第二百六十話
結局あのあと、セイラは二人の名前をなぜ知っているかあからさまに怪しい様子ではぐらかし、冒険者ギルドに戻ってくると姿を消してしまった。
「……なんだか、不思議な方でしたね」
「まあ、変わったエルフだった。いや、エルフはそもそも変わっているという可能性もあるか……」
二人はセイラのことを悪くは思っていなかったが、やはり変わった人物であるという評価だった。
「なんにせよ、もう一度依頼を見ていこう。セイラの話を踏まえると、獣人が出している依頼、もしくは複数のパーティが同時に受けるようなものだったな」
「でも、依頼の紙には依頼主は表記されていないので、わからないですね。あったとしても、その人が獣人なのか、はたまた別の種族なのかもわからないですし……」
依頼掲示板の前で依頼の紙を改めて一通り見ていく二人。
困った表情のキャロの指摘のとおり、依頼書から依頼主のことを知ることは困難だった。
「通常は、ギルドを通して依頼を受ける。そして、ギルドに報告してその達成が本人に伝えられ、品物が渡される――それが通常の手順だから依頼主の線は厳しいかもしれないな……」
そうなると、二人が探すのは複数のパーティで受ける依頼となる。
アタルとキャロはこれまでに、その手の依頼に何度か参加したことがあるため、おおよその流れは把握している。
「でも、複数パーティ参加の依頼となると難易度がそれなりだったり、強敵相手なんだよなあ……」
魔物の大暴走による街の防衛戦、大量のゴーレムが発生していた洞窟での戦い、そして先日の竜との戦いをアタルは思い出していた。
「確かに、どれも普通では経験できないようなものでした……ここでも、そんな危険な依頼がありますかね?」
順番に依頼を確認していくが、なかなかそういった依頼は見つからない。
そもそもアタルたちが受けていたそれらの依頼は全て街の危機と言っていいほどの非常事態にかかわるものばかりだった。
「……受付で聞いてみるか」
「ですねっ!」
ここで悩んでいても仕方ないとそう結論を出した二人は、空いているカウンターまで移動して受付嬢へ話しかける。
そこにいたのは大和撫子を体現したような長いストレートの髪を持つ物静かな女性だった。
「あの、ここ最近で複数のパーティ合同で受けるような依頼ってありますか?」
アタルたちがやってきたところで顔をあげた受付嬢は、キャロの質問に思案する。
「……少々お待ち頂けますか?」
「はいっ!」
依頼に関する質問を受けることがある受付嬢だったが、それにしても複数パーティ合同のものがあるかという質問は珍しかったため、ここ最近の依頼について近くにあった魔道具を使って調べていく。
「……複数のパーティ合同のものとなると、ちょっと最近はありませんね。申し訳ありません」
しばらくの沈黙ののちの受付嬢の静かな返答にキャロが肩を落とす。
「それなら、今出ている依頼の中で獣人が依頼主のものを受けるというのは可能か?」
アタルの質問もまた珍しいものであったため、受付嬢は訝しげな表情になる。
なぜそんなことを聞くのか? それについて疑問を持つが、受付嬢としてそのことは口にはせずに質問に対する回答を返す。
「可能です。ただ、依頼主に会うようなものはほとんどないと思って下さい」
淡々とした受け答えであったが、おおよそアタルたちの望む回答が得られた。
「なるほど……まあ、それでもいいか。とりあえず、そういう依頼を紹介してくれると助かる。二人ともBランクだから、Aランクの依頼まで受けられると思う」
できるのであれば早速対応してもらおうと、アタルが冒険者ギルドカードを提出し、キャロもそれに続く。
「承知しました。どのようなタイプの依頼がいいかご希望はありますか?」
戦闘がメインのものがいいか、採集系のものがいいか、そのどちらにも属さないものがいいか――受付嬢はそれを質問している。
「そうだなあ、それなりに腕に自信はあるから戦闘系の依頼で問題ないかな。ランクもBのもので問題ない」
アタルの言葉にキャロも笑顔で頷いていた。
「承知しました……お待ち下さい」
再度受付嬢は、依頼を魔道具で確認していく。
そこには依頼主の名前も記載されているため、受付嬢はそこからアタルたちの希望にかなう依頼を確認していく。
「となると、こちらかこちら、それからこちらの依頼になりますね」
いくつかピックアップした受付嬢は、魔道具に付属した印刷機能で出した用紙をアタルたちの前のカウンターデスクに載せる。
「なるほど、この中だったら……」
「そうですね……」
並べられたそれらを確認した二人はタイミングを合わせたかのように、同じ依頼を指さした。
「やっぱりですねっ」
キャロはアタルがこれを選ぶと予想していた。同じものを選べて嬉しそうに笑っている。
「まあ、これだよな」
ふっと薄く笑ったアタルもこれしかないだろうと思っていた。
「はい、それではこちらの依頼ですね。雷獣討伐、および雷獣の角の納品となります。その他の素材に関しては依頼主は希望されていませんので、採取された場合は当ギルドでの買い取りも行っています。また、依頼の期限は本日を含めて十日となっています」
受付嬢は淡々とした声音で依頼の説明を行っていく。
雷獣とは帯電しており、雷を生み出し攻撃をしてくる珍しい魔物だった。
「それで、生息場所はどこに?」
そんな珍しい魔物がそこらにいるとは思えないため、アタルが確認する。
「……お二人はこの街に来たのは初めてなのですよね?」
二人を見たことがなかったため、受付嬢が質問してくる。
「あぁ、今日来たばかりだ」
「とても素敵な街ですよねっ。海、初めて見ました!」
アタルは単純に返答し、ぱあっと表情を明るくしたキャロはこの街のことを褒めていた。
「そうでしょう! そう言っていただけるのは嬉しいですね――っとこほん、失礼しました。雷獣がいる場所でした。この街の東門を出て、ずっと進むとザイン山と呼ばれる岩山があります。その頂上付近では、天候が悪く、頻繁に雷が鳴り響いています」
それまでの物静かな雰囲気を一変させるほど嬉しそうに笑った受付嬢は、つい取り乱してしまったことを恥ずかしそうにしつつ、説明をする。
彼女の説明で、アタルたちは予想がついた。
「なるほど、その雷が鳴り響いている山頂が住処ということか……」
「はい、そこに向かうのはそう難しいことではありません。ですが、山頂では落雷も頻繁にあるため、雷獣にとっては優位な環境であり、反対に冒険者にとっては危険な場所となっています」
それを聞いて、アタルもキャロも難しい表情になっていた。
「……どうされますか?」
その表情を見て、依頼を辞退するかもしれないと考えた受付嬢が確認の言葉をかける。
「ん? あぁ、受けるよ。受けるけど、雷対策はとっておかないとな」
「ですねっ。少し街を見て回りましょう、アタル様!」
二人とも既に意識は雷獣との戦いに向いていた。
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