異世界ってわからないこと多いよね
気付いたら俺は白い空間にいた。
「目が覚めたかの?」
目の前には翼を生やしたハゲの爺さんがいた。
・・・夢だな。早く起きなければ学校に遅刻してしまう。
「いや夢ではないからの。また寝ようとするでない。」
人の心の中読んでんじゃねぇよ。プライバシーなんちゃらで訴えるぞ。
「いやワシ神じゃから。訴えようがないと思うぞい?」
チッ、だと思ってたよ。
「知っておったのに、その反応じゃと!?まったく最近の若者は本当に礼儀を知らんのぉ。」
それで?くだらない話はいいから、なんで俺がここにいるかを説明をしてくれ。
「おぬしが始めたんじゃろうが。まあ良い、本題に入るぞ。」
爺さんは、わざとらしく咳払いをする。
早く本題に入れよ、と俺は思ったが顔には出さなかった。
「おぬし、如月 紫音は死んだ。」
「死因は世界に存在を拒絶されたからじゃ。」
・・・やっぱり、か。あなたは死にました、なんてはっきり言われると意外と傷つくもんだな
「思っていたより驚かんのぉ。」
爺さんは不思議そうな顔をしていた。まあ予想通りだからなぁ。
勇者召喚に巻き込まれたのに、白い空間で神に会うとか原因も明らかじゃん。
それより用件はそれだけか? これから俺はどうなるんだ?
「もちろん用はこれだけではない。おぬしを巻き込んだ勇者と同じ世界に転生させてやろうと思っての。」
ありがとうな、爺さん。やっぱり復讐は大事だもんな。
「それは、おぬしの好きなようにすればよい。それより、」
あんたからもらう能力のこと、か?
「おぬしは話が早くて助かるのぉ。それでどんな能力がほしいんじゃ?」
なら、自殺できる不老不死と想像の創造と無限の魔力(全属性)と最強の身体能力と魔法に関するあらゆる知識と言語の自動翻訳能力、あと成長の限界を無くしてほしいな。
「その程度ならお安い御用じゃ。それより、その程度の能力でよいのかの?」
それだけって……結構考えたつもりだったんだけどな。あと。俺は脇役だぜ? 異世界にも主人公はいるだろうから、そいつに頑張ってもらうさ。
「そうか、ならいいんじゃ。それじゃ、」
ガコッと足元から音がした。下を見る。
あら不思議、床がなくなってるじゃあーりませんか。
「達者でのぉ。」
「ふざけんな、クソジジイイィィィィ!!」
俺はそのまま落ちて行った。
白い空間で一人、神は微笑んでいた。
「頑張れよ、俺。」
これから、起こるであろう事を全て知っている神はワラウ。
先ほど、転生をさせた少年の未来を知った上で、彼の成長を期待して、ただワラウ。
「ガアアァァァァァァァ!!」
「来るんじゃねえ!!」
おっす、おら、如月 紫音。よろしくな☆
・・・すまない。反省も後悔もしているから許してほしい。
あの後、俺はなんやかんやで助かった。
死んだおばあさんに川の向こう岸で手招きされた時は、ほんとに死んだのかと思ったぜ。
それで森の中をうろついていたら、今俺と絶賛追いかけっこ中の熊だか虎だかよく
わからん猛獣に遭遇したというわけだ。
これもすべてさっきの自称神のせいだ。次会ったら覚えとけよ。
と俺が目からも汗を流しながら、あの神への復讐計画を考えていると、
「ノエル、こっちで人が襲われているわ!」
若い女性の声が聞こえた。
周りを見渡すと、人影が二つ俺から背を向けて走りだしていた。
俺は、逃げる方向を二人に向ける。
「なんでこっちにくるんですか!?」
人影に追い付くと、片方に怒鳴られた。
「せっかく会った人を逃がすわけねえだろ。お前らも道連れにしてやんよ。」
俺は多分、ゲスい笑みを顔に浮かべている事を自覚した。
「それで巻き込まれるこっちの身にもなってください!」
ハッハッハッ、もう遅いわ。
「チッ、お嬢様ここは私が食い止めます。お嬢様は逃げてください。」
俺に聞こえるように、わざとらしく舌打ちを残して止まる騎士さん。
いやなに死亡フラグ立ててんの?馬鹿なの?死ぬの?
「あなたを置いていけません。私も戦います。」
なんで、あんたまで止まるんだよ。ここは逃げようぜ。
「グルルルルッ」
そして、隙を窺うために止まる、熊虎(俺命名)。
・・・あれ?俺逃げられるんじゃね?
「ハァッ!」
騎士さんが剣を振り下ろす。
しかし、毛皮で剣が効かないようだ。
見た目から予想出来ていた結果だけどな。
「ガッ!?」
吹き飛ぶ騎士さん。気に激突した騎士さんはピクリとも動かない。
熊虎は標的を変えたようだ。
「嘘・・・でしょ?」
騎士さんが飛んでった方向を向いて、呆然としていた女に、熊虎は丸太のような腕を振り下ろした。
響く金属音。
「しっかりしろ!そんなに心配なら見に行けばいいだろ!?とにかく動け!」
あっぶねぇ。刀の創造がギリギリ間に合ってよかったぜ。
俺の言葉に、正気を戻した女は、騎士さんのほうに走り出した。
「ラァッ」
気合で熊虎の腕を弾く。
やはり見かけどおり、攻撃が重い。
・・・仕方ないよな。
「俺流剣術・・・」
刀の鞘を創造し刀を納める。
俺は、地球では我流ではあるが剣術を習得していたからだ。
「絶」
刹那。
音すら斬る俺の技に、熊虎はミンチと化した。
俺は、俺の技の威力に驚いていた。
反動がでかいから久しぶりに使ったけど、チートってやっぱりすげえな。
全力じゃないのに、この威力かよ。
「すごい。」
後ろから、感嘆の声が上がった。
振り返ると、騎士さんの治療が終わったのか、女が立っているだけだ。
「すごいすごいすごい。あのベアタイガーを一瞬で殺すとは」
テンションが上がったのか、俺の返り血に染まった腕を掴んで振り回す。
技の反動で痺れている腕を振り回されて、俺は痛みに内心叫びをあげていた。
もちろん、顔には少しも出さないけどな。
「あ、まだ名乗ってませんでしたね。私の名前は、アイリス=グラシスです。それよりさっきのは・・・」
アイリスの質問攻めは、俺の体感時間では一時間以上続いた。
「う、ううん。」
横にさせていた騎士さんが目を覚ましたようだ。
「ほら、アイリス。目覚めたようだぜ。」
俺がそういうと、アイリスはまだ聞き足りなそうな顔で騎士さんのほうを見た。
「大丈夫ですか、ノエル?」
「はい、なんとか。・・・申し訳ございません。肝心の時に気絶していたようで」
そう言いつつ、起きようとする騎士さん。
「無理せず、寝ててください。」
慌てて騎士さんが起き上がろうとするのを止めるアイリス。
「あの後、どうなったかを教えてくれますか?
「もちろんです。あの後ですが、すごかったんですよ・・・」
アイリスは興奮冷めやらぬ感じで騎士さんに説明をしだした。
「貴様、何者だ。」
説明が終わると俺の首元に剣が突きつけられた。
まあ、説明だけ聞くと、猛獣を一瞬でミンチに変えた得体の知れない化け物だか
らな。仕方ないね。
「アイリスに聞いたろ。俺は記憶喪失で詳しく覚えてないんだ。ただ貴女方に危害
を加える気はない。」
俺は今名前以外を忘れた記憶喪失の設定だ。
実は異世界から来たんですよ~。なんて言っても信じてもらえそうになかったからだ。
「そうですよ、その剣を離しなさい。命の恩人に対して失礼ですよ。」
アイリスの援護でしぶしぶ剣を離してくれる騎士さん。
「すみません、血の気が多くて、普段はもっと穏やかなんですが。」
アイリスは申し訳なさそうに謝ってきた
「大丈夫、慣れているよ。改めて俺の名前はシオンだ、よろしくな。」
いまだ俺を睨んでいる騎士さんに手を差し出す。
「・・・ほら、ノエルも」
うん、無視はりっぱな犯罪だと俺も思うよ。
「・・・私の名前はノエルだ。よろしくな、化け物。」
そういって俺の手を握りつぶすノエル。
俺の手がミシミシなってるのは気にしたら負けなんだろうな。
「これから私たち街に戻るんですが、シオンさんも一緒に来ませんか?」
ノエルに手を離してもらった手がちゃんと動くかの確認をしていると、アイリスからのお誘いの言葉を投げかけられた。
俺はアイリスのありがたい提案に乗って、ノエルにすごく嫌そうな顔をされたまま
街に向かった。
まさか、これが原因であんな事になるとは、とフラグを立てておこうかな。
・・・回収されないよな?