第48話:第二王子と
悪徳経営者リッパーは逮捕された。
事件が無事に解決したこともあり、王子ラインハルトと話をすることに。
「こちらこそ助かりました、殿下」
「今は公務が済んだ後だ。こうした場では、その呼び方は止めろと言ったはずだぞ、フィン?」
「そうでしたね、失礼しました。ラインハルトさん。お元気そうで何よりです」
この王子とは二年ほど前に、偶然顔見知りなった。その時にラインハルトはプライベートな仲を提案してきたのだ。
「き、キサマ⁉ 殿下を『さん』呼びだと⁉」
一人の騎士が兜を取って、顔を真っ赤にして叫んできた。
彼女の名前はたしかアイナス。ラインハルトの側近で《王国竜鎖騎士団》の副団長の女騎士だ。
「前にも警告したが、無礼すぎるぞ、フィン!」
女騎士アイナスは腰の剣に手をやり、激高していた。
彼女の反応も無理はない。何故なら王位継承のある第二王子は、王国内の中でも最上位クラウス。
普通は一般市民が『さん付け』で呼んだけで、不敬罪で牢獄送りなのだ。
「よせ、アイナス。前にも説明したが、この男フィンは、私にとって対等な存在だ」
「はっ……申し訳ございませんでした、殿下。くっ……無念」
ラインハルトにたしなめられて、アイナスは剣を収める。
だがその顔は納得がいっていない様子。ラインハルトに気がつかれないように、鋭い視線でオレのことを睨んできた。
彼女とは会うのは三回目だが、こうした強めの視線は毎回のこと。オレとは相性がわ類のだろう。あまり気にしないでおく。
「さて、話を戻すとするか。相変わらず元気そうだな、フィン。それにトラブルに巻き込まれる体質も?」
「恐れ入ります。お陰様で今回は助かりました。ところでラインハルトさんは、どうしてこの場に?」
話のついでに気になることを訪ねる。
何故なら王都の法を守る《王国竜鎖騎士団》は特殊な部隊で、総団長であるラインハルトは特異な存在。こんな最前線まで出てきていい身分ではないのだ。
しかも介入してきたタイミングが、あまりにも良すぎたのだ。
「そのことか。実はリッパー冒険者ギルドへの内偵は、以前から行っていたのだ。だが肝心の最後の尻尾が掴めずに、逮捕に至らなかった。だが、先ほどクルシュから連絡があってな。それで駆けつけてきた訳だ」
「クルシュさんが?」
「ああ、そうだ。彼女は《聖女》としての啓示を受けたという。それでピンときた私が、自ら部下を引き連れてきたのだ」
うちの新規受付嬢であるクルシュは、《聖女》の称号を持つ身。仕える天神から《天啓》を授かる能力を持っている。
ラインハルトの説明によると、ギルドでの仕事を終えて大神殿に戻ったクルシュは、突然《天啓》を聞いたという。
内容は『フィンが恨みを買う者に、襲撃を受ける未来』が見えたという内容。
聖女クルシュと王子ラインハルトは幼馴染の関係。心配になったクルシュは通信の魔道具で、すぐにラインハルトに連絡したのだ。
「なるほど。そういうことだったんですね」
「リッパーがフィンに恨みを持っていたのも調査済。まぁ、今回の場合はたとえ貴殿が襲撃を受けても、怪我一つない。だが、自己防衛もやり過ぎてしまったら、王都が壊滅しかねない。だから今回は私が火消し役で来たという訳だ」
「恐れ入ります」
ラインハルトはオレのことを買いかぶり過ぎている。一介の事務職員でしないのに、まるでオレのことを天災のように比喩してくるのだ。
「そういえば、よくこの場所が分かりましたね?」
話のついで疑問を訪ねる。
聖女の《天啓》は未来予知に近い能力だが、万能ではない。出来ごとは分かっても、発生場所の番地など詳細は、分からないはずだ。
「貴殿の新しい勤務先は調べがついて。そこで中心にして捜索していたところ、あの二人に声をかけられたのだ」
「あの二人?」
ラインハルトの指さす方にいたのは、二人の銀髪の少年少女。マリーとレオン姉弟だった。
遠目に心配そうにオレのことを見ている。
「なるほど、そういうことだったんですね」
二人は先ほどこの通りを脱出して、憲兵を探しに行ってくれた。
その道中で行動中の《王国竜鎖騎士団》を遭遇。思い切ってマリーたちは事情を話したのだろう。
「さて、フィン。次はこちらか訪ねる。“あの話”のことは考えてくれたか?」
あの話……今から二年前、少しだけトラブルに巻き込まれた彼を、オレは助けた結果となった。
それ以来、ラインハルトは『フィンよ。我が《王国竜鎖騎士団》に入ってくれ。いや、将来的には王位争奪戦を行う私を、支える《剣》となってくれ!』と勧誘してくるのだ。
「前にもお断りしたように、オレはそんな武力はありません」
もちろん何の戦闘能力を持たない、一般市民であるオレは丁重に断ってきた。だが、顔を合わせる度に、ラインハルトは何度も勧誘をしてくるのだ。
「はっはっは……『なんの武力も持たない』……か。相変わらず面白いことを言うな。貴殿ほどの力があれば、名誉も富も、それこそ玉座すらも楽に手に入れる存在だというのに……まあ、そんな欲がない男だからこそ、私も気に入ったのだが」
「恐れ入ります。とりあえず今は勤め先の仕事で、手一杯な最中でした。でも仕事ならいつでもお待ちしています。もしもまた困った事があったら、いつでもギルドに依頼してください」
「なるほど、そういうことか。私も時間ができたら、新しい職場に遊びにいかせてもらう。今度の職場はなかなかの人物が経営しているようだからな」
口元に優しい笑みを浮かべながら、ラインハルトはマリーに視線を向ける。おそらくは救援を呼びに行った時に、マリーと王子との間に何かのやり取りがあったのだろう。
ラインハルトは自分にも他人にも厳しい性格。そんな王子が他人であるマリーを珍しく認めていた。
だが、その様子はオレにとっても嬉しい。
「はい、そうですね。本当に頼もしい上司と、やりがいのある職場です」
「ふっ……つまりあの少女マリーが、私のライバルということか。さて、今日のところは、これで失礼させてもらうぞ。達者でな、我が友フィンよ」
「はい。ラインハルトさんもお元気で」
多くの職を兼任する第二王子は忙しい身。ラインハルトは挨拶を済ませて立ち去っていく。
残る騎士たちも後を付いていく。
「……ちっ、私は絶対に認めんからな、フィン! キサマのことは!」
女騎士アイナスは去り際にも睨んできた。彼女も副団長として色々と大変な立場なのだろう。特に悪意もないので、オレも流して見送ることにした。
しばらくして《王国竜鎖騎士団》は全員立ち去り、裏通りはまた静けさが戻る。
「「フィンさん!」」
騎士団が立ち去ったとことで、二人の男女が駆け寄ってくる。先ほどから遠目で心配そうに見ていたマリーとレオン姉弟だ。
「フィンさん、怪我はないですか⁉」
「大丈夫ですか、フィンさん⁉」
駆け寄ってきた二人は、心配そうに尋ねてきた。ここまで心配するのも無理はない。
何しろ十人の武装集団に相手に、オレはたった一人だったのだ。
「心配をかけたな。二人が騎士団を呼んできてくれたお蔭で、この通り無傷だ」
心配そうな二人に無傷なことを伝える。運が良かったと。
「あの状況で無傷とは……さすがフィンさんです! ねぇ、お姉ちゃん」
「そうね。でも、今冷静になって、よく考えたら、ドラゴンすら虫取り感覚な“あのフィンさん”が、小悪漢程度に苦戦するはずなかったわね……それにしても私たちがいない間、いったいここで何が……」
無傷なことを知って、二人とも安堵の息を吐く。
だが裏通りの破壊された跡を見つめながら、マリーはいつものようにブツブツと独り言をつぶやいている。内容まではよく聞こえないが、元気なマリーに戻ってよかった。
「そういえば、フィンさんは、ラインハルト殿下とも顔見知りだったんですね⁉ さすがです!」
「あっ、そうよ! そのことよ! 第二王子で次期国王候補の有力者の一人の“あのラインハルト殿下”と親しげに話せるなんて、いったいどういう関係なんですか、フィンさん⁉」
威厳ある《王国竜鎖騎士団》の総団長が、第二王子ラインハルトであることは、市民の多くも知っている。
有能で眉目秀麗なラインハルトは、王族の中でも市民にも人気が高いのだ。
「特に普通の関係だ。前に王都で歩いていたら、偶然知り合った関係だ」
「えっ、街を歩いていて出会っただけ、第二王子にあんなに敬意を払われちゃうんですか⁉ い、いや、でも、“あのフィンさん”ならあり得るかも……」
「そうだよ、お姉ちゃん。フィンさんが凄い人なのは、最初から分かっていたんでしょ」
「そ、そうね。でも、いったい、この人の……ウチの職員はどこまで規格外の人材コネクションを隠し持っているのかしら? まさかコネクションが第二王子様まで及んでいたとは……あっ! もしかしたら、それ以上にも⁉ ああ……想像しただけも心の臓が……」
マリーとレオン何やら楽しそうに話をしている。事件も解決して安心しているのだろう。
「さて、この場を離れるぞ。そろそろ帰宅しないと、お前たちの家族も心配するかなら。とりあえず玄関先まで付いていく」
「ありがとうございます、フィンさん。それでは、ウチはこっちです!」
「ん? えっ? ちょっと待って! 私を置いていかないでよ、二人とも――――!」
こうして悪徳経営者リッパーと一味は逮捕され、事件は無事に解決した。
ボロン冒険者ギルドにも平穏な日々が戻ってきたのであった。




