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47 職人の種類は一つじゃない

前回までのお話:

ラーカイル先生、若干暴走モードです。何があったんでしょう?

キャシー、若干引き気味です。出来ればとっとと帰りたいです。

秋水さん、ただいま「実生活でどれだけ影響なく過ごせるか」研修中ですが本人は知りません。

アインス、ただいま気絶中で当分出番ありません。そのうち気が向いたらたたき起こされるかも知れません。


あれ、メイン主人公とひっつき虫は?


 学園都市が螺旋とか円盤とか言う放射状に作られた町であるならば、職人都市であるレイニアス・シティは扇状の町並みとして作られている。

 なだらかな海岸線は真ん中に行くに従って膨れ上がり、また縮んでいくかのよう。その、尤も膨れ上がった位置にレイニアス・シティの権力が集中しているのは意外と言えば意外だろう。

「と言いますのも、この町は地面の高さが海岸線よりも低い為に町のどこにいた所で嵐が起これば最悪の場合は水没をするからと言うのが理由です。その為、あちらの塔に都市の政務を全て一点集中し、反対側の山の中腹に補助として通信系の政務が集中していると言う事になります。

 このレイニアス・シティは縦横に走る河川と地下水路により、地上を歩くよりも水路を活用したほうが日々を楽に過ごせる関係で……ところで秋水様、こちらは何の意味があるのでしょうか?」

 町の入り口を入って肉体言語をぶちかます人達を「平等にぶちのめす」と言う事をして、ラーカイルは爽やかな笑顔で水路をわたる船の船着場にどっかりを腰をすえたあたり、実は相当腹が立っていたのではないかと言うのが概ねの人の意見だ。

「何、ツアコンの真似事でもと思って。もし、俺らがはぐれたらキャシーが旗を振り上げてくれたらキャシーがどこにいるか判るだろう?」

「……さようでございますか」

 ツアコンってなんだろうとは思ったが、そんな事は口にしない。

 仮に逸れたとしてもキャシーには秋水を見つけ出す自信があるけれど、確かに秋水がキャシーを見つけるのは難しいかも知れないので合理的でないとは言えない。

「本当にこの町は相変わらずですねえ……思わず駆逐してやりたくなるじゃないですか」

 きらりと光る汗とか、爽やかな笑顔の横で死屍累々と横たわる筋肉ムキムキの男性の山と言うのは見ていて精神衛生上は良いものではない。

「ラーカイル先生、アインスは大丈夫なんですか?」

「ああ、処置はしておいた……彼らが邪魔をしなければ、もう少し丁寧な作業が出来たんですけどねっと……」

 どがっとそこいらに転がっている男性を蹴るラーカイル医師は……とても、良い笑顔だ。

 本当に、良い笑顔だ。

 はっきり言って「なんで笑顔で人を蹴る?」と言いたくなるのを止めたくなったのは一人や二人ではなかったし。実際に口にしなかったので誰もの背中に訪れた「いやな予感」を回避できたのは行幸と言えるだろう。

「ところで、その転がっている人達って治療しないんですか?」

 ラーカイル医師が兼業先生である事を聞いたせいか、秋水の生徒気分はノリノリだ。

 今も間延びした声で「せんせい、しつもーん」とか言っていたりする。とうのラーカイルと言えば目つきはどんどん怪しくなっていくが生徒を相手にしていると言う意識があるせいか口調はまだまだ可愛いものだ。

「良い質問ですね、シュースイ君。

 残念ながら、私が相手にするのは「患者」であって「筋肉馬鹿」ではないので問題ありません。この都市の筋肉馬鹿はこの程度で何日も寝込んでられるほど暇ではありませんし、何より逆に商売に響きます。だから、ちょっとやそっとの事で休みを取るような命知らずはいないのですよ……ちょうど良い所に、もう何人かは起き上がって帰るところの様ですね」

 確かに、まるでゾンビか機械仕掛けかと言いたくなるほどの空ろさ加減でふらふらと男達は「よっこいしょ」と起き上がっては方々に帰ってゆく……確か、中には何人か石畳に脳天から落ちていた人なんかも居た筈なんだが……というのは、どうやら気にしてはいけないらしい。

 ちなみに、何人かは一定の距離を保ちながらこちらをこそこそと噂している。会話の中身は聞こえないが、どうやら何かこのメンバーの中で見知った者がいないわけではないのだろう。

 話の端々から「……あ……の……悪魔」だの「白……の……」とか「…血の雨が……」などと言った物騒な単語も聞こえてくるが誰も気にしないあたり、どうやら日常的なことなのだろう。誰の事を言っているのかについては、心当たりがありすぎて判別がつかないのは残念な所だ。

「……丈夫、なんですか……ね?」

「皆さん鍛えてるしね、それに機械なら治療じゃなくて修理の分野だし……もう少し強めに締めて置くんだったかな……」

「……へ? 機械?」

「どういう事、ラーカイル先生?」

 秋水だけではなく、レンも似たような顔をするのでラーカイル医師は「おや?」と言う顔をする。

「シュースイ君はともかく……レン・ブランドン君はレイニアス・シティについてはよく知らないみたいですね? 貴族の子息としては情報不足はいかがなものかと思いますよ?」

 先ほどまでの「笑顔で惨殺」モードから通常仕様に移行したのだから、なかなかラーカイル医師も気持ちの転換の早い人物である。臨機応変はどんな分野でもある程度は必要だが、これは天性のものではないかと幼い頃からレンは踏んでいる。

「こちらには中々……縁が無いんですよ」

 ふむ……といった様子でしばし考え込んだラーカイル医師は、ちらりとあちこちを見てから不意にキャシーへと視線を向ける。それはもう、見事なまでの彫像に挑戦中だったキャシーは、その視線に気が付いていても全く反応しないあたり女優だ。

「では、キャシーさん。せっかくですから貴女から説明をしていただけませんか?」

「……私が、で。ございますか?」

 顔のパーツは一ミリたりともぴくりとも動かなかったが、内心では「フザケンナコノヤロウ」程度は思っているのだろうと思わせるほど、キャシーの周囲の空気は非常に……重くなっていた。

「ええ、是非。貴女にお願いしたい」

 笑顔だ。

 嫌になるほどの笑顔を向けられて、正直な話をすればキャシーは全力で逃げたくなった。でも逃げられないのは契約に縛られている為。それならば、単に秋水を抱えて逃げてしまえばメインの契約を破ることはないが、今回の旅には、ある程度とは言っても秋水がどれだけのレベルで馴染んでいるかの試験でもある。この世界に現れて時間も大して立っていないのにスパルタにもほどがあると言うものだが、これは秋水の世話係として任命されたキャシーの試験も同時に行っているので逃げるに逃げられないと言う嫌な裏事情もあるのだ。

「まさか……私のような若輩者に、その様な事は……。

 せっかくですので、ラーカイル様にご教授をいただけないかと希望してみます。ご……秋水様、せっかくですのでラーカイル様の説明を伺ってみてはいかがでしょう?」

 何をそんなに嫌がっているのかと言う気がしてはみたが、こんな公衆の面前でひと悶着を始めるのもどうかと言うのと。確かに、ラーカイル先生の話を聴いてみたいと言う好奇心があったのは秋水の中で偽らざる事実だ。

「そう? キャシーは色々知っていて俺としては助かってるけど……せっかくキャシーが言ってる事だし、今回はラーカイル先生に教えてもらってもいいですか?」

「おやおや……せっかく楽が出来るかと思ったのですが……まあいいでしょう、普段の私は医療従事者なんで専門外ですから高くつきますよ?」

「せっかく同じパーティにいるんですから、良心価格でお願いします」

 笑ってるのに笑っていない笑顔は、なにやら周囲の空気がぴりぴりとしたものを発生している気がする。

 もし、ここで過敏症な人がいたら悲鳴を上げて逃げ出すかも知れないが。幸か不幸かこの町の住民にそんな神経の細い人物と言うのは一人居るか居ないかと言う有様だったりする……ゼロとは言わないが、少なくともこの場には存在しない。

「このレイニアス・シティは、ご覧の通り水辺の町と言うより海中都市にいずれなると言われるほど地盤の低い土地です。ちなみに、あちらの山の中はシティの敷地ではありますがシティと言うわけではありません。あれは城壁の一部と見做されています」

 ラーカイル医師の指し示すほうには、確かに連なる山々がある。数千メートルと言う高さではないが、それでも上って降りるだけで半日くらいは十分かかるだろう。

「陸上よりも海路が発達した都市と言うだけあり、それなりに商業的要素もありますが何しろ閉ざされた土地ですから工業的な発展の方がどうしても著しくなります。無論、農業的な事は皆無とは言いませんが土地の広さ的な関係からも漁業生産の方に力が入るのはどうしようもありません。何しろ、食べるものは陸の者より海の者の方が安定性がありますからね」

 それは海洋都市の一面も持っている以上、レイニアス・シティには避けられない問題だ。自給自足を目指す人々はいるが、だからと言って一朝一夕に出来る事ではない。それこそ、魔術的要素は必須だ。

「ところで、この都市の中にある職人街の主流はなんだと思いますか?」

 話の矛先を変えたと言うわけではないのだろう、ラーカイル医師はにこやかな笑顔で面々の顔を見回す。

 ドーンに引っ付いているレン、こちらを興味深そうに見ている秋水、見守っているのか見張っているのかよく判らないキャシー、通常運行のドーン……そして、ラーカイル医師とレイン。

 考えてみたら、よく訳の判らない面々の集まったパーティである。

「なんだろう……職人って言うくらいだから、生産性のあるものって事だよね?」

「勿論。でもヒントは出してあげないよ、その方が面白いからね」

 言われて、秋水は考える。

 レイニアス・シティは水辺の町であり、海抜がゼロメートルより下回っている。

 農業よりは海洋業が盛んではあるが、とりあえず今は研究中だ。

 この町は自治区であり職人と言う人々が住んでいる職人都市でもある。

 先ほど見た職人達は、繊細さは皆無に近いように見えるが基本は肉体言語かも知れない。それだけ体つきは良いと言う事だ。

 先ほど、彼らは機械だから修理だとラーカイル医師は言っていた。

 つまるところ。

「……機械工業?」

「うん、微妙に正解ではずれかな?」

 あっさりと言われて、秋水の頭の中は激しく回転を始める。

「サイボーグ?」

「……それは、どう言う意味の言葉なんだい?」

 秋水は、素材がこの世界の物質で構成されているせいか言語や文字に不自由はない。だが、元からこの世界に存在しない言葉については上手く会話が繋がらないので、恐らくは頭の中で考えている言葉を自動で翻訳しているという事になるのではないかと考えてみる。

「サイバーテクノロジー……いや、サイバネティック・オーガズムって言ったかな? フィクションでもリアルでも共通しているのは、本人の持っている以上の能力を機械を補助として賄うと言う技術……技術? システム? うん、多分そんな感じ。

 大体が人の体をベースにしたりして、機械を補助的に使ったりするって意味が多かったかな?」

 と言うより、人の臓器や部位を使ってと言う方が多いのだが……その当たりは色々と解釈が異なる。


 例えば、もしも組成成分の全てが機械で自意識がなければ人形だろう。

 組成成分が機械だけれど、そこに判断するだけの思考回路があったら人形だろうか?

 組成成分がたんぱく質など人と同じもので出来ていても、意志がないと人だろうか?

 では、人形は人の成分と自意識があれば人だと認識される事になる。でも、それが人の手によって作られた場合は人だろうか? 人形だろうか? 生み出されるのではなく、作られたものは? 自意識があれば人の肉体を纏っていても機械であっても人となるのだろうか?

 秋水が言ったのは、基本となるのが人の肉体を持った人であり自意識を持った。別の見方をすれば魂を保持した人が機械を補助的に使うという意味あいでの事だから、システムと言う言葉が入り込んでいた。

 システムとは構築を行うための概念だから、ある意味においては間違いではないのかも知れない。


人と人形の概念については、僕も沢山の本を読んで解決出来ない理論の一つです。カオス理論とは別物ですね、あれは「始まりが不明で結果についての論議」でもあるかと思っています。

人形は元来、人の形を模する事で身代わりとしての役割を与える為に作られたと言います。だから、人だと勘違いした魂がするりと入ったりする事もあったら怖いと思って以来、人形は手元には置きません。寝室には置いてません。押入れに入れてます。

へたれ? だからなんです?


てなわけで、次回予告。

「オタクがいるよ! いやマニアだよ! メイドさんが引いてるよ! これってどこまでマジガチバトル!? カオスにも程があるって助けて偉い人!」

てな感じでお送りします。

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