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第十話:獄焔のさだめ


京都の夏、ジメジメした空気が肌にベタベタ絡みつき、蝉のミンミンって鳴き声が耳に刺さる。俺、ヨシノブは、こんな歴史的な街で1400年前の大妖狐と一緒に温泉やら祭りをハシゴしてるなんて、人生マジで何が起きるか分からねえ。焔華は、ピンクのフリルワンピと帽子で狐耳を飾りに偽装して隠してるけど、普通にピクピク動いてる。コイツは、ついに伝説の三明剣の霊気を全部取り戻して、霊力が別人級にパワーアップしてる。もうヤバい。導火線に火がついたダイナマイトを抱えて歩いてるみたいだ。赤い目がギラリと光るたび、空気がビリビリ震えるような威圧感。10歳のガキに見えるのに、なんか……いつでもあの妖艶な姿に戻れそうな雰囲気だ。


「ヨシノブ、のう! この『きょうと』は、実に面白い場所じゃ! 特に温泉、祭り……ふん、妾の伊予国を思い出すぞよ! ほれ、次はここに、さっさと行くのじゃ!」


焔華のいつもの口調が、京都の路地にキンキン響く。小さい体がトコトコ歩き、狐耳が帽子の上でピクッと動く。コイツ、ノーパンのワンピでウキウキしてるけど、俺の心臓はバクバクだ。つか、温泉? こいつ温泉って言ったのか? 大丈夫かよ。祭りは、まあ……。京都の祭りはすげえからな。しかし、三明剣揃えた後なのに、なんでこんな観光気分なんだよ!


---


山奥の温泉は、貸切で助かった。湯煙がモクモク立ち上り、硫黄の匂いがムワッと鼻を刺す。木々の隙間から陽射しがチラチラ漏れ、湯面がキラキラ揺れる。昼間の温泉も悪くない。ただ、目の前の……異様な光景を除けば、だが。焔華は、ワンピをバッと脱ぎ捨て、ドボンと湯に飛び込む。狐耳がブルブル動いて、銀髪が湯にサラサラ広がる。俺は、顔真っ赤にしてタオルで隠しながら、静かに移動して端っこで浸かる。


「ふん! ヨシノブ、なんじゃお主、男児の癖にビビりすぎじゃ! ああ! この湯、実によいのじゃ! 伊予国の秘湯を思い出すぞよ! あの巫女と笑い合った日々はのう……ハハ、これも悪くないじゃ!」


焔華の声は、なんか懐かしげだ。赤い目が湯煙越しにキラリと光る。コイツ、1400年前の巫女との思い出が、ほんとに忘れられねぇんだな。俺は、ゴクリと唾を飲んで、目の前の白い尻と湯の熱さにクラクラしながら呟く。


「なぁ、焔華。温泉はさ、まあいいけど……三明剣、全部揃っただろ? この後は何だ? まさか、ほんとに満足したら国を焼き尽くすとか……」


焔華がケラケラ笑い、湯をバシャバシャ跳ね上げる。狐耳がピクッと動いて、赤い目がニヤリと光る。


「ふん! ヨシノブ、お主、ビビりすぎじゃ! そんなことはせん。妾に真の力が戻った今は……ハハ、まずはこの『きょうと』の祭りを楽しむのじゃ! ほれ、次はさっさと祭りに行くための着物の話を、進めるのじゃ!」


---


京都の祇園祭、すげぇ人混みだ。予想の100倍は人がいる。山鉾がドーンと通りを埋め、太鼓のドンドンって音が腹に響く。無限に並ぶかのような屋台の、たこ焼きや焼きそばの匂いがムワッと漂い、浴衣や着物の群衆がガヤガヤ騒ぐ。焔華は、外人に人気のレンタル着物の店で選んだ赤と金の着物をバッチリ着こなして、170cmの妖艶な姿に変身した。流石に尻尾はヤバいと思ったけど、これだけ人がいればなんとかなるだろ。9つの尾はフサフサ揺れ、長い銀髪がサラサラ流れる。赤い目がギラリと光り、長い爪がチラッと陽射しを反射する。コイツ、祭りのコスプレだと思われて、外国人観光客に写真ガンガン撮られてる。狐耳も尾も、今ならアクセサリー扱いでバレねぇ。すげぇな、京都。


「ハハ! どうじゃヨシノブ、見たか! この着物、妾の真の姿にピッタリじゃ! 人間どもの祭りとお主のかめらと同じような光るカラクリ、悪くないぞよ!」


焔華が着物の袖をヒラヒラさせて、屋台のたこ焼きをパクッと頬張る。マヨネーズが唇にちょこっとついて、なんか……エロい。いや、ダメだ、こんなん思ったらヤバイ。 俺は、冷や汗をダラダラ流しながら、とりあえずたこ焼きをガツガツ食う。


「焔華、祭りは楽しそうで何よりだけど……剣が揃って、祭りも行った。次は何だよ? お前絶対、なんか、企んでんだろ?」


焔華の赤い目が、チラッと揺れる。たこ焼きを咥えたまま、祭りの喧騒をジッと見つめる。なんか……空気が重くなった。


「ふん……ヨシノブ、妾の真の目的、そろそろ話す時じゃな。だが、まずは……ほれ、次はこの『送り火』とやらを見るぞよ」


---


京都の山、送り火の炎がドーンと大の字に燃える。夜空に星がキラキラ瞬き、松の燃えるパチパチって音が響く。俺と焔華は、遠くの丘の上に座って、炎を見つめる。焔華は、着物のまま本来の姿で、9つの尾がフサフサ揺れる。ヤバい、そろそろ怪しまれそう。赤い目は、送り火の炎をジッと見つめて、なんか……決意したような顔をしていた。


「ヨシノブ、のう。三明剣は、確かに全部揃った。妾の霊力も、ここまでの旅でようやくほぼ完全に戻ったぞよ。その気なら国も焼き払える。だがな……ふん、この剣には契約があるのじゃ」


焔華の声は、夜の空気に低く響いた。俺は、心臓がドクンと跳ねて、冷や汗がツーッと背中を滑る。契約? 初めて聞いたぞ、何だよ、それ!?


「契約って……何だよ、焔華? 剣、全部集めたんだろ? もう終わりじゃねぇの?」


焔華がニヤリと犬歯を見せる。次の瞬間、ドス黒い煙がブワッと巻き上がり、硫黄の匂いがムワッと鼻を刺す。焔華の手元に、三明剣の霊気が青白い光としてチラチラ浮かぶ。なんじゃこりゃ、剣の形じゃねぇ……霊気そのものが、まるで炎みたいに揺らめく。明らかにヤバすぎるパワーがある。人間の俺でもわかる。


「ヨシノブ、お主は、妾の霊使として三明剣を集めた。だが、この剣は、真の契約者を選ぶのじゃ。そして今……お主が、選ばれた」


焔華の赤い目が、紫色にギラリと光る。俺は、息が止まった。選ばれた? 何!? 次の瞬間、焔華の声がドスンと胸を突く。


「三明剣の契約者、ヨシノブよ。妾を……この剣で討て」


焔華はがばっと着物をはだけて、上半身が露わになる。すげえ……綺麗だ。って、そうじゃない。


「は!? 何!? 討つ!? お前を!? ふざけんな、焔華! 何だよ、それ! ちゃんと説明してくれよ!」


俺は、ガバッと立ち上がって、叫んだ。心臓がバクバク暴れて、頭ん中が急にグチャグチャになった。焔華は、静かに微笑んだ。着物の袖がヒラッと揺れ、9つの尾がフサフサ動く。


「ふん、ビビるな、ヨシノブ。妾は、三明剣の霊気を集めたが、見ての通りこれで完全ではない。じゃが今のこの剣ならば、妾の霊力を滅するだけの力を持つ。1400年前、巫女が妾を封じたように……今度は、お主が妾を完全に討てば、妾は、真に自由になる。ハハ、怖いか?」


焔華の声は、なんか寂しげ。紫色の目が、星空をチラッと見上げる。俺は、ゴクリと唾を飲んで、冷や汗がダラダラ流れる。討つ? 焔華を? この夏、たこ焼き食って、ゲーセン行って、温泉入って、祭りでハシャいだコイツを!? 巫女の裏切り、ノブナガの野望……全部、頭ん中でグルグル回る。


「焔華……お前、お前はほんとにそれでいいのかよ!? 討つって……それ、マジで死ぬんじゃねぇのか?」


「ハハ! ヨシノブ、お主は、甘い、甘いのう。妾は大妖狐、霊力が尽きねば本来は死なん。じゃが、今のこの剣で討たれれば、妾の霊力は……ふん、妖怪が何であるかはもう知ったはずじゃ。妾は、この器を捨て新たな形になるのじゃ。お主は、妾の霊使じゃろ? 信じろ、ヨシノブ」


焔華がグイッと俺の手を握る。ヒンヤリ冷たいのに、ジワッと熱い霊体の感触。青白い剣の霊気が、俺の手にスーッと移る。重い。めっちゃ重い。すげえ剣だ、確かに街を焼き払えるかもしれねえ。俺は、急に起こった状況に思考がついていけなくて、心臓がドクドク鳴って、星空がグルグル回って見える。


「焔華……ダメだ、俺、こんなの……できねぇよ……」


「ふん! ヨシノブ、お主、妾とこの夏を過ごしたじゃろ。悪くなかったぞよ。たこ焼き、祭り、温泉……妾、楽しかったぞよ。お主なら、できる。妾を、自由にしてくれ。あのヌイグルミはくれてやる。大事にするがよい」


焔華の紫色の目が、チラッと濡れる。狐耳がピクッと下がり、9つの尾が静かに揺れる。俺は、胸がキリキリ締め付けられた。殺せって? 冗談じゃない。1400年前の巫女、ノブナガ、三明剣……この夏休み、ただの冒険じゃなかった。焔華の宿命、俺の選択。終わらせる旅だったってのか。俺が、封印を解いたからか。


星空の下、送り火の炎がパチパチ燃える。焔華の着物がヒラヒラ揺れ、俺の手の中の剣の霊気がビリビリ震える。まだ、終わらねえ。ここで終わらせたく、ねえ。


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