92 宝石は磨き方次第で光が変わる
よく、指輪とかペンダントヘッドでダイヤモンドなどに使われている形の中で「ブリリアントカット」と言うものがありますが、あれは幾つか種類がありまして。ほぼ58面で成り立っています。丸型は「ラウンドブリリアントカット」と言うそうです。
原石も想像力を掻き立てられますが、カットしてあるものはガラスでもきらきらと光を放ちますね。一部の宝石を除いて。(wiki先生より一部抜粋)
結論から言えば、子供達二人は行方不明というわけではなかった。
ただ、二人とも随分と思いつめた顔をしてはいたので下手をすれば何がしかに発展していた可能性があると言う恐ろしい可能性があると言うだけだ。実際には実行に移されたわけではないから、何かを気にする必要はないのだが。
「マイナ、ユウナ……二人に聞きたい事があります」
「ムナ……」
「……」
こちらの話を聞いていたわけではないだろう、だから特に何かあったと言うわけではないだろうと思われる。
だが、これまで苦渋と言う訳ではないが本来ならば今頃は工房の先代にみっちり教育を受けながら成人の日を待ちつつ守られていれば良かったと言うのに、今は程遠く何の関係もない工房の雑用をしている。
本人達には特に自覚があったとしても無かったとしても、色々な意味で同情されたり嘆いたりされたりする事はよくある事だっただろう。望むと望まずに関わらず言われていたら、そんな風に思い込まされたとしても不思議ではない。
「辛い目にあっていませんか?」
唐突に聞かれて、一瞬だけだがマイナとユウナの二人はぽかんとした顔をした。
言われた言葉の意味が判らなかったのか、とりあえず表情は戸惑っている。
「……では、辛く当たられていませんか?」
「辛いのは作る事が出来ない事くらいかな? 別に雑用なんて当然だし」
男の子だと言われると、ユウナの声の低さも気にならないから不思議だ。見た目は子供だと言うには色気がにじみ出るほどの美形で、身長は親方より若干高い程度の女の子の平均身長程度。
「俺だと作るより破壊する方が楽なんだよな……」
「いえ、それは……」
成人するしない以前の問題が、どうやらこの工房にはあるらしい事が判明した。
「別に荷物持ちとかするの特に難しくはないし……仕事の邪魔する奴らは踏み抜けば良いし」
「え……?」
聞けば、幾つかの工房では意地悪的に大人でも持てない荷物を数人分も一度に持たされた上に邪魔をしてくるので相手を蹴り転がせた上で踏みつけているらしい……マイナもそう言う目にあいそうな時はさり気なくユウナが同じ様に転がして置いて「こんなに荷物を持たされて見えないんですよねえ」と言う正統的に叩きのめしているらしい。
「え……」
「マイナは『夜明』の真似を始めたせいかちょっと引かれてるみたいだけど……」
「「「え」」」
ムナとアインスと秋水の声が重なった瞬間、だったりする。
「ま、マイナとユウナが引き離されて仕事してたりする事は……?」
「二人だけで工房の留守番する事はあるけど、雑用の仕事なんてあちこちにあるわけじゃないし。別々に仕事させた所で効率よくないし」
それでも、腕力が普通の大人よりも全然あるユウナは力仕事を。マイナは掃除や小物の細工の仕事などをしているらしい……手先はすごく器用だが、事務仕事が得意ではなかったと言うのもマイナが奥に引きずりこまれなかった理由の一つの様だ。
「確かに……下手に手出したら返り討ちに合うよな……」
「連れ込まれたりしていないって所を良かったと言うべきかな……あ」
見ると、ムナが思い切り空気が震えるような音なき悲鳴を上げて明後日のところを見つめている。
……ムナの想像の中で、一体子供達ふたりはどんな目に合わされているのだろう?
「ええと……ムナさん、そろそろ帰ってきてくれません?」
「そうそう、子供達の前なんですから」
アインスと秋水は、若干どころではない視線ビームで同情しまくりだ。
旗から見ると微笑ましいものを感じるが、当事者である子供達は不気味なものを見る目で見ているから同情ゲージのレベルはうなぎのぼりだったりする。
子供達にしてみたら、特に今更何をとか自分達の置かれている立場を考えた事もなくて不幸だなんて言う認識が無いと言うことなのだろう。
色々な意味で余計にムナが怖いと言うか面白いと言うか、そんな状態だ。
一種保護者的な立場にいるらしいムナの存在感が、どうやらこの少しの時間で変わってしまったらしい……ある意味、ムナが最も不幸な状態になっている様に見える。
「マイナ様」
現状で色々すっ飛ばした上でムナが色々と残念な状態になっているが、カーラは思い切り簡単にマイナとユウナに色々と説明をした……ムナが役立たずで自ら作り上げた思考の迷宮にどっぷりさ迷っていたりするのが最大の原因ではあるが。
「……なんだ」
ここでドーンに憧れて真似をする努力をしているとは言っていたが、生来の教育が良かったのかドーンならばするりと流してしまう所も思い切り反応しているのと他にも思い当たる理由からマイナの理想はまだまだ遠そうだ。
「以前、私が申し上げた事を記憶されていますか?」
「……何についてだ」
「私とマイナ様の交わした『契約』についてです」
マイナが戸惑うのは無理もなく……どうやら、育ての親的立場にいるムナが突然壊れてしまったかの様な動きと反応をしているし、かと思えば以前から懇意にしている商人から突然真面目な顔をして言われてしまっている。
「マイナ様は、まだ成人もされていない子供。ですが、このメイジャ工房の持主であらせられる」
こくりと頷くマイナが、実際の所を言えばどこまで己の立場を認識しているのかは判らない……正直、大の大人であったとしてもお「認識」と言う立場で考えるのは難しいだろう。知っていると言う意味で知識があると言う事とは、大いに異なる。
「成人をされていない以上、技術者として第一戦でご活躍をする事は出来ない事については……」
「当然、判ってる。私達にはその資格がない」
十分だとばかりに、カーラが頷く。
マイナの年齢はともかく、実務経験を積む事が出来ないのでこれ以上は難しいのだろう。
「実績を積む事が出来ない工房の末路は、ご存知でいらっしゃる?」
ちらりと、マイナとユウナの両方を見る。
全くの引きこもりではない以上、二人とも世間と言うものを全く知らないでいられるわけではない。
その当たり、ムナは可能限り二人の子供を守りたかったようではあるが……そんなものに完璧を求めるほうが間違いだと言うものである。
「……多分」
「ちっ」
お行儀が悪いと言うものではあるが、マイナは視線を逸らしてユウナは舌打ちをする事で反応を返す。
子供と言うのは、大人が思っている以上に知識が豊富で不可思議な存在だ。そして、大人になれば子供の頃に持っていた様々な事……良い影響を与える事も悪い影響を与える事も、忘れてしまうものである。結果だけはきっちり残されるあたり……色々とあるが。
「では、教えていただけませんか?」
「教える……?」
「はい、マイナ様の望みを。
私はリッツ商会の代表の一人として、マイナ様と交わした契約に置いて願いをかなえる為に力を尽くしましょう」
マイナが息を呑んだのは現状を理解して、尚判断を下したからなのか。それとも、判断を下す事が出来ないからなのか。
「カーラさん!」
あ、帰って来た。
誰かが呟いた気がしたかも知れないが、誰も追求しなければ黙殺されるものである。
「……なんでしょう?」
どういった反応なのか、カーラは静かにマイナから視線を逸らす。
知らず、マイナは息をつめていた事を知り。視線を向けられたムナが正面からカーラの表情を見て「びしり」と音を立てるかの様に凍り付いている……一体何を見たと言うのか。
「マイナは子供です!」
「だから、なんだと?」
いっそ嫣然と微笑みながらカーラは静かだが、対するムナは完全に空気に飲まれている。
これが普段のムナであるならば少しは抵抗も出来他のかもしれないが、先ほどの衝撃で完全に色々な何かがぶち壊れまくっている今のムナに構築できる手段など皆無だ。
それでも、懸命になって子供達と工房を守ろうとする気力だけでカーラに食って掛かってきているのであれば……精神力だけは褒めて差し上げるべきなのだろう。
商売の点からすれば加算ポイントは何一つなく、交渉と言う観点からも優遇する理由には欠片もないが。
「理由と年齢はどうあれ、責任ある立場として登録されているものが責任を果たす……ただ、それだけの事について何かご意見でもある。と、おっしゃられますか?」
怖い、怖いよカーラさん!
多方面から向けられる視線に対して、ぴくりとも揺らぐ事がないカーラは本当に気丈だ。
為政者となる事も、夢ではないかもしれない。
カーラが目指すものが商売人であると言う事が、果たしてあったかも知れない未来に対して良かったのか悪かったのか、それは永遠の謎だ。
「私は、メイジャ工房外商担当です。マイナから外商に関する全ての全権を任されています」
「つまり……あくまでも持主の意向を無視して話を進めたいと、おっしゃる?」
「メイジャ工房にとって間違った判断を下すのであれば、それを止めるのが私の役目です」
食い下がる頑張りは褒めてあげたいのは山々だが……ムナは大前提として一つ間違えている。
「でも、まだですよ」
「何がですか?」
「私は……リッツ商会は、まだ何も伺っていません」
本格的にカーラの言っている意味が判らないのか、ムナもマイナもユウナも煮たような顔をしてる。
顔のつくりではなく、表情の意味だ。
「私は商人です、商売として何ら成果が上がらないのであれば。それは当然の事ながら、リッツ商会の功績とならない事になります……その様な事を、リッツ商会の末端を担う身で行うわけには参りません」
当然の事だ、いかにカーラが学園都市での実験や他の都市でも影響力を持っているとは言っても。あくまでも世界をまたにかける「リッツ商会」と言うブランドの看板を背負っているから出来ている事であって私利私欲の為に使って良い事などない。
「リッツ商会がマイナ様と現在執り行っている契約では、基本契約の他に追加項目がございます。でも、それを使用されるか否かの決定権は私にはありません。あくまでも、契約主であるマイナ様の意向が最優先されます。
どんな未来を描いていても、それを実行させなければ単なる妄想に過ぎない……そして、このままの状態であればメイジャ工房は申し上げましたとおりに歴史から姿を消す事になります。
これは、あくまでも私見による我侭ですが……阻止したいと発言します。商売と言う事を含めた上でと言う事になりますが」
けれど、私的な見解の範囲で商会にとってマイナスにならないと言うのであれば。そして、商会が利益になると判断した上で契約相手から許可を得る事が出来れば。
カーラには、振るうべき采配が。手段を手に入れる事が出来る。
「我侭……ですか……」
「私には、大事な弟と妹がおりましてね……お二人と年齢が近いかと言われればそうでもないですし、似た所は全く無い。でも、可愛い弟と妹です」
事実である。
カーラ・リヒテンシュタインの魂が聖性される事となった原因の一端を担っていると言う意味では、一部では有名な事実すぎる事実だ。何しろ、その弟妹は双子であり、双子とは割りと精霊に好かれいやすい体質をしている。
幾つもの事情が重なって、魂が聖性されたカーラにとって。それでも、双子達に何ら思う所など無かったし、これからもないだろう。
「似ているところが全く何一つないとは言っても、私にとってお二人の境遇は『あったかも知れない』過去と未来の一コマを連想させるのですよ」
マイナとユウナは、双子ではない。恐らくは赤の他人で、ユウナは純然たる人ではなく幾つかの血が混じっているのだろう事が見ただけで判る。しかも、二人とも技術者特化しているだけあって身に着けているものは何気なくさり気に価値がある……とは言っても、迷子札程度の効果しか期待が出来ないのは自作だからではないだろうか? 自分自身が私的に身に着ける程度ならば、法律に触れる事はない。
「それは……どう言う?」
精霊に好かれ易い双子と言う体質と、商売や冒険者を夢見ている者と。
人と混ざり者の生まれと、技術者としての未来を夢を見る者と。
あえて共通点があるとすれば、どちらも一組の少年少女であると言うだけだ。
ムナさんVSカーラ。
圧倒的にカーラさんの勝利。ただし、カーラさんは全力ではございません。
これはもう経験の差と言いますか、最初にムナさんが明後日の所で勝手に先生パンチをくらいまくっていたというのもあり。
すぺしゃるどーでも良い話。
※ 首飾りは基本的にネックレスと称される事が多いですが、ネックレス=連なっている飾りです。一粒だけ飾りがついている場合はペンダントと言うとwiki先生は言っています。ちなみに飾り部分だけの事はペンダントヘッドですね。よく見かける表現方法ですが、間違ってる事なのであしからず。
ちなみに、バッグや携帯に取り外しのできるチャームは元々は魔よけとかお守りを意味しますが現在では金属製のアクセサリーと認識されているそうです。チャームをペンダントとしたりブレスレットに付けるのも可愛いですよね。
では、次回予告。
「決断を迫られるマイナ、決意を表明するユウナ、そして打ちのめされ続けるムナ……というより、もっと単純な話だったのに何でこんな細かい話になってるの!責任者誰!?(僕です)」
と言う所が僕の悪い癖…。




