第74話:偶然ならぬ再会
王政依頼の説明会からの帰路、王宮の廊下で顔見知りの人物が近づいてきた。
やってきたのは《王国竜鎖騎士団》総団長であり、この王国の第二王子ラインハルト=ソル=エーゲルハイトだった。
「ひっ⁉ ラ、ラ、ラインハルト殿下様が、また降臨を⁉ ど、どうしよう⁉」
まさかの王子との遭遇に、マリーは変な敬語で声を上げる。手足をバタバタさせながら必死で頭を下げて、おじぎのポーズをとる。
オレも頭を軽く下げて礼の姿勢をとる。
「こんなところで会うとは奇遇だな、フィン? それに上司のマリーだったか」
「ラインハルト殿下、先日はお世話になりました。あと、ここで出会ったのも、奇遇ではないかもしれませんね?」
騎士団長も兼任している第二王子ともなれば、毎日が公務で忙しい身分。こうして“オレが訪れた王宮に、偶然ばったり出会う”などあり得ない確率だ。
つまり、オレたちが王政依頼の説明会で登城のことを、この王子は知っていた。
いや……今回の王政依頼で、ボロン冒険者ギルドを推薦した当人である可能性が高いのだ。
「はっはっは……相変わらず鋭い奴だな、お前は」
「いえいえ。オレの王家での顔見知りはラインハルト殿下くらいしかいません。簡単な推測です」
「そうだったな。あと、いつも言っているが私のことは『殿下』などと他人行儀で呼ぶなと、言っていただろう? 我が友フィンよ」
「かしこまりました……ラインハルトさん」
この第二王子は二年前に王都で偶然、出会った時から何かとオレに親身になってくれる。
本来なら市民であるオレが、王子を『さん付け』で呼ぶことと不敬罪にあたる。
だが当人であるラインハルトからの命令なので、オレも仕方がなく『さん付け』で呼んでいるのだ。
「キ、キサマ……」
だが一方でオレの待遇を快く思わない者もいる。今もラインハルトに付き添っている、鬼の形相をしている女騎士アイナスだ。
「わ、我が主君ラインハルト様を……『さん付け』だと⁉」
アイナスとも出会ったのも二年前。ラインハルトのことを気軽に呼ぶことを、毎回のように憤慨しているのだ。
「身の程を知らない、何という無礼者め! 今日こそは、その不遜な心を正してやる!」
整ったアイナスの顔の眉間にしわがよる。腰の剣の柄に手をやり、今にも斬りかかってくる勢いだ。
「――――ひっ⁉ ど、どうしよう⁉ いや、たしかに王子様のことを『さん付け』にするフィンさんは悪いけど、でも私も処罰されちゃうの⁉」
近くにいたマリーにも、アイナスの殺気は突き刺さる。マリーは顔を真っ青にさせながらあわあわしていた。
この王国では騎士に市民が処罰されても、騎士は罪に問われない法があるのだ。
「アイナス、止めておけ。“そんなもの”など、フィンには意味はないぞ」
「ん? ど、どういうことですか、ラインハルト様?」
「それにこの男に対等な立場を命じたのは私当人である。水に流してやってくれないか、アイナス」
「はっ! ラインハルト様がそう仰るのなら、この場は……くっ」
大事な主君に言われ、アイナスは剣の柄から手を放す。だが鬼のような形相でオレを睨んでくることは止めない。
おそらく彼女は真面目な性格で、本当に主君のことを大事に思っていることが伺える。だからオレも彼女のことは嫌いではない。
「さて、配下が失礼したな、フィン」
「いえ、気になさらずに。ところで今回はどのような“用件”でしょうか?」
ラインハルトは冷酷な王子という噂もあるが、実際には聡明で思慮深い性格。
そんな賢い男がただオレと雑談をするために、王政依頼に推薦するはずはない。つまり、この廊下での再会にも、何か相手の意図があるのだ。
「はっはっは……あまり、そう身構えるな。今回の王政依頼は何やらキナ臭いがしていたから、有能なお前を推薦しただけだ」
「そうだったんですか。寛大な評価、感謝します」
「あと、友であるお前をこうして話をすることは、私にとって何より大事なことだからな。そういえば今時間は少しあるか?」
「はい、多少なら」
本来なら今すぐ自分たちのギルドに戻って、今回の王政依頼の対策をマリーとたてたいところ。
だが推薦人でもある王子の誘いは無下にもできない。午後のスケジュールを調整することで、時間を生み出すことにした。
「それは良かった。それなら一緒に来てくれ、紹介した者がいる。もちろん上司のマリーと一緒に」
「紹介した者、ですか?」
「ああ、そうだ。この王宮の別の建物いる王族……私の妹だ」
「えっ⁉ 第二王子であるラインハルト殿下の妹様ってことは……王国のお姫様⁉ えっ、私も会いにいく⁉」
こうしてマリーとの驚愕の叫び声と共に、オレたちは王女に面会をすることになった。




