第63話:師匠の姿
腰に手を当ててドヤ顔している幼女。
オレの師匠であり育ての親であるララエルが突然、王都にやってきた。
師匠が出現した時の騒ぎの証拠は、なんとか隠滅しておいた。
「え? 角? 幼女? 何を言っているのお姉ちゃん? たしかにララエルさんは少し若く見えるけど。あと角なんてものが生えている訳ないじゃない?」
「えっ⁉ レオンには見えていないの⁉ もしかして私の目の錯覚⁉ いえ、違うわよ! たしかにあるじゃない⁉」
だが弟レオンと話ながらマリーは何やら騒いでいた。二人の目から見た師匠の姿に差異があるのが原因らしい。
これは混乱しているマリーに説明してやる必要があるな。
「オーナー、レオンが言ってことも間違っていません。師匠は基本的に《認識阻害》の術を発動しています。そのため普通の人には『角の生えていない銀髪褐色の若めの女性』にしか見えていません」
「えっ……? それってつまり、私の見えているように『角の生えている銀髪褐色の六歳くらいの幼女』が正解だってこと⁉」
「はい、今はそうです。でも本当は違う姿が師匠の“本来の姿”ですが」
師匠と一緒に暮らしていた時、彼女は二十代の麗しい容姿の銀髪褐色の女性の姿が基本形態。頭には今より大きく立派な二対の角があった。
だが師匠は極端な人見知り。そのため何パターンもの色んな姿に擬態や変身が可能なのだ。
その中でも特殊な姿は『まるで世界を破滅させる破壊者のような姿』だけ。背中に六枚の翼を生やし、姿も人型っぽくない。
あと今回の幼女の姿も、あまりオレも見たことがないな。どうして、こんな特殊な格好で王都に来たのだろうか?
「おや? そちらのマリーという小娘は、ワシの認識阻害が少し効いていないみたいじゃのう? どう見ても“なんの魔術師の才能もない平凡な愚民”にしか見えないのに、これは不思議なことじゃのう? もしやフィンの側にいた影響かもしれんのう?」
「そ、そうだったんですか⁉ 私は“なんの魔術師の才能もない平凡な”ことは自覚しているけど、やっぱりフィンさんの側にいたことで、悪影響がでていたの⁉ はぁ……今度、大神殿にお払いにいってこようかな……」
「はっはっは……諦めるのじゃ、小娘よ! ワシら親子の偉大なる力は、大神殿の連中ごときではどうにもならんからのう!」
「うっ……そ、そんな……」
何やらマリーは涙目だが、師匠と楽しそうに話をしている。初対面だが性格が合うのかもしれない。
だが今は上司と師匠をずっと雑談させている暇はない。
「話の途中でもすみません。ところで師匠、どうしていきなり王都に? 人が多いところはあれほど嫌っていたのに?」
先ほど外で話せなかった本題を訪ねる。
なぜなら師匠は王都から遠く離れた自宅にいたはずだ。
しかもこの人は極度の人見知り。滅多なことでは人里には出ていかない。
そのため一緒に生活していた時も、自給自足できない生活必需品は、オレが近隣の村まで買い出しに出ていたぐらいなのだ。
「もしかしてオレがいない間に、“極度の人混み苦手”を克服できたんですか?」
「ふん! 何を言っているのじゃ。ワシの“人混み嫌い”は呪いのようなもんじゃ。一生直ることは叶わん! だから今回はこの擬態に変身して、緩和してきたのじゃ!」
「なるほど、そうだったんですか」
人混み嫌いが呪いの一種だった場合、擬態を行うことで軽減は可能。
だが代償として外見が幼稚化して、能力も極端に制限がかかる。口調が変になっているのも、幼女に擬態した後遺症なのだろう。
「その姿の理由は分かりました。でも、なぜ、今日ここに?」
一番の理由を訪ねる。オレは二年前に家を出て、独り立ちをしていた。別れの挨拶も“ちゃんと”してきた。
一応は育ての親である師匠でも、いきなり訊ねてくる理由が謎なのだ。
「今日ここに来た理由は簡単じゃ! 今まで自由に動けんかったからのう……だがオヌシの封印から、先日ようやく脱出して、魔力の痕跡を探って、ひとっ飛びしてきたという訳じゃ!」
「封印? ああ、そういうことか」
言われて思い出す。
今から二年前、師匠と同居していたオレは『人里に出て、普通の人のように街で働く』と言い出した。
だが師匠は『な、何を言っているのだ、フィン⁉ 人里などと危険な場所に行くことは、そんなことは絶対に許さん!』と自分のわがままだけで大反対してきた。
『それでも出ていくというなら、ワシのことを倒してからいけ!』『ふう……仕方がないな。それならいきますよ、師匠』みたいな事態へ。
そこから師匠との七日間の親子喧嘩が幕を開けた。
近隣の山や森を何個かを、親子喧嘩の影響で破壊してしまったような気がする。
最終的には師匠が大人げなく『まるで世界を破滅させる破壊者のような姿』に変身しようとしたから、オレは《対師匠用の封印魔法》を仕方がなく発動。
虚無の世界に師匠を封印。
その後、いちおう置き手紙をして、王都へ向けて働きに出たのだ。
「えっ? えっ……フィンさん、育ての親を封印しちゃったんですか⁉ 二年間も⁉」
「ええ、そうですが、それがどうかしましたか、オーナー? 我が家では普通でしたが。王都での親子喧嘩でも『クローゼットの中にお仕置きで閉じ込めておく』と聞いたことがあるので、よくことでは?」
「そうじゃぞ、小娘! 我が家ではその程度の封印や破壊など、弱肉強食の日常茶飯事じゃぞ! はっはっは……」
「うっ……この親子の常識と日常茶飯事って……」
我が家の家庭の事情を聞いて、マリーは何やら深いため息をついている。
もしかしたら我が家の事情は、少し変わっているのかもしれないな。聞いて呆れているのかもしれない。
「さて、師匠。話を戻しますけど、こんな所まできて、どうするつもりですか? もしや王都観光の案内でも?」
「何を言っているのじゃ、フィン! 母親が愛息子を追ってきた理由は一つしかあるまい! 未熟なオヌシを連れ戻しにきたのじゃ!」
「連れ戻しに?」
「ああ、そうじゃ! 今度は実力行使で、どんな手段でも連れてかえるぞ!」
こうして過保護すぎる育ての親によって、オレは強制帰還の危機に陥るのであった。




