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第51話(1章最終話):次なるステージへ

 ヒニリス調査官が立ち去った後、また誰からがギルドに来店する。

 今度はいったい誰だろうか。


「おお! いたな、フィン! 相変わらず仏頂面だな、お前は!」


 地鳴りのような大声と共に、やってきたのは巨漢の男性。筋肉隆々で熊のような強面の戦士ゼノスだ。


「おはようございます、ゼノス副理事長。仏頂面とは手厳しいですね」


 仕事中はなるべく営業スマイルを心がけているが、本来のオレはあまり感情を表に出すのが得意ではない。今後はもう少し色んな表情を出せるように修行をしていかないと。


 そんな時、カウンターの二人が、口を挟んでくる。


「恐れ入りますが、ゼノス様。何事にも動じないクールな表情は、フィン様の素敵なところでございます」


「そうですよ! どんな大事件を前にしても動じないのが、フィンさんのカッコイイところなんですよ!」


 クルシュとレオンはやや怒った感じで、オレの仏頂面のことを褒めてきた。なぜこんなにも褒められるか分からないが、人には色んな好みがるのだろう。


「がっはっはっは……そいつは悪かったな、二人とも。たしかに、コイツは仏頂面のクセに色んな所でモテるからな! 男も女、身分に関係なくな!」


 豪快な笑い声と共にゼノスまで同調する。褒めらることは嬉しいが、ここまで全肯定されると恥ずかしいこともある。

 とりあえずゼノスとの話を進めておこう。


「ところで副会長、今日はいったい何用ですか? 見たかんじだと、その書類を届けにきたようですが?」


「ああ、そうだったな! すっかり忘れていたところだ。コイツを経営者……嬢ちゃんに私にきたのだ!」


 ゼノスはこう見えて冒険者ギルド協会の副会長。今日は公務としてボロン冒険者ギルド経営者マリーに、書類を届けにきたのだという。


「えっ? 書類ですか? はい、たしかに受け取りましたけど、これはいったい……?」


 書類を受け取りマリーは首を傾げている。書類にはたくさんの内容が箇条書きで書かれており、いまいち内容が理解できないのだろう。

 これは職員として助け舟を出してやる必要がある。


「オーナー、それは《冒険者ギルドランク特別昇格試験》の案内書です」

「えっ……《冒険者ギルドランク特別昇格試験》? それって何ですか、フィンさん? 初めて聞く言葉だけど……」


 マリーはギルド経営者として経験が浅い。初めて耳にする言葉に、更に首を傾げる。


「オーナーは冒険者ギルドに《ギルドランク方式》があるのは知っていますよね?」


「ええ、もちろんよ! 私の目標は最低のランクFまで下がった当ギルドを、昔のようにランクDまで戻すのが夢なんらか!」


 マリーが興奮して口にしているように、大陸の冒険者ギルドには、最低Fから最高Sランクまで七段階の付け制度がある。


 ギルドランクを上げるためには、登録冒険者の力が必須。彼らがたくさん依頼を成功していくか、高難易度の依頼を達成していく度に、ギルド格付けポイントが溜まっていく。


 ある程度のポイントが溜まったら、次の月には上のランク昇格できる。またランクごとの毎月のポイントノルマが達成できなければ、降格する可能性もあるシステムだ。


「その通りです。普通は一段階ずつしかランクが上げることはできません。ですが短期間で急激な功績があったギルドに対して、飛び級式でギルドランクを上げることができる特別なシステムがあります。今回の特別試験のことです」


 ギルドの中には尋常ではない速度でポイント獲得するところもある。だが急激なポイント獲得と成長は、ギルド内部のキャパシティーオーバーを引き起こす危険性もある。

 そのため二段階以上のランク昇格の資格があるギルドは、《冒険者ギルドランク特別昇格試験》をクリアする必要がある。


 簡単に言うと『最近は調子がいいが、本当に高い資質を備えたギルドなのか?』という根本的なギルド運営をテストするシステムなのだ。


「な、なるほど、そういうシステムがあったんですね。おじいちゃんの代の時も縁がなかったから知らなかったわ。とにかく二段階昇格……ランクFのうちが、一気にランクDに昇格する大チャンスがやってきたのね!」


 特別の試験の内容を把握して、マリーのテンションが一気に上がる。先代のランクDに一気に到達するチャンスがやってきたのだ。


 だが書類をちゃんと確認していないマリーは、大きな勘違いをしている。訂正をしてやらないと。


「興奮のところ訂正します、オーナー。今回ウチの場合はランクDへの昇格試験ではありません」


「えっ⁉ ランクDに昇格のチャンスがないって、ことですか。フィンさん⁉ それじゃ、どこのランクに⁉」


「書類によると今回ウチが挑むのは『ランクB』への昇格試験です、オーナー」


「へっ……? ラ、ランクB……ですか?」


「はい、間違いありません。ここに明記されています」


 書類を隅々まで確認したが内容に誤りはない。《冒険者ギルドランク特別昇格試験》を合格したら、ボロン冒険者ギルドはランクFから一気に《ランクB》に昇格するのだ。


「ど、どういうことですか、ゼノスさん? もしかして……」


「ああ、そのとおりだ、嬢ちゃん! あんたのところのギルドは、ここ一ヶ月でランクFギルドではあり得ない超高ランクの依頼を何件も達成してきたのさ! 原因は、まぁ、嬢ちゃんの察しのとおりだ!」


「うっ……やっぱり、そういうことだったんですね。私もあまりに気にしないできたけど、フィンさんは次から次へと、あり得ない高ランクの依頼を受注してきて、まるで低ランクの依頼のように登録冒険者に依頼して成功させちゃっていましたからね……はぁ……やっぱり、そういうことか……」


 二人は何やら話をしながら、オレの方をチラチラ見てくる。特にマリーはブツブツ呟きながら、ため息を何度も吐き出している。

 話の内容は気になるが、経営者にしか話せない極秘の内容もある。いち職員であるオレは気にしないでおく。


「元気を出しな、嬢ちゃん! 四段階もの飛び級の《特別昇格試験》を行うのは、うちの協会でも初! 合格する確率は1%にも満たないがな!」


「えっ……合格率がい、1%未満なんですか⁉」


 マリーが驚くのも無理はない。

 《冒険者ギルドランク特別昇格試験》はギルドの総合的な経営力や潜在能力をテストするもの。テスト期間も長期に渡るために、かなりの難易度を誇る。

 更に今回の場合は前例のない四段階もの飛び級。ゼノスが口にした通り、難攻不落の課題が待ちかまえているに違いないのだ。


「どうする、嬢ちゃん? 自信がなかったら辞退してもいいんだぞ? その場合は一段階ずつ普通の昇格になるが?」


「い、いえ、挑戦させていただきます、副理事長! 今の私は悩まないことにしたんです! これもフィンさんのせいで感覚がマヒしたせいかもしれないですが、難易度1%未満の試験に挑戦します!」


 マリーは二つ返事で挑戦の返事をする。まるで怖いモノは他にはないという表情だ。


「ガッハッハ……! いい返事だ! それじゃ、協会の方に返事を出しておくぞ! それじゃ試験の内容は近日中に連絡するぞ!」


 了承の返事を受け取り、ゼノスは満足そうにギルドを立ち去っていく。豪快な笑い声はまだ耳に残る。相変わらずまるで台風のような男だ


 そんな静けさも一瞬で騒ぎに変わる。


「お、おい、聞いたか、今の話⁉」

「ああ、四段階の昇格試験に挑戦するんだってな、ここは⁉」

「ランクBのギルドになったら、一気に依頼も増えるぞ、これは⁉」

「ああ、だな! これはオレたちもやりがいが出てきたな!」


 騒ぎだしたのは話を聞いていたギルド内の冒険者たち。まるでお祭りのようにギルドの中が一気に騒ぎになる。

 何しろ冒険者ギルドランクの高さによって、公共機関から受注できる依頼も高くなってくる。つまり登録冒険者にも一攫千金の可能性が出てきたのだ。


「あっはっは……なんか、予想外のことになってきましたね……」

「そうですね、オーナー。ですが、ここからがギルド運営は本番です。気を引き締めていきましょう」


 噂によると《冒険者ギルドランク特別昇格試験》の内容は毎回変わるという。だが試さる部分はだいたい決まっている。

 ギルドの建物や設備、職員やサービス内容、登録冒険者の質など、試される分野は多岐に渡るのだ。


「そ、そんなに色んなことが試さる⁉ はぁ……勢いで受けたけど、なんか不安になってきました、私……」


「大丈夫です、オーナー。ほら、見てください。このギルド内の雰囲気なら、必ず合格できるはずです」


 これは嘘でもお世辞でもない。今のボロン冒険者ギルド内は素晴らしい雰囲気がある。特に少数だがスタッフは精鋭ぞろい。


 有能で職務に真面目に接している受付係のレオン。

 常に笑顔を絶やさず、冒険者たちを引き寄せる受付嬢のクルシュ。

 経験は浅いが誰よりも冒険者ギルドを愛する経営者マリー。


 そんな職員に引き寄せられるように集まった登録冒険者も、有能で明るい雰囲気の者が多い。

 まだ規模は小さく足りない設備もある。だがこれほど可能性を秘めた冒険者ギルドは、王都のどこにもないだろう。


「ん? この気配は……」


 そんな賑やかなギルド内に、更に騒がしい存在が二名やってきた。


「オッホホホ……! “我が愛しのフィン”、今日こそ愛に満ちた依頼を受けに来たわよ!」


「はっはっは……! 我が永遠の友フィンよ! 下町では、なんでも大暴れしたようだな! さすが我が永遠の好敵手!」


 やって来たのは露出度の高めの女魔術エレーナと、奇妙な口ひげタキシード姿の剣士ガラハッドだ。


「お、あの二人はまさか《剣聖》と《大賢者》⁉」

「どうして、あのSランクの冒険者が、こんなギルドに⁉」

「あの事務員は、いったい何者なんだ⁉」


 騒がしい二人の登場に、ギルド内のテンションは更にヒートアップしていく。冒険者たちはざわつき、まるでお祭り状態だ。


 そんなギルド内を見回しながら、マリーは深いため息をつく。


「ふう……そうですね。たしかに、この尋常じゃないメンツと雰囲気なら、何とかなりそうですね。それにフィンさんがいれば、どんな困難も朝飯前に思えてしまいますから、本当に私も感覚がマヒしてきましたよ」


 こうして廃業寸前だったボロン冒険者ギルドに、次なるステージへの昇格のチャンスがやってくる。


 待ちかまえているのは今まで以上の困難と、暗躍する謎の組織の存在。


 更にフィンをも上回る驚異存在の王都襲来。


「それではオーナー、特別昇格試験に向けて、更に経営を改善していきましょう」


 だがフィンの規格外の力によって、ギルド経営改革は加速していくのであった。


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