第二百三十七話
「――キャロ、殺すなよ」
「はいっ、アタル様もお気をつけて!」
開始の合図と共に、二人は声をかけあってそれぞれの戦う場所へと移動していく。
バルキアスは隅の方で大人しく伏せをして戦いを見守っていた。アタルから今回は待機を命じられていたからだ。
身軽な動きでアタルはバートラムによって生み出された壁をひょいっと登って行く。
壁といっても、小さな岩山のようになっているため、姿を隠しながら位置することができる。
反対にキャロは強く踏み込むと素早く柱や壁の間をぬって進み、まるで暗殺者のように男たちへと近づいていく。
「――さて、あいつらの場所は……っと」
アタルはスコープを覗いて男たちの位置を確認する。
スコープ越しに見える先で、男たちは四人パーティで固まって動いていた。
ゆっくりと周囲を確認しながら動いており、しばらくすればキャロとぶつかる位置を移動している。
そして、キャロたちが遭遇するまで四歩といったところでアタルが自分にしか聞こえないほどの声の大きさで歩数を数え始める。
「一歩、二歩、三歩……」
四歩目を踏み出す前に、アタルは一番後ろを歩いていた魔導士の額目がけて弾丸を放つ。
狙いすまして発射された弾丸は彼の狙い通り真っすぐ飛んでいき、見事額に命中すると、魔導士はそのまま後方に倒れ、意識を失った。
「まずは一人」
動揺する男たちをよそにアタルは満足げに次の狙いが定まる時を待つ。
先ほどアタルが使用した弾丸は気絶弾――衝撃と共に命中した人物を気絶させる。
ただそれだけだったが、男たちを混乱させるには十分な効果を発揮した。
「っ……ど、どうした!」
「ど、どっから攻撃された!?」
「後ろか!?」
男たちは慌てて倒れた魔導士へと振り返り、かがんで状態を確認しながら焦ったようにきょろきょろと周囲を見渡す。
それを大きな隙と判断したキャロが襲い掛かる。
「――てやあああ!」
まず最初に攻撃したのは、魔導士に一番近く、まだ体勢が整ってない男。
キャロは低い姿勢から顎目がけて拳を振るい、そのまま駆け抜ける。
「ぐはあああ!」
最初に狙われた男は顎を拳で撃ち抜かれ、痛みに苦しげな声を上げながら吹き飛び、気絶する。
「……なんだと!?」
「こっの、小娘がぁ!!」
キャロに一人が倒されたため、残された二人は怒りと動揺で先ほどのことを忘れてしまう。
――どこかからの攻撃で、魔導士が気絶させられたことを。
「……終わりだ」
怒りに染まった男たちがキャロに襲いかかろうと大きく腕を振るったその時、アタルの二発目が残った二人のうちのリーダー格の男に命中する。
「かは……っ!」
そして、胸を襲った衝撃に大きく空気を吐き出しながら前方に倒れこむ。
こちらも気絶弾で気絶させられていた。
ただ残った一人は何が起こったのか理解できず、再び接近したキャロによって鋭く顎を撃ち抜かれて、あっという間に気絶してしまった。
四人ともが気絶したのを確認すると、アタルは軽い身のこなしで壁から飛び降り、キャロも戦闘用エリアからニコニコと笑顔で出て行く。バルキアスは戦いが終わった二人を尻尾を大きく振って出迎える。
だが他の者たちは二人が戻ってきても、周りでこの戦いを見守っていた誰もが何も言えずにいた。それはこの戦いを仕向けたバートラムでさえ、その状況だった。
「……うん? なあ、相手は全員戦闘不能になったから戻って来たんだが――これで決着でいいんだよな?」
呆然としている周囲の者たちと眺め、首を軽く傾げたアタルがバートラムに確認する。
「あ、あぁ……しょ、勝者、アタルパーティ!」
話しかけられてようやく正気に戻ったバートラムが右手をあげてアタルたちの勝利を告げる。
それでも、あまりに圧倒的な戦い振りを見せつけられ、状況を飲み込めずにいた周囲の者たちは数秒静まり返る。
だが、バートラムの宣言で、わあっと歓声があがった。
「おいおい! 圧倒的じゃないか!」
「ここの誰よりも強いかはわからないが、少なくともBランクの器じゃないな」
「二人……うちのパーティに入ってくれないかしら?」
興奮交じりに冒険者たちは次々とアタルたちの実力を評価していく。
それぞれ言葉は違うが、アタルたちが強いということだけは共通認識となっていた。
「――さて、彼らは力を証明したわけだが、みんなも彼の力を認めてもらえるだろうか!」
冒険者たちの歓声に嬉しそうにしながら、大きな声でバートラムが呼びかける。
「構わない!」
「あぁ、納得だ!」
「あれだけのことをやってのけたら、ねえ?」
そして、この場にいる冒険者のほとんどがアタルたちに好意的な反応を示していた。
「よかった。納得してもらったところで、もう一つみんなに了承してもらいたいことがある。今の戦いを見てわかるように、彼は遠距離の攻撃を得意としている。先ほどはあの距離での攻撃だったが、全て正確に命中させている」
バートラムの言葉に冒険者たちはそれぞれ頷く。あれだけ離れた距離を正確に撃ち抜ける腕前は自身のパーティに欲しいほどだと思わされていた。
「付け加えると、あの距離は彼にとっては序の口だ。もっとかなり、見えるか見えないかの距離であっても、彼は的確に命中させられる武器と能力を持っている」
その言葉にはさすがに、と冒険者たちがざわつく。ただでさえ魔法や弓矢以上の成果を上げている状況の中で、さらに飛距離が伸びるとあれば、信じられない者も出てくる。
「……言葉で言っても現実味がないから実際に見せてみたほうが早いか。キャロあっちに頼む」
「はい、アタル様っ!」
ざわつく冒険者たちを見てため息交じりのアタルは銃を担いで、訓練所の一番端へと移動していく。
そして、反対側にご機嫌な様子のキャロが移動する。
アタルからうんと離れた端に到着したキャロは、金貨を一枚壁にたてかける。
「アタル様、準備できましたーっ!」
キャロは大きく手を振って準備が完了したことをアピールする。
近くにいた冒険者がその金貨を離れた位置から確認するが、特に変哲もない金貨だった。
「あぁ、ありがとう。……おい! 気になるやつはキャロが置いた金貨を確認してくれ! その金貨を俺はここから撃ち抜いて見せる!」
アタルの声を聞いた冒険者の数人がその金貨を確認に向かう。
手に取る者、何か手を加えていないか魔法で確認する者などいたが、特に変化がないという結論にいたる。
そして、彼らが離れたのを確認すると金貨が見えるか見えないかそれほどまでに遠く離れた位置にいるアタルは銃を構えた。
「――行くぞ」
誰に言うでもなく呟いたその声と共に引き金を引く。
一発の弾丸は真っすぐ金貨へと向かって行き、見事命中。しかも金貨のど真ん中を撃ち抜いた。金貨は中央に綺麗な穴をあけ、衝撃でぱたんと後ろに倒れた。
その瞬間、おお! という歓声が訓練所に響き渡る。
「まだだぞ、キャロ!」
「はいっ!」
はなれていてもアタルの声を聞き逃さないキャロは彼のかけ声を聞くと、手にしていた金貨を五枚ほど空中にぱぱっと放り投げる。
ランダムに上空に舞うそれらを全てアタルは通常弾で撃ち抜いていく。
この頃には、アタルの武器は大きな音と共に、何かが発射されるものだと冒険者たちは理解している。
しかし、今度の五発はまるで一度しか引き金が引かれていないかのようだった。
だが上空から落ちてきた金貨たちは、総じて最初の金貨と同じく、真ん中に丸く綺麗な穴をあけて地面に転がっていた。
「――ふう、こんなもので少しはわかってもらえたかな?」
満足げに息を吐きつつ戻って来たアタルは、最初の一発で単純に長距離の攻撃を、次の五発で連続で攻撃できること、更には動いている物にも命中させられることを証明した。
目の前で明らかな実力を見せつけられれば、もう誰も異論を唱えず、アタルの実力に納得することとなった。
「よかった。それじゃあみんな、彼らが自由に動くことを承知しておいてくれ。――さあ、その他のみんなは竜相手だ、油断せずパーティを組んで戦ってほしい!」
アタルの実力をみんなに認めさせられて満足げなバートラムのこの言葉に、ここにいる誰からも反論は起きず、竜たちとの戦いに向けてそれぞれが士気を高めていく。
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