決着
金色の閃光がトスカを襲う。
「キィャァア!!」
ギリギリの部分でわざと外れる閃光が、確実にトスカの体力を奪っていった。
「もう終わりかな」
「まだ!」
「だろうね。なら潰れろ」
棒立ちで左手を前に出し、金色の閃光をうちつづけているのは僕、レイトだ。
形勢は逆転。防戦一方だった僕に攻撃手段が出来たことにより、攻勢に出ていたトスカは防御を強いられている。
――だが。
「そんなに甘くないか」
僕は後ろに跳んで下がる。
すると、さっきまで立っていた場所はクレーターになった。
やっぱり、といえばそこまでなのだが、僕の攻撃を彼女が防げないように、僕も彼女の攻撃を受け止められることが出来ていなかった。
シオンの奥義、絶を使えば弾くことはできる。ただあの技は威力が高い分反動も高いため、そう連発は出来ない。
加えて両手が痺れて一定時間使えなくなる以上、そんな多用も出来ないしこれ以上使うつもりもなかった。
「当たってくださいよぉ」
トスカの声もどんどんと弱々しくなっている。だが、まだ倒れてくれそうにはなかった。
「無理だよ。死んじゃうじゃないか」
笑顔で金色の閃光を乱れ打ちながら、僕は適当に言葉を返した。
どうにも引っかかる。
トスカの能力は脅威だ。はっきり言えば、僕たちにも通じるとすら思う。だけど、勝てるとは思えなかった。
正直言って、これだけ? という困惑が広がっていた。
必殺の威力は認めよう。僕も簡単には止められないぐらいの攻撃力は、状況が状況なら一緒に五人目のオーバーランクになっていたことだろう。
でも、まだ僕たちと彼女には埋まらない差がある。それが経験の差だ。
僕は彼女の攻撃を予測して動いている。自分で言うのもあれだけど、結構仕事を頑張っているからこその結果だと思う。
しかし、トスカは違う。彼女は多分僕ほどの経験がないのだろう。だからこそ、立ちまわり方がまだ甘い。
彼女がはたしてルドラさんを倒せるのだろうか。さらに言って、手にかけることが出来るのだろうか。
答えはノーだ。彼女程度の能力で、何年も世界の安定を支えてきたルドラさんを手にかけることなど出来ない。
例えルドラさんが病に伏していたとしても、その差が埋まるほどではないと思う。
「君はまだ何か隠しているんじゃない?」
「はいぃ? なんの話ですかぁ?」
その反応だとこれ以上の隠し種はないんだね。
僕は若干肩すかしをくらった気分になった。
「そっか。じゃあ、とっとと救うことにするよ」
とは言ったものの、どうしようか。
今度は左に飛びながら、僕は冷静に考える。
僕のこれ以上の向上に役立ってくれるならまだ戦いたいとは思っていたんだけど、覚醒イベントがないのだったらもう興味はない。
でも、興味がないことと救うことは関係ない。そして、相手が格下であることと相手を倒すことは関係なかった。
問題は言うまでもない。あの瘴気をどう処理するかだ。
大方、復讐心が見つけた最善にして最悪の武器なのだろう。使用に必要なのは強い負の心、あとは人間には扱えきれない瘴気に耐える我慢力だけ。
トスカに宿る復讐心は相当なものなのだろう。まあそれもそうだ。何せ、大切なものを全部奪われてしまったのだから。
同情はしよう。哀れだと涙を流してもいい。ただ、救おうとしている僕からすれば、何と面倒なものに手を出したのだと残念な気持ちにならざるをえない。
金色の閃光、つまりは僕の神力なら多分瘴気も払えるだろう。しかしそれは出来ない。理由は簡単、僕は自身に宿るこの力について何の知識もないからだ。
もっと前から使っていたシオンやカレンならどうなるかは予想出来るだろうけど、残念ながら僕にそれほどの理解はない。
神力に一番近い性質をもつのは魔力だ。だから魔力と同じ効果で考えてみよう。
まず間違いなく、トスカの身体は爆発四散してしまう。魔力は適応出来なければその物質を壊す性質をもっているからだ。もしも神力も同じ性質だとしたら、とてもじゃないが使用することは出来ない。
「どうしようかな」
「諦めたらいいと思いますよぉ」
トスカが瘴気の槌で僕を押しつぶそうとする。
だから反射的に。
「考え事してるんだから邪魔しないで」
神力を纏わせた愛剣で不可視の瘴気を真っ二つに斬った。ような気がした、見えないから分からないけど。
「……」
「……えっ?」
思わず二人して呆然としてしまう。
僕が神力を込めたら金色に光る剣を横に振り払ったら、僕を避けるようにクレーターが出来たんだ。
何か特別な技を使ったわけでもなく、何か特別な方法を用いたわけでもない。
ただ、力任せに神力を振り回しただけで、瘴気を払ったのだ。
「まさか、まだかくし芸があったなんてぇ」
トスカが笑顔を崩さないままそう言った。かすかな震えと顔が青ざめているのは気にしないようにしよう。
反論させてほしい。僕だってこんな結果になるなんて思っていなかった。本当だ。
まあ、心の中での誰にも届かない言い訳は置いとこう
「…………………………………………」
前言撤回。
神力なら、瘴気であっても負けない。そして、これは確証がないけど、多分神力ならなんとかできるはず。
僕は金色に光る剣から瘴気を振りまく少女に視線を移す。
「さて、解決方法は出てきたけど」
どうやって、これを彼女に届けよう。
トスカには瘴気の障壁がある。加えて不可視の槌もある。逃げながら戦う分には何の脅威もないが、向かっていくとなればほんの少しの勇気が必要になってくる。
――まあ冗談だけど。
僕はひざをしっかりと曲げる。とは言ってももちろん屈伸をするためじゃない。
「――ッ!」
勢いよく、まるで弾丸のように僕は彼女との距離を詰める。
離れていると力の制御が分からない。何せ不慣れな神力という新たな戦力にすべてかかっているからだ。
ならば、零距離で当てるしかない。そっちの方が幾分か制御しやすいはずだ。確証なんてまったくないけど。
神力をたらふく込めた僕の左手から金色の稲妻が走る。
「来ないで!」
トスカがまどろっこしいしゃべり方じゃなくなる程度には焦っていた。
神力については何も知らないはずだけど、直感で恐怖を感じ取ったのだろうか。もしもそうなら、彼女の嗅覚を褒めてあげてもいい。
モノは試しだ。神力を目に集中させてみる。
やっぱりというかなんというか。見えないはずの瘴気の槌、その正体であろうどす黒い影が確認出来た。
見えてしまえば斬れる。
僕は物騒極まりない思考回路を瞬時に弾きだして、剣に神力を注入。向かってくる瘴気に真正面から刃を立てて、そのまま身体の勢いをぶつけて弾丸のように流されていた動きを無理やり止めた。
「上手くいけ!」
願望が思わず口から出たがそんなことを気にする余裕すらなく、僕は神力を流し込んだ左腕を豪快にしかし繊細にトスカの眼前に突き出す。
左手に痺れのような痛みが走った。
彼女を囲う瘴気が、僕をもっと言えば僕の瘴気を拒絶しているのだろうか。だが、そんなたかが一エネルギーごときに、僕の行動を阻害させるわけにはいかない。
僕はなおも左手を動かす。そして、彼女の額に指をかすめることに成功した。
近くに雷でも落ちたと錯覚するような光と音が弾けぐあいだった。
「これなら少しは効いたかな?」
まだ音は鳴っているし目を焼くんじゃないかと心配になる光量は止む気配はしなかったが、僕は構わず神力を垂れ流し続ける。
暴走なんて知ったことか。破裂だって気にしない。
「ウァア!」
彼女の苦悶の声を上げたとして、全身を駆け回る痛みに涙をためていても関係ない。
――僕は僕のために。
「アナタを救う!!」
ひときわ大きな雷と一緒に、トスカの身体から力が抜けた。
「おっとっと」
慌てて、僕は彼女の身体を抱きとめる。
容態を確認。息もあり、血色もさっきよりはよくなっている。
よかった、どうやら成功のようだ。
「さて、次は彼の番だね」
僕は気を失ってしまった件の犯人を背負いながら、一人呟いた。
まず間違いなく世界最強の彼。たとえ神であろうとも返り討ちにしてしまう彼を。
「倒せたら、いいなぁ」
口からこぼれるのは、そんな弱音だった。




