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66 悪魔の果実


※ 実在する商品、及び物体名と同じ名前の品物が出てきますが、皆様の認識している商品と関係があるかといわれると…多分ございませんので気にしないで下さい。気にしたら負けかも知れません。でも、研究心を発動させてみる事はお止めしませんのでよろしくお願い致します。


よし、世間様への儀礼は通過した(ぎゅ)


「……これって、アサイー?」

「あら、よく知ってたわね? わたしなんて『夜明』さんが教えてくれなかったら一生口にする気もなかったのよ」

 秋水が飲んでいるのは、紫色のどろっとした飲み物だ。

 単体では味が強くないが、他の果物と混ぜると素晴らしい味になると言う代物。なんでも、以前ドーンがこの町に仕事できた際にミイヤに教えたと言うものらしい。

 ……ちなみに、ドーンが以前。この町で何をしたのかは聞かないほうが良いみたいだ。

「へえ、そうなんだ?」

 ごくごくと飲むと、喉が渇いていた感じが少し解消される。

 秋水の世界にもあった果実なので、親しみが沸くし栄養価が高い事も知っている。

 もっとも、秋水の世界にある果実と全く同じかと言われると知識がないのでなんとも言えないのだが。

「あら、どうしたの? 台所を使いたいの?

 ……ええ、まあいいでしょう。今日はもう店じまいしちゃうことにするわ。

 その間、私はシュースイさんのお相手をしてもいいわよね?」

「え……?」


 赤い長靴亭の住居は、今いる居間の様な作りから台所が見える。台所には持ち帰りようの窓口と客席のあるカウンターとに別れており、買い物客はカウンターで注文を言って受け取りに来るシステムになっている。

 ちなみに、ほとんどが片手で食べられる料理なので食べ終わったらカウンターの近くにあるゴミ箱に入れて行って貰うことになっているそうだ。

「ドーンって、料理出来るんだ……?」

「あらあら、『夜明』さんってドーンってお名前なのね。以前来た時は名乗ってくれないし人伝手に聞いただけだから名前なんて誰も気にしていなかったのよね」

 台所で、ドーンは器用にもあの格好のままであちこちをひっくり返しては何かを作り続けてる。

「私の店の料理、今でこそちょっと変わった食材を扱う店ではあるんだけど。それって最近の事なのよね」

 なんでも、ミイヤの店の今の料理はアレンジが加わるようになったとは言っても大部分がドーンが教えた食材やら調理法で出来ているそうだ。

「あの果実がアサイーって言う果物だって言うのも、その時に教えてもらったのよ」

 それまで、周囲には悪魔の実と言う名で呼ばれていたそうだ。特に謂れがあるわけではないが、見た目の色としてのグロテスクさ加減で嫌煙されていたのだそうである。

 ただ、一つだけ注意点があると言う。

「注意点……ですか?」

「ええ、そう。この町の大半の人には大丈夫だと思うのだけど、とっても栄養素が高すぎるのよね。

 だから、体の弱っている人には単体で出してはいけないと言うの。飲み物にするならばすごく薄めて、食べ物に混ぜるならば少しだけにしておかないと、逆に体に悪いと言うのよ」

 どうやら、悪魔の実の由来はそこから来ているらしい。ただ、色がグロテスクだと言う事だけが市井の噂として残っているということなのだろう。

「栄養素が……高すぎる?」

「そうなの。私も弱っている人なんて見たことないから判らないんだけど、普通ならば弱ってる時は栄養のあるものを食べさせたほうがよさそうじゃない? でも、駄目なんですって」

 ミイヤには理解出来ないと言うが、この町の職人が異常な回復力を有しているなどと言う事を誰も説明してくれないので秋水は想像するしかない。ミイヤにとっては丈夫=普通だから説明するまでもないし、ドーンは相変わらず口を利くのを惜しむかのごとくだ。

 そこで考えて思いついたのが、「チョコレートやドリンク剤を口に入れて鼻血を拭いた」程度のものしか考え付かなかったので、想像力の駄目さか現に泣きそうな気になった。

 もっとちゃんと勉強して置けば良かった思うのは、大体がすでに勉強しなくなって良くなってからである。

「そうそう、だからアサイーは悪魔の実って呼ばれるし『夜明』さんも『踊る悪魔』とか一時期は呼ばれててねえ……今でも、頭の足りない阿呆どもの一部は悪魔呼ばわりしてるんじゃないかしら? そういえば、今回はあのお医者と綺麗な男の子は一緒じゃないの?」

「ああ……あの二人、前も一緒だったんだ……」

 言われてみると納得してしまうのだが、どうやらラーカイル医師とレンも一緒だった様だ。

「わたしは詳しくないんだけどね、悪魔が三人になったとかって言われてて……失礼な話よねえ?」

 本当に、一体ドーンもそうだが残りの二人も何をしたと言うのか。

 秋水は直接被害を受けていないので実感がわかないが、どうやら三人を見る目が変わりそうで怖い。

「ところで、悪魔の実はともかく……踊る悪魔ってなんなんです?」

 秋水の記憶を幾らひっくり返しても、ドーンが踊っている姿などついぞ見た事がない。

 もしかしたら、知らないだけで素晴らしい踊りの名手なのかも知れないと言う気はしたが、学園都市での生活を見ていると周囲が波を引くように去ってゆく姿しか見ていないので不明だ。

「聴いた話だと、『夜明』さんの戦う姿はとても優雅で華麗だって言う話よ?」

 知らないのかと言われても、実際に秋水にはドーンが戦う姿など……あった。

 まだ、秋水がこの世界で目覚めてから何時間もたつ前に現れて。いきなり持っていた棒で振り払われたのだ。

 実際には、あれは魔力を帯びた刀の一種で普通ならばちょっとした動物ならば楽に胴体を真っ二つにする事が出来る代物だと言うのだから「そんな物使って、なんで俺生きてるんだよ!」と頭を抱えたのは遠い昔の様な気がするが、実際にはそこまで古い話ではない。

 ドーンだとて、一般人相手に惨殺行為は行わないけれど。この場合、秋水が「普通の人ではない」と言う事が判っていたからこその行動である事は知っている。知っているが、だからと言って納得できるかと言えばそうではない。

 とは言っても、それが原因で恨んでいるとか言う事はない。不思議なことに、その件に対して怒りなどがこみ上げてこないのは痛みや不快感と言ったものを覚えていないからかも知れない。

 ただ、覚えている事は一つだけ。


 蝶。


「蝶みたいな感じですかね?」

 どこのボクサーだよ、と秋水は内心で一人呟くが。それはまた違うことだと脳内で頭を振る。

「蝶……ですか?」

 少し表情が戸惑ったような顔になるミイヤをみて、秋水は「おや?」と疑問符を浮かべる。

 確か、以前キャシーに用意して貰った生物図鑑的なものや。秋水の中に記憶してある知識として蝶の項目はあったはずだし、その動きだってもともとの記憶にある蝶と変わらない程度の優雅な動きだった気がする。

 秋水の持っている記憶は、元の記憶が紙媒体に印刷された辞書だとすれば、この世界の知識はちょっと性能の良い電子辞書みたいな感じだ。

 感覚的に言えば、もし現実でオンラインRPGのゲームをする事が出来たら近いかも知れないと想像する。ただし、この事に関しては他に体験者がいないので何とも言えない。

「ええ……俺も、ドーンが戦う姿って見たことないんでよく判らないんですけど」

 きちんと見たわけではない、それだけの強さをドーンは持っている。

 はっきり言って、キャシーだって本気になったドーンには一瞬の隙を作らされて突かれていた。それまではわざと隙を作ったドーンがキャシーを誘導していたのだと、何故か現在の知識から想像する事が出来る。

「蝶は、死者を運ぶものですから……」

「え、そうなんですか?」

「……シュースイさんは、どこか遠くから来た人なんですか?」

「え……」


 異世界から魂だけやってきました、入れ物はこの世界の人形とか色々です!


 言えない。

 普通、そんな事を知っていたとしても言えない。

「すごく遠いところから……ええ、そうですね。来ました」

 嘘ではない。

 間違いではない。

 けれど、なんだか罪悪感が生じる。

「この町は、海際にあるから色々な人達が訪れるんです。それこそ、北邦からも南方からも……でも、蝶の様に動くと言う人を見たのは初めてです」

 何故なら、蝶そのものをじっくり見たこともないので動きなど知らないのだそうだ。

 様々な蝶が居るが、一くくりにして全てを「死者を運ぶもの」として忌み嫌っている。何故なら、縁起が悪いからだと言う。

 要するに、この世界では蝶は死神の扱いをされているというべきか。

 かと言って、見つけたからと言っていきなり潰し殺すなどと言った事をするわけでもないらしい。ただ、縁起が悪いから部屋の外に追い出したりする程度だそうだ。むしろ虐待をして何かあったら困ると言う所だろう。

 実際、蝶が訪れた者で亡くなったという話もあるとかないとか。

 必ず死ぬというわけではないあたりが、性質が悪いと言うか何と言うかと言う感じだ。

 蝶の動きはまっすぐではなく、変則的だからというのも理由の一つだろう。

 しかし……そんな事を蝶マニアが聞けば色々な意味で恐ろしい事になりそうな気がするので、この世界の蝶マニアはさぞかし肩身が狭いことだろう。

 蝶マニアが存在するならば、だが。

「でも、遠い国には蝶を受け入れる場所もあるのかも知れない……ね」

 言ったミイヤ本人も、どこか遠くを見つめている瞳をしている。

 色々な人が集う公益であり交易な場所である以上、様々な人が存在すると言うことなのだろう。

「世界は広いからなあ、俺の居た所はちょっと特殊らしくて。色々知らない事が多くて今は少し困ってる。

 出来たら、この町の事とか教えてくれるとありがたいんだが……そうそう、ドーンが前にこの町で何をしていたのか、とか」

「ふふ……珍しい方、いいですよ。『夜明』さんが連れてきた人ですし……『夜明』さん?」

 ずりずりと現れたドーンは、手にトレイを持っている。

 その上に乗っているのは、見たことのある形状をしている食べ物だ。

「パンケーキに……野菜炒め、みたいな感じ?」

「どちらもアサイーが入ってるみたいですね?」

 食べろということなのか、無言で差し出される。

 一応は二人分あるので、とりあえずミイヤと二人して顔を合わせてから食べてみる事にした。

 更に一応、ドーンが料理をする事は知っているので味付けなどに不安はないが、やはり何事も始めての体験と言うのはあるものだ。

「あら、美味しい……」

「本当だ、ドーンって噂通り上手いんだな。料理は今聞いたけど、菓子が美味いってのは聞いたことある」


 ぷい。


 無言で背中を向けられたのは判断の迷うところではあるが、怒っているわけではないのだろうと勝手に判断する。

「噂になってるの?」

「って言っても、俺の場合はそれを言いたがる奴と言わせたがらない奴に挟まれてる感じなんだけどね」

「まあ、お医者の先生と綺麗な顔した男の子かしら?」

「大体あってる……かなあ?」

 正確には、言いたがるのはラーカイル医師とアインスだ。そこにキャシーも加わる事はあるが、その手の情報を知られたくないらしいレンの姿がない時にこっそり教えてもらった事がある。

 そうこうしている間に、ドーンは次々と料理をこしらえては置いていく。

 しかし、こうなると正直な話としてドーンが何をしたいというのか全く想像がつかない。

 ミイヤは食べるものをアレコレ「これ美味しい」と言っているが、やはり料理屋を経営しているだけあって幾つか考える事があるのだろう。噛み締めながらぶつぶつと呟いている。

「出してくれるのは嬉しいけど、ドーンは食べないの?」

 最後の焼き菓子が出てくる時点で聞くのは間違っている気もするが、タイミングがつかめなかったと言うのは言い訳にしては上等ではないのは判っている。

「美味しいわあ……こういう使い方もあるのね。ねえ、シュースイ君はどれが美味しかった?

 あ、わたしはね、最後のケーキも好みなんだけど。あれって焼いたわけじゃないわよね?」

 最後に出てきたのは蒸しパン状態だったので、すっと差し出されたメモを見てミイヤは目を輝かせている。

 どうやら、レシピの様だ。

「あ、なるほどねえ。レモンを少し入れているから味が引き締まるのね。

 じゃあ、お肉を焼いた奴のソースにも入っていたのかしら? そうよね、入ってなかったらあんな味にはならないわよね」

 質問の意味があるのかないのか、ミイヤは勝手に納得している。

「俺……は、クッキーとケーキがいいかなあ?」


一応補足しておくと、レモンとかアサイーとかクッキーとかケーキとか言う名詞は秋水を構成している物体で構築された言語変換を行っているからであって。実際の名称は秋水の世界とは異なる、と言う事にし置いてください。外見的に近い物質の名称をつけられていると言う事ですね。

だから、時々記憶にある外見と味との一致が異なる為にちょっぴり絶望してみる事もある秋水です。こう言う所が自動翻訳の弊害と言うべきでしょうか?本人は気が付いていませんが。


では次回予告。

「別れと出会いは一緒くた、今度はもふもふわんこ登場!?綺麗なお姉さんとどっちが好きですか?て言うかデートは続くよ次回もね!」

あ、どこからか背筋が凍る恨みの念が…!

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