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冒険者ギルドのチート経営改革 魔神に育てられた事務青年、無自覚支援で大繁盛(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
第2章

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第56話:増設の計画の理由

 現在ギルドで一番の問題である《冒険者ギルドランク特別昇格試験》の対策を、オーナーのマリーを話し合うことに。


 オレの仕入れた情報によると、今回の試験の一つに、調査のプロが行う《覆面調査ミステリー・ショッパー》があるらしい。

 一般客を装うプロの調査員に対して有効な対策は、王都では今のところ誰も発見していない。

 だがオレが発見した策をマリーに伝えていく。


「普通に考えたら《覆面調査ミステリー・ショッパー》の対応策はありません。ですから“対策”ではなく、改善を更に加速していきましょう?」

「えっ、改善を加速ですか?」

「はい、そうです。現状を維持ばかりに心がけている店舗は、どうしても停滞している心証を、調査員に与えてしまいます。ですが職員全員が次なるステップを目指している店舗は、全員に活気が出て来店した者に好印象を与えます」


 店舗で働く者たちは魔道具ではなく、感情がある人だ。

 そのため自分たちの職場が上を目指していると、相乗効果で職員と職場にもモチベーションが向上していく。

 結果として来店者に『おっ? このギルド、なんか分からないけど、すごく活気と将来的があるぞ⁉』と好印象を与えるのだ。


「あっ、なるほど! そういうことですか! それは分かりやすいですね。私も人気のスイーツ店に行った時は、よく分からないけどワクワクして楽しくなって、来月の新メニューの告知を見たら、また行きたくなりますから!」


 自分の体験を思い出し、マリーは納得する。他の店の客として体験は、経営者として何より大きな経験値。

 彼女の場合は好きな甘味屋巡りが、今回の対応策にリンクしているのだろう。


「ん? でも今回はウチの経営改善のどこを? 今のところは順調そうな気がするけど?」


 マリーの指摘は正しい。

 ボロン冒険者ギルドは多くの幸運が重なり、現在の経営状態は順調だった。


 登録冒険者は日々増えており、薬師ヤハギンをはじめとする市民からの依頼も増加中。依頼の需要と供給のバランスが、とれてきているのだ。


「そうですね。依頼の受注と発注の部分は、今は手を加えない方がいいでしょう。ですから改善するのはギルドの設備“ハード面”です」

「えっ? ハード面? 設備になにか足りないものがありましたっけ?」


 ギルド内を見回しながら、マリーは首を傾げている。ボロン冒険者ギルドの店内はそれほど広くはないが、必要最低限のものは全てそろっている。


 受付カウンターと買い取りテーブル。依頼を張り出す掲示板など彼女の祖父の代から引き継いだ実務品ばかり。

 今のところ特に不足に感じている設備はないのだ。


「そうですね。オーナーの指摘のとおり最低限の設備はあります。ですが、それはあくまでも最低限でしかありません。だから今回追加するのはプラス設備……“付加価値”です」

「えっ? 付加価値……ですか?」


「はい。顧客満足度を更に高めていくために、新たなる設備を追加していきます。具体的な案として、ギルド併設の“酒場”を設置しましょう」


 オレは午前中に作成しておいた事業計画書を渡す。

 店内の改造地図をはじめ、ギルド酒場を設備追加するメリットを記入しておいてある。


「えっ、いつの間に、こんな詳細な計画書を⁉ 相変わらず凄いですね、フィンさん。ん?でも“酒場”をウチに作るんですか? たしかに大きな冒険者ギルドの中には、酒場が併設されているところもあるけど……でも、あれって本当に意味があるんですか?」


 事業計画書に目を通しながら、マリーは首を傾げる。

 ボロン冒険者ギルドは祖父の代から酒場は併設してこなかった。そのため併設する意味が実感でていないのだろう。


 こうした経営者が疑問に感じている場合は、無理に計画書を通すのは悪手。まずは経営者に理解してもらう必要があるのだ。


「そうですね、はっきりと言って、冒険者ギルドに酒場がある意味はありません。なぜなら別形態ですから」

「え――――⁉ そ、それなら、どうして酒場の併設を?」

「その理由は簡単です。他のギルドにとの競争に勝つためです」


 王都の人口は約二十万人で、約数千人の冒険者が住んでいるという。対する冒険者ギルドは大小さまざまな百件近くも点在している。


 はっきりといって現在は飽和状態。冒険者ギルド同士で客を奪い合う競争環境となっているのだ。


「今回の増設の目的は、冒険者が毎日利用する酒場によって、“来店動機”を増やして他店との差別化。他のギルドとの競争で優位に立つためです」


 冒険者の移籍は特に違法ではなく、日常茶飯事で行われている。

 現在のボロン冒険者ギルドは順調に増えているが、来月、来年に同じ上昇曲線を描いているとは限らない。

 命がけの冒険者たちは常に情報交換を行い、より条件の良いギルドへの移籍を虎視眈々と狙っているのだ。


「えっ……“来店動機”ですか? それって、どういう意味ですか?」

「そうですね。たとえばオーナーは『美味しい甘味があるカフェ』と『美味しい甘味もあるし、可愛い雑貨もあるカフェ』があったら、どっちに通いたくなりますか?」

「えっ? それはもちろん『可愛い雑貨もあるカフェ』! だって、行きたくなるじゃないですか! なんかお得だし! あっ……そういうこと⁉ 冒険者ギルドに酒場が併設って⁉」


 オレの出した質問に答えながら、マリーは顔をハッとさせる。今回の経営改善における一番のメリットを理解してくれたのだ。


「たしかに冒険者はお酒や料理が好きよね……なるほど、分かりました、フィンさん! ウチも是非とも酒場を増設しましょう! 私は素人なのでフィンさんに一任します!」


「了解しました、オーナー。事業計画書については既に顕密な部分までつめてあるので、早急に進めていきます」


 今回の酒場増設計画で大事なのはスピード感。数日後から来訪するであろう覆面調査員に対策として、早急に酒場増設を進めていく必要があるのだ。


「ふう……そうか。ウチにもついに酒場が増設されるのか……場所は隣の空き店舗を借りて、改造して何日もかかるのかな? 色々と準備は大変そうだけど、飲食店の利益率は高いって聞いたことがあるし、オープンが楽しみだな……あと、私の好みのスイーツとかも、カフェタイムに置いてもらって、オーナー特権で試食とか……えっへっへ……楽しみだな……」


 何やら口元からヨダレを流し、だらしない笑みをマリーは浮かべていた。

 おそらくは酒場部門に対して、経営者としてかなり期待をしているのであろう。これは任された身として期待に応える必要がある。


「さて、今回は時間がないから、今宵からさっそく“少しだけ急いで”着手するか……」


 こうしてギルドを更に進化させるために、オレは酒場の増設に着手するのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今宵からさっそくって(笑) 朝来たらドーンとかかな〜
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