承認欲求
赤い影
ーそれは認知を求めて摩天楼を駆け巡る。
黒霧島と柊哉はアクロバティックさらさらに襲われていた藍里に事情を聞いていた。
「藍里、最近何か変わったことなかったか?」
「変わったこと?いや?特になかったけどなぁ。」
「いつも通りだった?」
「うん。いつも通り。」
「失礼ですが、貴女の勤務先は?」
黒霧島が普段からは考えられない丁寧な口調で聞いた。
「………キャバクラです。」
「……!」
何か閃いた黒霧島は写真を2枚藍里に見せた。
「この2人、知ってますか?」
「ええ。この2人は先日私の店に来店してくださった人たちです。」
「その時、何か変な話を聞きませんでしたか?」
「変な話?というか怖い話は聞きました。」
黒霧島は少し口角を上げた。
「その話の内容は?」
「なんか、あんま覚えてないです。」
「では、何か特徴的な言葉とか覚えてないですか?」
「そうですね…確か、変な名前が出てきて面白かったと思います。」
「それ、分かりますか?」
黒霧島はさらに言った。
「…"アクロバティックさらさら"?みたいな。面白い名前だから覚えてるんです。」
「…ありがとうございます。」
黒霧島は柊哉の方を振り向いて肩を組んで奥に隠れた。
「やはりだ。アクロバティックさらさらは話を聞いたやつの元に現れる。あとは話を聞くだけだな。」
「……待ってください。」
柊哉は藍里の元に駆け寄った。そして質問した。
「あの2人を接客した時のキャバ嬢は藍里だけ?」
「いや?もう1人いたよ。」
「な…なんだって…!?」
柊哉は黒霧島の方を見た。
「そのキャバ嬢の住所はわかる?」
「確か、"結城セントラルヒルズ"だったと思う。」
「ありがとう。」
柊哉は黒霧島の元に戻った。
「先輩!結城セントラルヒルズだ!そこにやつが!」
「わかった。部長、頼みます!」
「OK。任せて。」
蛭間は2人の足元に裂け目を生成した。そして2人は深い闇の底へと堕ちて行った。
ー結城セントラルヒルズ
「ここか…いるか?」
「まだ感じないですね…」
柊哉と黒霧島は辺りを見渡した。
「やつはどこだ…!」
「……あそこです!」
その赤い影は突然現れた。
「なぜだ…さっきまでいなかっただろ…!」
柊哉はライフルを構えた。アクロバティックさらさらが落下するであろう地点に目掛けて弾を放った。
しかし、アクロバティックさらさらは予想外の高さで消えた。
「な…なに?」
その時窓を開けていたキャバ嬢は窓から遠ざかった。
「は…?」
「 俺が偵察する。」
そういうと黒霧島の両手に黒い影が纏わり付いた。
「鴉!」
黒霧島は黒い両手からカラスを捻り出した。そのカラスはアクロバティックさらさらが出現した部屋の前まで向かった。窓の下を覗き込もうとするキャバ嬢に2羽のカラスが襲いかかる。
「きゃっ!何?」
キャバ嬢は急いで窓を閉めた。
「よし、窓を閉めたぞ…」
その瞬間、黒霧島の背筋に嫌な冷たい風が吹き込んだ。
「アナタ…私のこと、好きなんでしょ?」
…
2人はそのまま身動きが取れないでいた。まるで突然体が鉛になったように。アクロバティックさらさらは姿を消した。その瞬間、鉛は溶け出した。
「…なんなんですか今の?」
「…やつがあそこにいる。おそらく、やつの標的が"俺たち"に変わった。」
嫌な風が吹き込む。屋上の赤い影が姿を消した。
「どこへ消えた…?」
2人の間に赤い影が差し込まれた。
「必死に私の痕跡を追って…かわいい…♡」
♡を出して可愛らしく着飾っているが、2人よぎるのは死、それだけだ。その声はあの世への誘いのように聞こえた。
ーたちまちアクロバティックさらさらは姿を消した。
「くそ…!」
「……」
黒霧島は考え込んでいる。
「どうしたんですか?」
「お前は黙って確認しろ!」
黒霧島は無防備に立ち尽くすのみだ。
「!いました!」
さっきの屋上の対角線上にあるビルの屋上に赤い影はあった。その影は瞬時に姿を消した。
「ねぇ…私を感じて…♡」
黒霧島の背後に赤い影が現れる。その影は黒霧島を抱きしめて消えた。
「先輩!?」
黒霧島とアクロバティックさらさらは空中に現れた。
「私のこと…もっと知って?」
「あんたのことならもう知ってるさ。あんたは生前から誰からも認められなかった。そしてあんたは自殺した。自殺することでやっと見てもらえるとでも思ったのだろう。その自殺は苦しみからの解放の面と"知ってもらえること"への嬉しさの二面性を帯びた自殺だった。」
「しかし、その自殺はすぐに風化された。だから今こうやってわざと人の前で飛び降りて自分の存在を認めさせようとしている。あんたの霊体は、満たされなかった承認欲求だ!」
黒霧島が霊体を崩した。アクロバティックさらさらの体にノイズが走った。そして動きが素早くなった。黒霧島はカラスをアクロバティックさらさらにぶつけた。
「………!痛い…嬉しい…」
黒霧島は空中に放り出された。空中で印を結ぶと、黒霧島の手首は蟲が這い回る感覚に侵された。そして袖口から蜘蛛の大群が這い出てきた。その蜘蛛をクッション代わりにして、着地した。
「先輩!無事でしたか?」
「ああ、ついでにやつの霊体を崩しておいた。」
「おお!流石です。」
「でも油断するな。やつは霊体を崩されたことでスピードが上がっている。」
「えー。まじすか。」
屋上の赤い影が2人に向かって来た。
「私のこと忘れないで…?」
赤い影は素早く屋上を転々としながらこちらに向かってくる。
「二手に分かれるぞ。」
「え?はい。」
黒霧島と柊哉は別々の道へ進んだ。アクロバティックさらさらは黒霧島の方に向かっていった。
黒霧島はポケットに入ったスマホを蜘蛛で操作しながら路地裏に向かって走り出した。
「もっと私を見て…黎くん♡」
黒霧島は名前を呼ばれて恐怖した。その間にアクロバティックさらさらは黒霧島の目の前に現れた。
「捕まえた…」
黒霧島は捕まった。黒霧島の体には冷たいもので縛り上げられる感覚が走った。その瞬間、カラスはアクロバティックさらさらの背中に突撃した。
「う…ま、待ってよ…!」
その隙にアクロバティックさらさらの下を潜り抜けて路地裏へ向かってさらに走り出した。
路地裏。そこは摩天楼の影に隠れた闇。黒霧島はアクロバティックさらさらをここで相手をすることにした。
「黎くん…待っててね…♡」
アクロバティックさらさらは屋上で黒霧島の様子を見ていた。路地裏に入っていくのを確認して飛び降りた。
赤い影が黒霧島の頭上に現れた。その影にライフルの弾が放たれた。着弾手前でアクロバティックさらさらは消えた。そして黒霧島の背後に現れた。今度は足で地面に立って現れた。
「捕まえた…♡」
黒霧島の体を抱きしめた瞬間それは蜘蛛となって散った。
「え?」
「捕まえた。」
黒霧島は後ろから抱擁した。アクロバティックさらさらの足元には蜘蛛の大群がいた。彼女はもう逃げられない。
「やっと私のこと見てくれた…嬉しい…」
「悪いけど、俺はあんたを浄霊しないといけない。」
「黎くんにならいいよ…♡」
アクロバティックさらさらは蜘蛛の大群に飲まれた。
「私を知ってくれてありがとう…」
そう言い残すとアクロバティックさらさらはサラサラとした塵になった。黒霧島に残ったのは手に蜘蛛が這い回る感触だけだった。
「先輩。大丈夫でしたか?」
「ああ、無事だ。ナイスアシストだったぞ八尺瓊。」
「いえいえ、先輩こそ。流石でした。」
「ああ。今日はもう疲れた。帰ろう。」
「俺はしゃくちゃんを回収しに支部へ帰ります。」
「…そうか、忘れられてなかったんだな…あいつ。」
「当たり前じゃないっすか。」
アクロバティックさらさら編も終わりましたね。もうちょっと長い話を作りたいよね。




