(いろいろな意味で)最強登場
「着いたー!」
そびえ立つ巨大な門が俺たちを迎えてくれた。
「後は、あの門をくぐれば街に入れますよ」
疲れがたまっていたのかアイリスもこころなしか嬉しそうだ。ノエルはまだまだ余裕があるようで、目的地に着いて喜ぶ俺を鼻で笑っている。
「ようこそ、旅の方々。身分の証明出来るものはありますか?」
門の前で全身を覆う鎧に身を包み身の丈ほどある槍を抱えたおっさんたち、多分門番だろう、が話しかけてきた。
「私がやりますよ。お嬢様」
ノエルは警戒の眼差しで俺を睨みつつ、門番にカードらしきものを渡した。やれやれ、俺もずいぶん嫌われたものである。
「ギルドカードですね? 調べますから少々お待ちください」
カードを受け取った門番は、腰にぶら下げていた金属製の棒でカードの表面を撫でた。
「ありがとうございます。確認が取れました。これはお返ししますね。無音の剣聖様」
機械音が鳴り、門番が棒を覗き込みながら言った。きっと個人情報を門番以外に見せないようにするための処置なのだろう。
しかし、無音の剣聖か。虎熊に勝てなかったというのにな。
「……捨てた名だ」
俺がじっと見ていたからか、ノエルはそう言ってそっぽを向いた。
「すげぇ」
街並みはまんま中世のヨーロッパだ。よくある展開として予想はしていたが、実際に景色として叩き込まれると圧巻だ。正直大好物な雰囲気である。
「この街がウオカイナ王国の首都、ログマです」
街の名前wwwマグロってwww
思わず草が生えてしまった。除草剤、除草剤っと。
「そうだ、今から私の家に来ませんか?」
俺が街並みに感動していると、思い出したかのようにアイリスが言った。
「お嬢様。コイツのような化け物にそこまで面倒みる必要はないかと思いますよ」
「でも、シオンさんは私たちの命の恩人ですよ? 恩は返さないといけませんよね?」
ノエルは嫌そうな顔をしてアイリスに説得しようとしたが、逆に説得されてしまったようだ。ぐぬぬっとか言って頭を抱えて考えている。
「……わかりました。そこまで言うならお嬢様に従います。……ですが」
ノエルが厳しい顔で俺に向かって指を指してきた。なんだろうか?
「もしお嬢様に危害を加えるようなら、その時は容赦しない」
なんだ、そんな事か。
「わかってるって」
ノエルの念押しに対し、俺は苦笑いをしながらそう言った。
心配性なものだ。ノエルの立場上仕方ないのは理解できるが、杞憂だと証明する手段がない以上、彼女には無駄な心配をかけてしまう。
「それじゃ行きましょう」
俺たちはウキウキしているように見えるアイリスを先頭に歩き出した。
「ここが、私の家ですよ」
アイリスはそう言ってこちらに振り向いた。
……え?
「ごめん、聞こえなかった。もう一回言って?」
この辺りにある建物は、どれも公共のものだろう。普通の家が見当たらないんだけどな、アッハッハ
「ここが、私の家ですよ?」
「なぜ疑問形なんですか。ここは正真正銘お嬢様のお宅ですよ」
「ごめん、きこえなk」
俺の言葉が途中で止まったのは、ノエルが後頭部を殴ってきたからだ。
「だからここが、アイリスお嬢様の家であるグラシス家だ! わかったな?」
胸倉を掴みかなりの剣幕で怒るノエルに、俺は首を縦に振ることしか出来なかった。
目の前にある建物がアイリスの家だと言われて耳を疑いたくなるのも当然だ。豪邸があった。……これは家ってサイズじゃない。もはや体育館だ。
「ほら、二人仲良くじゃれあってないで、早く家に入りましょう」
「「誰がこんな奴と!!」」
俺たちが再び睨みあい、さらに時間がかかったのは言うまでもない。
「まったく誰かさんたちのせいで、家に入るのが遅くなったじゃない。」
結局しびれを切らしたアイリスさんの怒号により、俺たちの喧嘩はとりあえず休戦を迎えた。
正直さっきの虎熊よりも恐ろしかった。
ドドドドドドッ
? なんだ? 足音がすごい勢いで近づいてくる。
「大丈夫だったか!? 俺の可愛いアイリスよーーーーー!!」
おっさん が あらわれた。
「いい加減、私に抱きつこうとするのはやめてっていつも言ってるでしょ!!」
鈍い音とともに、アイリスに殴り飛ばされたおっさん。
「ハァ。またですか?シヴァさん。ああ、気にしないでくださいね。いつもの事なので」
おっさんが飛んで行った方向から美人の女性がニコニコしながら出てきた。
「ノエル。あの人はアイリスの姉妹か何かか?」
アイリスの姉妹なら仲良くなりたいぐらい美人だ。
「あらあら、嬉しい事を言ってくれるのね。私の名前はルドラ=グラシス。アイリスの母です。よろしくね。」
・・・え?えええええええぇぇぇぇぇぇ!?
だってこの人見た目大学生くらいだぞ。さすがに嘘だろ!?
俺がノエルが否定することを願いながら、ノエルにも尋ねた。
「残念ながら、この方はアイリス様の母君で間違いないぞ。」
「そして俺がアイリスの父である、シヴァ=グラシスだ。」
うわっ!?いつの間に後ろにいたんだ、おっさん?
「貴様、まさかアイリスの彼氏などではないだろうな?」
・・・は?なに言ってんの?
「父さん!?何を言ってるのよ!!」
「お前は黙っていろ!!!」
響く怒声。嘘だろ、人間で咆哮が出来る奴がいるとは。
「答えろ。それとも答えられないのか?」
単純に貴方に気圧されているだけです。そんな軽口も許されない雰囲気だ。
「シヴァ様。ここで、暴れないでください。他の迷惑になります。」
ノエルーーー! それは死んでくれってことか?
こっち見て親指立てるんじゃねぇ。
「それもそうだな。来い。」
命令ですか。俺に拒否権はないんですね、わかりたくありませんでした。
俺は心の汗を流しながら、おっさんについて行った。
「ルールは戦闘不能になったら負けだ。」
広い闘技場の真ん中で俺たちは向き合っていた。
刀は既に創ってある。
静かに立っているはずなのに、すさまじい殺気だ。
「来い。」
言葉とともに俺はおっさんの後ろに瞬間移動し、後ろから斬りかかった。
おっさんは前に倒れこむように俺の攻撃を避けた。
「ガハッ!?」
避けると同時におっさんの蹴りが俺の腹にめり込んでいた。
吹き飛びつつ、魔力で矢を創りおっさんに数十本撃ち込む。
「銀だと!?」
今度は避けきれなかったようで、何本かおっさんに当たった。
その間に俺は空中で体勢を変え、着地。そして追撃に再び矢を飛ばす。
今度はおっさんに避けられるも事前に準備していた空間で矢を移動させ、おっさんの全方位から発射。これでどうだ!?
「ガァァァッ!」
・・・嘘だろ?おっさんは咆哮ひとつですべての矢を吹き飛ばした。
「久しぶりに楽しめそうだ。ここからは本気で行くぞ。」
言葉と同時に飛んできた拳をかろうじて刀で受け流し、
そのまま斬りかかり避けられ受け流し蹴って止められ振り下ろし投げられ――――――
「そこまで!!」
紙一重で止まる刀と拳。なんで止めるんだ、タノシカッタのに。おっさんも同じく不満げな顔だ。
「シヴァさん、何全力で戦おうとしているんですか? 誓いを忘れましたか?」
ルドラさんはニコニコしているが目が笑ってなかった。
「・・・すまん、久しぶりのまともに戦える相手だったもんでな。熱くなってしまった」
おっさんも顔が青くなっている。戦闘だけが理由ではないと思うのは俺だけだろうか?
「まあ後でじっくり話しましょうね?」
あれ?俺関係ないはずなのにこっちにまで寒気がする。
「お母様は怒らせると怖いですから、気を付けてくださいね」
そう耳打ちをして、アイリスがタオルを渡してくれた。
「ありがとな。今後、気を付けるよ」
俺はルドラさんを二度と怒らせないと心に誓った。
「さぁ、歓迎のパーティーをしましょうか」
その後は、初めて見るような豪華な食事が並んだパーティーが開催された。
「娘の命の恩人だったのか」
おっさんは酒に酔ったのか、真っ赤な顔で話しかけてきた。
うわっ、酒クセェ。
「すまんかったな。俺の早とちりでお前には迷惑をかけてしまったようだ」
そんな事を今更謝れても困るし、なにより
「別に、俺も楽しめたし、大丈夫ですよ」
俺もまともに戦うのは久しぶりだったからな。かなり楽しませてもらえたしな。
「ですから、気にしないでください。せっかくのパーティーが台無しじゃないですか」
「そうですよ、シヴァさん。彼の言うとおりです」
ルドラさんはさっきの戦闘を止めた時と同じ顔になっていた。
「男がいつまでも引きずってても気持ち悪いだけです」
うん、俺もそう思うぜ、おっさん。
「そうだな、すまなかった。変な空気にしてしまって、パーティーなんだから楽しまないとな。とりあえず大食い大会を開こうか。」
大食い大会は、ノエルの優勝で幕を閉じた。




