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65 身近でない所では人気者

世の中の環境とか諸々の違いで評価と言うのは異なるものだ。

実際、日本ではアニメや漫画は市民権を得たのはつい最近だが欧米諸国やアジア諸国では関係者が出向くと下にも置かない状況にされると言うのは割と有名な話。

ちなみに、お米の国のコアなファンは「日本語でテーマソングを歌ってこそファン!」と言う不文律があるらしい。

てゆーか、漢と書いて男だよなあ……女性もいるらしいけど。


 秋水は、意外なほど気楽に歩いている自分自身を不思議に思わない事が不思議だった。

 今、秋水は一生懸命になってドーンの後ろを歩いている。一生懸命とは言っても、今の秋水からしてみれば全力とは程遠く、けれど周囲に気をとられていたら確実においていかれる速度だ。

 ドーンはいつもと同じ、全身を長衣で。顔を大きな眼鏡で隠しているので、正直言って「どう言うセンスだ!」と落ち着いた時には思ったものだが、更に考えてみれば「それは個性って奴だな、うん」と己を納得させる事に成功させていた。

 ビバ、個性。


 さきほど、職人都市行政庁舎の一角でレンがあわやラーカイル医師との戦闘開始となりそうだったのは……どう見てもラーカイル医師がレンにからかい混じりで切々とドーンが秋水と共に出かける必要性を説いていた筈なのだが……なんとなく、秋水にはレンを怒らせる効率的な説明講座にしか見えなかった気がした。

 最初は「対岸の火事よろしく」とばかりにアインスが情報収集に部屋を出たのを革切りに、親方に呼ばれたキャシーも不承不承ながらも部屋を出て行った。出て行きがてらに何か言葉で説明出来ないと言うか、理解したくないものを背中に背負っている様な気がしないでもなかったが……見えていたら人として何か終わりそうな気がするので気のせいと言う事にしておく。

 最終的に、秋水はいつの間にか近くに現れたドーンに手を取られて部屋から出たので。

 実際の所からすると、あの後の部屋で何が起きたのかは判らない。

 帰ってからの事を考えると少々背筋が寒くなるような気がしないでもないが……そう言う事は後で考えるべきだろう。きっと。


 秋水が辛うじてドーンに追いつける理由は、何もドーンが秋水に気を使ってくれているから。と言うだけの理由ではない。ドーンと言う人物はどうやら、この職人都市ではえらく隠れた人気者の様だ。

 実際、通りを歩いていたら角を曲がる前に「あら、長衣の人じゃない!」とか「おや、相変わらず胡散臭いねえ」などと言われて声をかけられる。加えて、一緒に行動している秋水にも気さくに手近に持っている食べ物を分け与えてくれたりとかしてくれて、しかも手に持てなくなると入れ物までくれてと至れり尽くせり。

 どうやら、学園都市では遠巻きに見られまくって居るドーンではあるが。この職人都市の主に職人街と呼ばれる地域では限定レアの指定を受けてるのかと思えてしまうほどの人気ぶりで、嬉しいやら恥ずかしいやら戸惑うやらだ。

 もしかしたら、レンがあれほど感情的になった理由の一つはこのあたりにも事情と言うか理由があるのだろう。

 船で河川を移動している間も、どう見ても観光客と言った風体の人々を除けば結構の割合で声をかけられたのだから、これが続くとなると鬱陶しい。ただ、本来のドーンの運動能力ならば屋根を飛び越える等の少々強引な手法を取る事もおかしくはないし、実際にレンと一緒の時はそうしているのだが。秋水に気を使っていると言うのを、秋水以外の大方の人達は知っているが故の言動である事を、やはり秋水だけは知らない。

 それでも、河川から大通りから裏道に入り込むようになっても数歩も行けば声をかけられまくるのだから、もしかしなくてもネットワークでドーンが来ている情報が明らかになっていると言うのは想像に難くない。

 これを迷惑と言うべきか、有り難いと言うべきか秋水は悩み。


 そして、立っていたのは一軒の店の様だ。

 様だというには理由があって、屋台と店の中間のような作りに一見すると見える。建物としてきちんとなっている部分と、人が何人か居る部分は外に近い感じ。オープンテラスが店舗と言うより客席で、建物の内側が住居権店舗なのだろう。

 無論、そこでもドーンは何人もの人に声をかけられる。一切反応をしないあたりは周りの人達にも先刻承知なのか「相変わらずだなあ」と何が楽しいのかと聞きたくなるほどの陽気さ加減で相対してきて、ついでとばかりに秋水にあれやこれやと声をかけたり飲み物をくれたり食べ物をくれたり、わけの判らないものをくれたりするのは、もはや諦めたほうが楽になれると言う所なのだろう。

「あら、いらっしゃい。久しぶりね!」

 お店の人なのか、可愛らしい女の子が奥から出てきた。

「もう……『夜明』さんったら相変わらず無口なんだから、そんなに人見知りばっかりする事ないのに。この町の人達は大体が陽気でいつも浮かれてる様なものなんだから、あの時の事なんてそうそう気にしなくてもいいって何度も皆も言ってるのに」

 少し拗ねた感じで言うが、実際にはそこまで気にしてる感じはないのだろう。

 女の子の顔は、笑顔だ。

 と言うより、誰もがドーンを『夜明』と言っているから皆はギルドの二つ名でしか知らないと言う事になる。一体、前にこの町に現れたドーンは町で何をしたと言うのだろう?

「どうぞ入って、『夜明』さんなら奥を開けるわよ」

 そう言って、女の子は奥に入り込む。周りの呑んだくれにしか見えない人達からは「えぇ、ずりぃよお!」とか「常連だって入れないのに!」とかブーイングの嵐だが本気ではないのか暴れる様な感じはない。

 中には「愛してるぜぃ!」などと、どさくさに紛れて告白してくる輩もいるが女の子は笑って「わたしは親方様以外と結婚する気はないわよ!」などと笑って答えている。

 この町では、軽々しくプロポーズしてくる輩には「相手は親方がいいわ」と言うのが女の子の断りの常套句なのだそうだ。これも、親方がこの町が生まれる前から存在して名を上げている象徴的な意味を持っているからこそ使える。

「まあまあ騒がしいけど、奥はそこまでではないから安心してね……あら、お連れさん?」

 正面から見られて、秋水は慌てて居住まいを正す。

 長い髪をした可愛らしい女の子は、三角巾で頭をまとめて割烹着の様な服を着ている。

 どことなく、外見的な年齢の割りに落ち着いた雰囲気なのは下町の料理屋に居るからなのかも知れない。

「あ、こ。こんにちは」

 どぎまぎとしてしまうのは、秋水の目から見てもくるくると表情の変わる女の子が可愛らしいと思えるからだ。

 ここ暫く、女の子と言っても無表情なメイドか男装の麗人くらいしか女生と関わる事はなかったので免疫がなくなっているのかも知れない。

「どうぞゆっくりして行ってね、二人とも。

 ちょっと込み合ってる時間だから、少し待っていてもらってもいいかしら?」

「……大丈夫、多分」

 呆れるほどの通常運行のドーンの横で、どぎまぎしながら秋水が答える。

 答えて良いのかどうかは判らなかったが、答えても問題は無かったみたいでほっとする。

 女の子は「そう? ごめんなさいね、すぐに戻るから」と言って台所スペースに戻ってちょこちょこと動き回り料理を作っている。


 女の子に通された奥の部屋は、なんだか家具が少ない。

 靴を脱いだドーンが奥へと進むけれどそこには小さな箪笥の様なものと足の低いテーブル、絨毯の様な敷物と幾つかのクッションがある程度だ。流石に内装は可愛らしいものがあるけれど、あとは扉があるので水周りの私室なのだろう。

 ちょこんと座るドーンを習って、隣に秋水も座ってみる。

 これで畳だったらもっと楽だったんだろうとは思うけれど、そもそもこの世界に畳の概念があるかどうかは判らないと言うのが正直な意見だ。

「ドーン、こう言う所でもその格好のままなわけ? 脱いだりしないの?」

 秋水の目から見ると、他所のお宅に入り込んで上着を脱がない事には理由が必要ではないかと思う。

 もっとも、こちらの常識からすると限りではないみたいだが、個人的にはどうかと思うのだ。

「ところで……ここってどこなんだろう?」

 独り言に近い呟きではあったが、すっと差し出されたのは地図だった。

「……見ていいの?」

 ふと見れば、僅かにドーンは首肯している。

 間近で、しかも初めて会うわけではないから判るのだが「ドーンって損してるよなあ」と毎度秋水は思う。

 どこから出したのか、恐らく長衣の内側にポケット状態になっているのだろう。出てきたのは、掌サイズの地図だ。表紙をめくると小さく折り畳められた町の全系図があり、他のページにはそれぞれの地域の詳細図が描かれている。あちこちにあるが、河川の船着場も書き込まれてあり、意外と教会の様な宗教的な建物が多そうだ。

 描かれている地図には文字は無く、全て小さなイラストで説明がされているのが不思議と言えば不思議だ。

 学園都市の識字率は異常に高いと言うのは知識として知っているので、もしかしたら識字率が低い地域でも大丈夫な様なものとして売っているのかもしれないと秋水は思った。

 聞けばドーンは答えてくれるかも知れないが、それは無粋と言うものだろう。

 何より、別に聞かないからと言って秋水に困る事は何一つないのだ。

 それにしても、よく出来ている地図だ。

「ん……このあたり?」

 すっと差し出された、細く白い指は一点を指し示している。

 どうやら、それが現在位置だと言う事なのだろう。

 地図からしてみると、直線距離からしてみれば庁舎からさほど離れている感じには見えないのが不思議だ。来る時は沢山の人に悪意無き妨害にあったり、河川を利用したりしてまっすぐ移動できなかったからこそ感じる。

「あらあらあら、ごめんなさいね。お客さんを放りっぱなしで」

 女の子が、手にトレイを持って現れた。

「もういいんですか?」

「ええ、もう大丈夫。今居る人たちは勝手に帰るし、お店も閉めちゃったし」

「……大丈夫、なんですか?」

 どうやら、客席がオープンスペースになっている理由の半分は食べ終わったお客が勝手に帰る事ができる様になっていると言う仕様なのだろう。

 トレイの上には、飲み物と簡単な軽食が乗っている。

「簡単なものしかなくてごめんなさいね、もっと早く『夜明』さんが来るの判ってたら町全体で出迎えたんだけど……やあねえ、そんな顔しなくても冗談よ」

 どんな顔をしていると言うのか、間近に見ても秋水にはドーンの顔はよく判らない。

 眼鏡しか顔を隠しているアイテムはないのだから、見分けられないと言う事はないと思うのだが。

「ええと、改めてようこそいらっしゃいました。

 わたしは、この『赤い長靴亭』の店主です。ミイヤとでも呼んでください」

 あれ、ここでも「とでも呼んでください」なんですかね?

 秋水が内心そう思ったとしても、それは仕方がないだろう。

「ああ、すみません。

 俺の事は秋水とでも呼んでください」

 もっとも、秋水とて似たような自己紹介をしているのだから他人様の事をどうこうあれこれ言う必要はないだろう。

「シュースイ、さん? 変わったお名前なんですね」

「そうですか?」

 西洋的な文化が発展している地域からしてみれば、確かに秋水の名前は発音がしにくいのかも知れない。

「良かったらつまんでくださいね、大したものはありませんけど」

「ありがとうございます」

 トレイに乗っていた軽食は、クッキーやらサンドウィッチなどの簡単な食べ物だ。飲み物はお茶なのか湯気を立てている。ドーンに与えられたのはジュースみたいで、紫色のどろっとした飲み物は何でも果実を絞って作ったものらしい。

「あら、ちゃんと食べないと大きくなれないわよ?」

 少し困った顔をした女の子が言ったのは、紫色のどろっとした飲み物をドーンが無言で秋水に差し出したからだ。

「……飲めって事、かな?」

「もう……せっかく『夜明』さんが教えてくれた栄養のあるジュースなんだから、当の本人に本人に呑んで貰いたくて用意したのに……」

 でも、表情はどこか「仕方のない子ね」と言った風ではあるから怒ってると言うわけではないのだろう。

 ドーンが教えたと言っているので、要するにこの地域ではこのジュースを飲むと言う習慣が今まで無かったということになる。

「と言うより、こんな変な色の果実が食べられるとは思ってなかったのよ……他の果物と一緒に混ぜると凄く美味しいんだけどね」

 果実を切って熱を加える料理に入れると言うのが、この「赤い長靴亭」の看板メニューなのだそうだ。

「へえ、いただきます」

「どうぞ、召し上がれ」


 けど、と秋水は口に出さないだけで内心で思う。

 紫色の果実だったら、別にそこまでおかしいとは思わないんだけどな。


新キャラ登場の名前は次回さん、すらりとした成熟しきっていないと言う感じの儚げなイメージです。髪の毛は出来たらハーフアップが望ましい。

ドーンが一切口を開いてくれないので、秋水は行動には戸惑うけれど別に嫌ではないみたいです。ただ、通りすがりに問答無用で貢がれるのは困ってます。


では、次回予告。

「ご近所のコンビニで見かける事があって、お財布に余裕があったらぜひ飲んでみてください。ドリンクの他では見た事がなので料理に関しては完全に超想像です。そして悪魔と蝶の謎がこんな所に来て少しだけ明らかになるって複線だったの!?」

だから、なんだって書いてる本人が驚く設定が今頃出てくるかなあ?

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