25. 確認
翌朝、リズベットはアルゼン、そして大伯爵と共に製作所へと向かった。完成した魔動炉をその目で直接確認するためだ。製作所では、ヴィーチェとギスカールの父娘が彼らを待ち構えていた。
魔動炉が設置されているのは、製作所の最上階だった。武装した騎士と魔導士が厳重に門を護り、出入り口そのものにも魔法陣によるロックが施されている。
魔動炉は、金属質の滑らかな円筒形の本体をしていた。そこから少し離れた正面には、盆のような形をした魔法パネルが設置されている。
パネルの前へと歩み寄ったヴィーチェが、魔動炉の周囲に魔法バリアを張り巡らせた。
「生身の目で見れば、眼球どころか体まで一瞬で焼き尽くされてしまいます。長くは開放できないから、承知してください」
ヴィーチェがパネルに手をかざして魔法を発動させると、魔動炉の円筒形の外装が透過し、その中にある実体が姿を現した。
それは、燦然たる光を放ちながら猛り狂う球体だった。黄金色と鮮やかな赤色が混じり合う球体の表面からは、数え切れないほどの光、あるいは火炎が四方八方へと放射されている。
リズベットの目には、それがまるでフレアを噴き上げる小さな太陽のように見えた。
誰もが言葉を失い、ただ呆然とその光景を見つめていた。ヴィーチェが再びパネルを操作すると、円筒形の外装がそれを覆い隠した。
「長く開放すれば、あの力が暴発してこの一帯をすべて吹き飛ばしてしまうでしょう。でも、あの器の中に収まっている限りは安全です」
「あれ一つで、現在作られている他の装置をすべて動かそうというわけか」
ルヴェインが尋ねた。
「ええ。実はエネルギーは余るほどありますから、生産設備をもっと増やしても十分に事足ります」
「このようなものを、また作ることは可能なのか?」
「可能ではありますが、これと同じものを再び作るのは難しいでしょう。『レトナの心臓』級の魔石が手に入らない限りはね」
ヴィーチェも、この時ばかりは誇らしげな表情を隠さなかった。
魔動炉を確認した後、一行は精製水装置がある場所へと移動した。そこでは主要な家臣たちや高位の司祭が彼らを待っていた。人々は半ば呆気にとられた表情で、製作所の内部と精製水装置を見渡していた。
精製水装置もまた、滑らかな金属の本体にパネルのような操作盤が付いた外見をしていた。装置の周囲にはいくつもの機器が連結され、中には宙に浮いたまま光を放って稼働しているものもある。
(神の翼もそうだけど、魔動炉といいこれといい……もはやロストテクノロジーというか、オーバーテクノロジーというか。常識を遥か斜め上に突き抜けた代物ね)
本で読み耽っていたため見慣れているつもりだったリズベットにとっても、実物として完成したそれは、時代を超越したオーパーツそのものだった。
装置のある部屋からは、隣の建物へと通じる通路が伸びていた。通路を通って精製水タンクが設置された建物に入ると、タンクの内部へと水が注がれる音が響いてきた。建物全体が区画分けされた巨大な水タンクで埋め尽くされているため、まだすべてを満たすには至っていないようだった。
そこを管理する魔導士が、タンク下部のバルブの一つから水を汲み、同席していた司祭へと手渡した。
それを念入りに調べた司祭が口を開いた。
「最高級の浄化術で清めた水のように、澄み渡り、清らかで、純粋な水です」
続いて、全員に透明なガラス杯に注がれた水が配られた。人々は杯を掲げ、色を確かめ、匂いを嗅ぐなど慎重に吟味してから、ゆっくりと味わい始めた。それは文字通り、無色、無臭、無味の水だった。
「おお……素晴らしい!」
「これほど清らかな水とは、期待以上ですな!」
「今すぐにでも、この水を船に積み込みたいくらいだ」
喜ぶ人々を見ながら、リズベットは安堵する一方で、水一つでなぜこれほど大騒ぎするのかと少し不思議に思った。
(精製水はミネラルまで除去した水だから、製造用にはいいけど、飲料水としてはそれほど美味しくないはずなんだけど。ここの生水がよっぽどまずいのかしら?)
*** ***
精製水が確保された今、いよいよ本格的に計画していた製品を生産する段階に入った。まずは試作品を生産し、10間の内部テストを経てから本格的な商品化に乗り出す予定だ。
ヴィーチェは「すでに完成したレシピがあるのに、テストなんて必要なのかい?」という反応だったが、リズベットは譲らなかった。ハルナとしての経験上、肌に触れるものは肌トラブルなどの副作用を考慮しなければならない。
「スキンケアラインにヘアケアライン。それに日焼け止め、クレンジングウォーター、石鹸、傷薬……」
リズベットはテーブルの上に並んだ品々を満足げに眺めた。
「今日から早速使ってみなくちゃ」
リズベット自身はもちろん、彼女の侍女たち、大伯爵やトリシ、それから主要家臣の家系にサンプルが送られた。また、精製水と傷薬、日焼け止め、クレンジング、せっけんは、アルゼンが座乗する指揮艦の海兵たちにも支給された。
その日の夜のことだった。
「まあ! このシャンプーというのは一体何なのですか?」
リズベットの髪を洗っていた侍女たちが声を上げた。
現代のシャンプーほど泡立ちが豊かなタイプではないが、これまでの石鹸とは比較にならないほど、さっぱりと洗い上げることができた。続けてトリートメントで栄養を与えると、髪が目に見えて柔らかく、滑らかになった。
「櫛を通さなくても、髪がこんなにスルスルになるなんて。まるで魔法みたいですわ」
リズベットの髪を梳きながら、エリが感嘆の声を漏らす。
きめ細やかな泡と優れた洗浄力、さらに香りまで添えられた石鹸も大好評だった。皆、「今日から早速使う」と期待に目を輝かせている。
スキンケア製品も、これまでこの地で使われていた化粧品とは次元が違った。しっとりと優しく馴染む感触に、低刺激な使い心地。
(期待以上に素晴らしいじゃない。これなら本当にブランドとして立ち上げられるわ!)
リズベットは期待以上の出来栄えに大きく胸を弾ませた。
(ああ、早くコスメも作りたい……!)




