96 お菓子より簡単なツクリモノ
何かを「そうぞう」すると言うのは非常に「力」が必要な事である。
「そうぞう」とは「想像」であり「創造」だ。
「力」とは「エネルギー」であり「技術」だ。
同じにすると一部の方はお怒りになるかも知れないが……。
子供を生む、と言う行為も。
料理を作る、と言う行為も。
文章を書く、と言う行為も。
程度の差こそあれ、とてつもないものが必要であると言うのは経験者には思い描く事が出来るかもしれない。
未経験ならば、考えてみてくれたまへ。
材料を用意します。
それぞれ好みの材料を、箱の中に入れます。特に何かをする必要はありません。
入れたら、蓋を閉めて一度叩きましょう。出来たら閉める前に自分の体液を一滴以上垂らします。
そうしたら、好きな型に箱を斜めに傾けましょう……中から粉状だったり液体が出て来たら表面張力で膨らむ程度まで流し込みます。零すと綺麗に仕上がりませんので気をつけてください。
次に、型の反対側の部分を上から被せてきっちり音がなるまではめ込んで固定します。
蓋の部分がぐらぐらしない事を確認したら、そのままオーブンに入れます。
オーブンに向かって、じっと見つめていてください。
ちんと音が鳴ったら出来上がりです。
でも、出来上がった直後は熱いので火傷に気をつけてください。
「はい!」
「「はい! じゃないと思うんだけど!」」
チーン! と言うどこかで聞いた事がある様な音がしたと思ったら、キャシーがかぱっと蓋を開いた。
中にあるのは、つい今し方アインスと秋水が作業をしていたもので斧と数本の短剣が入っていた。
「……何か問題がございますか?」
仕草だけはきょとんとした風情ではあるが、これに騙されて「大丈夫だね」と認識すると常識が家出をする羽目になる。
「いや、問題とかいう前にさあ……常識考えようよ、キャシー」
「そうそう……俺も一瞬信じそうになった。やっぱりこっちの世界だと魔法とかあるから、こういう武器なんかも作り方違うんだよなあって」
少年二人が、しみじみと「常識ってスバラシイ」と内心で語っている所。
「何をおっしゃっておられるのですか、アインス様。秋水様?」
逆に返された声色で一気に「ぎしっ」とどこかで何かが音を立てたような気がした。
と言うよりも、内心で「逃げたい、逃げたい、逃がして」と打ち合わせることなく心が一つになった瞬間でもある。
「「え?」」
「ユウナ様……私、何か手違いでも行いましたでしょうか?」
小首を傾げる姿は、常とは違って人形的な愛らしい雰囲気さえ持ち合わせているように見える。
あくまでも表情そのものは見ている限り欠片も変わっていないので、見た事がなかったり気をつけて見なければ……それでも判らない事は普通かも知れないが、それでも見ている側が気にしていれば。そしてキャシーの方でも相手に幾ばくかの慣れがあれば、もしかしたら理解出来るかも知れないと言う可能性は否定出来ない程度には変化がある。かも知れない。
「……乱暴な手段も極論もあるとは言え、俺の知識が間違っていなければ全く間違っている手段とは言えない」
「随分と遠回りに肯定なさいますね、ユウナ様?」
「やかましい」
心の底から「心底イヤです」と言う心情をべったり貼り付けたまま否定もしないユウナの言葉と言うより、今からそんな渋面を作るようになったら将来が心配と言うか不安なんだけどと言いたくなるほどに歪んだ顔と言うのは、やはり綺麗な顔をしているので「美形なんて…」と思った者が、実の所を言えば客観的に見ると特別話題になるほどではないが整った顔立ちをしているなんて言う事実は普通にあったりするわけで。
「……どう言う事?」
「て言うより、行程だけ見たら焼き菓子の作り方じゃないかな?」
秋水は、元の世界に居た時には引きこもりをしていた。しかし自宅で出来る仕事をしていたのでニートではないが、かと言って「外に出る」と言う行為そのものを拒絶していた以上は知識以外での情報を持っていない。ついでに言えば、料理の趣味をしているだけの余裕は無かったので基本はレトルトとインスタントな生活をしていたので、考えてみればよく生き延びられたものである。ストレッチ的な基礎トレーニングは仕事の為に皆無と言うわけではなかったけれど、とは言ってもあのままの生活をしていたら遠からず脳みそや血液が生きる事を諦めた可能性は否定出来ない。何しろ、健康診断すら行かず調子が悪いと思えば基本は眠って治し、駄目そうなら市販薬や栄養剤とを宅配、あとは風呂入って眠るだけで過ごしたのだ。
一部訂正するとすれば、料理に興味が無かったのではなく。美味しいものを食べると言う行為そのものに興味が無かったのと、外出したくなるほど美味しい料理を食べた事がないからである。記憶にある限り。
「え、そうなんだ?」
逆に、アインスは幼い頃から家に負担を掛けない事と生きる事と遊びは同じラインとレベルの話であって。大抵の事がそうである様に、楽になれる手段や環境を知らなかったアインスが外に出るまでは己がいかに底辺な環境にいたのかと後に嘆く事になる様な生活をしていたのだから、そう言う意味でも嗜好品である甘味などは実家に居た頃は滅多に口に出来なかったが良いものを口にする機会が山の中にあったし、成長して学園都市に来てからは僅かなお小遣い稼ぎで以前よりは比較的早いサイクルで子供の小遣い銭程度の甘味を口にする様になったと言う成長の仕方をしている。いかに効率的に金銭を貯蓄するかはアインスのライフワークに近くなっているので、購入するよりも手作りの方が安価に仕上がるのは判っていて、いつか自作したいと調べたりドーンの力を借りていたりする事実はレンには死んでも隠そうと硬く心に誓っていたりする。
何、学園都市には様々な分野の沢山の文献があり、住民の中でも年嵩の人々は思いもかけぬ知識を有している生きた書籍として敬えば彼ら彼女らは簡単に情報を教えてくれる事もある。
「粉……つまり、材料を混ぜて整形して、熱を加えれば焼き菓子は大抵出来ると言っても良い。同じ理論で焼き物なんかもそんな感じなんだ」
「あ、それは判る。前に……見た事ある」
秋水が一瞬だけ言い澱んだのは、一応は周囲を慮ったからである。
自他共に認める、中身は異世界人な秋水ではあるが。己の研究の為に努力をする事に貴賎を問わない人と言うのはどこにでも存在するので、可能な限り正体は隠す方針だ。あまり努力をする事を記憶していない瞬間も多々あるが、かと言って何もしないよりはマシかも知れない。
「けどさ……その言い方だと俺の居た所でも理論的には似てるけど。その場合、ざっくばらんに形が出来上がったら研いだりしてたんだけど……キャシーに言わせると完成って事? この状態で?」
「はい、左様でございます」
「お前なあ、もしかしなくてもウチのオーブンにケチつける気かっ!」
イライラとしながらキャシーの横でユウナは怒鳴っているが、小型犬が吼えている程度にしか感じないのはどう言う理由からなのか……決して高いとは思っていない秋水の「経験値」からは想像も出来ないけれど、引きこもっていた秋水が異世界とは言えサブカルチャー文化の中で育ち無駄に世界中に蜘蛛の巣の様に張り巡らされた技術を駆使して生活の足しにしてきた「知識」がフォローしている事など全く想像もつかない。
「いや、知らないから聞いただけ。多分、知ってたら聞くのもバカらしい事なんだろう?」
「……と、当然だ! オーブン一つでこの場合の技術は左右されるからな。そんじょそこいらの工房のオーブンなら、今のお前が言ったみたいな後行程だって必要な事もあるけど、うちのオーブンは自慢だからな!」
「けどさ……そうなると、ユウナ君みたいな技術者の出番がどこで必要になるんだい?」
恐らく、自分自身の生活に密着している工房関係の話だからつい口を挟んでしまったのだろうが。アインスにも尋ねられて益々渋面は酷くなるので将来への心配度は上がるばかりで下がらない……しかし、彼も彼なりに色々と思う所があるのだろうか。
「まず、自分自身の為に作る場合は体液を混ぜた方が体に馴染むから良いのは確かだけど。他人の為に作る場合はそれが出来ないから、オーブンに入れる際の魔力調整だけで行わなければならない。だから、オーブンの差も当然あるけれど、そこで調整を行う技術者の繊細な調整が一般的には左右される」
「そこもまた、よく判らないんだけど……つまり、魔力がないと技術者にはなれないって事?」
「正確には……よく判らない。と言うより、判っていない。
オーブンの種類や時代にもよるけれど、魔力を持たない者でもオーブンを使う事は出来るしオーブンを使わない方法だってある。要するに、熱を加える事によって材料が整形しやすい形状になる事が第三段階だからな」
僅かではあるものの、秋水の言葉に「相手は『はじめての体験』なんだ」と思い込む事にでもしたのか、それともイヤな他所の工房への雑務と言う名の激務に借り出されなくて済む事になったらしい事を思っているのか、僅かに渋面は解消されている。
本当に僅かなあたり、まだユウナの中で真実に解消される日は近くは無いと言う事なのだろう。
「第三段階?」
ちらりとアインスが言葉と共に視線を向けてきたが、ユウナは一瞬だけ無視するべきかどうか迷う。
自分は確かにムナやマイナに彼らを工房まで案内するように言われて、その様に実行した。と言う事は、これ以上は何もしなくても良い筈だ……本来ならば。そして、子供の使いならば。
「第一段階は、希望者が必要にしている効能及び対象原材料の確定。第二段階は、原材料の確保だからな」
「そんなに細かく違うモンなわけ? あれ、じゃあコレは? キャシーが材料持ってきた?」
この町で育った者ならば、職種の違いは数あれど多くの「技術」について基本くらいは門前の小僧よろしく、見聞きして覚える事は出来る。だから、町の常識として知っている以上は大多数の説明を省いて専門的な説明だけで済むのが通常だが、他所から来た場合は本当に0から説明をしなければならない。
ある程度の大人になって、専門職についた場合。
大抵は誰もが通る道を、ユウナは今通っているわけであり……正直、鬱陶しくてたまらなくなっていたりする。
「あれ、ユウナ君どうかした?」
「うるさい、やかましい、だまれ」
「……ええとね、言いたくないんだけど」
「なら言うな」
「そんな『本に出てくるような頭を抱えて今にものた打ち回って自己嫌悪で転がりながら壁にぶつかるまで止まらない』行動の1歩手前みたいな今の状態を見て放っておいたら、なんかこっちが罪悪感にかられちゃうから。せめて、そう言う時は『完璧な笑顔』でもして置いたほうがいいんじゃないかな。今はまだ子供に見られてるみたいだから容赦されても、良いおっさんがやってたら温い目と痛い子を見る目と冷たい目で見つめられて真面目に放置されると思うから」
「なんだ、その具体的な台詞……」
ある程度の経験値はあるとは言っても、人との関わりあい方など基本は不得手としている人物と苦手としている、ある意味では出会ってはいけない人物が出会った時。
この場合は、片方が片方にお約束的な展開……子供の駄々を諭す大人的な展開になった。
もし、この場合は両者が互いに思う事もなく協力を求める関係で無かったとしたら違う結果になったかも知れないが。
「俺も回りに子供とか居た事ないから、何とも言えないんだけど……そう言う事は知ってはいるからなあ……」
そして、秋水とは逆に知識としては知らないが目の前で展開された事はあるのがユウナだ。
「と言う事は……方向性が違うだけで、もしかしてこの二人ってよく似てる?」
アインスの言葉に反応したのは、当事者二人で同時に振り向く。
「「誰の事言ってるの」」
台詞まで打ち合わせ無しで同じな為、二人の全く外見が異なる少年二人は一瞬だけ戸惑う。
「おお、タイミングもピッタリだ!」
が、戸惑ったのは一瞬だけの話で。
明後日の方を向いたのはユウナであり、アインスに向き合ったのは秋水である。
「そんなの、アインスとだってよくやるじゃないか」
「いやさ、僕とは打ち合わせした上でならよくやるし。でも打ち合わせゼロってのは気が合うって事だよな」
「コメントに困る台詞をありがとよ……」
「なんで、いいじゃないか。こんな可愛い美少年相手と気が合うのに?」
「言ってる言葉の意味がわからんしっ!」
一番簡単なお菓子作りは、市販のものを組み合わせる事かも知れません。
ちょっと頑張ってホットケーキをミックスを使って焼く事かも知れません。あとはポップコーンの素をフライパンで炒めるとか。
大体、次の段階でクッキーを焼き、最終的にはケーキに入るのが順番なのでしょうか?
ちなみに、個人的には一度に作れないクッキーと。作った事がないマドレーヌがちょっと鬼門かも知れません。ホットケーキミックスの材料を全部ぶち込んでシリコン型に入れてレンジでチンするのが一番楽です。大量に作れるし。
そんな感じで次回予告。
「痛み止めと痛みとの躁鬱状態の中で、何とか書いたよ96話目。そして今も書いてるよ97話目。世の中には簡単に出来る事もあれば難しい事だってあるんだよって事で!」
無事に書き上げられるといいなって思うんですよ。




