第二百三十八話
各々が馬車に乗って、北の森へと向かう。
アタルたちは、ギルドが用意した大きめの馬車に乗り合わせて行く。
その馬車にはギルドマスターであるバートラム、アタルとキャロとバルキアス、更にもう一人冒険者が一人乗り合わせていた。
「――お前たち、なかなかやるみたいだが……あれは小手調べなんだろ?」
同乗しているそのもう一人の冒険者が、にっこりと笑いながらアタルたちに問いかける。
彼は今回の依頼に参加する唯一のSランク冒険者、フェウダーだった。
その見た目は爽やかイケメンといった様子で、切りそろえられた短めの金髪に、整った顔立ちをしている。優し気な青い瞳と相まって女性が放っておかなさそうな雰囲気を持つ。
その傍らには長身である彼の身の丈を越えるほどの巨大な大剣が置かれている。
Sランクとは、名誉ランクと呼ばれるようなものであったが、Sランクに類する冒険者の実力はAランク冒険者が束になっても敵わないほどのものであり、単独で戦況を変えるだけの力があると言われている。
「あぁ、戦闘に関して言えば明らかに実力差があったから、俺もキャロも力の一割も見せていない。それに、俺たちは今はバルキアスを含めた三人パーティだからな」
キャロの側で大人しくしていたバルキアスがアタルの言葉に反応するように尻尾を揺らす。
本来三人で戦うところを二人だけでとなれば、格段に戦力が落ちる。だが彼らはその状況下でも圧倒的な実力差を発揮して食いかかってきた冒険者たちをいとも簡単にあしらった。
「なるほどな。まあ、それであれだけの差を見せられればあいつらも何も言えないだろう。というか、何が起こったかわかっていないだろうからな……お前の長距離武器だが、あいつらを攻撃したのと金貨を撃ち抜いたのは別物だろ?」
アタルの淡白な反応にふっと薄く笑いながらも、フェウダーの目にはあのときの弾丸の種類がそれぞれ違うと映っていた。
「ほう、よくわかったな。あいつらに使ったのは気絶を目的としたもので、コインを撃ち抜いたのは一般的に使われる攻撃弾だ。まあ、そこまで見えているならわかっていると思うが、まだまだ種類はある」
二つあれば、三つ、四つとあることは容易に予想できるため、手の内を晒すことにはならないだろうとアタルは自ら口にした。
「ははっ、やっぱりな。あれは厄介だな。向かい合っていれば避けることも可能だが、最後の五連続のやつをやられたらどうしようもない。それに、威力も上がるだろうからな」
別の弾丸の可能性を考えたフェウダーはふにゃりとした表情になり、お手上げだと言うように両手を広げて、対処方法がないと口にしていた。
「フェウダーがそこまで言う程か……私も目の当たりにして、アタル君の武器が特殊で、しかも魔法よりも優れていることは理解していたが、フェウダーにそこまで言わせるとはね」
感心したように驚きながらバートラムがアタルとフェウダーのやり取りに加わる。
「まあ、一対一で武器を使わせる前に俺が倒すということは可能だろうが……実戦を想定したら、俺に勝ち目はないかもな」
ひょいッと肩を竦めてそう言ったフェウダーにバートラムは大きく驚き、目を丸くして見開く。
アタルは静かに視線を逸らして会話を見守る。
「俺は一人、こいつらは三人。しかも、あの武器は遠距離武器だ。本来は姿を見せず、どこから攻撃してくるかわからないように動くはずだ。前衛はお嬢ちゃんと、そっちの狼殿が務めるとあれば、遠距離を警戒し続けるのは難しい」
真剣な表情で分析するフェウダーの説明を聞いて、バートラムはなるほどと何度も頷いている。
一方でアタルとキャロは彼の言葉に驚いていた。
「……よくわかったな。あいつらとの戦い、金貨の打ち抜き、その二つだけで俺たちの戦術まで見抜くとは。さすがSランクといったところか」
視線をフェウダーに戻したアタルはフェウダーの眼力に感心していた。
「あれだけ見せてもらえればな。だが、おおよその戦い方は予想できるが、お前さんと嬢ちゃんと狼殿――正直、実力の底が見えない。俺が本気で全力を出せばどうにかなるのか、それとも俺の全力をあっさりと越えてくるのか……まあ、今回は一緒に戦うわけだから頼もしい限りだ」
最初はやけに真剣な表情で語っていたが、最後にフェウダーは二カッと爽やかな表情で笑っていった。
この場に他の女性がいたら、彼の甘いマスクにメロメロにでもなったであろうが、男性陣はもちろんキャロにもそれは通用しなかった。
「それはこちらも同様だ。……その大剣、強い魔力を持っているんだろ? 恐らくあんた以外が使ったら、武器に振り回されて使いこなせないはずだ。そして、相手の力量や戦術を見抜くその目は冒険者として一流を越えて超一流といえる。そんなやつが仲間なんだ。こっちこそ心強い」
今度はアタルが笑顔で言った。アタルの言葉に同意するようにキャロもニコニコと笑っている。
アタルとフェウダー。彼らは互いに実力者であるため、互いのことを認め合っているようだった。
「――さて、俺は少し上に行ってくる」
打ち解けたところでアタルが急に立ち上がって言い出したため、バートラムとフェウダーが目を丸くする。
「う、上に?」
「どういうことだ?」
その質問が口から出た時には、アタルは既に幌の上に上がっていた。
「すみませんっ、私が説明します」
へにゃりと長い耳を垂らしたキャロは苦笑しながら二人へとそっと声をかける。
「アタル様の武器は遠距離を見ることが可能なのですっ。そして幌の上にあがり、視界を明瞭にした状態で森の方向を確認したいのだと思います。森を滅ぼした竜がこちらに向かっているとしたら、途中で遭遇戦になりますので」
キャロの説明を聞いて、二人は得心が言ったと納得する。そしてアタルの考えに感心し、戦いに備えて二人もまた気持ちを整え始めた。
竜に滅ぼされたという北の森は獣人たちの街から数日行った先にある。
アタルたちを乗せた馬車はそのまま半日ほど移動したが、日が落ちてきたところで一行は野宿をすることとなる。
食料や野営道具も馬車に積んでいるため、休憩するのに不足はなかった。
夜は各パーティ持ち回りで番をすることとなる。
――その日は静かな夜だった。
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