第78話:読めない提案
ラインハルトの妹の体調のことに話し終える。
「で、殿下! お待ちください!」
そんな時だった。
控えていた女騎士アイナスが声を上げる。
「今日だけは言わせてください! この男は殿下に対して、あまりにも無礼すぎます!」
アイナスは腰に剣を置きながら激情をあらわにする。
二年前にラインハルトに出会った時から、彼女はオレに対してきつい態度を出してくるのだ。
「アイナス、止めておけ。いつも言っているが、フィンは私の唯一の友なのだ」
「ゆ、唯一の友ですと⁉ 殿下ほどの方が、どうしてそこまで対等に扱うのですか⁉ 殿下は偉大なる我らがマルレーン王国の王子なのですよ⁉ わ、私はこんな奴は絶対に認めません! 意見いたします! これは副官としての数少ない権限です!」
書物で見たことがあるが、この王国の騎士団の副団長は唯一、団長に対して意見を申す権利を有している。アイナスは今まさに発動しているものだ。
だが普通はこんな個人的なことでは使わないもの。だが周りが見えなくなるほど、アイナスは感情を乱していた。
「副団長の権限を出されたか。それは困ったな。さて、どうしたものか」
発現とは裏腹に、ラインハルトはあまり困ってはいない様子。慣れた様子で部下の怒りを受け止めている。
「……ん、そうだ。フィン、時間はまだあるか?」
「時間ですか? はい、多少なら大丈夫です」
隣の部屋の様子的に、マリーとサラエラ姫の話は盛り上がっていた。兄であるラインハルトが許す限り、彼女たちの話の時間はある。
つまりオレの待機時間もまだあるのだ。
「そうか。それならこのアイナスと“一戦”を交えてもらえないか? 王宮の訓練場に模擬戦を。いや、お前にとっては遊びと同じになるだろうが、どうだ?」
「模擬戦はできませんが、遊びならオレは別に構いません。でも、急にどうして?」
ギルド職員でしかないオレは、模擬戦などしたことはない。だが聡明な王子でありラインハルトの提案なら意図が何かあるのだろう。断らないことにする。
「フィンは受けてくれるそうだ。アイナス、お前はどうだ?」
「はい、もちろんです! この無礼で不遜な男に、我が騎士団の厳しさを叩きこんでやれる絶好の機会をありがとうございます、ラインハルト様!」
アイナスは両目に火を宿らせながら了承する。
まるで『ついに仇である男を分からせることができる!』かのようにオレのことを睨んできた。
「よし、両者の承諾は得られた。では訓練場に行くとするか」
こうしてラインハルトの意図の分からぬまま、オレは模擬戦へと巻き込まれるのであった。




