第百三十七話
ギルドを出たアタルとキャロはクライブに紹介された店で回復薬と毒消し薬、その他もろもろの薬品を購入していく。
「結構買ってしまいましたねっ」
店から出たところで購入した者が入っている袋の一部を抱えたキャロは苦笑を浮かべている。マジックバックがあるため、しまってしまえば荷物が増えることはないが、思っていた以上に色々買い込んだアタルについそう言ってしまった。
「ここでケチって誰か一人でも欠けたら嫌だからな」
『アタル様たちが買ったのなんか嫌だ、変な臭いがする……』
アタルたちが抱えている袋を恨めしそうに見ているバルキアスは人通りがないため、二人にだけ聞こえる程度の声で不満を訴えている。
「あぁ、バルにはきついかもな。薬品は臭いが少しきついだろうから」
アタルは嗅覚の強いバルキアスに影響がないように、すぐにマジックバックへ薬を袋ごとしまっていく。詫び代わりにアタルがバルキアスの頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めている。
「なるほど、私は獣人ですけどあまり臭いは感じませんね。やはり、バル君の嗅覚は優れていますねっ」
キャロはバルキアスの優れている部分を見つけたことを喜んでいた。
「まあ、今後はそれに頼ることもあるかもしれないが、それが弱点になることもあるから注意しないとな。バルは嗅覚遮断とかできるようになれば汎用性が高くなるかもしれない」
バルキアスの頭から手を離したアタルは自分でも無茶なことを言っているなと思いながらそんなことを言う。
『むむむ、頑張らないと!』
しかし、負けず嫌いな性格を持つバルキアスはやる気が漲っていた。
「その意気です、がんばって下さいっバル君!」
それにキャロも乗って、バルキアスを励ました。アタルからの期待が少し羨ましそうでもある。
「なあ、お前ら本気であの化け物討伐に行くのか?」
そんな話をしながら宿に向かっていると、ギルドで声をかけて来た冒険者の男が現れ、再びアタルたちに声をかけてきた。
「あぁ、あんたか。本気かって、まあ本気だ。依頼を受けたんだから、やっぱり止めましたというわけにもいかないだろ」
なんてことないようにアタルは男の疑問に答えるが、対する男の表情は厳しいものだった。
「あんたには助言をしてもらったよしみで討伐完了したらどんな魔物だったか話すから、しばらく待っていてくれ」
「っ! そんな簡単に言うな!」
アタルの言葉が気に障ったのか、男は往来であるにも関わらず吐き捨てるように大きな声を出した。何ごとかと周囲が一瞬アタルたちへ視線を向けたが、人族同士だと知ると興味を失ったように視線を戻している。
「……怒ったのなら謝ろう、悪かった。だが、俺たちもやられるつもりで行くわけじゃないから簡単に言ったわけではないぞ」
怒鳴った男から何か感じ取ったアタルはあくまで冷静を保ったまま、男の言葉に応える。
「あっ、いや……俺のほうこそ怒鳴ってすまなかった。お前たちが受けた依頼の魔物は俺の友達も挑んだことがあるんだ……」
大きな声を出してしまったのは無意識だったのか、男は勢いを失いながらもどうして怒鳴ったのかを説明していく。
「挑んだということは……」
「あぁ、その通りだ」
男はアタルの言葉の途中で苦しげな表情のまま頷く。無事に生きて戻ってきていたら、男はこれほど悲しい顔をしなかっただろう。
「あんたの友達がどれほどの強さだったのかは知らない。……だが、確実にこれだけは言える。俺たちとあんたの友達では戦い方が全く違う。かといって、簡単に勝てるとは言わないが別の動きが出ることで勝ち目はあると思っている」
今度はしっかりと男の目を見ながらアタルは言った。自分の力と仲間に対する自信を眼差しに込めた。
「……自信があるみたいだな。話を聞いた上でそれだけのことを言えるのなら大丈夫なのかもしれない……だけど、ちゃんと帰って来いよ? 倒せなくてもいい、負けてもいい、でも生きて帰って来い!」
困ったように笑みを浮かべて懇願するように声をかけた男は、心からアタルたちのことを気にかけていた。
それは、同族であること、たまたま声をかけた相手であること、親友と同じ依頼を受けること。それらが積み重なっての結果だった。
「あ、あぁ、そこまで強く心配されるとは思わなかったが、無事に戻ってあんたにまた会えることを心掛けるよ」
アタルは男の剣幕におされながらも、なんとか返事をする。
「嬢ちゃんも無理すんじゃないぞ。どちらか一人が倒れたとしても、もう一方が生きていれば立て直せることもあるはずだからな」
視線をキャロに合わせた男はアタルが前衛、キャロが後衛と考えているため、こんな言葉が出るが、一人の冒険者として心配してくれているという気持ちをキャロは嬉しく思う。
「ありがとうございますっ、精一杯がんばってこようと思います!」
嬉しそうに頷いたキャロの返事を聞いて、満足げに男はうんうんと頷く。
「それと、お前もご主人様たちを守ってやるんだぞ?」
バルキアスにも視線を合わせるようにかがんだ男は声をかける。
『ガウッ!』
余計なことを言わず、バルキアスはただわかっていると一吠えだけした。細かいことはわからないバルキアスであったが、ここまで自分たちを気にかける男が悪い人だとは思えなかったからだ。
「それじゃ、俺たちはもう行くよ。出発の準備をしないとだからな」
軽く手をあげたアタルはそう言うと、男に別れを告げて買い物に戻って行く。軽く会釈したキャロとバルキアスがその後ろをついて行く。三人の後姿を男は無事を祈るようにじっと見送った。
目的の森は、街を出て二日ほどの場所にある。そのため、食料などの買いこみ、また相手が特殊なブレスを使ってくることを考えて、使い捨ての防具などの準備も考えていた。
行く先々の店で品物を選んでいる際に、森の魔物退治に行くことを話すと商品のいくつかを値引きしてくれた。
今回の討伐対象がいる森は、普段から薬草採取や果物を採りに行く者がいるため、冒険者ギルドだけでなく、住民としては一日でも早く解決したい問題だった。
また、いつその魔物が森から出てくるかと考えると胸がざわつく者もいるようだった。誰もが魔物を倒してくれる者を待ちわびているのが伝わってくる。
「キャロ、これは失敗できないな……まあ失敗するつもりもないが」
「ですね、みなさんの期待に応えないとっ」
『うん!』
アタルの言葉にキャロとバルキアスも気合を入れなおした。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




