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46 水辺の町の手前

目的地に一歩前進、と言う感じのところです。

このお盆は天候が不安定だったりしますが……そういう時期なんですかね?

そうそう、お盆と言えば昔……。


 学園都市は、幾つもの島の集合体だと思ってくれると想像しやすいだろうか?

 空中から見ると生き物の姿に見えると言う噂はあるが、残念な事に見たと断言した存在はいない。何故なら「生き物の様な気がするけれど、どんな生き物なのか判らない」と言われているからである。

 そんな学園都市は、どこへ行くにしても一度は水の上を通らなければならない……水恐怖症の人にはどんな悪夢かイジメかと言われそうなほどではあるが、実際に島々を渡ったりしなければどこにも行けないのだからどうしようもない。

 東西南北の名を冠した地域や大陸は存在するが、それ以外にも無数の島々は存在している。それらは4つの地域に分類したり名を連ねたりしない場所も数多くある。また、大陸の中にあっても独立している地域もある。


 職人都市。


 そう呼ばれるレイニアス・シティもまた、独立行政自治区であり別名を水辺の町と呼ばれている。

 海岸線は扇状に連なっており、水辺から上る太陽も反対側の山の稜線へと沈む太陽も大変美しく。年々島として分離されて行く行くは完全に島として独立するのではないかといわれている。また、海抜は低く一度海が大荒れになれば町の2/3は海に簡単に沈み、海が凪ぎとなれば町は完全な形で姿を表す。

 滅びを思わせる美しさ、それが職人達の魂と不可思議なコラボレーションをして町を潤していると言っても過言ではない。

 勿論、町であるからには人が住む。しかも一人や二人ではない、おまけにどこか研究者と通じる頑固一徹な人達がやたらめったら多く、日常で使用されるのが肉体言語と言うか拳で語り合う事も少なくはないあたりで女性には頭を抱えさせられると言うのは普通だが、その女性達も一癖も二癖もある人達が数多く生き残るのがこの町の特徴なのだ。


 つまり、何が言いたいのかと言えば。


 町に入る境界線に一歩足を踏み入れかけた空中領域に踏み出した途端、人が投げ込まれていたりする。

 ちなみに、それもまたよくある光景と言ってしまうと問題ではないかと思われるが常識の基準などそんなものである。

「凄いね、今まっすぐアインス君に飛んでったよ。人が」

「これが噂の職人都市の人間花火か、すごいなあ……よく壊れないもんだね」

「……秋水様もレン・ブランドン様も、あの方々の心配はされないのですか?」

「「ああ、そうだね?」」

 なんだろう、この血縁関係のない魂の他人双子は。

 と、何故か引率と言う名の周囲への護衛兼当事者への監視役として借り出されたラーカイル医師が、そう思ったかどうかは別である。

「まあ、アインス様も低レベルとは言えギルドの一員として名を載せている以上は問題がないかと判断致しますが……ええ、例え情報ギルドのレベルが低いランク者とは言っても、せめてその程度の事は出来ていただけませんと」

「もしかして……キャシー、何か怒ってる?」

「お答え致します、秋水様。

 私が怒りを覚える必要など何一つないのだと、単に……ギルドランク上位者に命令を出来るほどの方が自らの面倒も見られないなどと言った事はないものだと、断言させていただきます」


 怒ってる。間違いなく怒ってるよ、この人。


 その場に居た何人かの人達の心が一つになった瞬間であるが、ラーカイル医師はちらりと周囲を見回してから倒れている人達の所へ足を進めた。ドーンも足を進めてしまったので、レンと秋水とキャシーも同時に足を進める事になり、レインは少し苦笑しながら「こんな事はこの町ではよくある事なんですが……運が無かったですね」と慰めているのか違うのかよく判らない言い方をする。

 本来ならば、このパーティの仕事して最優先事項はレインをレイニアス・シティまで無事に送り届ける事なのだから放置しておくのもどうかと言う話はあるが、すでに町の敷地の中には入っているので仕事の第一段階は完了していると言っても間違いではない。次の段階としては、この町の権力者に会って詳しい話を聴いたりとかして暇をしている余裕はない筈なのだが……どこか、彼らの行動は暢気に映る。

「キャシー、君も判ってて言うのはどうかと思うけど?」

「それは誤解と言うものです、ラーカイル様。

 実力がものを言うべき所で実力の無いアインス様が中心となるのでしたら、せめて周囲を牽引できるだけの能力を切望したいと思うもの。ましてや、現在の私の最優先事項は秋水様をお世話する事でございます。秋水様の身の安全の確保を致したいと思うのは職業病と言う事でお許し下さい」

「確かにキャシーの立場はちょっとばかり面倒だとは思うけどね……だからと言って他に適任が居ないんだから仕方ないでしょ、君だって私だってお互いが中心となる事は許されていない。私はオブザーバーがメインだし、キャシーはシュースイ君、だっけ? 彼の世話をしなければならない。シュースイ君は色々と勉強中だし、ドーンさ……ドーン君はこう言う事には向いていないと言うか色々後が怖い、レン・ブランドン君はそもそも……ね、他に何か良い案があれば聴きたいけど? アインス君が矢面に立つ以外にどんな方法があった?」

 ラーカイル医師の言っている事は、非常に正しい。

 レンがギルドに加入していれば話は別なのだろうが、レンは残念ながらこれまでもこれからもギルドには一切関わりたくないと思っている第一任者だ。それでもこの場に居るのは別の理由からであって、レンはギルドとは無関係だ。レインには言ってはいないが、別に言うほどの事ではない。

 それに、ギルドでは他の人材に一時的に力を借りるのはよくある事だ。今回は、公爵家の名と権力を借りて少々ランクの高い旅をさせてもらったりしたが。

「ラーカイル様、お言葉ですが……まるで私がアインス様の交渉手段を卑下しているとおっしゃりたいのですか?」

「おや、違うのかい? 確かに、交渉と言うには稚拙すぎるし情報は小出しにする以前にほとんど持っていなかったし、しかも使いどころに関してはどこの子供かと思うほどではあるけどね、頑張っていたんじゃないかな?

 少なくとも、目的地に空中領域へ足を踏み込みかけた途端に吹っ飛ばされるほど悪い事はしていないと思うんだけど?」

 お前フォローする気ないだろう、と言いたいのは何人か同じ目でラーカイル医師へ目を向けたが、そんな他人の視線などどこ吹く風のラーカイル医師はまったく気にせず己の仕事を的確に行う。

 と言うより、知らない人は知らないだろうが「ラーカイル」の基本はこんなものなのだ。本来は。

 彼が「ラーカイル」と名乗る事になったくだりを知っている人にとっては当然かも知れないし、知らない人にはぎょっと目を剥くと言うだけの話だと思っている。

 ただ今回はと言うより、今回もドーンが絡んでいるから同行を毟り取って来たのでギルド上層部は色々な意味で頭を抱えていたりする現在進行形。恐らく、近いうちにラーカイル医師はギルドの偉い人達に付け届けで胃薬をセットにして送ったほうが良いのではないかと思われていたが、誰も口にはしなかったし本人も想像はついていたがそんなつもりは毛頭ないどころか欠片もやる気がない。

「なあ、レン・ブランドン……あの医者は本当に医者なのかねえ?」

「あ、シュースイは初めて見るんだっけ? ああ見えてもそれなりに優秀なんだよ、ある程度は。応急処置程度なら寝ながら出来る程度だけど」

「え、それって凄い事なんじゃないかな? ねえ、キャシー?」

「秋水様、大変申し訳ございませんがギルドに関わる医療従事者にとっては基本的事項であるとお答えします」

「へえ……ギルドってすごいんだなあ……」

 んなわけはない、とか。

 騙されてる、騙されてるから! とか。

 誰か親切な人が通りがかって言ってくれれば、秋水の勘違い的思い込み的洗脳みたいな教育に関して多少は修正が出来るかも知れないが……ちなみに、これは教育の一環なのである。

「と言うより、やる気のたまものと言えるかも知れません」

「どういう事?」

「ラーカイル様がいかに高度な医療技術をお持ちであろうと、一朝一夕に出来るものではございません。その間には様々な歴史がある事でしょう、当然の事ながら魔法は不可欠です」

 ここで、キャシーはこほんと一呼吸置いた。

「おおよその技術と言うものは外に向かうものと中に向かうものに分けられますが、医療従事者はその間に立っているといっても良いでしょう。患者の体内を探り、自らの力を分け与えたり相手の流れの滞る所を馴らしたりする事もございます」

 ちなみに、外に向かうものは大抵が体の外にあるものに対して働きかけるもの。光を発したり風を起こしたりといったものになり、内に向かうものとは身体強化などに使われたりする。内に向かう場合は大抵が自分自身にしか使えなかったり無意識で使う事になるのだが、場合によっては医師にの力で自らの魔力の流れを調整してもらう事で魔力を使いやすくすると言う事もある。

「肩こりみたいな感じだな……?」

「概ね、その様なものであるとお考えいただければ宜しいかと思われます」

「この世界ってさ、そう言えば何て名前? 魔法とかってどれだけあるの?」

「そうですね、一言で申し上げるのは大変難しいのですが……ところでお伺いしたいのですが?」

「ん、何?」

「世界の名前とは、どういうものでしょう?」

「え?」

 周囲の風景は、牧歌的と言えば牧歌的だ。

 現在、秋水に与えられている家に関しては学園都市基準で言えばかなり大きいわけで、その割りに宿泊施設としては手狭な印象を受ける。元来、泊まる為のものとしての役割は大きくないからだというのもある。

 こういう、人工的だったり自然を活用して作られる「城壁」は「城砦型都市」と呼ばれる。多くはかつての戦争の名残だったりするので自然と一定以上の土地を確保できない為に一つの建物の基本的な設計は決められてしまうケースが多い。この都市もそんな感じな為、明確に城壁の内と外では景色が異なる……が、幾らなんでも倒れて医師が診察している横で肉体言語が飛び交うのはどうかと言う気がする。秋水は半分ばかり唖然某然としている横で、時折キャシーが流れ言語に応戦したりレンやドーンが避けたりしている。かと思えば、レインは一人で平気な顔をしているし、ラーカイル医師は治療をしながら野次を飛ばしつつ掛かってくる職人達をまとめて吹っ飛ばしたりとかして大忙しに器用だ。

「ええと……大抵、俺の居た世界で異世界に飛ぶと世界に名前があったりするんだけど……」

「さようでございますか、残念ですが私は存じ上げません。恐らく、情報ギルドでも知覚しているかどうかと言う事ではないかと思いますが。秋水様のおられた世界のお名前は何とおっしゃるのか伺っても宜しいでしょうか?」

「ああ……と、あえて言うなら地球? かな? でも、あれって惑星の名前であって世界とは言わないしなあ……どうなんだろう?」

 地球とか惑星とか言われても、キャシーには判らない。

 そもそも、地球と言う言語もなければ惑星と言う概念がない。

「地球も惑星も星の名前なんだ」

「星……で、ございますか?」

 今見上げても、天空にあるのは青い空と白い雲と太陽だけ。

 少なくとも、今の時間帯は星など見えない。

「そう。俺達の世界は、空に浮かぶ無数の星達の一つなんだ」

 世界は丸いけれど、かつては平面だと思われていたとか。

 重力と言うものと引力と言うものがあるから、球体の惑星とその上にあるものは引き寄せられているとか。

 魔法や精霊なんかは夢物語だけど、自然の中に行くと何かいるんじゃないかと思う人は居るとか。

 とりあえず、そんな言葉を聴いている間は退屈しないとキャシーが思っていたかどうかは……。

 不明だと、言っておこう。


キャシーが話数によって「秋水」と「ご主人」と使い分けているのは、一応は人目を気にしている秋水の意向を汲んでいるからです。本当は様をつけられるのも気になりますし、側にいられるのもどうかと思いますが「仕事ですので、御諦め下さい」と断言されて以来は諦めました。素直です。


今回は本音が随所で駄々漏れのラーカイル先生とキャシー、二人とも良い大人ですが、良い大人には良い大人なりのストレスってものがあるんですよ。いや、ほんとに。


では、次回予告。

「都市の説明、史上初のツアコン、どなたか町の住人にまともな方はいらっしゃいませんか! いつか、どっかのサイボー○戦士を作る日も来るかも知れないだけの熱意はあるみたいです」

ちなみに、僕らの世界もそうですが一柱神でもない限り世界に名前なんてそうそうつかないんじゃないかなっと。知らないだけかも知れませんが。

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