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第55話:顔を見せない調査員

 昼食時間を終えたオレたちは、現在ギルドで一番の問題である《冒険者ギルドランク特別昇格試験》の対策を行うことにした。


 今はまだ営業中だが、受付には頼もしいレオンとクルシュがいる。オレはマリーと受付の奥で話をすることにした。


「では、オーナー、よろしくお願いします」

「こちらこそ。特別昇格試験か……でも今のところ、まだ試験官らしき人は来てないですよね? 本当にあるのかな?」


 マリーが首を傾げるのも無理はない。

 協会の副理事長ゼノスから通達があってから数日が経っている。だが今のところボロン冒険者ギルドに、それらしき人物は来訪していないのだ。


「たしかにそうですね。オレの方でも調べおいた情報によると、特別昇格試験において特に、“それらしき試験官”は来ないみたいです」


 《冒険者ギルドランク特別昇格試験》は数段階の飛び昇格の時だけ行われる試験。

 そのため王都でもほとんど前例ないという。そのため、ここ数日間で“ちょっとした知り合い”から情報から集めておいたのだ。


「えっ、試験官らしき人が来ないんですか? それならどうやって試験が行われるんですか?」

「どうやら特別試験では、《覆面調査ミステリー・ショッパー》で調査を行うようです」

「えっ? 《覆面調査ミステリー・ショッパー》ですか?」

「はい。身分を隠して行う調査人のことです」


 初めて耳にするマリーに、詳しく説明をしていく。

 《覆面調査ミステリー・ショッパー》とは元々はサービスを改善するための手法だと。

 小売店や行政機関など対面販売を行っている店舗に、普通の客と行き店員やお店を項目・基準に沿ってチェックしていく方法なのだ。


 主に多店舗の経営者が、自分の各店舗の抜き打ち検査などに行う。今回は会員であるウチのギルドを、大元の冒険者ギルド協会が検査するのであろう。


「えっ……一般客を装っての調査って、それって対応の仕方が……」

「はい、特別な対応方法はありません。何しろ調査員は一般客を装うプロで、店舗側は決して見抜くことができないので」


 《覆面調査ミステリー・ショッパー》が優れている点は、その調査性能の公平な高さだ。

 普通の調査員が来るのなら店舗側は、その日、その時だけ気合を入れて営業対応していればいい。


 だが《覆面調査ミステリー・ショッパー》では調査員が、『いつ? どのようなタイミングで来店するか?』その全てが伏せられている。

 そのため店舗側では特別な対策を行うことが不可能。つまり店の本当の質が検査可能なのだ。


 客観的に見てもかなり優れた調査方法。

 もしもオレが多店舗の経営者なら、《覆面調査ミステリー・ショッパー》は定期的に各店舗の対して行うだろう。


 プロの調査員に依頼する経費はかかるが、定期的にチェックすることで、各店舗の店長は常に気を張って営業に励む必要がある。

 各店舗の営業の精度は高くなり、顧客満足度は向上。結果として調査費用を上回る売り上げ増加の効果が得られるのだ。


「た、たしかに、そうやって説明を受けると、《覆面調査ミステリー・ショッパー》はすごく効果的ですね。でも、実際に受けるとなると、これほど厄介な調査方法はないですね……あっ、もしかして、ここ数日ですでに覆面調査員が来店していて、調査が終わっていた可能性も⁉」


 自分の頭に浮かんできた可能性に、マリーが顔を真っ青にする。きっと彼女は仕事中にこっそりお菓子を食べていたことを、今思い出しているのかもしれない。


「いえ、覆面調査員はまだ来ていません。オレの情報によると告知から、最低でも十日後ではないと、調査員は動かないといいます」


  “ちょっとした知り合い”からは色んな情報を聞いていた。その中でも特に有益なのは調査期間について。

 《冒険者ギルドランク特別昇格試験》は告知か最低でも十日以降から開始。約三十日間の長期に渡って、色んな方面で調査をしていくという。


「な、なるほど、そうだったんですね! それはひと安心。というか、そんな極秘情報まで入手できるフィンさんの人材コネって……その“ちょっとした知り合い”の人のことも気になるけど、聞くのが怖いので聞かないでおこないと……とりあえず今日からは私も事務所でお菓子を食べることを控えておかないと!」


 いつものように何やら独り言をぶつやきながらも、マリーは覚悟を決めた顔になる。

 おそらく経営者として全身全霊で、特別昇格試験に挑む決意を新たにしたのであろう。こうして経営者の強い覚悟があるのはありがたいことだ。


「さすがですオーナー。では《覆面調査ミステリー・ショッパー》への特別な対策を提案していいです?」

「えっ? 試験に向けて対策? でも《覆面調査ミステリー・ショッパー》の対応策はない、ですよね?」


 マリーが疑問に思うのも無理はない。

 調査のプロが行う《覆面調査ミステリー・ショッパー》に対して有効な対策は、王都では今のところ誰も発見していない。

 せいぜいあるとしたら『毎日の営業を常に精度を高く行っていく』ぐらいしかないのだ。


「そうですね。普通に考えたら《覆面調査ミステリー・ショッパー》の対応策はありません。ですから対策ではなく、改善を更に加速していきましょう?」

「えっ、改善を加速ですか?」

「そうです。では簡単に説明をします」


 こうしてオーナーのマリーに説明をしていくのであった。


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