第百三十話
ミランたちの話し合いを終えて冒険者ギルドをあとにしたアタルたちは、前回ガンダルに連れて行かれた店に向かう。
「ここにいるといいんだが……あ、この間の。ガンダルはいるか?」
店に入るなり、前回対応してくれた店員の姿を見つけたアタルは声をかける。
「えっ? あ、あぁ、この間ガンダルさんと一緒にいらっしゃった方ですね。今ちょうど来ていますよ。お連れもいないようなので、入って大丈夫だと思いますが……一応聞いてきますね。少々お待ち下さい」
店員は前回案内された部屋に向かい、ガンダルの都合を確認しに行く。
しばらくして店員は戻ってくると苦笑を浮かべていた。
「大丈夫だそうです。むしろ早く通せと怒られてしまいました。どうぞ、こちらへ」
店員は怒られたことを誤魔化すようにペロッと舌を出して、奥へと案内していく。
「怒られ慣れている感じだな……」
「ですねっ」
反省していない様子の店員の背中を追いながらそんなことを二人は呟いた。
部屋の中に入ると、ガンダルが食事の手を止めて待っていた。
「おうおう、良く来てくれたな! ささっ、そこに座ってくれ。おい、二人に飲み物を頼む!」
「はい、承知しました」
何を、と聞かずに店員は部屋を出て行った。
「注文してないんだが……まあいいか。ガンダル、急に訪ねて悪かったな」
困惑交じりのアタルはソファに腰かけると、まずガンダルに謝罪をする。
「いや、いいんだ。あんたたちならいつでも大歓迎さ! ……というか、わざわざ訪ねてきたってことは?」
報告があるんだろ? とガンダルは話を促して、ぐいっと手にしていたジョッキを大きくあおる。
「まあ、そんなもんだ。結論から言うと、俺たちを襲撃した冒険者崩れ、そして谷に魔物をおいたやつ、更には谷に向かった冒険者が行方不明になった原因、それがわかった」
「本当か!」
アタルの言葉にかぶるかのようにガンダルは食いついて来た。喉から手が出るほど欲しかった情報だったためか非常に興奮しているらしく、勢いよく立ち上がっていた。
「最後のやつは恐らくだがな……とりあえず落ち着いて座ってくれ」
「あ、あぁ、すまんな。続けてくれ」
ガンダルは冷静なアタルの口調に自身が熱くなっていることに気付き、座り直す。
アタルはブレンダに話したのと同じ内容をガンダルにも話していく。途中熱くなるガンダルを抑えながらの説明だったが、最終的にはガンダルも話を受け入れて落ち着いて座っていた。
「なんと、そんなことが……」
ガンダルは全ての事件の犯人が同一であること、更にはその犯人がアタルたちに襲いかかってきたこと。それらを聞いて、彼は難しい表情になっていた。
「まあ、そういうことだ。それだけの規模のことをやらかすくらいだ、あの男は犯人グループの一人だってことだろうな。とりあえず犯人の標的は俺たちになるはずだから、あんたは諦めたほうがいい」
アタルの言葉は、この話を聞くまでのガンダルだったら、ふざけるなと怒鳴り飛ばしたところだったが、話を聞いて事の大きさを感じていた。Aランク冒険者としてやってきた彼は引き際もちゃんとわきまえているのだ。
「……お前たちはどうするんだ? そいつを倒すのか?」
少し思案したあとガンダルはアタルたちの今後について質問する。
「どうだろうな。結果としてそうなることはあるかもしれないが、俺たちから打って出ることはない」
それはアタルの本心だった。襲いかかって来たラーギルは撃退した。そして、今後の行動において彼らと交わる予定はない。
「そう、か」
「まあ、ギルドにでも依頼されて相応の報酬をもらえるのであれば戦うのもやぶさかじゃないが……相手がどこにいるのか情報が少なすぎる。打って出るにも、居場所がわからなければどうしようもないだろ」
これは正論であった。しかし、アタルはいつかラーギルたちのほうから接触してくるだろうとも予想している。
「そうだよな……な、なあ、俺には何もできないかもしれないが、何かわかったり、人手が必要になったら言ってくれ。俺で良ければいつでもお前たちに力を貸そう」
Aランク冒険者の申し出であるため、普通であればありがたい言葉だった。彼が動けば手を貸してくれる人もいるだろうことは想像に難くない。
「あぁ、その言葉、とてもありがたい。その時には協力を頼もう。……それじゃ、俺たちはこれで失礼させてもらうよ」
途中で話が途切れた時を見計らって店員が運んできたドリンクを一気に飲み干したアタルは立ち上がる。店員は前回来訪時にアタルとキャロが何を頼んだかを記憶しており、その中で二人が注文したドリンクを持ってきていた。更にはバルキアスにもミルクを用意してくれていた。
「ここはなかなかの店だから、ガンダルに会いに来る時以外にも来てもいいな。いい店を教えてくれてありがとう」
「こっちこそいろいろ教えてもらえて助かったぜ、またな」
その礼の言葉を最後にして、アタルは部屋をあとにする。キャロはガンダルにぺこりと一礼し、バルキアスを伴ってアタルのあとに続いた。
一行が店の入り口付近までやってくると、そこには最初に案内をしてくれた店員がいた。
「あぁ、あんたか。俺たちが何を頼んだのか覚えていたんだな。美味かったよ」
「とても美味しかったですっ!」
アタルとキャロが柔らかい表情でそう言うと、店員は柔らかな笑みを返して頭を下げる。
「そう言って頂けて幸いです。ガンダルさんの件がなくてもまたおこし頂ければと思います」
それはアタルとキャロも思っていたことであり、その言葉に二人は大きく頷いた。
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