100 狭い所に潜るのは心地良いといいます
記念すべき100話目でございます。
が、特に何もしてません。
話も終わってません。
……あるぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?(当初の目的では「50話までは行くまい」だったなんてありえないね、って感じで有り得ません)
世の中には、上には上がが居るものなのだなと思ったのはドーン、レン、アインスの三人。
何かあったらしい事こそは想像がつくけれど、何が起きたのか想像もつかないと認識しているのは秋水で。もしかしたら全部知ってるかもしれないけれど、誰も何も言わないせいか自らは口を開かないキャシー。
黒い煙の出るタバコでも吸ってますか? と聞きたくなったのは……ラーカイル医師だ。
「随分とごゆっくりでしたね、アインス君? レン・ブランドン君?」
「あれ、どー……イエナンデモナイデス」
うっかり、軽い口が「あれ、ドーンの事は頭数に入ってないんですか?」と聞きそうになったアインスを人にらみで黙らせたラーカイル医師は、ギルドとか医師とか大人とか言う前に……なんだかチンピラ風に見えてしまう気がしたのは何故だろうか?
元は冒険者と言うより、現在も冒険者を兼任しているのだから気迫やら眼力やらが半端無くあるのは当然と言うものではあるのだが。
「どうせ……私がアインス君にドーン君やレン・ブランドン君を呼びに行かせても、今度は呼びに行かせた事でつまらない言い合いにでもなってたんじゃないんですか? 全く……それでドーン君が動かなかったら今頃、二人ともまだ言い争っていたんじゃないんですか?」
流石に全身で反応こそしなかったが、内心で「バレてら」とレンとアインスが仲良く思っていたのは言うまでもなく。かと言って、そんな事実を知らせたら二人揃って「そんな冗談はさて置いて……」とでも言っただろう。
「アインス君、人の話を最期まで聞く前に脱兎のごとく逃げ出すのは情報ギルドや学生やらと言う前に社会的な営みを行う一人類としていかがなものかと思いますよ」
「……あう、はい」
逃げられない事を悟った解体作業前の肉であるかの様な心情になりながら、アインスは肯定する……もっとも、アインスには動物の心情を認識する読心技術など持ち合わせていないので、あくまでも雰囲気にすぎないのだが。
「レン・ブランドン君、いかに卒業後の事を考えると著しく欝状態になるからと言って、今なら躁状態で制限無視して良いと言うわけでもなければドーン君を独占したくて暗躍しなくても良いのですよ。ドーン君は私がいただきますから」
「んな事したらドーンが骨の髄までむしゃぶられるから却下だ!」
「ははは……当然じゃないですか」
なんだろう……ラーカイル先生とレン・ブランドンの会話ってどこかの何かが凄くおかしい気がするんだけど。追求したら何かに負けそうな気がする。
「僕の許しなくそんな事できるとでも思ってるのか……良い年した大人の割りに頭が悪いな、ラーカイル先生?」
「イヤですねえ、そんな子供の浅慮ごときに負けると思われるとは……私もまだまだですかねえ?」
あれ、なんだろう?
ラーカイル医師は子供に見えるし、レン・ブランドンはチンピラに見える?
「五月蠅い」
一触即発の空気がびしばしと、空気が今にも静電気やら粉塵爆発の様相を見せるかと思った矢先。
どかぁん!
「ソニック・ムーブっ?」
声には心の底からの戸惑いと、僅かな恐怖心に若干の喜色を混ぜた感情がある秋水と。
「衝撃波……かっ?」
感情には冷静さを表面で覆った動揺と不安と、僅かに諦めを含んだ声を滲ませたアインスと。
「お前達はもう少し冷静な話し合いと言うものが出来ないのかっ!」
小さな体に収まりきれないとでも言うのか、突如として現れた親方からにじみ出ているように見えるのは。
「波動っ?」
レンの言葉に、先ほどのアインスやラーカイル医師とは比べ物にならない謎の黒い歪んだ物体……の様なものと、目の周りに「まあ、巨大な大熊猫でいらっしゃる」と言いたくなるほどの隈をぺったりと張り付かせており。
「おやおや、この様なところにおいでになるとはいかがなされましたか? 親方様?」
「わざとらしいぞ、キャシー。控えろ」
「……失礼を致しました。ささ、どうぞご存分に思いの丈をぶつけてくださいませ……アインス様に」
「なんで僕っ?」
「五月蠅い黙れ」
物理的な作用などある筈もない筈なのに、数日も経っていない以前に見たときは今にもしにそうな欠食児童だった筈の外見子供にしか見えない親方は……。
見事な視線をもって周囲に畏怖を振りまく大魔王降臨、と言うか逆に栄養が回ったからこそ不遇と言うか不適当と言うか、つまりは「典型的に寝てません!」な顔になっているとか言うわけで。
「お前達のせいで随分と仕事をさせて貰ってなあ……おかげで、これまでとは比較にならないほどの書類の束に今日だけで三回ほど埋もれては出てくるのを繰り返したぞ」
ああ、そうですか。
それ以外に、一体どう答えろというのか……というのが、一同の意見だ。
と言うよりも、どう言う事なのか判らないと言う顔をしていたら親方は懇切丁寧に説明をしてくれた。
曰く、都市伝説になっている『聖なる魔剣』が来ているとはどう言う事だ。可能なら追い出してください。とか。
曰く、ギルド上級ランク保持者の『夜明のクリムゾン』様を是非招待申し上げたいので許可を願います、とか。
曰く、レン・ブランドン様のパーティに降ろす武器や防具はどこに収めればよろしいのかしら? とかいきなり持って来た馬鹿が居るとか……ちなみに、これは丁重にお帰りいただいた。一人ばかり派手な装いの令嬢なのか道化師なのか判明の着かない存在がいたと言うが、その意味する所は不明だ。
曰く、稼動免許保持者の居る筈のないメイジャ工房に火が入っているのはどう言う事だ責任者に話しつけて乗っ取ってやる。とかとかとか。
大きなものから小さな陳情書まで、それはもう類似品が多すぎて仕分けの段階で力尽きそうになる間違い探しのような目に合っているのだから親方も苦労すると言うものだ。
が、すでに一行は「長い寿命の果てに暇をつぶす為に新しい人材を育成するでもなく可能な範囲は全て自力のみで行ってきた弊害」にすぎないことは事実なので同情はしない。するだけ無駄、と言う話もあるのは否定しないし否めないのだが。
「と言うより……これまでより酷い様子ですね、親方様? 医師としては今すぐ割り振れる仕事は他の方に割り振った上で寝室に直行、奥方様と一緒に三日くらい篭られることをおススメしますよ?」
「出来ればやるわ!」
と言うよりも、見た目はまるっきり幼児な相手に妻と寝室に篭れというのもなかなか……微妙な空気になったりならなかったりする気がする。
「やれたらやるんだ……」
レンは、どこか遠くを見ながらもドーンを手の中に収めるのはやめなかった……と言うより、すっかり何か色々とあったかの様に見える仕草をしているが、かと言って何かがあったと言うわけではない。
「親方って、見た目の割には意外と……」
外見が幼児的であるとはっきり言うのを我慢したのだろうが、すでに半分以上は口に出しているのだと言ってあげるのが親切だろうかと余裕があれば言ったかも知れないが。口に出した当のアインスですら濁そうと努力しているのだから無理な話。と言うより、更に失礼と言うか無礼になっている事を誰も気が付かなかったのは行幸と言うものだろう。
「ああいうのをムッツリって言うんだろうな」
頭の中では様々な事柄について高速回転をしている秋水は、疲労を感じるほど疲れた気はしないと言う点では肉体と体力の比較的に絶好調と言っても良いだろう。それでも、何か思う所があるのか時折町で仕入れてきたアサイー入り焼き菓子をぽりぽり口にしているのは不安からだろう。甘味で脳の回転に補給を与えていると言う見方もあるけれど。
「おや、秋水様は意外とマニアックな単語をご存知でいらっしゃるのですね?」
ちなみに、この場合のマニアックとは「ある事に極端に集中する様」と言うよりは「熱中的を超えた熱狂的かつ狂気じみた熱中家」の方が正しいのだろう。
「だから五月蠅い黙れもしくは私も連れて行け」
びし。
空気が固まったのが、室内の者達には判った。
「もううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんざりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
何をトチ狂ったっ?
室内の全ての人の心が一つになった瞬間、と言っても良いのだろうか……口にした当の本人の心情は別とするとして。
「私は地下に潜る! 降りるぞ! 地上の書類仕事など知ったことか! もっと暗くて狭くてじめっとした所に行く、行ってやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
本当……何があったんですか、この見た目幼児?
なかなかに心情的には辛辣になってきた気がするのだが、そんなものは口にさえ出して相手に知られる事さえなければ大した問題にはならないものである。
それよりも、書類に埋もれて餓死したほうがマシだと仕事中毒だったのは何日も前の話では無かった筈なのだが……そんな親方の身の上に一体何があったと言うのか。
もし、この場に居たのが親方本人一人きりだったら頭を抱えてじゅうたんがしいてあるとは言えごろごろと転げまわっていたかも知れない……半分やりかけているけれど。
「キャシー」
「かしこまりました、秋水様」
別に、この集団の中で最初に自意識を取り戻したとか言うわけではない。
ただ単に、事態の打破を誰も考え付かない現状を前にして概ね放置の方が余計な面倒を背負わされそうな気がしてならない現状を可能な限り遅らせる方針……あくまでも予感でしかないが、これは放っておいても正面から何とかしようとしてもえげつない程の労力が必要だと思われる。
とりあえず、音速を超えて現れた親方の波動によって破壊された扉の修理をする事は何よりも先決だろうと秋水は判断したわけであり。その意図を正しく読み取ったキャシーが何故か指笛を一つ鳴らすと、どこからともなく現れた庁舎内で働いている人達が素晴らしい手際で扉を取り付けて去ってゆく……無言で。
ここは都市の中央機能を司る場所であって決してそれ以外の何物でもない筈なのだが……と秋水は思ったが。
「メイド協会や執事協会に所属しておきながら、この程度の作業が片手間で出来ないとは……情けものをお見せしてしまい、誠に申し訳ございません。皆様」
扉修理までするんだ、メイドさんや執事さんって……へえ……。
とりあえず、疑問に思った事が顔にでも出ていたのかタイミングよく口にされたキャシーの言葉を信用できるかどうかは別として、考える事を止めることにした。
その方が面倒がないと言うわけではない、一応。
「くそ、あの馬鹿野郎。あのアホ龍め……人の苦労も知らないで。誰がお前の家族を警護してると思ってやがる……」
うわあ、なんか見た目が幼児なだけに黒くなる率が大変……幼児?
確か、ついこの間見た時はまだもう少し大きな体じゃなかったかなあ?
などと思って居られたのは、実はとても幸せな事なのだと言う事を知った。
瞬間だった。
うがぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
「え?」
「ドーン!」
「はあ?」
「う……」
「秋水様!」
つい今し方、複数の執事さんやらメイドさんやらがトテカントテカンと作りつけてくれた重厚な扉は。
何やら、嵐でも起きたか? でもここ室内だよね、と言う疑問を持つ前に吹き荒れた。
「なんなんだよ、一体!」
ブチ切れたアインスは、そう叫びながら全員が仲良く転がされた部屋の中で勢い良く立ち上がり。
「……ドーン、遺品は実家によろしく頼む」
即効で敗北宣言と言うより絶命宣言をかました。
「親方ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「こ……の、馬鹿龍がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「か、怪獣大戦争?」
ぽつりと零された秋水の台詞に入る突っ込みは、ない。
100話記念は何もない本文ではございますが、とりあえず作者として皆々様へ。
「この様なつたない口語的文章の多く説明的と言うよりほぼ説明回まである様な、熱中するか気合を入れないと大変苦行に近い作品をご覧いただき、皆様まことにありがとうございます。
我が子らであり、我が作品の全登場人物及び設定の全てに成り代わり、熱く厚く(誤字にあらず)御礼申し上げる次第でございます。
目標、年内で一時完結」
と言う感じで、次回予告と変えさせていただきます。




