨシノブ、お主、ビビりすぎじゃな! 妾の真の力が戻った今……ハハ、その気になればな。じゃがまぁ、もう少し様子を見るのも悪くないじゃろ。お主は、妾の霊使じゃ。しばらくは、この面白い世を、楽しませてもらうぞよ!」


焔華の笑い声が京都の路地に響き、俺の心臓がドクドクうるさい。まだなんかするつもりなのか。三明剣、巫女、ノブナガの家臣……この夏休み、まだまだただの冒険じゃ終わらねぇ気がする。焔華の執念と俺の人生、どこに転がってくんだろうな。


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