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駒唄  作者: 無二エル
75/93

大盤解説会

 女流玉将戦の朝。

 今日は大盤解説頑張らないとな。

 ふう、少し気が乗らないのは同日に行われている男性棋戦の玉座戦が気になるからだと思う。


 斉上玉座に挑戦した将棋界の宝、藤谷 王太の初タイトル挑戦。

 ここまで互いに二勝二敗、今日の五局目が決着局だ。

 世間の注目もそっちに集まってるし、私だって本当はそっちを見たい。


 はあ、でも気持ちを切り替えて頑張らないと。

 咲子が暴走しないよう気を付けなきゃいけないし、他に気を取られていちゃ駄目だ。

 何より私にとっては初解説、女流とは言えタイトル戦の解説なんだから大舞台と言って良い。

 引き締めて行こう。



--------------------


 14時


「みなさーん、今日は来てくれてありがとうございます!聞き手の水上 咲子ですよー」

「解説の君島 流歌です。今日はよろしくお願いします」

「今日は美人コンビでお送りします!」


 いきなりかまして来たなぁ。

 あんたは良いかも知れないけど、私はもっと謙虚に行きたいんだけど。

 ここは苦笑いでお茶を濁そう。


「会場は超満員ですね!咲子はとっても嬉しいです!」


 意外だった。

 今日の注目は斉上、王太戦だと思ってたのに。

 予想よりもあまりに多く集まったので急遽会場を広くしたらしい。

 会場がホテルで可動式の区切り壁で仕切ってあっただけなので柔軟に対応して貰えた。

 隣を使ってなかったんだね。


「初戦は里理さんの勝利だった訳ですが」

「そうですね。途中までは香山女流の優勢でしたが終盤逆転されてしまいましたね」

「では、今日の第二局はどうなると思いますか?」

「はい、すでに対局は始まっていますが、香山女流は第一局の雪辱もありますし、久々のタイトル挑戦に燃えていると思いますよ」


 大盤解説会は対局途中から始まる。

 序盤からはやらない。


「戦前の予想はどうですか?」

「里理女流四冠が強いのは言うまでもないですが、香山女流は今期調子が良いですからね。どちらに転んでもおかしくないと私は思ってます」


 良い感じだ。この調子で最後まで行って欲しい。

 でもきっとまたぶっこんで来るだろうな。


「君島さんは奨励会時代に2人に勝ってますよね?」

「・・・はい、双方対局は一度ずつしかありませんが、なんとか勝つ事が出来ましたね」


 私が勝った話はどうでもいいのよ。

 今日は対局者を立てなきゃ駄目じゃないの。

 

「水上さんはお二人と対局した事はあるんですか?」

「香山さんとはありますよ?咲子のボロ負けでしたけど」


 知ってて聞いちゃった。私だってそのくらいは予習済み。ちょっと意地悪だったかな。

 でも二人が強いという印象で見てもらわないとレベルが低いと思われても困る。

 せっかく観覧に来て下さったお客様に少しでも楽しんでもらわないと。

 

「さて、では現在の局面の解説をお願いします」

「はい、と言っても進みが遅いですね。今のところは互角でしょうか」

「次は里理さんの手番ですか?咲子ならここに指しますが・・・」

「・・・良くない手ですね。それだとこう指し返されて、一気に形勢が香山女流に傾きます」


 そっかーとテヘペロ頭ポリポリ。

 あざとい仕草を見て観客が微笑ましく笑う。

 この子、わざと変な手を言ったんじゃ・・・

 考えすぎか、元々の実力もイマイチな子だっけ。


「君島さんならどこに指すんですか?」

「ここですね。ここに指してまだ様子を伺います」

「あ、里理さんが指しますよ・・・あれ?二人とも外れちゃいましたね」


 里理さんの手は私の予想とは違う物だった。

 ちょっと疑問手だな、それだと損をするような・・・

 ・・・うん、香山さんもそう思ったのだろう。切り込む手を指して来た。


「わあ、一気に動き始めましたね」

「里理四冠の指した手がきっかけでしたね。進みが遅いので勝負に出たのかも知れません」


 はっきり形勢が香山有利になったけど・・・

 そうとは言わず、まだまだ勝負は解らない雰囲気を出さないと。

 

「ここで里理さんの長考ですか」


 うん、失敗だったと考えてそうだな。

 ここは長くなると思う。

 でも持ち時間は3時間で、すでに結構使っている。

 起死回生の手を思いつくだろうか?


「動きませんね。世間話でもしますか?」

「変な事は聞かないでくださいね」

「君島さんはいつもお洒落ですよね。どちらでお買い物を?」

「私はマ・・・母親が元モデルなので、母親に見立ててもらっています。決まったお店は無いですね」


 へーとかふーんとか会場から漏れる。

 こういう話は余り興味がないんじゃないかしら。


「咲子の今日の制服はどうですか?」


 そう言ってスカートの両端を持って広げ、はにかむ咲子。

 なによ、自分の服装をアピールする為の前振りだったの?

 相変わらず抜け目のない子ね。


「可愛いですよ?私は高校時代スカートを短くする事が出来なかったので少し羨ましいです」

「君島さんはお嬢様学校でしたもんね」

「制服に対する校則は特に厳しかったですね。スカートを短くする子も居ましたが、学校の品位を守るよう言われ、すぐに直されてましたよ」

「へ~、私の学校では考えられないです~。君島さんも注意された事あるんですか?」

「私の場合は、標準でも膝小僧が出てしまうので、何度か誤解されたでしょうか?」

「・・・あ、脚が長いと言いたいんですね?」

「そっちが振ったんじゃないですか」


 会場が笑いに包まれる。

 咲子は何故か苦々し気だw

 図らずも私のアピールになってしまったわね。


「今日も惜しげもなく脚を出して」ジト

「そっちも股間すれすれじゃないですか」

「なのに、スカートの裾の位置がなんでこんなに違うんでしょうか?」

「知りませんよ。身長差があるからじゃないですか?」


 咲子も脚が短い訳じゃ無いんだけど。

 身長差も相まって、スカートの裾の高さの位置が10cm以上私の方が高い。


 ・・・会場から注がれる目線。

 途中で気付いたけど、今日来場しているお客さんは将棋に興味が無い人も多い。

 だって解説に対する反応が無いし、視線が下だもの。

 脚に物凄い視線を感じる。


 私と咲子目当てで来たのだろう。

 もちろん対局者の里理さんと香山さんも人気棋士だが、女流のタイトル戦でここまで観戦客が集まるのはどう見てもおかしい。

 そもそも今日は他に大注目の対局があるのだから。


「あ、それではここでいったん休憩に入らせていただきます」



-----------



「ふう」


 なんだか疲れたな。

 大盤解説は何度かの休憩をはさみながら終局まで続く。

 あまりに遅くなりそうな時は、来場者の帰宅の事も考え切り上げるけどね。


「・・・」

「どうしたの?水上さん」

「きょ、今日のお客さんの視線、ちょっと怖くなかったですか?」


 うん、私もちょっと怖かった。

 大勢の視線が壇上に注がれていた。

 中には恐らくだが性的な目もあっただろう。


 集団の好奇な眼。

 私は以前イベントで経験する事が出来たけど、咲子は初めてだったのかな。

 だとしたら怖気づいても仕方ないと思う。


「怖いですね・・・もっとスカート長くすれば良かったな」


 長さ調節できないの?

 ああ、腰で織りこんだり、スカートベルト使ってる訳じゃ無いのね。

 だったらこの後も好奇の目は減らないだろう。


「でも、注目を浴びるという事は、そう言った物にも耐えて行くという事だと思うよ」

「私達ってなんなんですかね?ファンは欲しいけど、なんか理想と違っちゃったような・・・」


 いや、それは言ってる事がおかしいよ

 元々将棋を頑張る気も無いんでしょ?

 それに制服を選んだのだって、容姿を使ってファンを獲得したかったからでしょ?

 最初から横道に反れてるじゃないの。

 

「そ、そうですケド・・・」


 痛いところを突かれて小さくなる咲子。

 安易な考えのしっぺ返しに戸惑いを隠せない。

 でも大丈夫、これくらいの事にはすぐに慣れる。


「慣れるんですか?」

「むしろ『注目浴びたいからもっと見ろ』くらいの気持ちで良いと思うけどね」

「うぅ、そ、そんなもんなんですかね?」


 そんなもんです。

 慣れて成長するのが人間です。

 多分2、3回も経験すれば、いつも通りのあざとい笑顔で愛想振りまけるよ。


「あ、あざといって何ですか?!」

「ええ?いつもやってるじゃないの」

「か、可愛いと思ってやってたのに!」


 そういう意図的な物をあざといと言うのよ。

 気付いてなかったのかしら。


「もう、この後も君島さんには負けませんからね」

「競ってたのね。それがあざといんだけど」

「あざとくない!」


 あ、休憩終わりみたいだよ。

 ご立腹で怯えは飛んでったみたいだね。

 壇上に出た瞬間いつものあざとい笑顔。

 なんだかんだプロ意識を見たような気がした。



--------------



「ここで里理四冠が投了しましたね!」

「はい、女流玉将戦第二局は香山女流の勝利で幕を閉じました」


 意外と早く終わったな。

 この後、対局者が大盤会場に現れ、挨拶と対局の説明をする。


「それでは激戦を終えたお二人に登場して頂きましょう。皆さん拍手でお迎えください!」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 なんだかんだ進行上手じゃないの。

 初めてでここまで出来れば十分だよ。


「勝負の局面はどこだったんですか?」

「はい・・・ここで私が指した手で苦しくなってしまって」

「あ、そこは君島さんがここに指すと良いと言った局面ですね!」

「・・・あ」


 ・・・微妙な空気になったじゃないの。

 ちょっと余計な事言わないで。

 解説はあくまで対局を盛り上げるおまけなんだから。

 解説の方が手が見えてるとか思われたら、対局が台無しだ。


「後で思ったんですが、里理四冠はこの後こうして差し込んでいく予定だったのではないでしょうか?香山女流の機転でそうはなりませんでしたが」

「はい、上手く切り返されてしまいました」

「香山女流のこの一手が見事の一言でしたね」


 軌道修正完了。

 完璧では無いが、なんとか誤魔化す事が出来たと思う。


「この後は感想戦ですか?それでは今一度、お二人の健闘を称え、拍手でお送りください」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 ふう、何とか初めての大盤解説会を終える事が出来た。

 疲れた疲れた。

 ・・・あ!王太君の対局見ないと。

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