魔眼と弾丸・再召喚された勇者 クロスオーバー短編
たゆまぬ努力により勇者として活躍したのち、一度は戻るも再召喚され、人知れず最強を誇る冒険者と、愛銃片手にどんな障害をもぶち抜き、何物をも見通す魔眼を持つ転移冒険者が共同戦線をしたら……そんな誰かの望みが今、物語として紡がれようとしている。
ここはある城塞都市。
強固な城壁に守られている都市だったが、今この街は危険な状態にあった。
「――これしかいないとは……」
この都市のギルドマスタールームで、重苦しい様子で絞り出すように言葉を出すのは、ここのギルドマスターだった。苦しい表情で手を組み、そこに頭を乗せている。
この街がこれから迎えるであろう危機――それは、強力な魔物たちによる襲撃だった。
もちろんこの街にだってそういった事態に対応する冒険者たちはいる。だが今回の襲撃は、天災ともいうべき程の、並の冒険者が相手にするには荷の重い、凶悪な魔物が多数押し寄せてきたのだ。
そして、今この街でそんな魔物の迎撃に向かえる冒険者はわずか四人だった。
「数はどれくらいなんだ?」
そう質問したのは涼しげな青い髪をした青年冒険者。名前を近衛蒼太。
名前からわかるように地球生まれの日本人だが、この世界で冒険者をやっている。
自らが打った刀を手にし、鍛えた心身から生み出される近接攻撃は、他の追随を許さないほどの強さを持つ。
魔法をとっても超一流の実力者で、初級魔法とは思えないほどの威力と使い方で敵を圧倒する。
「数百と聞いている。最低でも二百は超えると」
彼の実力を把握していないギルドマスターは、沈痛な面持ちでその数を告げる。
これは、魔物の集団をたまたま発見した冒険者の報告を聞き、偵察に向かわせたうえでの数値だった。
「二百、ですか」
神妙な面持ちでそう呟いたのは、蒼太のパートナーのディーナリウス。
美しい銀髪のエルフの彼女は細身の身体をもち、腰には剣を身に着けている。
彼女が精霊と共に生み出す魔法と剣術は、美しくも鋭いもので、近距離だけではなく、エルフ族特有の目の良さで弓を使う戦闘も得意とする。彼女の回復魔法はかつての聖女をほうふつとさせるほどの腕前だという。
「数が多いのは問題ない。俺が遠距離から攻撃をして、数を減らしていこう」
この世界で唯一の武器『ライフル』を扱う冒険者、本城アタル。茶色がかった髪をもち、片方の目は透明感のある青に輝く。肩に担いだ愛銃をぽんぽんと叩き、後方支援を申し出る。
そんな彼も蒼太と同様に、地球生まれの日本人である。
一目見た時から二人は互いにそのことを意識してはいたが、それぞれの生活や生き方があるため、あえてそのあたりには触れないようにしている。
「アタル様、私もがんばりますっ!」
握り拳を作って気合を入れているのは、アタルのパートナーで、兎の獣人のキャロだった。
愛らしい少女の見た目の彼女は持ち前の俊敏さを活かすべく短剣を使って敵を翻弄する。
アタルを心から慕い、一生懸命に応えようとするその様子を、ディーナは微笑ましく見守っていた。
「――お前たち……心強い、と言いたいところだが、信じても大丈夫なのか?」
なにやら彼らの間でとんとん拍子に話が進んでいるのを、ギルドマスターは期待と不安の入り混じった表情で見ている。
蒼太とディーナ、アタルとキャロ――どちらもたまたま旅の途中でこの街に立ち寄っただけであり、ギルドマスターは彼らの実力を見ていない。
冒険者ランクも一番高い者で、アタルのBと襲い来る魔物の強さを考えると、心もとないものだった。
「俺とキャロは、別の街で大規模の魔物討伐戦を経験している。数は正確には覚えていないが、三百は確実に超えていたと思う。もちろん冒険者の数も多かったが、俺とキャロだけで三百以上は倒したからな」
なんてことないような口ぶりで話すアタルのその言葉に、ギルドマスターは驚きのあまり絶句したようにポカンと口を開く。
「……ま、まさか、も、もしかして、その討伐戦っていうのは、大量の魔物とギガントデーモンに襲われた街のことか!?」
ようやく数字を理解したギルドマスターは、机を支えにして勢いよく立ち上がる。
アタルたちが参戦した戦いの情報は、この街のギルドにも流れて来ていた。
「確か、一番活躍したやつは謎の遠距離武器を使うランクの低い冒険者だとかって……」
「あぁ、それは俺のことだと思う。その時の成果でランクが上がったからな」
急に食いついてきたギルドマスターを見てもアタルは冷静に応える。彼は別段、自分の実績を自慢したいわけではなく、ギルドマスターを納得させるのに一番わかりやすい情報を提示していただけだったからだ。
「そ、それならいけるか……?」
目の前にいるのが自分の知っている冒険者と同じならば、アタルの実力は恐らくは信頼できる――そう考え始めたギルドマスターは、視線を蒼太に移す。彼がどんな冒険者か教えて欲しいと目が訴えていた。
「あー……俺たちは目立った実績は残していないな。ただ腕にはそれなりに自信がある。信じるかはわからんが、ドラゴンと一対一で戦ったことくらいはあるな」
ドラゴンを相手にするというのは高ランクの冒険者でも数人のパーティを組んで相手できるかどうかというレベルの魔物。蒼太は自身の記憶をたどるようにその時のことを思い出しつつ話す。
普通ならば、大ぼらを吹くな! ――そう言い放つギルドマスターだったが、蒼太の表情が冗談を言っているものではなかったこと、そして蒼太の身体から歴戦の勇士のソレを感じたことから信じることにした。
「……わかった、私もこう見えて若い頃は冒険者として活動していた。お前たち四人からはその頃に見た強者の気配のようなものを感じる。だから……お前たちを信じることにしよう」
最初のうちは動揺、焦り、そういった感情が強かったギルドマスターだったが、蒼太とアタルの落ち着きを見て、自身も腹をくくったようだった。椅子にすとんと座り直すと、彼らにこの都市の命運の全てを託した。
「それじゃあ、互いにできることを確認していこう」
戦うと決まった以上、作戦を立てる必要がある――蒼太の提案に部屋にいた全員が頷く。
全ての力を明らかにすることはしなかったが、それぞれの戦闘スタイルを説明していった。
蒼太は、二刀の日本刀を使っての近距離戦闘。
そして、初期魔法だが多数のファイアボールなどを同時に生み出して攻撃する。
ディーナは遠距離の弓攻撃に加えて、魔剣ライウスによる近距離戦闘。
そして、精霊魔法による範囲攻撃ができる。
アタルはライフルによる遠距離攻撃を行う。連射も可能で、複数種類の弾丸を使い分ける。
キャロは、両手にもったショートソードやダガーを使った素早い攻撃を主にしている。
また獣人であるため、周囲の気配を察知する能力に長けているため、敵の攻撃も避けやすい。
「――なるほど、ではそれを踏まえたうえで作戦をたてよう。アタル、頼めるか?」
ギルドマスターは今回の作戦立案者にアタルを指名する。
指名した理由は四人の中で見た目年齢が最も高く、冒険者ランクも一番高いためだった。
「わかった、まあ二人とも強いみたいだから詳細な作戦はいらないだろ。まずは……」
ひょいと肩を竦めながらも、彼の頭の中ではすでにいくつかの作戦が浮かんでいた。
城塞都市ならではの高い壁の上、大量の魔物たちが押し寄せるのが見える場所でアタルは一人、迎撃用意をしていた。パネルを操作し、弾丸を用意した彼は愛銃を構えて狙いを定める。
呼吸を整え、バンという音と共に発射された弾丸が魔物の額を勢いよく貫く。
一瞬で絶命した魔物は、なぜこうなってしまったのか考える暇もなく地面に倒れた。
「――まず一体」
手始めに魔物たちの中の一匹を狙いすまして倒したアタルはスコープを覗き、引き金を引くと、次々と魔物の額に弾丸を命中させていく。
アタルが請け負ったのは、城壁の上からの狙撃。
最初のうちは超長距離からの攻撃で、確実に魔物の数を減らしていくのが彼の役目だった。
蒼太たち前衛が接敵してからは、そのフォローという形で攻撃をしていく。
一方で残りの三人は城門の前にいた。
「……あれだけ離れた距離で百発百中とはすごいものだな。銃に関係する仕事でもしていたのか?」
近接戦闘をしながらも、自分たちの動きを制約することなく、目の前にいる魔物の数が次々と減っていくのを見て、蒼太は驚きと感心からそう呟いた。
「ソータさんはあの武器のことを知っているんですか?」
「あぁ、あれは俺たちがいた世界で存在した武器だな。俺がいた日本では本物はそうそう見られないが、かなりの威力を持つ武器だ」
「わあ、すごいんですね。それを自在に使うなんて……すごい人ですね!」
戦いながら蒼太の説明を受け、ディーナは感激したように何度も頷いてアタルがもたらした結果を称える。
「アタル様……キャロもがんばりますっ!」
しっかりと短剣を握り、素早い動きで駆け回るキャロは、離れた場所にいてもアタルの存在を感じていた。彼のパートナーとして動くべく、引き締まった表情で自分の決意を口にし、次々と敵を屠っている。
アタルからの指示は実に単純なもので、ディーナは基本的に弓と精霊魔法による遠距離攻撃を行う。
蒼太は刀と魔法を駆使して前衛として魔物を倒し、キャロはいつも通り短剣で魔物を倒していく。
ディーナの射程距離はアタルのソレよりも短かったが、的確に攻撃を命中させていく。
更に精霊の補助も上手に使っていることで、効率よく立ち回っている。
蒼太にいたっては、刀の軌道を追えないほどに素早い動きであっという間に魔物の群れを崩していく。
「……あれは、化け物だな。二人ともそこらの冒険者の枠を大幅に超えてる。――さすが転移者ってところか」
スコープごしに敵を倒しつつ、アタルは蒼太の戦い振りを称える。魔眼でスコープの性能を更に高めていく中で、蒼太の戦いが際立って見えた。
彼が蒼太の実力を認めるのと同時に、蒼太もまた、アタルの銃の腕前を認めていた。
時間にして一時間経過したところで、アタルはスコープごしに残りの魔物の数をカウントしていく。
「残りは二十といったところか……」
「こ、こんなあっという間に……」
ぼそりとアタルが数を口にしたところで、様子を見に隣にやってきていたギルドマスターは現状を知り、大きく驚いていた。
「数は確かに残り少ないが、残った魔物はかなり強そうなやつばかりだ。まあ、すぐ終わるだろうがな……」
興味なさそうにぼそりと呟いたアタルは、残った魔物を狙って弾丸を放っていく。
しかし、残った精鋭に対しては一撃必殺とはいかず、ダメージを与えるにとどまる。
「お、おい! 倒せていないが大丈夫なのか?」
不安から声を荒げるギルドマスターは望遠の魔道具で魔物を確認し、まだ魔物が無事なのを見てアタルを問いただす。
「いいんだ、倒すのが目的じゃない。動きを阻害するだけでいいんだ。そうすれば……」
彼らは実力者ゆえに、自分たちの領分をよく理解していた。だからこそアタルはこの程度に攻撃をとどめているのだ。
一方の地上側では、その意図を理解した蒼太が、隙のできた魔物を次々に倒していく。
「ふっ――アタルといったか、あいつの攻撃は的確だな。俺が攻撃をしやすいように魔物の身体を弾き飛ばしてくれている。……よっと!」
アタルが生み出す自身が戦いやすい状況に、蒼太も戦闘を楽しみ始めていた。
アタルの弾丸、蒼太の刀。それらの攻撃が組み合わされば、あっという間に魔物たちは倒されていく。
「す、すごいです……あんなにあっさりと真っ二つに……」
「ソータさんの動きに合わせて、ピンポイントで狙い撃つなんて、アタルさんもものすごいお方ですね……」
キャロは他の魔物を倒し終わると、圧倒的な実力を発揮する蒼太の戦い振りを、唖然としながら見ていた。
ディーナはアタルが蒼太の動きを阻害することなく作り出していく魔物の隙――それに驚いていた。
蒼太とアタルの連携の前には、残った強力な魔物たちもあっという間に倒されていき、ついにはたった四人だけで全ての魔物の討伐に成功した。
街の周囲は大量の魔物の襲撃により、多少の環境破壊が起こっていたが、当初予定していたほどの甚大な被害になることなく、蒼太やアタルたちのおかげで最小のものにおさまった。
「こ、ここまで強いとは……お前たちのランクが上がっていないのが信じられない……」
当初、魔物襲撃の知らせを聞いて絶望していたギルドマスターは、短時間で終結したこの結果を見て呆然と立ち尽くしていた。
数えるのもうんざりするほど多くの魔物が倒されたにも関わらず、地面には一匹たりとも魔物の姿がないことも、その驚きに拍車をかけることとなる。
その後、ギルドに戻った一行は報酬について話し合うことになる。
「……あれだけのことを成し遂げられたとあっては、相当な報酬を渡さねばなるまい」
今回の魔物討伐戦の前と同様に、ギルドマスターは重苦しい表情で口を開く。
たった四人で少なくとも五百、いや明らかにそれを上回る魔物を討伐したとあっては、報酬額も相当なものになる。
それだけでなく、結果に応じてランクも大幅にあげる必要がある。
その二つの点にギルドマスターは頭を悩ませていた。
「あー……俺とディーナに関してだが、少なくともランクは上げなくていい。高ランクになって面倒な依頼が来るのは避けたいからな。金は、まあ常識の範囲内でもらえれば構わない。四人にそれだけの金額を払ったというのも、のちのち大ごとになりそうだからな」
面倒ごとはごめんだと言う蒼太の言葉に、ギルドマスターは内心安堵する。ディーナリウスも異論はないようで、ふわりとほほ笑んでいる。
大量の魔物の姿がないのは蒼太が倒しながら空間魔法で収納していったためで、その素材を売るだけでもかなりの額になるからだ。
「あぁ、俺とキャロもランクは今のままで十分だ。理由はそちらと同じだ。金もこちらも普通にもらえれば、特別多くなくてもいい。魔物の遺体は全て彼に回収されたし、住民の多くは避難していたから実際の魔物の数は一部の者しか知らないだろうしな」
アタルの言葉にキャロはニコニコと笑顔で頷いている。
あっけらかんとした態度の彼の言葉を受けて、ようやくギルドマスターは肩の荷がおりたように感じていた。
「……ありがたい、こちらとしてもそれは助かる。報酬に関しては明日には準備をしておくので、明日以降来てくれ」
大きく一息ついたギルドマスターは椅子に座り直して、ぐったりと背もたれに体重を預けた。
これ以上は、休ませてほしいという意思の表れでもあった。
それほどまでに今回の魔物襲撃は凶悪なものだったことを表していた。
解散の流れになったことで、彼らはギルドマスターの部屋をあとにする。
そして冒険者ギルドを出ると、蒼太とアタルは向かい合った。
「今回の戦い、二人と組むことができてよかったよ。アタル、またどこかで一緒に戦えるのを楽しみにしている」
「蒼太もな、互いに色々あるだろうがこの世界を楽しんでいこう」
そうして二人はニッと軽く笑みを見せると、前に出した拳をコツンとぶつけた。それから互いに背を向けて、反対の道へと進んでいった。
キャロとディーナも互いに親近感を覚えたらしく、ぺこりとお辞儀をしつつ小さく手を振り合いながら互いのパートナーの隣へと嬉しそうに戻っていった。
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