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98 とんでもないのベクトルは違いますね

世の中や世間を「知っている」とはどういうことだろう?

知識と言う点ならば「秘書」的な存在が一番だろう。

経験と言う意味なら「水商売」的な存在が一番ではないだろうか?


※ 水商売=世の中の景気に左右され易い商売と言う意味で、お酒だしたり夜中にだけやる仕事の意味ではありません。含むのは有りです。


どちらにしても、始まりたる「始点」がない以上は終わりたる「終点」がない為に結論は「基幹」がない限り出す事は出来ないだろう。世の中、そういう事はよくある。

ついでに言えば、始まりを特定出来ない事を「混沌(カオス)理論」と呼ぶ事もあるらしい。


「……なんなんですかね?」

 白衣はそのまま、片眼鏡(モノクル)仕様のラーカイル医師は眉根を寄せてご機嫌斜めだ。

 つい今し方までは、研究が進んだのか割とご機嫌な様相を見せていたのが傍目でも判る程度だったのだが。武器及び若干の必要な買出しを終わって逃げるように現れた面々を見て「面白い事でもありましたか?」と言うほどの余裕を見せていたのだが、キャシーがレンがアインスが秋水が、時には茶化しながら時に話を修正しつつ進めると余裕の笑顔がどんどん氷の笑顔になって行ったのである。

 内心、空気が読める秋水は「まずったかなあ……」と思うが空気が読めないのか読まないのか、アインスは好き勝手に言っている以上は止めるべきか止めないで全責任を被ってもらうべきか悩む。

「レン・ブランドン様……少々失望しましたね」

「し……かたねえだろ! まさか、僕だってここまで……」


 ぜいぜい、ぜいぜい

 ぜいぜい、ぜいぜい


「絵姿にでも収めておけば、いかほどの儲けになるか試算してみたくなりますね」

 一人、優雅に再びお茶のカップを傾けているのはカーラだ。

「やめておいた方が良くない? 手間と恨み言が満載で後で面倒な事になりそうな気がする」

「おや、シュースイ様にもお分かりになりますか?」

「そりゃあ、もう……」

 秋水がうんざりするほど、最期には隠す気がさらさらなくなったレンが……簡単に言えば、暴走した。

 確かに、師匠をなくして独り立ちするに出来ない状況にあるメイジャ工房には同情心すら起きるが。あくまでも現在職人都市に在住しているのは仕事上での事であってメイジャ工房に留まるつもりは全く無い。そもそも、ムナが「他の職人を入れる気はない」と断言していたのだから抑止力になってくれるかと思えば、ドーンが作ったものを見て「これほどの腕前であるのならば、あるいは……」などと恐ろしい事を言っているのだから、当てが外れたも良い所だ。

 最期には逃げ帰ってきたくらいで、正直な所を言えばドーンの武器「鋼糸」はともかく、アインスと秋水の武器に付与される筈の合成魔石については作業途中で放り出してきてしまったので悩みは尽きない。

「この様な事態になって、私も始めて目の当たりにした気がしますが……確かに、レン・ブランドン様の演技力にも感嘆するものがございますが。何故に商人としての私の目があれほど曇っていたのかと、今では思う日々なのですよ」

 カーラ達が契約を締結して現れてみると、壁際に追い詰められているドーンと、ドーンに迫ろうとして首ねっっこを捕まれているユウナと、そのユウナを掴んで聞いてもいない説教を懇々と垂れると言う姿があって。

 三人の目が点になっていたのは……言うまでもない。

「恋だからでしょ」

「……そう言う、ものなのでしょうか」

 つい先日までは、まるで熱にうなされた様なユウナみたいな目でレンを見つめていた己は記憶から消えたわけではない。どちらかと言えば、記憶はしているけれど他人事みたいに感じるけれど、やはり自分自身の行った結果だから余計に不可思議でたまらない。

「さあ、俺は恋とか愛とかよく判らない。

 だけど、物の本にあったのは『恋は触れると火傷する様なもの、火傷するスープの様なもの、だから後は冷めるだけ。冷めた後は暖めなおそうとしない限り、決して温まる事はない』って書いてあった。

 恋に落ちるとか恋に燃えるとかあるけど、それって止めようと思えば止める事が出来るもので。もし止まらないとすれば、それは誰かの為じゃなくて自分の欲望を優先したって事だから、都合の良い事しか体の中に入れたくないって事なんじゃないの? よく判らないけど」

 恋愛の本を読んだ事は、結果的にカーラにはほとんどない。

 そんな物、と言うと世の恋する乙女から何か言われそうだが恋愛小説を読むならば実用書の方が優先順位はどうしたって高くなる。しかも、本は決して安いものではなく取り扱いだって丁寧さを心がけなければならない。

 だから、秋水の言った言葉がどこまで正しいのかは理解出来ない。

 ただ、言った事場の意味を租借する余裕くらいはある。

「……シュースイ様は、思ったよりお優しくはない様ですね」

「と言うより、俺にとって人って味方じゃなかったし」

 アインスとレンがじゃれあう様にラーカイル医師に報告がてら、まぜっかえすキャシーが事を複雑にしている様な気がしてならないのは気のせいだろうか……どちらにせよ、もし何らかの問題が生じるのであればドーンが……否、ドーンはきっと見ているだけだろう。何故か不安要素しかない。

「と言うか、人の事を優しい人物とか言う認識ってどうなの? ありえなくない?」

「それは……何故でしょう?」

「どっちの問題? と言うか、どこの話題?」

 問われて、確かに話題が二転三転している様な気がキャシーにもしてきた。

 何故こんな事になったと言うのか……もしかして、意外とカーラもこの状況に動揺しているのかも知れないと初めて思った。

「では、まずシュースイ様のお味方について」

「……嫌な所からついてくるね、別にいいけど。

 聞いてるか聞いてないか知らないけど、俺ってこの世界に来るまでは引きこもりしてたの。つまり、家から一歩も出ない感じ? でも働かないと食べられないからね。飢え死にしたかった訳じゃないから、金儲けは家でしたし、注文も家でしたし、とにかく外に出るのが怖かったからね。だから、きっと家の中で何かしてる最中にこっちに来たんだろうなって気がする」

「怖い……ですか?」

「苛められてたからね、俺にはどうする事も出来ない生まれとか親とかの問題で。詳しい事は省くけど。

 俺自身の問題……顔が嫌いとか性格が受け付けないとかだったらさ、まだどうにかなるけどね。難しいけど。でも、親の問題とか家の問題とか持ってこられても俺自身にはどうする事も出来ないわけ。で、俺が引きこもり始めたら親は養育期間が済んだら放置して、そうしたら泣きついてくると思ったんだろうけど甘いっての。

 と言うのが、大体の流れ」

 カーラの目から見ても、今の秋水はとても引きこもりをしていた様には見えない……体力が不安定と言う点を除けばと言う事になるが、それでも悪魔の実と呼ばれるアサイーなどを摂取する事や偶然から怪異に食いついたりして状況は変化し始めている。状況に流されただけだと言う話もあるが、断らなかったか断れなかった時点で今の状況は秋水の責任になるのは仕方が無い。

「あ、ちなみにそんな事はどうでもいいんだよ。親はほとんど顔合わさない生活だったし、学校だって私立……こっちだと私学? 私塾? 個人経営だったから、金と成績表が何とかなれば文句も少なかったしね。俺の様子を見に来る人だってゼロじゃなかった……気がする。細かいところが曖昧だけど」

 それは、世界を超えて来た影響だろうといわれている。

 実際、最初に目覚めた秋水は貧血とか他にも幾つかの要因から肉体の制御が上手く行かなかったらしいと言うのはカーラも基礎知識として知っていた。

「そんな過去がある人間が、どうして他人に優しくできるって思うわけ?」

 言われても、そんな背景があるなどとカーラは知らなかった。

 ただ、きっとそんな事は言い訳に過ぎないのだろうと言う気もした。

「言ってないから知らなくても、おかしくはないけどね……」

「見た目の印象、とでも申しますか……キャシーの様な方が側にいらして、それでも悪行を行えるとも思えませんし」

 と言うより、悪行どころか普通に生きようとするだけでどったんばったん倒れまくっていた人に悪行を働けるほどの暇や行動力はないだろう。

「あ、それは言えるかも」

 僅かに笑ったのは、キャシーと過ごした時間を思っての事だろう。

 仕事の範疇で秋水が希望を口にする事は可能な限りかなえようとするだろうし、それが理にかなっている事であるのならば「綺麗事だけで腹が膨れるというものでもございませんし、人生には少しばかり遊びが入るのも一驚ではないかと言う言葉もございます」などと言いながら多少は目を瞑ってくれる事もあるだろう。

 ただ、実行した事がないから何とも判らないが秋水が犯罪に走ったりしそうになったら全力を持って止めるのではないかと言う気もする。当然、キャシー自身の身を守る為にと言う理由もあるだろうが同時に主を守る為に動く人種ではないかと思うのだ。

 勝手な想像に過ぎないので、口にした事はないけれど。

「ちなみに……こう見えても私には、幾つかの情報が入ってくる様になっております」

「ん、そうだろうね」

「……ご存知で?」

「少しくらいは想像つくさ、そりゃあね。キャシーも毎日頑張ってくれてるし……たださ、俺にはこの世界の基本的常識? と言うより、一般的な社会的な常識? と言うか、人としての常識って言うべき? かな? そう言うものがほとんどまったくないから想像にも限界ってものがあるわけですよ。

 でもさ、カーラも言ってたし俺の元の知識でもあるわけ。情報は最大の武器みたいな言い回し?」

 こくりとカーラは頷く……確かに、キャシーがつけられるだけあって絶対的な知識は省かれていた事もあって皆無に近いし、秋水の環境やら状況から考えてみても記憶している事はほとんどないみたいだから仕方が無い部分も多いのだが。それでも、数少ない知識と現在進行形で得ている情報からの判断力は決して悪いと言うほどのものではない。

 単に「ギルド上級ランク保持者」の価値を知らないからだと言う可能性があるとしても、無茶な事は言わないだろうしさせないだろう。己の肉体の事を考えると他人にどうこうより、まずは思考から行動をしてみて把握するタイプらしいと言う事も判った。

「判らない事があるのは、情報操作されている事を考えても諦めがつく部分はあるし」

「隠匿ではなく、操作とおっしゃられましたか?」

「どっちかなあとは思うけど、どうせなら操作の方が楽そうだし」

 悪い人ではない、と言う事と良い人だと言う事はイコールで結ばれる事はない。

 どちらにも、脚力で越える事は不可能な高い壁と。素もぐりでは届かない、深い溝がある。

「隠しきれるものではないから、ミス・リードさせる方が楽でしょう。秘密は隠すと暴かれたがるけど、大きな嘘を隠す為に小さな嘘をばら撒いておけば大体の人は小さな嘘に注目して大きな嘘には大きすぎるからこそ目を向ける事はない……という事も、ある」

「そういう経験が、あるのですか?」

 だとしたら、カーラにとってもそうだが周囲にとっても秋水は侮ってはいけない存在となってしまう可能性がずっと高くなる。

 恐らく、じゃれあっている中でもこちらに聞き耳をキャシーは立てているだろう。もしかしたら、ラーカイル医師も片手間で話を聞いているかも知れない。


 とんでもない拾い物。


 キャシーが最初に聞いたのは、秋水を表現する言葉だ。

 でも、とんでもないの種類が違うのはないかと初めて思った。

「直接はないかな、俺の居た国でも何十年も前なら国の情報だけが全てって事もあった。今、別の国が似たような目にあってるってことを知ってるくらい。記録って大事だなって痛感してるのは今かな?」


ラーカイル医師、久しぶりに登場です。

表立っては出てきませんが、裏では一人ほくそ笑みながら研究し放題で大喜びして「ました」の過去形です。

忘れてるかも知れませんが、この人も結構腹が……(武力介入入りました)

あと、物理的箱入り息子の秋水VS精神的箱入り娘のキャシーさん。ちなみに軍配はどちらにも上がりません。戦う土壌がそもそも違うからです。


そういう訳で次回予告的な何か。

「えー皆様、大変長らくお待たせいたしました(え、まってない?)

流石に全話のうち職人都市編が半分を超えてしまって「アイタタタ」な現在。次回で99話目。その次は大台100話目ですよ……って、今まで何やってたの!と言われたら否定出来ない今日この頃。

 本当に100話目書けるのか、そもそも話はどう続くのか、この展開のオチについては先に出来ていたのに明後日の方向に行こうとしていないか!?などなどございますが、学園都市編と職人都市編を経て学園都市に戻り、一度このお話はENDマークを付けます。本当に付けます、本当に本当……って、自信なくなりそうでくじけそうですが……」

でも、その後のことは全く考えてないんですよーと言う予定なんですよ。

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