第47話:決着
悪徳経営者リッパーの奥の手の召喚石を破壊した。
だが往生際が悪いリッパーは最後まで諦めていない。
「くそっ……こうなった、王都の査問委員会にキサマのことを訴えてやるぞ! 罪状は何でもいい!」
査問委員会は悪質な経営者を告発する場所。まさかリッパーの口から出てくるとは思ってもみなかった。この男はもはや混乱しているのだろう。
だが査問委員会に訴えられるのは、こちらも少々面倒。ボロン冒険者ギルドに迷惑がかかる可能性があるのだ。
「さて、どうしたものか……ん?」
そんな時だった。
大通りの方から、別の集団がやってくる。
人数は二十人くらい。赤と黒での武装で統一された騎士団だ。
「あの紋章は……《王国竜鎖騎士団》か?」
騎士団の身につけている紋章に見覚えがあった。
《王国竜鎖騎士団》は数ある王国の中でも、特殊な存在。主な任務は『王国内の秩序を乱す存在の逮捕と処罰』だ。
その権力は王国内でも大きく、悪質な大商人や貴族ですら対象。騎士団は強制的に調査して逮捕する権利があるのだ。
「おお⁉ アレは《王国竜鎖騎士団》の方々か⁉ ガッハッハ……これでキサマもお終いだ、フィン! ワシは《王国竜鎖騎士団》の団員の一人と、懇意にしているんだぞ!」
自分の救援が現れたかのように、リッパーは歓喜の笑い声を上げる。
おそらく懇意の団員に根に葉も無い証言をして、オレに全ての罪をかぶせるつもりなのだろう。
(それにしても《王国竜鎖騎士団》が、どうして、こんな所にきたんだ?)
だが単純に勝ち誇ったリッパーに、構っている場合ではない。オレはそんな疑問が浮かんできたからだ。
(“何か”あったのか……この件は?)
《王国竜鎖騎士団》は街の憲兵のように、気軽に出動する存在ではない。かなり大きな事件しか取り締まらない。徹底的に調査をして、証拠を集めてからしか出動しない。
つまり彼らが今回ここに来たのは、偶然ではない可能性が高いのだ。
「全員、止まれ!」
《王国竜鎖騎士団》は一直線にこちらにやってきた。先頭の指揮官らしき騎士の号令で、オレとリッパーの前で停止する。
騎士たちは兜を被っているため顔は見えない。そのため独特の威圧感がある。
「そこにいる者。風貌的に『リッパー冒険者ギルドの経営者リッパー=オルン』で間違いないか?」
先頭の騎士が手元の紙と見比べて、リッパーに訪ねる。おそらく似顔絵を浮かびだす特殊な魔道具の類だろう。
「はっ、はぁはー! この私めが、リッパー=オルンで間違いありません! 今先ほど、そこにいる元従業員のフィンという悪漢に、この人通りの少ない道で暴行を受けそうになっていたところであります、騎士さまぁ!」
リッパーは頭を深く下げながら、言い訳を始める。さも本当のかのように、オレを犯罪者扱いしていた。
「しかも、そのフィンという男は、ワシの店で働いていた時に、売上金を横領していたんです! そのことを問い詰めようとしたら、その手に持つ角材で暴行を! 見てください、この右手の傷を!」
リッパーの舌はよく回り、ベラベラと嘘八百を次から次へと出している。
ちなみに右手の傷は、召喚石が破裂した時の自爆の跡。オレは直接触れてもおらず、すべて自業自得の怪我だ。
「さぁ、早くその悪人を逮捕してくださいませ、騎士さま! その男は怪しげな魔道具を使用して、この周囲を破壊した罪もあります! ああ、そうだ。もしかしたら破壊工作を目的とした、他国の工作員かもしれませんぞ⁉ もしくは魔族の手先の可能性も⁉ なんという不届き者じゃ、キサマは!」
自分の弁説に自信があるリッパーは、次から次へと作り話を出してくる。横で聞いているオレも、逆に感心するほどの嘘八百だ。
もはや言い訳する気もうせてきた。
「ガッハッハ……! これですべてお終いじゃぞ、フィン! キサマは死ぬまで牢屋で苦しむんじゃ! 天罰が下ったのじゃ!」
一方でリッパーは勝ち誇っていた。今まで見たことがない笑みを浮かべている。
――――だが、そんな時だった。
「茶番はそこまでにしておけ、リッパー=オルン」
騎士団の奥から、一人の男が声を上げてきた。リッパーに辛辣な言葉を浴びせたのだ。
「なっ、なんですと……」
まさかの言葉にリッパーは固まる。反論したくても舌が回らずにいた。
何故なら男の声には、リッパーを黙らせるほどの威厳があったのだ。
「全員、道を開けろ」
「「「はっ!」」」
男の威厳ある号令と共に、騎士たちが一斉に動く。まるで大海が割れるように、左右にサッと別れて道を作る。
「さて、リッパー=オルン。キサマに話がある」
割れた騎士団の奥から出てきたのは、一人の男。
《王国竜鎖騎士団》の鎧は着ているが、一人だけ鎧の意匠が違う。明らかに身分が高い青年だ。
「は、話がある、ですと? なぜ、この私に⁉ ん……紫のマント?」
王国では紫のマントは、特殊な貴族しかまとうことが許されない。そして《王国竜鎖騎士団》にいる特殊な貴族は一人しかいない。
「ま、ま、まさか、貴方さまは⁉」
そのことを確信して、リッパーの態度が急変。声が震え目を丸くしていた。まさかそんな大物が出てくるとは、予想もしていなかったのだ。
「無礼者め! 図が高いぞ、罪人め! この方は《王国竜鎖騎士団》総団長およびに王国第二王子ラインハルト=ソル=エーゲルハイト殿下であらせられるぞ!」
「ラ、ラインハルト殿下⁉ はっ、はっは――――!」
騎士の口上を聞いて、リッパーは土下座をして頭を地になすりつける。
何故なら登場したのはただの高位貴族ではなかった。
王国でも数多くいる貴族の中でも、断トツに一番身分が高い国王。その次男であり王位継承も有する王子ラインハルトだったのだ。
(ラインハルト殿下……そういえば《王国竜鎖騎士団》を総括する身だったな……)
《王国竜鎖騎士団》は数ある騎士団の中でも特殊な存在で、総団長は代々第二以下の王子が兼任している。
かなり特殊な制度だが、そのため貴族や力ある大商人を逮捕することも可能なのだ。
(でも総団長自ら、どうしてこんな場に?)
リッパーとのやり取りを横目で見ながら、その疑問が浮かんできた。
たしかに王子ラインハルトは現在の《王国竜鎖騎士団》の総団長。
だが実際には捜査の最前線に出た話は、あまり聞いたことはない。よほどの大貴族の捜査以外には姿を現さないという。
そんな疑問の当人、王子ラインハルトが静かに口を開く。
「さて、リッパー=オルン。キサマには逮捕状が出ている。罪状は今までのギルド経営において、数々の不正や賄賂行為を繰り返していたことだ」
「なっ、なっ、なんですと⁉ な、何を証拠にそんな根に歯も無い罪状が⁉ 聞いてください、それも、そこにいるフィンという男が……」
まさかの逮捕状の掲示に、リッパーは思わず顔を上げる。得意の弁説で、再び嘘八百を並べようとする。
「黙れ、リッパー=オルン! キサマの行いはすべて王都公正取引委員会の筆頭調査官“ケンジー=ヒニリス”が、このように暴いておる。これでも、まだ言い訳をするつもりか?」
だが王子ラインハルトは一喝して、リッパーを御する。
彼が見せたのは、捜査証拠の数々。近年におけるリッパー冒険者ギルドの裏帳簿や、各所への賄賂の証言だった。
「なっ⁉ そ、それは……」
十分すぎる物的証拠を見せられて、リッパーは言葉を止める。
これ以上の言い訳はすべて詐称罪の追加になってしまう。もはやリッパーは詰み状態になってしまったのだ。
「リッパー=オルン、キサマの全財産は没収。ならびに鉱山での強制労働の重罪を覚悟しておけ。よし、連れていけ!」
「「「はっ!」」」
王子ラインハルトの命令に、騎士たちが動き出す。地面にひれ伏していたリッパーを、強制的に連行していく。
気絶している襲撃者たちも罪人として、騎士たちは運んでいく。
「ひっ、お助けを! ラインハルト殿下ぁああ!」
連行されていくリッパーの情けない悲鳴が、裏通りに響き渡る。
鉱山での強制労働は中年であるリッパーには、耐えられない重労働。下手したら一年も持たずに過労死する可能性もある。つまりリッパーは死罪にも近い罰が下されるのだ。
「お、お助けを…………」
リッパーと襲撃者が連行されていった。周囲は一変して静かな空気となる。
恐怖の対象でもある《王国竜鎖騎士団》が出動したこともあり、市民の野次馬ですら近づいていない。
今、この通りにいるのはオレと、数人の騎士だけ。その中に王子ラインハルトもいた。
「さて、騒動に巻き込んでしまったな、フィン」
「いえ、こちらこそ助かりました、殿下」
事件が無事に解決したこともあり、“少しだけ顔見知り”の王子と少しだけ話をすることになった。




