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21 それは誤解で…違うんですか?

人に貴賎はないと言う。

人の命に上下はないと言う。


だけど、本当にそうだろうか?


人は見かけや立場で相手を見る。

人は思い込みや計算で相手を計る。


けれど、それ決めるのは誰なのだろう。

自分自身である事を認識する者は、どれだけ居るのだろう。


 困った、と言うのが全員共通の意見だった。

 出来れば「誰か何とかしてくれ」と言うのも、全員共通の意見だった。

 と言うよりは「今動いたらヤられる?」的信条になっていると言っても良い……無駄に。


 その状況は、回避しようと思えば出来たのかも知れない。

 出来なかった、単にレンのボケだと言えよう。

 ドーンを担いで三度目……駆け込んだ医療部屋で始まった攻防戦。別に筆舌にし難い何かがあったとう訳ではなく、どちらかと言えば本来口を開かなければならない筈のドーンが酔ったのでレンが探りを入れてる最中にアンレーズが先日と同じく「失礼しますわ」とノックと同時に入ってきた。

 ある意味においてはそれだけで、今回は前回と違う事があった。

 一緒に、リリィとカーラが居たのだ。

 別に珍しい事ではないのだが、ある意味においては珍しい。

 レンが居る所に沸いて出てきて勝手に話をして勝手に盛り上がり、勝手に周囲に迷惑を掛けて勝手に置いてきぼりを食らうのが基本スタイル。

 時々、この三人にキャスリーヌが入ってくる事もあるがこの三人に分け入って入り込もうなどと言う勇者は業務連絡以外では存在しない。ドーンはこの場合、恋愛争奪戦に関わっているとは看做されないが最大標的となっていると言う矛盾を含んでいるのが誰よりもドーンは納得していない……かも知れない。

「レン・ブランドン様! またお会い出来るなんて!」

「レン・ブランドン様ですってっ?」

「れ、レン・ブラン……」

 本来、医薬術関係で質問があったのだろうアンレーズと一緒についてきた事になるリリィは意外な展開に驚いていた。無論、前回に引き続き狙ったわけでもないのにレンと偶然出会ったアンレーズも興奮のあまり周囲が見えておらず、だから。

「ドーン……」

 カーラの呟きは、二人には届かなかった。

 相変わらず視野が狭くなって突入してくるイノシシよろしく、突進してくる二人の女学生を相手にレンが何時もの笑顔をしながら内心で酷く困っているのを知ってるのは残りの二人。ドーンとラーカイル医師だけではあったが、空気を読むとか言う以前の問題として二人は何も言わなかった。

 ただ、カーラはじっとドーンを見ていた。

 ドーンはカーラの視線を感じている筈なのに、ぴくりとも動かない。

 それがまた、カーラには何かじれったさを感じさせる。

 言いたい事はある、確かにある。

 けれど聞くことができない、それがもどかしい。

「ちょっと、カーラもいいなさい! この小娘ったら本当に生意気……どうかしましたの?」

 ふと、掛けられた声にカーラは明らかに戸惑いを見せた。

 それは、常よりも感情豊かな表情そのもので。

「え、と……すまない」

「まあ、この私の話を聞いていなかったとでも言いますの!」

「ちょっとリリアント様、少しは声を抑えてくださいません?

 ただでさえリリアント様は衝撃的なお声なんですもの……その様な態度ではレン・ブランドン様ですら引いてしまうというものですわ。もう少しだけでも侯爵令嬢としての品格を持った方がよろしいのではありませんこと? ねえ、レン・ブランドン様?」

「アンレーズ! その破廉恥な手をレン・ブランドン様から離しなさい!

 レン・ブランドン様は恐れ多くも時期公爵様でいらっしゃるのよ、伯爵家令嬢の貴方とは格が違いますわ!」

 確かに、どう見ても巨大な二つの塊をを押し付けながらレンの腕にすがりついた姿のアンレーズの姿は少しはしたないと言われる部類だ。少なくとも、貴族の子女が行う態度ではない。

「それは気にしなくてもいいけれど……少なくとも、この学園都市に居る間の僕達は学生に過ぎないんだし」

「レン・ブランドン様ったら……お優しすぎますわ……」

「でも、レン・ブランドン様がおっしゃっているなら喜んで!」

「アンレーズ!」

 再び繰り返されるリリィとアンヌの会話と言うより口喧嘩を見て「第二ラウンド……」と誰かが呟いたりもしたが、それが誰なのかをカーラは知らなかった。

 ただ、それでも判っている事と言えばここで余計な行動をして己の利益になる事は何一つないと言う事くらいだ。

「まったくもう……レン・ブランドン様が幾らお優しいからと言って、図々しいですわ!」

「でも、とうのレン・ブランドン様がお許しいただいているのにレディ・リリィが何を言っても無駄ですわよ……ねえ、レン・ブランドン様?」

「二人とも、落ち着いて……」

 誰かが「ヘタレ」と呟いたかも知れないが、その言葉を耳に入れる者は存在しない。

「皆さん」

 ところで、お忘れになっている事が一つあるのを判る者はあっただろうか?

 少なくとも誰一人として、結果的に行動をしなければ同罪である事に変わりはないのだが。

 それでも、声の発祥源にぴたりと反応したのは良い方だろうと言えただろう。

「ほら! そこで答えが返せないのが貴女の負けなんですのよ!」

 一人だけ空気を読まないのか読めないのか……確実に、タイミングを外した声に最悪の状況である事を感知したのが多数。

「レディ・リリアント・マイソロジー」

 静かではあったが、それは有無を言わせぬ力。

「アンレーズ・フォン・ブーリン」

 ぽわっとした光が浮かび上がったのを感じ取り、リリィはともかくアンヌは悲壮感漂う絶望的な表情を浮かべた。

「両者を教職員権限の名の下に5日授業時間の退去を命じます」

「な……!」

「先生!」

「発動」

 どこから発生している光なのかは判らないが、それでもリリィとアンヌの二人を光が包み込んだ。

 と思うと、外からヒステリーのような奇声が上がるのが聞こえた……はっきり言って、よくここまで届くものだと感心すらしてしまう。

 はっきりと聞こえるわけではないが「どういう事なんですの!」と叫んでいるのは恐らくリリィで、「リリアント様のせいで私まで追い出されてしまったじゃないですか!」と叫んでいるのはアンヌだろう。

「まったく……困ったものですね、彼女達にも」

「今のは……」

「ああ、貴女もお望みですか?」

「教職員専用呪府機動法『退去命令』……イエローカード……」

 学園都市は、ある意味で一つの王国だ。

 教職員などの「大人」はほぼ全員が学園都市に従事していると言っても良い、中にはカーラの様に外部に所属しながら学生を行う者、ドーンの様にギルドに所属している学生なども居る。

 カーラはともかく、その為に各々は許された権限などがある。

 教職員には幾つか罰則規定や褒章規定を生徒や同僚に与える権限を持っている職員も存在する。

 少なくとも下っ端になったキャスリーヌなどには一人では出来ないが、ラーカイルはキャスリーヌより数段上級職にあたる為に一定期間の生徒の行動を制限する魔力札などが支給されているのだ。無論、枚数制限はあるし使用した際には始末書的な使用暦を上層部に提出しなければならないのだが。

「い、いえ……ですが、5授業日は多くありませんか?」

 カーラにしてみれば庇い立てする気はないのだが『退去命令』は一定の期間を定められた空間を出入り禁止にさせられる魔法だ。制服や学校から支給されたアイテムに刻まれた使用者を感知して魔法で制限された空間に侵入しようとすると触れる事すら出来ない幻のような存在とさせられる。それならば学園都市支給品の一切を身に着けなければ良いと言う話もあるが、そうなれば今度は学園都市の施設は一切合財使えなくなってしまうと言う弊害がある。

 もし、5授業日の間に怪我や病気をした場合の彼女達は治療をされないと言う事だ。

「問題はありません、彼女達とてそれなりの家柄です。

 わざわざ医療部に来なくても、彼女達の周りが放って置く事は少ないでしょう」

 少ないだけでないとは言わないあたりに計算高さを感じさせるが、実際に学園都市の中でいきなり死ぬような目に合う可能性は少ない。病気であろうと怪我であろうと、どうしようもない状態になる前後で制服や学園都市支給のアイテムには警告や簡易結界が仕込んである理由だ。

 様々な国や地域から多くの立場、年齢の存在が集う為には最低限の安全性が無ければならない。

 学園都市の半分以上の住民が「子供」である為の最大の理由、少なくとも突然襲撃されたり飢饉にあったりされる事はない、最低限の安全性……無論、ゼロではない。

「それに、彼女達はそれだけの事をし続けているのですから教職員としては寛大すぎる処置であると考えています。実際の所を言えば、貴女方が行ってきた事の罪深さを知る事は……生きている間は難しいかも知れません」

 ラーカイルの言葉をカーラは真に理解する事は出来なかったが、なんとなく想像がついたのだろう。

 顔色を悪くしながらも「リヒテンシュタインの才女」「リッツ商会の掌中の珠」と言われるプライドは今のカーラを毅然とさせるには十分な手札だった。

「カーラ・リヒテンシュタイン、貴方はご存知かどうかはどうでも良い事ですが、貴女達は別に特別でもなんでもありません。上級、中級貴族、商人が実家である事と貴女達には何の関係もないのです。

 親や実家の威光を笠に出来ると思った時点で、この学園都市に通う資格がない事を理解していただきたいものですね……と、これは少々言い過ぎましたか」

「事実だけにきついね、ラーカイル先生」

「からかわないで下さい、レン・ブランドン君……カーラ、貴女もこれから一人の商人であり研究者として生きていくおつもりなら心して置いた方が良いでしょう。

 確かに、縦横のつながりは大切です。これからも多くの人々の手を借りて行く事になるでしょう、それは決して悪い事ではないし致し方ない部分もあります。汚い事も多くあるでしょう、決して清廉潔白では済まないでしょう、それでも自分自身の心の折り合いをつけ手探りを続ける、それが生きると言う事。程度の差こそあれ誰にも押し寄せる現実は、あまりにも……あまりにも実直です」

 突然始まった言葉は、お説教なのか訓示なのかよく判らない。

 ただ、ここに居残る事が出来たと言う事は他の二人より見所があると思われているのだろうかと言う気がしてならない。そこに計算がないとは言わない、と言うより計算しかないのは商人としてか研究者としてなのか……少なくとも、そこに恋する乙女としての感覚は欠片も必要ないだろう。

 例え、恋そのものに計算があるとしても。

「水清ければ魚住まず……」

 明後日の方向から届いた言葉は、しっとりと。

 そして、重かった。

 眼鏡で覆われた視界、長衣に包まれた肢体の中に何があると言うのか。

「ええ、そうです。

 例え今の貴女がまだレン・ブランドン君に懸想している色ボケばばあよろしく……いえ、言いすぎですね。色ボケばばあに申し訳ない。世間の色ボケばばあはあそこまで酷くありませんからね」

 ラーカイル先生、一体何があったのか先程より面持ちがかなり神妙になっている。

「貴女が初恋によって正常な判断が出来ないのは、まあ良くはありませんが良いでしょう。

 これから先、貴女が色狂いに陥ってご実家を潰すもよし、弟妹に追い出されて一人寂しく生きて死んでゆくもよし、学園都市から放校されて自力でのしあがるのも貴女の勝手です」

 何やら不穏当な発言になってきている気がしないでもないのだが、まだ口出しが出来る段階ではない。

「だから、貴女にチャンスを差し上げたいと思います」

「チャンス……ですか……」

「ええ、ギルドからの正式な依頼と考えていただいて結構です。ある情報をお願いしたい」

「私は……確かに商工ギルドと取引はありますが、依頼をされても……ああ、私の家の者の登録ギルドを紹介すると言う意味ですか? 仲介でしたら……」

「いいえ、違います。

 と言うより、これは罰則に近い。

 貴女には、ある情報を調査してもらいたいのです。これは、別に貴女でなければ出来ない事でもなければ断っていただいても構いません。報酬も出る事はありません。

 けれど、たった一つだけ貴女に有利な条件があります」


三人娘のうち、二人は貴族なので当然と言えば当然です。

しかし、レンが目の前に居るのでこれでも押さえてます。

この時点で、実はカーラは少し二人とは変わりました。

まあ、元々は違う点が多々あったりしたので同じと言うわけにはいかないのですがね。


と言うより、三人とも当初とは違う道を歩んでませんかね?

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