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97 この世で最も難しいモノ

大抵のものと言うのは、歌やお話にある様に素の形を壊して手を加える事で新しい形を得る事になります。

料理なんか、まさにそんな感じですね。


だからと言うわけではありませんが、まだお料理教室が続き…ませんって言うより、お料理じゃないから。コレ。


「では、次の工程に参りましょう」

 何かを言い募ろうとしていた秋水と、言い募ろうとしているのを理解していたアインスと、誰も何も言わなかったから誰も見ていなかったが聞き耳をたてていたユウナの三者に合ったかもしれない空気を拳で殴り壊した事になるキャシーの声は、酷く場違いに聞こえた。

「恐れ入りますがユウナ様、続きの合成魔石についてはお二人に説明をお願い出来ますでしょうか?」

「なんで俺が……!」

「それは、すでに契約がなされている事によりメイジャ工房所属第二技術者であらされるユウナ様には依頼主及び紹介者であるカーラ様の依頼により私共のパーティにおける武器及び防具の作成補助の責任がすでに生じているから、と言う説明では不足がおありでしょうか?」


 うわあ、今日も情け容赦なく絶好調ですね。キャシーさん!


 誰かが内心で平伏的賞賛の声を上げたくなったが、口にしないと言う懸命な行動を脳みそに選択していたりする。

 言い方が悪ければ「そろそろ仕事しましょうね」と言う事になるが……実際はキャシーがどう思っているかなど恐ろしくて周囲には聞きたいと言う勇者的な猛者は存在しない。

 当然、矢面に立たされたユウナも気配的に「裸足で逃げたい」と言う衝動にかられはしたけれど出来ないと言うより、してはいけないし、やるだけ無駄だと言うのも同時に感じてしまったのは良かったのか悪かったのか。

「大変申し訳ございませんが、合成魔石につきましては私の持ちうる知識及び情報では本職の方には少しばかり手が届かぬと言う屈辱的再戦の心得を胸に抱きながらしばしお世話を離れる事をお許しいただけませんでしょうか?」

「え、あ、ああ……うん、いいけど……」

 どこまで本気なのか、本気で理解出来ない秋水としては背後に揺れ動きまとう空気から「半分本気で半分嘘」と言う空気を感じ取ったものの。確かに、いかに成人前とは言っても本職以上の知識と技術を持っていたとなると問題になるから身柄を引いたのは、嘘ではないけれど事実でもないと言いたいのだろうと言う事くらいは、なんとなく理解しようと努力した。それよりも恐怖心の方が強くて知らずに後ろに下がりたくなるのが困った所だったりするのだが。

「世話を離れるって……どっか行くの?」

「物理的な距離的にはこちらの空間内におりますが、私の次の工程としましてはドーン様の武器の作製のお手伝いをさせていただくと言う予定がございますので」

「ドーンの武器って……糸、だっけ? あれって作れるものだっけ?」

 地下水路での戦闘は、その場に居なかったと言うより別の意味で一人孤軍奮闘して朝まで身柄を守り続けたアインスは、知識としてドーンが主に使用する道具兼武器の一つとして金属製の糸が存在する事は知っていたが。かと言って実際に見た事があるわけでもないのは、単に機会が無かったからである。

「そんじょそこいらの技術者風情では、現在のドーン様がお持ちほどの高精度のモノの作製は老後になっても難しいかと思われますが、何とかこの場をお借りすれば……恐らくは」

 キャシーにしては珍しく、どうにもはっきりしない物言いをしている。

 それ以前の問題として、キャシーは本来メイドさんなのだから知識が豊富すぎると言う話もあると言うものの。「でもキャシーだからなあ」で終わってしまうあたり何とも言えない。

「んなわけないだろうが」

 ところで、ここで口を挟んだのは件の人物たるユウナだ。

 ユウナに言わせると「糸状の金属物質を形成する」のはひどく高度な知識と熟練の技術が必要だったりするもので素人には逆立ちしようが素もぐりしようが出来るものではないと言う。それこそ、心底言いたくはないと言う顔をしながらも今のマイナやユウナが技術をあわせたとしても出来るかどうかは怪しいそうな……。

「失礼を承知の上で申し上げますが、古来より金属を糸状の物質に転換させる手段につきましては存在しておりますが。その技術についての問題点をおっしゃられておいででしょうか?」

 先ほどとは逆に首を傾げたキャシーは、頬に手を当てていて仕草は可愛らしいと言えなくはない。

 もっとも、表情は本当に欠片も動かないのだから上手い物だ。

「あれには……詳しい事は知らないけど、きっと特別な技術とか難しい手立てとか……」

「それは、アレの事でございますか?」

 視界の端では、何時の間にやら着々と作業を行っていたのだろう。

 黒尽くめで服をずるずると引きずるかのごとくな、顔すらよく見えない格好をした人物が、いつの間にか材料を用意して先ほどと同じように箱の中に材料を放り込んだ後でテーブルらしい台の上にさらさらと流した後。

 よくは見えないが、手でいきなり……叩きつけてこねくり始めていた。

「え……?」


 どったんばったん

 こねこねこねこね

 どったんどたどた

 だーんこねだだん


「ええっ?」

 時々、ドーンが何かを考えて側に置いてある粉状の物質……まるで打ち粉だ。

 十分にこねくり回したと思ったらしいドーンが、どこから出したのか広げた布の上にこねくりまとめあげた物質を布の上に載せて、くるくると纏め上げた。

「なんか麺類作ってるみたいだなあ……ラーメン食いたくなる」

「ラーメンでございますか?」

「いや、パスタとかでも良いんだけど。長いもの?」

「賛成。暖かいもの食いたいね」

 海辺の町では寒暖の感じ方が学園都市より若干激しいと感じるのが普通だ。もっとも、学園都市には基本城壁でぐるりと囲まれているので中心部ほど空気がとおり難いと言う問題もある。当然、その辺りは考慮されて空気が通り抜けられる設計にはなっているけれど、職人都市の海側にある城壁は外的からの侵入よりも元来は海の侵食を抑える事を前提に作られたものだ……現在は無意味なものとなっているけれど。

 海水が浸食する事により、職人都市は沿岸部の一定地域までを地上側の周囲が森に囲まれて防風林的な一種の外壁となり、その向こう側は砂漠が広がっている。


 こねこねびにょおん

 こねこねびにょおん

 こねこねびにょおん


「すげえ……」

 ユウナが、とんでもないものを見るかの様な目で真剣さと憧れをにじませた瞳でじっと。そして黙々と作業を続けるドーン……珍しく、マントの下の袖を肘くらいまで上げている姿を見て居るのはユウナだけではなく、こちらは掛け値なしに、ある意味純粋な眼差しでドーンを見つめるのはレン。


 なんでだろう……二人とも似たような目で見ている筈なのに、なんか妙に混沌感が駄々もれてる気がする……?


「金太郎飴……あ、そうか。だからラーメンか……」

 しみじみと頷いている秋水の横で、アインスはじっとドーンを見つめている少年二人を見つめて頭を悩ませているので、必然的にキャシーが問いかけてくる。

「キンタロウアメとはいかなるものでしょうか?」

「……そうか、金太郎飴ってこっちにないのかな?」

 秋水は、状況には流されている自覚はあるけれど決して愚かとは言えないだろう。

 数少ない判断状況で、己の知っている言語は翻訳されているけれど。知らない言語は自分自身や相手にもそのままの言語で伝わっている。だから、たまにキャシーやアインスが変な言葉を聴いた顔をする。

 実際、この世界の人たちにとってはそう言う概念があるのならば近しい言語として翻訳しているけれど。ない場合は翻訳されない。とは言っても、秋水にとっては二ヶ国語放送みたいに唇の動きと耳から入ってくる音が違うと言うものではないから秋水の肉体として構成されている部分が理解していると言う事になる。

「いかがなさいましたか、秋水様?」

「うん……もしかして、人って脳みそで考えてないって事なのかなあと思って……」

「……はあ、左様でございますか」

 呆れとも疑問ともつかない部分的な答えを返されても、実際に秋水だとて何か確信ある決定だがあって言っているわけではない。

「何故その様な思考に至りましたかは判断つきかねますが……」

「いやさ、今キャシーが理解出来なかったみたいだから……」

「申し訳ございません、メイドとして主の要望にお応えできぬとは私もメイドとしてまだまだ不適格であると言う事ですので……」

「いやいや、多分そうじゃなくて。この世界に『金太郎飴』の概念がないから上手く翻訳が出来なくて、それを素の言葉のままキャシーが聞いたから余計に理解出来ないかなあと……ちなみに、金太郎飴って飴なんだけどね」

 元々は長い一本の棒だが、それを一口大に切ると断面図が同じ顔とか形とか模様となる珍しい技術であると言う事。また、ラーメンを連想したのはドーンがどったんばったんと材料をこねくり回す方法がラーメンを作る時の手段に酷似しているから。あと、脳みその話については己の認識と物理的言語として発する場合はこの世界の材料で構成されているからではないか。しかし、そうなると本来ならば脳みそとして機能している部分の魂や宗教的概念から来る「中身」がこの世界で作られたものではないから、そういう齟齬が生じるのではないか。などなどを断片的に、しかも思いつくままに口にしていた。

「何やら、難しくお考えになられているのではないかと言う気も致しますが……」

「やっぱり? あと、ちょっと思い出したんだけど……この世界の動物。魔族とか魔物とか言われてる系統でも良いんだけど、首がない生物って居る? そういう存在が首を浚われた場合は首から下の存在がどうなるか知ってるかなって思って」

「ああ……確かに、そう言う生物の存在と言うよりは。首を刈り取られても暫くは動いていられる存在と言うのは、確かに耳にした事がございます。

 ただ、そういう場合は滅多にございませんので、お応えを致しかねると申しますか……」

「所で……ユウナ君がすんごく目をきらきらさせてみているけど。ドーンがやってるラーメン……じゃない、技術ってもしかして珍しかったりする?」

「え、あ、はい……あれもまた乱暴な技法の一つですが、技法としては間違っておりません。

 基本を抑えてあり、作成者が自ら調整を行えばあの程度の技術は珍しいものではないのが事実。ただ、最近の職人達の間では基本を基本と思わず、様式美に拘る傾向にあると言うのが悲しき現状でございます」

 見ていると、どったんばったんと続けていたドーンの手の中で良い様に弄ばれこねくり回されていた材料はラーメンの様に何十本もの細い糸状の物質になっている。これがラーメンだったら、両手の部分にある物質は団子状となっていて最後に両端を切り落とす事で生ラーメンが完成する筈だが、実際の所は煮ても焼いても食えないものを作ってるわけだし手の中にあった部分も団子状になっているわけではない。

「お、おい『夜明』様! 俺をお前の弟子にしてくれての良いんだぞ!」


「……ツンデレ?」


 しかも、とても判り易いツンデレである。

 手作業が終わってオーブンに収めたドーンをまっていたのは、頬を赤らめて少し涙目で上目遣いにこちらを攻め寄ってくる美少女にしか見えない……が、後ろ首をつかまれて持ち上げられ、暴れながらもこちらの要求を通そうと躍起になっている姿だったりする。


「あれ、もしかしてドーンたじろいでたりする?」

「いやいや、アレってたじろぐレベルだろう? 普通? てか、アインスならどうするよ?」

「裸足で逃げるかな?」

「アインス様の場合、その可能性は皆無でございますのでご心配の必要はないかと……」

「うるさいよ!」

「て言うより……もしかして、ドーンって割と変わったものに好かれてたりしない?」


 片や、何やら一方的らしい人間関係が構築されつつある中で。

 片や、返答に困るらしい台詞を吐かれてかこきんと動作が止まった下級ランクの少年とメイドだった。


ユウナ君、猫属性が判明しましたが猫ではありません。

両方の親がちょいとばかり特殊な種族同士だったのでハーフですが良い所ばっかりもらっちゃった感じです。生みの親はどうした(え、僕?)

ドーンが無言で作り続けてるのは、中国で作ってる生ラーメンの作り方です。で、そこから秋水が金太郎飴を作るときに伸ばすのを連想したと言う事になります。

ちなみに、ラーメンとかパスタとか言っているけど厳密には秋水の記憶の料理と同じかと言うと……本人曰く「自信ないけど、まずくないし」との事です。


そんなこんなで次回予告。

「あれ?なんかまた話が手痛いしてない?違う停滞じゃないの?確かに手落ちって感じだけどね、と言うか会話してないで次にいけよ早くしろって言うかカーラと秋水が語り始めたので更に次回に動くのは持ち越しです……もうすぐ100話。参ったね。年内で一区切りはつける予定です」

て言う予定は未定ー!

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