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第68話:新たなる来訪者

 師匠ララエルが順調に働き始めた、ある日。

 登録冒険者である女魔術師エレーナが来店。師匠と一触即発の状態になるが、何故か急に仲が良くなる。


「フィンの隣に立てるような、立派な女性……お嫁さんになれるように、これからますます精進してまいります! お母様! それではさっそく、花嫁修業に出かけてまいりますわ!」


 エレーナは依頼書の一つを手に取り、ギルドを後にする。魔物狩りの依頼に行くのに、花嫁修業とはどういう意味だろうか?


 もしかしたら彼女の生まれ故郷の言い回しかなのかもしれない。あまり気にしないでおく。


「ふむ。あのエレーナというおなごは人族の中でも中々、物分かりがいい奴じゃのう。まだ未熟じゃが魔力の潜在能力も高いから、《魔化》させたら面白いかもな。どれ、フィンの花嫁候補の一人にどうじゃ?」


「何の冗談を言っているんですか、師匠。エレーナさんは大事なお客様なんでよ」


 いきなり花嫁候補と言われてもピンとこない。それにギルド職員と登録冒険者とは、基本的に恋愛はご法度なのだ。


「それに彼女の方はオレに対して、何も抱いていませんよ」


 こう見えてオレは、他人の感情に関して敏感である自負がある。一応は冒険者のプロの職員。顧客や他人の感情には敏感なのだ。


「えっ? え――――フィンさん。もしかしてエレーナさんからの“あからさまな好意に”気が付いていなかったんですか⁉」


 そんな時、話を聞いていたマリーが目を丸くして話しに加わってくる。


「ん? “あからさまな好意に”ですか? 彼女の場合は社交辞令ですよ、オーナー」


「そ、そうですか……フィンさんって、頭の回転が速くて切れ者なイメージがあったけど、もしかしたら恋愛とかの常識は、一般の常識とはかけ離れているのかも⁉」


「おや、どうしたマリー殿? もしかしたらオヌシもフィンの花嫁候補に加わりたいのか? あまり素質は無さそうじゃが、マリー殿には恩がある。一夫多妻制として花嫁候補に加えてやってもよいぞ!」


「ちょ、ちょっと、ララエルさん⁉ 何をいきなり言い出すんですか⁉ そりゃ、フィンさんには大きな恩もあるし、フィンさんの見た目は長身でクールでカッコイイ系でが、どう考えてもプライベートまで一緒に暮らしたら、私のキャパはパンクしてしまいますよ⁉」


「はっはっは……心配は無用じゃ! 最愛の息子フィンの幸せのためなら、(わらわ)らも全面的に協力するぞ!」


「いえいえ、そういう話じゃなくて⁉」


 何やら師匠とマリーは、また雑談で楽しく盛り上がっている。本来は経営者と従業員が、店内で雑談をするのは好ましくない。


 だが今はちょうど客の来店も落ち着いたところ。スタッフ間のコミュニケーションの時間として、オレのほうっておくことにした。


「仕方がないな……ん?」


 そんな時であった。

 店の前に何かが到着する気配を感じる。雰囲気的に馬車が停まったのだろう。

 だがこんな下町の外れに馬車がやってくることは滅多にない。


 馬車から人の気配が店内に入ってくる。


「ふむ。ここがボロン冒険者ギルドか? 噂以上にひどいな。はぁ……低ランクギルドはこれだから……」


 ため息をつきながら、店内に入ってきたのは一人の男。今まで見たことがない顔だ。

 あからさまに嫌そうな顔をしながら、店内を見回している。


「あっ、いらっしゃいませ!」


 新規客の来店にマリーは、ララエルとの雑談を中断。営業スマイルで、不機嫌そうな客に挨拶をする。


「なんだ、この小娘は? 吾輩は客などではない」


「えっ……といいますと?」


 いきなり小娘呼ばわりされても、マリーは不快感を顔には出さない。むしろ低姿勢で相手の要件を伺う。


「この衣装と紋章を見ても気が付ないのは⁉ はぁ……これだから教養のない愚民への仕事は疲れるのだ」

「……勉強不足で申し訳ありません。ところで、どちら様しょうか?」


「それなら教授してやろう。吾輩は王宮執政官のイバリー・バルサンである! このギルドの経営者を王政依頼のために、偉大なる王宮に呼びにきたのだ!」


 やってきた横柄な男は国に仕える役人。

 こうしてボロン冒険者ギルドは新たなる問題へと巻き込まれていくのであった。


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