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50 マーブル模様の想像

早いもので50話目でございます。

その割りにイベントぽい話ではまったくないし(どっちかと言えば次回とかその後の方がインパクトありますね)

100話目には何の関係もない短編をあげるか、それとも自サイトで公開済みの話を公開するか悩んで見ます。

どちらがよろしいですか?


 与えられた部屋の中で、鎮座ましましているのはドーンだ。

 本来の体格から考えれば当然だが、ドーンの占有スペースはさほど大きいものではない。

「で、なんでキミタチここにいるわけ?」

 割と広い部屋は、賓客用の部屋ではあるみたいだが何しろ「職人都市」といわれるほどな為に絢爛豪華と言うわけではない。設備は一般市民でも上下水道完備と言う都市なので大げさな装飾品の類は一切ないけれど、細かいところの細工や使い勝手の良さは「流石!」と両手離しでほめられるほどの素晴らしさだ。

「いやあ、だって……ねえ?」

「私の事は置物とでも考えていただければ幸いです、レン・ブランドン様」

「そういう問題じゃなくて」

「ラーカイル先生が煩いんだよお……」

 確かに、とラーカイルの人となりを知っている身の上としては同情したくなる。

 一度目を付けた相手には、納得するまで決して追及の手を緩めない当たりは辟易してしまう事は少なくない。何より、その当たりはレンのただ今闘争中で逃走中で失踪中の実の兄と大変よく似ている為に一定のラインまではあまり強気に出たくないのだ。

 勿論、その一定のラインは簡単に超えようと思えば超えられるけれど。

「キャシー?」

 言葉少なめに「何とかならないの?」と言って見るが、キャシーも難しい顔で顔を僅かに横に振るだけだ。

 どうやら、キャシーも色々と裏で表で画策をいていたみたいだが、上手い事行ったとは言えないらしい。それがあのやり取りも一環だったそうだ。

「ドーン?」

 視界の外側に居た筈だが、すっと立ち上がったドーンの行動を誰よりも認識したのはレンだ。

 この点にだけは尊敬を通り越して怖い、と言うのが聴かれないから答えないけれど、秋水とキャシーの共通した意見だ。こう言う所、この主従関係は非常に良く似ている。

「ちょっと、ドーン。どこに行くつもり?」

 ぎゅっと握ったのは、恐らくドーンの腕か手なのだろう。

 やはり、長衣の上からなので秋水やキャシーにはどの部位なのかは判別がつかないので「よく判別できるものだ」と同意権。

「……怪異」

「僕も行く」

「俺も行く」

 同時に発せられた言葉に驚いたのは、何もキャシーだけではなかった。

 あからさまに目をむいたのはレンと、何故か口にした当の秋水だった。

 ちなみに、言うまでもなくドーンは通常運行だ。

「シュースイ?」

「ああ……っと、いや……」

 条件反射的に吐いた台詞なのだろう、「あれえ?」と誰よりも本人が頭に疑問符を浮かべている時点で周囲にしてみれば「勘弁してくれ」と言いたくなるものではあるが。

「秋水様、何か気になさる事でもおありですか?」

 メイドとしてのプライドにかけて、仕えるべき主人の先読みが出来ないのは屈辱。と言うわけではないが、そんな事とは別でキャシーには気に掛かる所があるらしい。

 ドーンが放った「怪異」と言う言葉の意味、レンがドーンから離れたがらないのはいつもの事として。特に戦闘経験がないと胸を張っていう秋水が、それでもドーンと一緒に出かけようと意思表示をしたのだから何かが、あると思いたいというか……何というか。

「いや……なんだろう? なんか、放っておいたらいけない感じ?」

 ちらりとキャシーはレンを見つめてみるが、とうのレンはドーンに全身全霊を傾けていてこちらになど歯牙にもかけないと言う有様だ。

 正直、奉公人としては頭が痛い。とは言っても、別にレンの命令で動いているわけではないのだからレンに頼るのもおかしな話と言えばおかしな話ではあるのだが。これは単に、何か面倒な事があった場合はレンに全責任を押し付けてやると言う手段に通じている。

「シュースイは戦闘訓練も実地訓練も受けてないから来なくていい、でも僕は行くよ」

 実際、レンは秋水に比べれば遥かに実地経験がある。そうは見えないが、それでもキャシーやドーンには全然かなわないとしても、だ。正直、このどちらかと対立した場合5秒もてば良いほうだと思っている。

「僭越ながら、レン・ブランドン様はドーン様を見誤っているかと進言させていただきます」

「その言葉は聞かなかった事にしておくよ、キャシー」

 珍しく意見を言ったキャシーだが、即座に却下された。

 別に、キャシーとしてはレンの行動から予測していたから何とも思わないけれど。

「それって、心配してるのと見くびってるのとどっちで言ってるわけ?」

 自身の思考の迷宮からさくっと帰ってきたのか、秋水の投げた一投は結構な波紋を作り出したようだ。

「どういう、意味……」

「いや、意味って言うか……普段もそうやって後付回してるわけ? ちょっと過保護なんじゃないかと思うけど」

 ぎゅっとレンの手に力が入ったのをキャシーは見逃さなかったが、その表情の奥がどうなっているのかを見る事は出来ない。

「過保護で結構、ドーンは放っておくとどうなるか判ったものじゃないんだよ」

「なんでさ?」

「うっ……!」

 珍しいものを見た、とキャシーは思った。

 確かに、上から目線で見た場合のレンの反発はすさまじいものだ。打てば響くなんてものではない。

 ただ、今まで誰も聞くものは無かったのだろうか? 無かったのだろう。

 東宝の公爵家の長子ではないが時期公爵と言う立場の存在に、あれだけ胡散臭いにも程がある存在が近くに居て正面から疑問を持たないと言うのは通常はありえない。まあ、もしかしたらレンに近づいていた女の子達の間では噂の一つや二つあったかも知れないが。

 だから、慣れていないのだ。

 裏で画策したり事前に準備する事は手馴れていても、同じ年頃の友達など居なかったに違いない。もっとも、公爵家の子息を相手に下町の小僧よろしく動くような者は存在しなかったと言う所だろうが。

 正面から向き合うと言うのは、存外難しいものなのだ。

「レン・ブランドン?」

「レン」

 そっと、レンの。ドーンに触れていた手に添えられた手があったのは、秋水の疑問符と同時だった。

「行こう」

 するりと伸ばされた手が、しっかりと握られたのは次の瞬間で。

「……うん」

 誰にも見せない、見せたことのない美しい微笑を浮かべたレンは握り返された手に微笑み。

 決して、二人は見なかった。こちらを。

 キャシーも、秋水も。

 ちらりと見る事も、かけらもしなかった。僅かに首を傾ける事も、視線を投じる事もなくただ、二人の世界が展開されていた。

「……ご主人様、お部屋へ戻られますか?」

 今、秋水とキャシーが二人だけでいるのはレンとドーンにあてがわれた部屋だ。

 恐らく、今は部屋の外に秋水とキャシーにつけられた監視兼護衛がいる事だろう。先ほどまではドーンとレンにつけられた監視兼護衛もいただろうが、その二人は標的となる二人がいなくなると同時に後をつけて行った筈だ。

「今戻ったら、ラーカイル先生がてぐすね引いて待ってるかな」

「はい、確実にお待ちであると判断致します」

 と言うより、普通の研究者よりよほど体力のあるあの男は一晩や二晩くらい平気で待つだろうと簡単に想像する事が出来る。何しろ、彼は兼業医療従事者なのだ。ただでさえ体力が必要な医療従事者よりもさらに体力があるのだから、何日も生命の危機と隣り合わせて生きている状態でも数日は平気で持つだろう。

「それは……ちょっと嫌かなあ?」

 ため息をつく理由は、なんだろうかと言う気はする。

 けれど、別に聞いたりする必要はないだろう。それが出来るメイドと言うものだ。

「キャシー、レン・ブランドンはいっつもあんな感じなの?」

「あんな感じ……と申されますと?」

 キャシーが幾つもの家々を回って仕事をしていた人材だというのを、秋水は以前何かで聞いていた。

 この世界に来て、見知らぬ状況にあって、それで近くにいたのはキャシーだ。どちらも別に望んだわけではないが、最終的には敵になるかも知れないと言う気はするが、かと言って完全な敵にもならないだろうと秋水は踏んでいる。

「なんか、人慣れしてないって言うか?」

「人には慣れていらっしゃると思われますが?」

「そっかなあ……なんか、正面から人に見られたりするの苦手って感じしない?」

 言っている意味は言葉とは少し違う気がしないでもないが、それもあながち間違いではないのではないかと言う気がしないでもない。

 正面から向き合うと言う事は、即ち対等な相手と対峙すると言う事でもある。

「そうかも……知れません」

 腐っても公爵子息、中身が駄目でも入れ物とバックボーンは最上級。

 当然、王家とつながりのある公爵家の跡取りと肩を並べられる存在などそうそうないだろうし、例え王家と言っても上下関係はきっちり存在している。他の公爵家でレンの家ほどの勢力を誇りながら向上心と言うか意欲のない家は存在しないので敵視される以外の関係を築くのは難しいだろう。加えて、ドーンの存在もあるとなれば、もしかしたら少し前に感じた認定を覆しても良いかも知れない。3ミリくらいは。

「詳しいことは判りませんが、調べれば判るかも知れませんが……お調べになりますか?」

 教育の一環として、貴族の関係を把握する勉強の一部としてならば情報を与える事も許可が出るかも知れないと言う背景があるからの台詞だ。

「そう……うん、どうだろう? 俺が知って良い事なのかな?」

「この先、貴族やレン・ブランドン様と係わり合いを続けるおつもりでしたら、記憶しておいて無駄な事にはならないものであると判断致します」

 悩んでいるのは、相手がレン・ブランドンだからなのか。それとも貴族との繋がりだからなのか、それはよく判らないと言うのが秋水の気分だ。

 知らない事は判らない、判らないのならば知れば良い。

 でも、知ってはならない事だったらどうすれば良いのだろう?

「キャシー、とりあえず後を追ってみようと思う」

「危険であると、助言させていただきます」

「判ってる……いや、判ってないのかな? 判ってない気もしないでもないんだけど……でも、やっぱり行くよ」

「……何故、とお聞きしてもよろしいですか?

 言葉に少々、ため息が混じっているのは致仕方がないだろう。

 何しろ、秋水は何も判っていない。教えてないのだから当然と言うものだとは思うが、学園都市ではないと言う事はキャシーにとってはホームグラウンドではないのだ。そうなれば、当然の事ながら色々と面倒が生じる可能性がある。しかも、バックでのフォローは期待しない方が良いだろう。

 つまり、キャシーにかかる負担はべらぼうなものになる。

 だが、キャシーはプロだ。

「悪いけど……判らないんだ、説明できれば良いんだけど」

 苦笑している秋水の表情の向こう側に、どんな想いがあるのかキャシーには判らない。

 どんな相手に仕えても、その心は守れない。

 ならば。

「では参りましょう、ご主人様」

「え?」

 心を守れぬのならば、せめて肉体は。

 体に流れる血の最後の一滴が搾り取られようとも守ろうと、誓ったのは。

「愚図愚図されておりますと、ドーン様に追いつけなくなりますが宜しいでしょうか?」

「え、でも……キャシーはまずいんじゃないの?」

 特に、こんな風に誰かに説明出来るだけの論理を持たない相手ならば特に。

「左様でございます、非常に大問題となるでしょう。

 ご主人様には大変片腹痛い台詞をいただき、誠にありがとうございます。

 時間は僅かであると判断しますので、さくっと行って状況を整理し、ついでにドーン様とレン・ブランドン様の首根っこを引っつかんでとっとと戻るのが得策であると判断致します。レイン様はともかく、ラーカイル様もドーン様の後を追いかけていらっしゃる可能性がございます」

「え? え? えぇっ?」

「さ、参りますよ」


まだまだ暑い日が続きます。。。あれ、だから場所が水辺の町なのか?

と言うことに、後書きを書いている今思いました。

来週も暑いそうですが、明日は雨だそうです。


何の脈略もなく次回予告。

「次回は注意書きつきです。心臓の弱い方は見ないほうが宜しいかと思います。ついでに言えば書いてる本人は何とも思わなかったんで、へっこの程度かよと言う感想を求めてみます。でも保障は一切ございません」てな感じで。

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